純愛
>13氏
―優しい人だな、と思った。
自他共に認める愛妻家であり、加えて周囲のものにも優しい人。
むろん自分にも優しく、特にエド子には年齢の幼さもあってか、男はちょっとしたことにも細かい気遣いを見せ、初めは素直でなかったエド子も徐々にその優しさを受け入れていった。
―それから思いは情となった。
男に娘が産まれ、その子をことさら可愛がる姿を見ての慕情。
自分では否定したいと思っていても、彼の優しい父親としての姿に幼くして去った自らの父の姿を重ねていたのかもしれない。
満たされなかった愛情。
それは歳月が流れるにつれ、爪が伸び、髪が伸びるように、わずかにな変化であったが、確実のその質を変えていった。
再び男に対する気持ちを意識したとき、それは愛情となっていた。―もっとハッキリと言えば恋情というべきか。
父の代わりの愛情を求めていたはずの男に、肉親から与えられるべき愛情ではなく、
異性として与えられる愛情を求めている自分に気がついたときエド子は今までにないほど狼狽し、一人、出口のない葛藤を小さな体で繰り返していた。
セントラルの公園から飛び出した小さな体は、人ごみをすり抜けるように走り勢いよく宿へと駆け込んだ。
「っ・・・・・・はぁ」
乱れた息を整えながら、エド子は途方に暮れたようにうっすらと汗のにじんだ額に手を当てる。
走ったせいだけではない顔の熱さ。
「どうしよう・・・」
ヒューズはどう思っただろう。
彼を男として意識してからも何とか感情を抑えてきたつもりだったが、抑えてきた感情が爆発したように思いを伝えるだけ伝えて宿まで逃げ帰ってしまった。
数分前、セントラル内の公園で久々にヒューズと出合った。
幾つかのの世間話のあと、ふと気がついたようにヒューズが目を細めて微笑む
『何だ、エド子ちょっとは背伸びたじゃねぇか』
からかう様に言われ、でもそっと手を差し出されエド子の髪を撫でてさらに
『ちょっと見ない間に綺麗になったな』
と続けられた。
『中佐・・・』
戯れの言葉なのだとは思った。
でも思いを押し隠してきた心はわずかな刺激に簡単に負け、エド子は思わず口を開いてしまった。
『中佐・・・おれ、あんたが好きだ』
とたんに髪に置かれた手がびくりと止まったのが分かった。
そして、自分が口にしてはいけない言葉を口にしてしまったことを知る
だから
『ゴメン!』
と、それだけ告げて思わず逃げてきてしまったのだった。
「サイアクだ、おれ・・・」
中佐にはグレイシアもエリシアもいる。彼は大切な家族の大切な夫であり、父なのだ。
二人にはエド子も親しく付き合い、自分にとっては彼女たちも大好きな人たちであり傷つけたいとは到底思えなかった。
「ほんとサイアク・・・」
自分が入り込む隙などなかったのに、なぜこの口を開いてしまったのだろう。
罪悪感で流すまいと決めたはずの涙がこらえきれずに溢れる。
「これからどうしよう・・・」
もう中佐は顔も合わせてくれないだろうと思うとさらに悲しくて、エド子の金の目からはさらに新しい涙がこぼれる。
報告のこともあって軍の施設に泊まるため、民間の宿をとったアルフォンスと離れていてよかったと泣きながらぼんやりと思っていると、扉がノックされる音が聞こえた。
「はいっ」
軍の施設のため急な呼び出しかもしれないと、慌てて強く目をこすって重い扉を開け、エド子は声を失った。
開けた扉の前に立つのは確かに軍人だが、つい今しがたまでもう会えない思ったはずの者、ヒューズであった。
「エド子・・・ちょっといいか」
たずねられた声にビクッと肩を震わせるも、小さく頷いてヒューズを中へと招く。
「あー・・・えっと、さっきのことだけどな」
言葉をにごらせる男にいっそう俯いて、エド子は再び"ゴメン"とただそれだけを呟いた。
「エド子・・・」
「ゴメン・・・ゴメンなさい・・・・・・」
繰り返される謝罪の言葉が、彼女の気持ちを一番物語っているのだろう。
男への想いが確かなものだからこそ、謝罪を続ける小さな体を居た堪れないといったようにヒューズは抱き寄せた。
「俺こそすまなかった。気づいてやれずに・・・」
ただでさえ重いものを背負って生きている小さな体に、更なる負荷を与えていたことを思うと自分に対しての憤りを覚える。
「中佐は悪くない!俺がただ勝手に、中佐のこと好きになっちゃっただけだから・・・」
そう呟いてこらえるように目をつぶると、また一筋エド子の目から涙かこぼれた
「本当は言うつもりなかったんだ・・・でも、中佐が好きだってことだけ、どうしても知って欲しかった」
「エド子・・・俺もお前のことは好きだよ」
抱きしめた手で優しく背を撫でるヒューズの言葉に、少しだけ悲しそうにエド子は笑う。
「ありがとう、中佐」
「違う。そうじゃない・・・」
悲しみを含ませたエド子の声をヒューズは強く否定する。
「はじめは・・・お前さんのこと娘みたいに思ってた。だから守ってやりたいと父親みたいな気持ちでいた。
けど、次第に父親というよりも俺個人として、お前のこともエドワードって言う一人の女性としてみていることが多くなってた」
「中佐・・・」
驚いたように顔を上げるエド子に、ヒューズは小さく苦笑する。
「確かに俺にはグレイシアもエリシアもいる。けど、、お前のことも確かに愛している」
男ってのは勝手なもんだよな、と苦笑するヒューズにエド子はしがみつくように抱きつくと、ヒューズもよりいっそう強くエド子の体を抱きしめた。
しばらくの間言葉も交わさず、ただ互いの熱と鼓動の音だけを共有する。
暖かさと響きあう鼓動が溶け合うような陶酔感に、浮かされたようにエド子が顔を上げるとヒューズはその頬に手を沿え優しい口付けを送った。
いつも優しさを浮かべている目に、自分だけが映っていることを泣きたいほど嬉しいと思う。
我侭なのだと攻め立てる声がするけれど、それでも一晩だけ、この目に映るのは自分だけでいたかった。
「中佐・・・今日だけ、今日だけでいいんだ」
一度だけの我侭を、罪を許して欲しい
「エド子・・・」
「今日だけ中佐の一番近くにいさせて。そしたらまた明日から歩けるから・・・」
思いが通じても、その思いを続けることができないことは二人が一番分かっている。だからこそ、一晩だけでも互いの一番近くにいたいと思った。
「後悔しないか?」
優しい口付けの合間に囁かれた声にエド子が頷くと、ヒューズは自分の薬指からリングを抜き取った。
「エド子、愛してる」
「中佐・・・俺も中佐のこと愛してる」
「あ・・・」
服を脱がされ小さな胸があらわにされると、エド子は顔を染めて身じろいだ。
「こら、隠したら見えないだろ」
笑いながら壊れ物を扱うようにそっと体に触れる。
「や・・・だ、だって。俺の体右手と左足機械鎧だし、それにあちこち傷だらけだし、中佐見てて気持ち悪くなるだろ」
消え入りそうなほど小さな声に、憐憫と欲情を誘われる。
「気持ち悪くなんかないさ。何処もきれいだと思うぜ」
「んなこと言う物好き中佐ぐらいなもん・・・・・・ひゃぁ!」
体を洗う際などには触れてはいるものの、意識して触ったことのないエド子の膨らみかけの胸はヒューズの愛撫に抑えきれない声をあげる。
「ふ・・・ァ、ちゅう・・・さ」
「エド子は感度がいいな」
少し意地悪そうににやりと笑うと、とたんにエド子は薄く色づいた顔をさらに赤く染め上げる。
「中佐のせい・・・だろっ」
「それはそうだな」
笑いながらシーツに沈んでいるエド子の背に手を差し入れ、少し上体を起こさせると今度は胸の飾りを歯で甘噛みしいっそうの快楽を煽る。
「ふぁ・・・や、ぁ」
次第に甘さを強めるエド子の声を嬉しそうに聞くも、ヒューズは抱きしめた体の細さに、内心では痛ましさを強く感じていた。
鍛え上げた体は無駄がなく、少女らしい丸い柔らかさはあまりない。
しかしいくら肉体を鍛えているからといって少女の骨格はあまりに小さく、また細い。
よくこんな体で過酷な旅を続けていると憐れに思う一方で、均整の取れた体はしなやかな手触りを伝え、ヒューズは段々と自分が小さな少女に溺れていくのを感じていた。
「あっ、中佐・・・」
「怖いことはしないから、少し力を抜いててくれな」
耳元にそう囁きかけると、ヒューズは首筋に這わせた指をゆっくりと鎖骨を掠めながらエド子の小さな体の下腹部へと伸ばしてゆく。
「ひゃっ、ぁ・・・ぁ」
胸以上に敏感な箇所。まして異性には触れさせたはずもない箇所に男の手が伸ばされると、エド子は声をあげるまいとして、生身である左手を口に押し当て強く噛んだ。
「こら、傷ついちまうだろ」
「はっ、やぁ・・・」
だがすぐにその様子を察したヒューズによって簡単にエド子の手は取られ、強く咬んだせいか赤くなった手の甲を癒すように舐められる。
「ぁっ、ちゅ・・・さぁ」
快楽を高められたエド子はその些細な刺激にも嬌声を上げ続けた。
そんなエド子の様子を伺いながら、ヒューズはおびえさせないよう細心の注意を払いつつ小さな足をゆっくりと広げさせると、エド子の中心部へ顔を寄せ隠された秘所を丁寧に舐め上げる。
「ひゃぁ!ちゅ・・・ちゅ、さ!!やだ、そんなとこ、き…たな」
「汚いことなんてないさ。いい子だから力を抜いて・・・」
エド子は力の入らない体で身をよじろうとするも、しっかりと腰を抑えられているため動きは儘ならず、またヒューズの巧みな愛撫に、羞恥心よりも快楽が勝り幼い体は抵抗する気をなくしてゆく。
「ふぁ・・・あ、ぁ・・・・・・」
まだ喘ぎ声すらどう紡いでよいのか分からないのだろう。
荒く吐かれる呼吸の合間に聞こえる声は、平素の彼女からは垣間見ることのできないほど弱々しかった。
「エド子・・・いいか」
初めて見る表情、聞くことのなかった声、ふわりと漂う髪の匂いや汗ばむ肌の感触、そして口付けの甘さ。
体の持つ全ての感覚がエド子に染められ、ヒューズも限界に近かった。
「うん・・・」
熱く囁かれた声に応えを返す。
ただ、どうしても緊張に震える体を、ヒューズは優しく抱きしめながら己の欲望をエド子の秘所に押し当てた。
「痛っ・・・う・・・ぁ」
緊張をほぐすように深く口付けし、エド子の強張りがわずかに緩んだ瞬間突き入れる。
喧嘩でつけた傷や機械鎧をつけたときの痛みとは異なる体を内から裂かれるような痛みに、苦痛に離れているエド子であったがこらえきれずに声と涙をこぼした。
「辛いか?」
いつもはきっちりと結ばれたミツアミが痛々しく乱れ、ヒューズはそっとエド子の髪留めを外すと、散らばった金の髪を優しく梳いた。
「中佐・・・・・・ふっ、んぁ」
荒い呼吸もなだめるように梳かれる手の動きに合わせるように徐々に落ち着き、エド子は自らヒューズに口付けをねだる。
体が一つに重なった喜びを伝え合うかのように重ねられる口付けの後、ヒューズはエド子の頬に手を沿えて視線を合わせた。
「エド子・・・」
見つめたヒューズの顔は、今まで見たどの瞬間のものよりも優しい。
「中佐、もう平気だから・・・」
その優しい瞳が自分を見てくれていることにかけがえのない幸福を感じ、エド子は自然と自分が微笑むのを感じた。
――愛しい男の目に笑った顔の自分が見える。
あぁ、愛されているのだなと思った。
それだけのことがただ幸福だった。
「もっと・・・中佐のこと感じたい」
この幸福を忘れないように。
エド子の声に誘われるように、ヒューズはゆっくりと腰を使い始める。
痛みはまだ残ってはいたけれど、それ以上に嬉しいと思う気持ちが快楽を高める手助けとなり、エド子の口からは再び艶めいた声がこぼれ始めた。
「ふぁ…ぁっ、は・・・あぁ!!」
「くっ・・・エド子」
徐々に激しくなる動きに、体の奥からアツイものが込上げてくる様だった
「中佐・・・俺、もぅ・・・だ、駄目・・・あ、あぁ!!」
ヒューズの欲望がさらに大きくなり内部ではじけたのを感じ、エド子もまた高みに昇り詰め絶頂を迎えた。
「中佐、ありがとう」
情事の後、ヒューズの腕の中でまどろみながらエド子はポツリと呟く。
だがその声には先ほどまでの悲しみはなく、むしろ幸福を伝えてくる。
「これからも、俺はお前の支えでいるから」
エド子同様ヒューズの声も幸福を表すように、穏やかな響きを持っていた。
「うん、本当にありがと・・・」
変わらぬ男のやさしさを受けとめエド子は小さく笑うと、眠りの中へゆっくりと意識を手放していった。
――了――