過ち、或いは…
>161氏

 参った。冗談のつもりだった。
 コートを脱ぎ、ジャケットを脱ぎ、行儀悪くブーツを抜き取ってもまだ暑いとこぼすから、『もっと脱いだらどうかね』と勧めたまでだ。言うほど室内は暑くない。ただ、黒い服を着込んで日射を浴びてきたばかりだから、熱がこもっているのだろう。
 それを本気にしたらしく、当の本人は笑わなかった。それどころか会話がいきなり途切れてしまった。
 率直に言って私は違和感を覚えた。こういう子はたまにいる。多感な年頃にあって、ささいな言動にも反応し警戒してしまう愛すべき少女というのは、たしかにいつの時代にも一定数存在している。だが、"彼"は。
 エドワード。男性名である。違和感の出所はここだった。真に受けられても気色悪い(私を何だと思っているのだろう)。
 他の話題にでも移そうかと思いつつ、しかし適当なトピックもとっさには思いつかず、手持ち無沙汰にコーヒーをすする。
 目線も表情も硬い。動揺しているのだと思うと親しみがわき、私は頭が痛くなった。やめてくれ。生娘でもあるまいし。
 生半可にこざっぱりとした容貌なのがいけない。たしかに彼には男くささのようなものがない。だから、女々しい所作もそれほど暑苦しい印象を残さない。無造作に束ねて編んだ髪は男にしては長く伸ばしすぎている。背は小さすぎる、身体は細すぎる。声は高く、またしゃがれている。
 流れるように符合が組み合わさっていくのを知って、私は頭をがんとやられたような衝撃を受けた。出来の悪い妄想が閃いたからだ。一人寝の男の夢想でももう少し気がきいている。
 まさか。
 どうやら私まで暑さにやられたようだ。
 自嘲の念がそのまま彼にも向いた。私は彼をあざ笑った。
「遠慮することはないよ」
「でも」
 もぐもぐと言う、その気弱さが私の焦燥を煽る。
「恥ずかしがってるのかい? かわいいね」
 嫌味を言ったつもりだった。小気味良い罵声が返ってくるものと信じていたが、裏切られた。
 彼はひと目で分かるほど真っ赤になった。その顔を握った拳で覆い隠す。
 さきほどの馬鹿げた思いつきが脳裏をよぎる。――なぜいつも分厚い服を着込んでいるのか。
なぜうるさく髪を伸ばしているのか。なぜ、今この瞬間、娘でもそうないほど恥らっているのか。なぜ私は、こんなに苛立っているのか。
 それに聞いたことがない。彼が自分を男だと、はっきり言ったことは一度もない。
 まさか。
 得体の知れない衝動にしたがって、私はソファから立ち上がり、彼に詰め寄った。同じ距離だけ彼が二人がけの安いソファを横に滑って移動する。ビニールが擦れてざり、ざり、と音を立て、やがてそれも消える。
 私の手が彼の肩を捕えた。片方はかすかに汗をかいて布がはりついていた。片方は布が乾いて温まっていた。熱せられた金属のぬくもりだった。
「それなら脱がせてあげようね」
「いいよ!」
 はじけるように彼は答えた。声に緊張がみなぎっている。不自然なのを自分でも悟ったか、弁解するように後をつぐ。
「あっと、その、」
「それとも自分で脱げるかね」
「そうじゃなくて!」
「脱ぎたくない?」
「うん」
「本当に?」
「うん」
「暑いんだろう?」
「・・うん」
「耳まで真っ赤じゃないか」
「! それは」
「それは?」
 彼は耳を押さえて縮こまった。もう一度、それは、と繰り返して、私の手から逃れようと肩をすぼめる。ほとんど肘を伸ばして強く押さえつけながら、私も繰り返す。
「それは? 暑いからじゃない、とでも?」
「あ――暑いから、暑いからだよ!」
「なら脱げるじゃないか。それとも」
 怯えた彼の目を見る。この表情を、私は知っている。臆病な初めての女の子が初めて迫られたとき、ちょうどこんな顔をしてみせる。彼は今にも震えだしそうだった。少なくとも私にはそう見えたのだから、いよいよどうかしている。ひょっとするとこれは、夢だろうか。
「脱ぎたくても脱げない理由があるのかね」

 彼はぼうぜんと目を見張って、私を見た。まっすぐ私の方を見ているようで、実はなにものも視界に入っていない。そんな顔だった。
 思わずぞくりとするような怯え方だった。
「傷、が、そう、右肩の傷が・・あんまり、見せたかないし」
「そんなにひどいのかい?」
 私はさりげなく手をすべらせて、機械と身体との境界を服の下から探り当てた。そこからさらに、胸の方まで走っている傷口の微妙なおうとつを追ってゆっくりとなぞっていく。下るにつれて、胸の丘がごくゆるやかに隆起する。
 親指のつけねが硬いものにつきあたった。服の上からでもはっきり見分けがつく、それは勃起した乳首に違いなかった。汗が冷えたのか、それとも。ピンク色に上気した頬や肌の熱さから見て、とても寒がっている様子ではない。
「傷が、ねえ」
 私は露骨にその胸をつかんだ。
 指の間で物柔らかに形を変える感触は、まぎれもなく乳房だった。てのひらを肋骨につくぐらい押し付けると、左胸から鼓動が伝わってきた。もとから拍が早かったが、突起をこね回して遊ぶうちに、たちまち倍速の秒針に近いリズムで鳴り始める。
「驚いたな。君は男だとばかり思っていたよ」
 彼――彼女は混乱のあまり声も出ない様子でただ固まっていた。光の輪ができた髪で頬を隠してうつむいている。
 無抵抗なのが不思議だった。正味な話、歯の二、三本は覚悟していた。薄い胸を揉みながら、子猫のように大人しい彼女を見ているうちに直感した。この子は迷っている。私を殴り飛ばしてでも逃げるべきかどうかを。迷うくらいだから――
 彼女は私を好いている。
 自分の発想ながら、嘲笑した。都合が良すぎる。飛躍が過ぎる。うぬぼれているとしか思えない。少し落ち着くべきだろうか。気づかないうちに、こめかみに汗が浮いていた。
 仮に好かれているのだとしても、なおのこと軽率な言動は控えるべきだ。子供相手にかかずらう気もないし、後々根に持たれても面白くない。
 彼女ははっと息を吐いた。悩ましげな吐息だった。どう見ても欲情の兆候だった。単に気持ちがいいから暴れないだけにも見える。逡巡する間に、刻々と私の余裕も失われていく。
 しなくてもいい算段が脳裏をよぎる。仕事は2、3時間空けても間に合う。熱射がうっとうしいので遮光性のカーテンをひいてある。持ち出し厳禁の資料をちょろまかしてきたから、いきなり人が入ってこないよう施錠してある。近づくなとも言いつけてある。ソファは大作りで、三人は優にかけられる。
 つまりここは、密室だった。
 息を詰めて小さくなっている様は、不安がりながらも何かを期待しているように見える。
 ああそうか、と私は思う。期待しているのは私の方だ。媚態に見えるのはそのせいだろう。
強引にそう決め付けて、すうっと冷静さを取り戻し、私は手を離した。
 彼女が鼻声であ、とつぶやいた。熱っぽい視線が私の指先にからみつく。見られている部分に血液が集まったような気がして、ちりちりと燃えた。
 怒りに近い葛藤を瞬間的に覚えた。
 彼女に決めさせようか。
 私はこのまま押す。抵抗するもしないも彼女の自由だ。トラウマになろうが禍根が残ろうが知ったことか。なぜ私がそこまで配慮してやる必要がある。
「脱ぎたまえ」
 彼女はさっと顔をあげた。とろみを帯びた表情を無理に消し、はっきり羞恥と嫌悪を込めて見返してくる。そしてようやく口をきいた。
「・・なんで」
「なんでもだ」
「いやだ」
「分からない子だね」
「や・・っ!」
 普段の音程より高い声を出して、彼女は呻いた。私が、指の間で乳首をもてあそびながら、乳の肉にきつく指を食い込ませたからだ。
「考えてごらん。どうして脱がなければいけないか」
「わ――分から」
「分からないとは言わせない」
 再び優しくいじりながら、私は彼女にささやきかける。
「分かっているんだろう。君は頭の良い子だからね」
 彼女の目線が床をさした。なにかを思い出している。なにかを考えている。あるいは弟のことだったのかも知れないし、あるいは番が錆びて壊れた大きな写本のことだったのかも知れない。そしてあるいは、たった今知られてしまった秘密のことかも知れなかった。
 彼女は私に借りを作りすぎている。
「さあ。分かったら、脱いでくれたまえ」 
 彼女の震える指が、腹部のすそにかかった。そこで動きが止まる。まだ迷っている。
「いい子だ」
 私は彼女に顔を近づけて、耳を舐め取った。耳朶を噛んで軽く折り曲げる。日に焼けた髪のにおいと、汗のにおいが混ざり合う。
 爪で布を引っかくかすかな音を残して、白い細い腹があらわになる。胸の丸みの稜線が現れるか現れないかというところで、揉んでいた私の手にかちあって、火傷でもしたかのように離した。
 あと一押し要った。彼女は痛いほど緊張し警戒している。
 もしも彼女が私を嫌っていないのならば。
「見られるのは初めてかい?」
 彼女はちらりとこちらを見遣った。
「そうだとしたら、光栄だね」
 それを正面から受け止めて、私はにっこり笑った。
「夢のようだよ、大事な君がこうして目の前にいる」
 ずっと好きだった、と言い掛けて、やめた。白々しいにもほどがある。ついさっきまで少年だと思っていた相手だ。
 嘘であっても、これが劇的な効果をもたらした。まとう空気が諦めたような安堵したようなものに変わる。満足感とともに私はなおも尋ねる。
「どうしても、恥ずかしい?」
「・・うん」
「私に任せてくれるかい?」
「な、何を」
 答えずに、口づけを落とした。顔を背けられるかと思えば、あっさりと重なった。

 湿った吐息を吸い、乾いたやわらかい唇に触れるだけにして、すぐに離れた。彼女は文句を言うでもなければ殴りもしない。消極的な承諾だとみなし、私は服に手を掛けた。一気に頭の先まで抜き取って、とっさに前をかばおうとした両腕をはがす。さほど力を入れずともゆるりとひらけて小さいふくらみが晒された。赤ん坊のような白い肌と桃色の乳首が呼吸でかすかに上下している。
「きれいじゃないか」
 傷口を指して、私は心から驚いたように言った。裂けた痕に緻密な肌が再生されていて、色味がわずかに違う以外におかしなところはない。
「きれいだ」
 おろおろと掲げたままの両手の間に首を突っ込んで、境い目がない谷間に頭を埋めた。心音が直接頭蓋に伝い、その強さ早さに、私のペースまで乱される。
「え――わっ」
 私はごわつくズボンの上から股の部分に手を押し付けた。彼女が押しピンで縫いとめられたように背を伸ばす。少しずつ場所をずらしてまさぐると、さざ波のように全身が反応していった。
 薄い発毛の丘全体を揉むたび、肩に乗せられた腕がぐうっと力む。きつく軍服の後襟をつかまれて、首が絞まった。素足のかかとががくがくと跳ね上がり、つま先立ちになっては床につく。
手ごたえを確信して、私は力を強めていく。
 私は大きく口を開けて口内に乳房を吸い出した。ちゅるっと音を立て、まろみのある弾力が流れて逃げた。舌の腹でとがったものを転がして、全体に唾液をまぶす。
 厚手の布越しの感触を頼りに、一番頼りなく柔らかい部分へと指先を添えた。それから糸を引き絞るようにゆっくりとてのひらで押しつぶしていく。
「あ、あ、や・・」
 彼女が背もたれに体重を乗せてのけぞった。刺激する部分が尋常じゃない熱さを持って私のてのひらに汗をかかせる。保温性の高そうな素材がいけない。このぶんだと大事に包まれている内部が一体どうなっていることやら。
 シートからふわふわと浮つく彼女の腿で手をぬぐい、再び指のへらを押し付けた。間断ない圧迫に膝から下がぴいんと伸び、唐突な脱力を繰り返す。
 頭に彼女の息がかかった。たまらないといった様子の生々しい呼気だった。それに意識を奪われながら、指先を食い込ませていく。
「んんっ!」
 多少やりすぎても構わないらしいと悟って、さらに力をこめて指をしならせる。震えが胸にも腹にも駆け抜ける。悶えている。
 くるくると押したり揉んだりしているうちに、彼女の身体に抑えがきかなくなっていく。快楽を受け止めきれず、一番泳いでいるのが脚だった。膝の間に陣取った私を挟み、しっかりと絡みついている。
 ずずっとわずかに腰が突き出されて、手と局部が密着した。彼女の方から押し付けてきた! 
無自覚なのか知らないが、熱に浮かされたようにこすりつけてくる。妙な興奮を覚えた私は、服のしわが白く手に残るまで押し返してやった。
 彼女はすっかり出来上がってしまっていた。夢中になって私の手を挟み、押しつけ、腰骨のあたりをくねらせる。それに合わせて私もぐりぐりと押し込む。ほとばしるような渇望が彼女を突き動かしている。つられて私も昂っていく。
 獣だった、としか言いようがない。技巧も知識も人よりあるつもりでいた。初めての子には何よりもリラックスが大事だとも分かっていた。だがそんなものは吹っ飛んでしまった。あどけない娘がこうまで乱れている。こんなことは初めてだった。
 なんとか片手でベルトのバングルを引き剥がそうにも溶接されているように動かない。がちがちと乱暴に引っ張っていたら、そこに彼女の手がすうっと伸びて重なった。おぼつかない手つきでひとつひとつ、手順を踏みながら取り外していく。
 形の良いへそが見えた。すらりとジッパーが引き下ろされて下着の端が現れる。まとめて全部引き下ろしたのはどちらの手だったか。それから横倒しにソファへ寝かせつけた。
 すぐ目の前に、一気に立ち昇った血液で生き生きと頬を染めた顔があった。それが不安そうに歪んでいる。私はこぼれる笑みを止められなかった。恨みがましい視線に刺されて、慌てて頬を引き締める。
「ひっで・・わ、笑うか、普通」
「いやいや。すまない」
 それから彼女は、口にするのも恥ずかしいといった様子で付け加えた。
「・・た、大佐のせい、なんだからな」
「それは違う。君がそんな顔をするのがいけない」
 今更のように両手で隠すので、私はまた笑ってしまった。誤魔化すために、ゆるく口づけた。
ん、と彼女が鳴く。
「・・ずる」
「何が」
「何でも!」
「ああ、分かった分かった、私はずるいね」
「うん、そう、ずるい」
 はあっと深く息をつき、今にも消える声で言う。
「・・こんなにきもちいいなんて知らなかった」
 聞き間違いかと思った。
 負けん気の強さでは大陸一を誇りかねないあの彼女がだ。言ったそばから彼女はソファに横顔を押しつけて後悔している。何言ってるんだ俺! という心の声が聞こえてきそうな痴態だった。
 どうしようもなく楽しくなりながら、私は彼女の秘部に触れた。ぬかるみで指を盛大に汚し、割り拡げていく。軽く入れたところで行き止まった。そこにきっちりと合わさったほぐしにくいひだがある。
「どうする、鋼の」
「どうって」
「つらいかもしれないが」
「・・知ってる」
「先に楽にしてあげようか」
 とろけたわれ目をめくって、充血した肉の粒をそろりと撫であげた。腰が引けるのを見、何とはなしに直感する。――彼女はここでも感じられる。たっぷりとうるみをたたえた周辺に助けられながら、ぬるりぬるりと指を滑らせてこすっていく。
「ひゃっ! ん・・く・・」
 彼女はくふりと熱い吐息をもらして、つり目を茫洋とまどろませた。じわじわと快楽に蝕まれていくのが手に取るように分かってしまう。びくんと身体が反り返る。余った手でつかんだ太ももが汗ばみ、逃げる。
 秒殺だった。
「ぁあっ!」
 上り詰めた彼女の秘部全体がひくひくと痙攣し、やがて総身から力が抜けていった。
 ぐったりしている彼女を横目に、私も小さく服を解いて足元に腰を据えた。

 背中を抱いて強くキスをして、それから角度を合わせてつぷりと勃起の先端を押し付けた。
皮膜ごしにも体温がはっきり伝わってくる。押しつぶすように埋めていくと、いったん何かに突き当たった。指の時と同じだった。
 もう一度唇を塞いだ。うっかり激しく吸い付いてしまい、せっかく添えたものが軌道外に吐き出されていった。
 ふにふにとした肉が濡れそぼっていわく言いがたい感触を作り出している。さっきと同じ場所まで慎重に進め、押し戻しに逆らって肉茎を入れていく。――入らない。
 こわばった太ももをぺちぺちと叩いて、二、三度揺さぶった。ふっと力が抜けたのを見計らい、再び侵入を開始する。先端にきつく柔らかく負荷がかかって、それがやがて少しずつ竿にも及ぶ。何度もつっかえながら、やがて彼女は全部を飲み込んだ。
 内奥は狭かった。抜こうにも抜けない、進めようにも進めない。それだけの圧力でしっとりと柔肉が絡みついてくる。ひとたまりもなかった。
 目先がかすむ。無理にすがめて、自分の顎のすぐ下にある、なめらかな肩と首を見る。歯を立てずに噛み付いて、無様に声が出るのを防いだ。
 完全に内部へ食い込んでいる身を、べたついた重い音とともにゆっくり引き上げた。一分のすきもなく包み込んでいた熱い場所から先端を残して外部に出してしまうと、同じだけゆっくりと埋没させていく。どこまでも柔らかいくせに変にざらついていて、それ以上強くはできなかった。したら壊れてしまいそうだった。
 狭い入り口に幹が上下に絞られるのが快感だった。動かす度、まるくとがった先端がぬちゃりと肉壁のあちこちに引っかかる。同じ材質とは思えないほど形状にとりとめがなく、沈めれば沈めただけゼリーのような質感に捏ね回される。
 自制しているつもりでいながら、知らず知らずのうちに往復が始まっていた。煮崩れた膣肉からとろりと旨みが溶け出してくる。かき混ぜ、貪るうちに、ふと我に返って痛まないかが気になった。
「鋼の」
 呼ぶと至近距離で目が合った。呼んでから気がついた。私は何を尋ねる気だったのだろう。
おそらく具合を聞いたところで大丈夫だとしか言わないはず。そういう性格だ。
 とりあえず口づけた。触れるだけでとどめておいた。真上から口蓋を割られては、唾液が流れるだろうから。
 頃合を見て、密着させた下腹部を浮かせ、ふたたび結合部に手を伸ばした。吹きこぼれた体液で濡らし、丸くつっぱらかせた裂け目の先端に指頭を置く。薄い肉の覆いからはみでている
突起を、指からしたたった粘液の雫がとらえる。
「はっ、あぁっ!」
 水滴を介した微弱な刺激が最大限にまで引き伸ばされて、それが彼女の脳髄を冒した。
粒というよりは盛った液体の表面をかすかになでながら、控えていた挙動を私自身が愉しむためのものに変える。泥沼めいた中を性急に犯していく。
 とろかすような享楽が巧みに私の暴発を誘う。えずきたくなるような酸素不足に、私は自分の唇を薄く開けてなめた。ふっ、と大気が腹まで落ち込む。
 溶けただれたつがい目が肉の豆をいじる手に触れる。まっすぐ腰を落とすたび、自身が勢いを増しながら出入りするのを触覚でもかみしめる。
「ん、んくぅっ、はっ、あ・・っ!」
 嬌声に昇華する手前の、飾らないあえぎ声がたまらなく嬉しかった。彼女が息もできないほど感じて心地良さそうにひだをひくつかせている。初めて触られて、感じている。言いようのない感慨だった。
 彼女は小さな身体を霧のような汗で濡らして揺さぶられていた。暴力に近い動作で打ちつけ、突き、貫く。指先をくすぐるように早めていく。
 ひくりと内部が引き攣れた。それが引き金だった。
 波紋を呼んで、内圧が倍に増した。痛いほど収縮しうねり絡みき、締め付けられ、絞り上げられたものが、吸い上げられたように精を撒き散らす。
 とてつもない量の脳内麻薬が視覚を壊した。圧倒的な多幸感と引き換えに肩から腿から力が抜ける。奥まで突き上げて、思うさま肉ひだにしゃぶらせた。ひだは溶けそうなほど勃起をしごいたあと、酷使の余韻を残してゆるやかにふるえた。

 汗みずくになったソファの上で、彼女は居心地悪そうに身じろぎした。私がソファの後ろに落ちた服を見つけて差し出すと、ひったくって着込みはじめる。興奮が醒めたんだろう。
 じろじろ見るのも気が引けて私は背を向けた――全部脱がした後で今更だが。しばらくして彼女から声がかかった。
「ええと、大佐。オレ、男だから」
「は」
「だから、そういうことに」
 思わず身体つきを見た。線の細さが際立ってきている。今はまだ誤魔化せる。だが将来は。
私がとやかく言うことでもないので、うなずいた。
「ああ。口外はしない」
「ありがとう」
 おかしな気分だった。他に言われるべきことがある。そのために頭を巡らせていたから、拍子抜けした。
「鋼の」
「何――ですか」
 とってつけたような敬語が、腹が立つより痛ましかった。だから本音を言った。
「すまなかった」
「・・謝らなくても」
「嫌だったろう」
 彼女はむすっと口を引き結び、目を逸らした。おや、と私は思う。この顔は。
 頭では分かっていた。これを言ったら彼女の嫌悪は決定的になる。
 それでも勝手に口をついた。確信に近い自信があった。
「ひょっとすると、照れてる――とか」

 彼女はひと目で分かるほど真っ赤になった。


終わり






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