半花
>186氏

元々、体力には自信があった

周りからは少しばかり小柄と思われがちな背丈でも、上着を脱げばそれなりに筋肉のついた体が自慢だったのに

14になった辺りから、弟と組み手してもついて行けなくなってきた
相手が鎧の体だからという事ではない。
明らかに自分の方の力が落ちている

自慢だった筋肉は日に日に頼りなくなり、体全体が柔らかく、丸みを帯びていくのが判った

「それで、放って置いたらこうなっていたと」
目の前に座った男が呆れたように言う。上半身だけ服を脱いで、その正面に立つ俺の胸には本来ならあり得ない筈の膨らみがあった

「医者には診せたのか」
「診せてねぇよ。最初は運動不足かと思ってたんだ」
「そうなってからもか?」
「いつのまにか女になってましたーなんて、誰が信じるんだよ」
「一応聞くが‥‥下も?」
「下も。」

今、俺の体は完璧に女になっている。
妙な物でも食べたか、俺を憎む誰かの呪いか
それともまさか、錬金術?

とにかく、こんな非現実的な事を相談できるのは、悔しいが大佐しか居ない。

報告書を出すついでに胸を見せたら、思いっきり溜め息をつかれた


「鋼の、やはり医者に診せるべきだ」
「だーかーら、さっきから言ってんだろ?こんなヨタ話信じる奴は‥‥」
「いるよ」
「へっ?」
思わず、間の抜けた声が出てしまう。
「女性である筈が、染色体の異常で男性的な体つきになる事があるそうだ」
「マジで?」
「思春期を迎える頃になると、本来の性‥つまり、女性的な特徴が顕れ始める」
「‥‥‥」
「半陰陽‥インターセックスと呼ぶらしいが、私にも詳しい事は判らん」
「ちょ‥‥」
「半陰陽は中性的な者が多いからな、君の身長が伸び悩んでいたのも‥‥」
「ちょっと待った!」
額に手を当てて、大佐が言った事を反芻してみる。

本当は女なのに、男の様な体つき。
思春期の頃から元の‥女らしい体に戻り始める。

ちょっと待ってくれ
それじゃあ、俺は‥‥
「まさか‥‥」
「そのまさかだ」

大佐は嘲りとも憐れみともつかない笑みを浮かべ、言った

「君は最初から女性だったんだよ」


「そんな‥‥」
「確証は持てないがね。だからさっさと病院に行きたまえ」
「‥‥やだ」
「それなら軍医を呼ぼうか?」
「嫌だ!」

からかわれてるだけだ。本気にしたら、指さして笑うんだろ?
相変わらず根性ねじ曲がってんだな、クソ大佐

「私の言う事は信用できない。と顔に書いてあるぞ」
「そうだよ、判ってんじゃん」
「だから少なくとも私よりは信用の置ける医者に確認してこいと言っているんだが?」
「‥‥‥」
「怖いのか」
「‥そんなんじゃねー」
「もし本当にそうだったらと思うと、不安で仕方ないんだろう」
「俺はもう15年近く男として生きてる。今更お前は女だって言われても、ハイそうですかなんて納得出来るわけねぇだろ」
「それは‥‥そうかもしれんが‥」

大佐は俺の頭から足までを観察するように見つめ、ふと目を細めて言った。

「今までと大して変わらないじゃないか」
「は?」
「胸があるとは言っても、平均からすれば随分と小振りだ。服を着ていれば判らないよ」

何となくバカにされたような気がしたが、あえて聞き流した

「声も若干高くなっているようだが、違和感を感じる程ではない」

それは自分でも気にしてなかった

「体格も‥君は元々小柄だったからな」
「誰が息を吹きかけただけで飛んで行きそうな程のどチビかーッ!!!」

「‥性格もそのままだな」
「悪かったな!」
「だから認めても良いだろう」
「‥何でそうなるんだよ」
「自分を女性だと自覚しても、外見も性格も変わらないのだから問題はない」

そりゃ表面上はそうかもしんないけどさ
「筋力は落ちてるんだけど?」
「錬成陣無しでの錬成は誰にでも出来るわけじゃない。直接的な力は無くとも、君は人並み以上に強いよ」
「もし力技でないと勝てない奴に出会ったら?」
「兄‥いや、姉想いの弟が何とかしてくれるだろう」
「‥‥アルの足を引っ張るのは嫌だ」

「そうか‥‥」
大佐が立ち上がって俺に近づいて来る。俺の側まで来ると
目線を合わせるように屈んで、
信じられないほど優しく微笑む。

「だったら私を呼ぶと良い。何をしていても必ず駆けつけてて、護ってあげよう」
「なっ‥‥」
一瞬で、顔が熱くなるのが判った

「な、何言って‥」
「聞こえなかったか?」
赤くなった顔を隠そうと俯いていると顎を軽く掴んで、上を向かされる

「私が君を護ると言ったんだ」

聞こえてるよ
だからこんなに動揺してんだろーが!

大佐がやたらモテる理由が判った気がする。
こんな至近距離で見つめられて、お前を護るなんて言われたら大抵の女は落ちるだろう
これは大佐の常套手段だ。騙されちゃいけない

でもこんな風に意識してる時点で、俺は負けてるんだろうな
‥俺っていつの間にか心まで女になってるのか‥‥
なんて事を悶々と思っていると、
顎に添えられていた指が撫でるように喉を辿り、胸の膨らみに触れた

「変わらないとは言え、年頃の女の子が男の前で肌を晒すものではないよ」
「大佐‥‥俺が誰だか判ってる?」
「失敬な、私はまだボケるような年ではないぞ」
「ああそうだな、そうだよな。だったらこの状況が変だって事に気づけよバカ!」

革張りのソファに縫い付けるように組み敷かれ、本気で狼狽する

「こうなるように仕組んだのは君だろう」
「はァ!?」
「年頃の娘のこんな姿を見せられて、理性を保っていられる方がおかしい」
「だから、俺は女なんかじゃ‥‥ぁ‥っ」

俺の胸を弄っていた指がその先端を軽く摘んだ。
たったそれだけの事なのに、いとも簡単に全身の力を削がれてしまう

「女じゃない、ね‥‥」
「ゃ‥‥あぅ‥」
「こんな体をしているのに?」

それ以前の問題だろ
体の造りが少し変わったぐらいで、少し前までは男だった俺を平気で押し倒せるこの男の神経を疑う。
それとも何か?体が女なら誰だって良いってか?

「まあ巧くすればココは男でも感じる事が出来るからな」
「へっ?ちょっ‥うわ!」
俺の思考を無視して何やら一人で納得していた大佐が、いきなり俺の下穿きを引き下ろした

ベルトは俺がぐるぐる考えてる間に外されてたらしい

何つー早業‥‥

何にしたっていきなりは無いだろ
問答無用で脱がしちまうんじゃなくて、もっとこう‥‥ムードって物を大切にだな‥‥

うわ、駄目だやっぱり頭の中まで女になり始めてる

「あー‥鋼の?考え事をするのも良いが、もう少し私の方に集中しなさい」

俺の首筋から鎖骨にかけて舌を這わせていた大佐が拗ねたように言う。
無視されたら途端に気弱になるタイプだな

意外な一面が妙に可愛いなーとかぼんやり思っていると、何の前触れも無く大佐の指が俺の‥‥胸よりも女としての特徴を如実に顕している部分に触れた

突然の強い刺激に、頭が真っ白になった
「だめ‥ゃ‥触っちゃ‥‥」
「あまり濡れてないな‥‥まあ初めてならこんなものか」
「え‥‥?」
何かを確かめるように割れ目を少しなぞると徐にその指を俺の目の前に差し出した

「舐めてごらん」
「‥何で‥‥」
「君の為だよ。痛いのは嫌だろう?」
「嫌だけど‥‥」
「このままシたら確実に裂けるぞ。私はそれでも構わないが」
「‥ぅ‥‥」

裂けるって‥‥
もしかしてこの男は、途轍もなく恐ろしい事をしようとしてるんじゃなかろうか‥

兎に角、俺だって痛いのも裂けるのも嫌だし
大人しく言葉に従う事にした

下手に抵抗して機嫌を損ねるのは得策じゃない。

二本の指の間をゆっくりと舌でなぞる

「それじゃあ疲れるだろう。口に含んでも構わないよ」
確かに無理に舌を出し続けていると
顎が疲れてくる。

言われるままに、ほんの少し指先を含むと俺の舌に絡めるように動かされる

「‥ふ‥‥は‥ぁ‥」
舌を揉まれ、口腔をくすぐられる

唾液が飲み込めずに、口の端から零れるのが判る

くるしい

目の縁に涙が溜まり始めると口の中から指が引き抜かれた

「大丈夫か?」
「ふぁ‥‥うん‥」
「そうか、良い子だ。ご褒美にゆっくり慣らしてやろう」

「ぁ‥あァ‥‥ッ!」
大佐が再び俺の秘部に触れてくる
さっきとは違ったヌルリとした感触に、思わず腰が跳ねた

下腹部を撫でられたかと思えばその指が強く肉芽を摘んで、擦り上げる
大佐の指が入口の辺りを掠める度に、不安と同時に痺れる様な感覚が体全体に広がっていった

ゆっくり慣らすとの言葉通りに思いの外優しく触れてくる手の動きは、寧ろ焦らされているとしか思えない

「良くなって来たらしいな」
「‥ぇ‥‥」
「濡れて来ている」
「ひ‥ッあ‥やあぁ!」
わざとらしく音を立てて弄られ、恥ずかしさと快感に体が熱くなる

そろそろ良さそうだと、大佐の指が軽く入口を突いて、そして一気に俺の中に入って来た

いきなり刺された様な痛みに生理的な涙が零れた
「やっ‥痛ぁ‥」
「我慢しなさい、すぐ慣れる」
「でも‥‥」
「初めは誰だって痛いんだよ。機械鎧の手術に耐えた君がこれ位で弱音を吐いてどうする」

機械鎧の手術と今の状況を一緒にする方がおかしい
そう目で訴えると、やれやれとばかりに溜め息をつかれた

「‥これからもっと大きな物を受け入れて貰う事になるんだがね」
「‥ッあ‥ぅ、動かさ‥‥」
指の腹で内壁を擦られて、ずくずくとした感覚に鳥肌が立った


体は熱くて仕方ないのに、頭は何処か醒めていて大佐の指って案外太いんだな。なんて他人事の様に思う
太いと言うより、骨張ってごつごつした感じだ

普段は発火布をしていて細身に見えるぶん、触れてみると一層強く実感する

男の手なんだと

「ひぁ‥あ、ぁ‥」
大佐が俺の中を掻き回しながら、伸び上がって胸に舌を這わす
顔を上げると、大佐と目が合った

いたわる様に、優しげに目を細められる
触れられる度に一々反応してしまう俺を見て、意地悪くニヤついてるものだと思っていたのに

男の俺には、そんな顔見せた事無いくせに‥‥

「そろそろだな‥」
「ひ‥‥っ」
中に入っていた指が引き抜かれる

両脚を大佐の肩に乗せる形で開かされる
知識が全く無い訳じゃない。何をされるかは容易に想像できる

ぞっとした

破瓜に対する恐怖も有る。
けどそれ以上に、受け入れる事で大佐と完全に男と女の関係になってしまうのが怖かった

男として接していた頃は、正直いけ好かない奴だと思っていた。
でもそれと同時に、その実力を認めてもいた

あの日大佐に出会っていなければ俺が国家錬金術師を志す事も無かったかもしれない

何度も助けられた。
時には強い言葉で諫められる事もあった
こんなにも簡単に変わってしまう関係だったなんて、思いたくない

「鋼の‥‥?」
僅かに動揺の混じる声音で呼ばれる
頬を撫でられて、初めて自分が泣いている事に気付いた

「まだ怖いのか」
担ぐようにしていた俺の脚を降ろした
ふるふると首を横に振っても、
「無理しなくて良い」
と優しく髪を梳いてくれる

「ち、ちが‥‥」
「違わない。嫌なんだろ?」
「違う‥‥!」

思わず起き上がって、抱きついた。
大佐は少し驚いた様な顔をしたが、すぐに背中に腕を回してくれる。
あやすように撫でられ
その温かさにしゃくり上げそうになるのを堪えながら、なんとか言葉を紡ぎ出す
「ゃ‥じゃない‥」
「嘘を言うな」
嘘なんかじゃない。女として大佐を受け入れる事も、本当は凄く嬉しい

「‥けど‥っ‥怖い‥」
「ああ、判ってる」
「た‥さが、俺の‥」
「‥‥‥?」
「男だった頃の‥俺の事‥忘れ‥じゃないかって」
大佐の中から今までの俺という存在が、消されてしまうような気がして‥‥

「馬鹿な事を‥」
「なっ‥‥」
背中に回されていた腕に力が込められる
「‥忘れる筈がない‥」
絞り出すような声音。表情は見えないが、きっと不機嫌そうな顔をしてるんだろう

「私はもう「彼」には会えない」
「‥‥‥」
「それでも、絶対に忘れたりはしない」
「何で‥‥」
「彼に良く似た、君がいるからだ」
「今までの俺と今の俺は、似てるけど別人‥ってこと?」

肩越しに大佐が苦笑する
「どうだろうな。少なくとも今は‥」
一旦言葉を切り、腕の力を緩めて俺と目を合わせた
「一人の男として、一人の女である君を抱きたい」
「‥大佐‥‥」
「嫌か?」
「嫌‥じゃ、ない。さっきも言ったろ?」
「そうか、そうだったな」

「ぅあ‥‥ぃ、痛ぁ‥っ」

大佐が入ってくる。
想像を絶する痛みと圧迫感に、呼吸も儘ならない

「動くぞ‥?」
「あっ、ゃ‥まだ‥待っ‥!」
俺の返事を待たずにゆっくりと動き出す。腹の内側を擦られる感覚に、嗚咽のような声が漏れた

「あぅ、やっ‥ぃた、痛い‥っ」
「情けないな‥子供を産む時はこれの数十倍の痛みがあるんだぞ」
「な‥嘘‥‥」
「何なら産んでみるか?私の子を」
「ゃ‥そんな‥‥」
「冗談だよ」

僅かに腰の動きが速くなる
「ひ‥あぁっ、や‥!」
「君らが体を取り戻すまでは、待ってあげよう」

どういう意味かと問い返す間もない程激しく突かれ、やがて俺は意識を手放した




「大佐‥」
「ん?」
「約束だからな、忘れたんなよ?「アイツ」の事‥」
「心配するな。あんな生意気で騒がしい豆粒が、そう簡単に記憶から消えるものか」









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