取引
>451氏

 これは一体どういうことなんだろう。

 「…ええと」 
 薄暗い灰色の部屋。コンクリートの壁を、薬品やら器具やらが乱雑に置かれた棚が覆い尽くしている。
 今自分が置かれている状況がにわかに理解できずにいると、錆びた鉄製の扉が軋んで開いた。
 「お、目覚ましたか」
 サングラスを上げつつ覗いた男の顔に、すべての記憶がぼんやりと繋がる。

 そうだ。僕は、この人に攫われて…。

 「……」
 「あれ?記憶飛んじまったか?おかしいな、手順はちゃんと…」
 「覚えてます。お兄…グリードさん」
 冷たいコンクリートの寝台から上半身を起こし、そっと手のひらを見つめる。
 手のひら。僕の、生身の。
 「成功したんですか」
 「そいつは自分の体に聞けよ。魂移してからその体、一ヶ月眠り続けてたんだぜ」 
 そう言って意地悪く笑う彼の表情も、確かに久し振りに見た気がする。

 二ヶ月ほど前のことだった。彼、グリードさん達に攫われてきて、昼夜問わず魂の成り立ちについて尋ねられた。
 僕は覚えていないと何度も言ったけれど、それでもグリードさんは飽きずに質問を繰り返した。
 延々続く質問ぜめに、いい加減辟易して、ついぽろっと
 「生身の体に戻れたら思い出せるような気がします」
 って言ってしまった。この薄暗い地下では不可能を前提にした、ほんの冗談のつもりだったけど。
 …そうしたらその日の晩にこの部屋へ連れて来られて、この有様。これで契約完了だな、と笑ったグリードさんの口元が最後の記憶だ。
 彼らが根城にしている酒場には、よもやこんな大掛かりな練成が出来る設備があるわけないとタカをくくっていたのが運の尽きだった。

 「どうだ、新しい体は。動くか?」
 「…なんとか。でも、ちょっと…」
 「あ?」
 「どうして僕、付いてないんですか。その、あれ…」
 「ああ、まあそんくらいの手違いはな」
 「契約違反です」

 手首の細さ、指の関節、なだらかな腰のくびれ、柔らかそうな乳房。
 これはどう見ても。
 「女性の体じゃないですか」
 妙に膨らんだ胸元を直視してしまい、慌てて目を逸らした。
 自分のものではあるんだけど、どうにも恥ずかしくて堪らない。…こんなに間近で見たのって初めてかも。
 すごい、本当にさきっぽピンク色なんだ……。

 「女性っつーか、女の子って感じだけどな。お前今14だっけ?」
 そんな所は生身の頃と忠実に造るくせに。
 僕がそう口にする前に、グリードさんがずいと近付いてきた。
 「で、だ。俺は契約通り生身の肉体を与えた。次はお前が契約を履行する番だな」
 「なんかものすごく理不尽な気が…」
 「どこがだ。ただでさえ設備の整ってないこんなとこでここまで出来たんだ。上出来じゃねえか」
 「そんなアバウトな感覚で人の体造らないでください」
 「要は結果オーライ。お前はこうやって肉体を持ち、感覚を持ち、体温を持った。お前の望みはそれじゃなかったのか?」
 「………」
 「どうせその体もお前にとっては仮宿だ。だったら性別くらいたいした問題じゃないだろ?」
 確かにそうだ。今は予想外にこんな体になってしまったけど…僕の、僕と兄さんの望みはもっともっと先にある。僕らが本当に望む体温は、これじゃない。
 でも。
 「それともお前、この間言ったことはフカシか」
 いきなり核心を付かれ、思わず体がこわばった。やばいな、会話をそこから逸らそうとしてたのがバレるのも時間の問題かも。
 「どうなんだ?その体を与えられて、思い出せたのか。思い出せそうなのか」
 グリードさんの長身が、どんどん近付いてくる。どうしよう、もう誤魔化しは利かないだろうな。でも本当のことも言えない。
 言ったらどうなるか、それこそ次はダンゴムシにでも魂を移されてしまうかも。
 「ええと、えー…」
 「どうなんだ」
 「嘘じゃありません」
 目の前に迫ったぎらつく両眼を見つめつつ、冷静に適当なことを口走る。
 あ、しまった、と思いつつ、口はもう止まらなかった。
 「まだこの肉体に感覚が馴染んでいません。起き抜けの頭と一緒です、いきなり思い出せって言われても自分の名前を思い出すのも一苦労で」
 「ふーん」
 もはやグリードさんは僕に覆いかぶさる格好で僕の顔を見据えていたけれど、ふいと体を離した。
 「体と感覚が馴染めばいいんだな?」
 「はい、ですからもう少し時間を」
 ください、と言葉は最後まで続かなかった。グリードさんの右手がいきなり僕の胸を鷲掴みにしたからだ。
 「…え、え?あの、」
 「これが一番手っ取り早い」
 言うなり僕の後頭部を彼の左手が掴み、上を向かされる格好になった。自然に開いた口に、グリードさんの舌がもぐりこむ。
 「うっ…?!はっ……!」
 呼吸が吸い取られるような気がした。何度も何度も彼の舌が僕の舌を捕まえようと出し入れされる。いきなりのことで僕の頭は完全にパニックになった。
 目覚めたばかりの感覚が、彼の舌の突起ひとつひとつを感じとる。その唾液の味も、温かさも、顎を伝う感覚さえ。あまりにも敏感に。
「んんっ、ん……」
 絡まる舌が引いて、やっと口を閉じられたかと思ったら次は彼の右手が動き出した。
 「グ、リードっさっ…!」
 いやだ、何だこの感覚は。ざわざわと、揉みしだかれる左の乳房から、その先端から、何かが這い出してくるようだ。熱い、重い塊が腰に落ちてくるようだ。
 必死で相手の体を押し返そうとするけれど、全然効果はない。
 「時間なんていらねえだろ、ただでさえ今この体は敏感だしな。古今東西目覚めに一発ってのは常識だ」
 「何言って、るんですかっ」
 「おーおー、息が上がってきたじゃねえか。こうした方が好みか?」
 グリードさんの指が、乳首をきゅっとつまむ。途端、内腿がびくんと跳ねる。
 「やだ、いやだ、何だよこれっ…!」
 信じられない。今自分がされていることが一体何なのかは理解していたけど、それでもたったこれだけの刺激で体がこんなにも反応するなんて。
 「何だよって、なあ」
 少し呆れたように眉を上げると、グリードさんは僕の首筋に唇を当てた。その生温かい唇から舌が這い出てそのまま肌を滑る。そうして、もう片方の乳首に吸い付いた。
 とたん、背筋に甘い痺れが広がる。
 「あっ、グリードさんっ…」
 舌が乳首の周りで円を描き、先をつつく。そうして緩く吸われる。それを何度も繰り返された。
 「んっ、んっ…、んぁっ…」
 ちゅる、じゅぽ、と、音を伴って断続的な刺激が下半身に直接響く。内腿にますます力が入っていく。両手は知らず彼の髪の毛をまさぐっていた。
 「14歳ねえ…」
 ふとグリードさんが呟く。
 「……?」
 ぼんやりと視線を胸元へ泳がせると、グリードさんは顔を上げて僕を見ていた。
 「なに…」
 「いや」
 言うなり彼の両腕が僕の膝を掴み、大きく開いた。
 「もう挿れるか…」
 指が引き抜かれ、ベルトを外す音や衣擦れの音が室内に響く。
 僕はもう、ぐったりと仰向けに寝転がり、息を整えることしか出来なかった。

 これからされることは分かっていた。恐怖もあったし、不安もあった。
 けれどそれ以上に、下半身で燻る熱が、痺れる体がそれを待ち望んでいた。
 これが女ってことなのかな。単純な快楽を求めるのとは違う、強い衝動がある。
 生き物として、女として。男を求めるってこういう感覚のことなのだろうか。これがあるから、男と女はセックスするのかな。
 そんなことをぼんやりと考えていると、硬い指が唇をなぞった。
 「アルフォンス」
 目の前にある不敵な男の表情と、穏やかな声色に違和感を感じた。名前を呼ばれたのは初めてだった。

 それはないでしょ、グリードさん。
 僕は思わず笑ってしまった。なんだかくすぐったくなってしまったのだ。
 だって、これから繋がろうって時にそんな声で名前を呼ぶなんて。
 まるで睦言のようじゃないか。
 そんなわけないのに。

 「何笑ってんだ」
 グリードさんは大して気分を害したふうでもなく、けれど少し乱暴に僕の唇に噛み付いた。
 大きく口を開き、僕の唇を覆い尽くして舌を絡める。
 短い間に何度もキスされたけど、何もかも攫われるようだな。理性も、心も、魂さえも。
 僕の両腕はグリードさんの首に巻きつき、筋肉のついた背中を撫で、グリードさんの両手は僕の乳房をまさぐった。
 「んん、あは…あぁ…」
 彼の指がそっと乳首を摘み、強弱をつけて捏ね回す。その度に腰が浮いた。
 思わず足をグリードさんの体に巻き付けそうになったけれど、そこは踏み止まった。
 は、とグリードさんが溜息をつく。そうして体を起こし、僕の両足を開く。間がひんやりと空気を感じるのは、僕のもので濡れているせいなんだろう。
 僕は馬鹿みたいにグリードさんのそこを凝視していた。
 記憶にある、僕のモノとは格段に大きさも形も違う。その先は僅かに濡れているようだった。
 「!!」
 「お、ちゃんと濡れてるな」
 「…っ何言ってんですか!!」
 良かった、ちゃんと言葉が出た。このままいい様に弄られるなんて冗談じゃない、こんなことしたって僕は思い出さないだろうから。
 「でもちょっと足りないか」
 「…なんで指舐めてるんですか」
 「すぐ分かる」
 唾液に濡れたグリードさんの指が、ぐちょ、と音を立てて僕の中心に突っ込まれた。
 「うあぁっ!」
 次から次へと与えられる刺激が強すぎて、せっかく引き戻した正気がどこかへ飛んでいきそうになる。
 体中の血管が破裂しそうだ。頭がぐらぐらする。

 グリードさんはいつの間にか寝台の上に乗り、指を動かしながら僕の耳に舌を這わせていた。
 「やめ、やめてくださ…」
 大きく開かされている足の間で、二本の指が蠢いている。筋を裂くような痛みが走り、思わず腰が上へ逃げていく。
 「痛い、痛いですっ…抜いて…」
 「二本はきついか?まあすぐ慣れるだろ。どんどん濡れてきてるし」
 「あああぁ……」
 上半身を捩って逃れようとしても、グリードさんの左手はしっかり僕の膝を押さえつけている。
 ただひたすら繰り返される指の出し入れに、僕の体は少しづつ変化を見せてきた。
 くちょ、と時折粘ついた音がする。立てた膝ががくがくする。
 痛みはだいぶ引き、代わりにむず痒いような感覚が触れられる指先から広がっていく。
 「あ、あぁ、はんっ、んん…」
 鼻から抜けるような、甘い声が出る。抑えようと両手で口を塞いでみても、咎める様に速さを増した指の動きに、両腕の力は抜けていった。
 「いやだ、ふあ、いやだよ…こんなの、あっ」
 頭はぐちゃぐちゃに混乱しているのに、体はあっという間に刺激に馴染む。馴染んで、感じて、更に強い刺激を求めて絡み付こうとする。
「腰、もっと動かせ」
 いつの間にか、彼の指は動きを止めていた。それに今まで気付かなかった。
 「この石は磨き込んであるから、多少擦っても大丈夫だ。それとももう挿れて欲しいか?」
 言葉の意味を理解したとたん、体中が発汗したような気がした。と同時に、突っ込まれた指の存在を強く感じる。
 「締めんなよ」
 耳元で囁かれ、ますます体が熱くなる。それが羞恥のせいなのか、興奮のせいなのかは分からなかった。

 「もう挿れるか…」
 指が引き抜かれ、ベルトを外す音や衣擦れの音が室内に響く。
 僕はもう、ぐったりと仰向けに寝転がり、息を整えることしか出来なかった。

 これからされることは分かっていた。恐怖もあったし、不安もあった。
 けれどそれ以上に、下半身で燻る熱が、痺れる体がそれを待ち望んでいた。
 これが女ってことなのかな。単純な快楽を求めるのとは違う、強い衝動がある。
 生き物として、女として。男を求めるってこういう感覚のことなのだろうか。これがあるから、男と女はセックスするのかな。
 そんなことをぼんやりと考えていると、硬い指が唇をなぞった。
 「アルフォンス」
 目の前にある不敵な男の表情と、穏やかな声色に違和感を感じた。名前を呼ばれたのは初めてだった。

 それはないでしょ、グリードさん。
 僕は思わず笑ってしまった。なんだかくすぐったくなってしまったのだ。
 だって、これから繋がろうって時にそんな声で名前を呼ぶなんて。
 まるで睦言のようじゃないか。
 んなわけないのに。
「何笑ってんだ」
 グリードさんは大して気分を害したふうでもなく、けれど少し乱暴に僕の唇に噛み付いた。
 大きく口を開き、僕の唇を覆い尽くして舌を絡める。
 短い間に何度もキスされたけど、何もかも攫われるようだな。理性も、心も、魂さえも。
 僕の両腕はグリードさんの首に巻きつき、筋肉のついた背中を撫で、グリードさんの両手は僕の乳房をまさぐった。
 「んん、あは…あぁ…」
 彼の指がそっと乳首を摘み、強弱をつけて捏ね回す。その度に腰が浮いた。
 思わず足をグリードさんの体に巻き付けそうになったけれど、そこは踏み止まった。
 は、とグリードさんが溜息をつく。そうして体を起こし、僕の両足を開く。間がひんやりと空気を感じるのは、僕のもので濡れているせいなんだろう。
 僕は馬鹿みたいにグリードさんのそこを凝視していた。
 記憶にある、僕のモノとは格段に大きさも形も違う。その先は僅かに濡れているようだった。
 熱い塊が僕のそこに触れ、ゆっくりと入れられていく。
 「うぁ……」
 思わず声が出てしまう。一体どこまで、というくらいグリードさんは僕の奥深くを貫いた。
 そして、ゆっくりと抽出が始まる。
 僕の体は、そこは、どこまで敏感になっているのだろう。一瞬強い痛みを感じたのを最後に、それは徐々に和らいでいった。
 変わりに体を侵していくのは紛れもない快感。そこの動きだけに神経が、思考が集中していく。
 「あぅっ、ああ、あ、あ、あんっ」
 「なんて顔してんだよ?」
 「っうぁ、ぇ…っ?」
 「すげえやらしいぜ?鏡見るか?」
 「そ、んな、ひぁっ!グリード…っさんっ!!」
 突然律動が激しくなった。
 がくがくと揺すられる衝撃にただ声を上げることしかできない。
 信じられないほど気持ち良かった。幼い頃には決して知ることのなかった快楽だった。
 一瞬だけ、兄さんの顔が浮かぶ。
 けれどそれも、唇を塞がれた瞬間掻き消されてしまった。

その後グリードさんは体位を変え、後ろから横から僕を好き放題に抱いた。
いつまでこうやって揺すられ続けるんだろう。喘ぎすぎて声が掠れてしまうのに、それでも声は止まらなかった。
グリードさんは、抽出を緩めたり乳首を弄ったり、クリトリスを擦ったりして刺激に強弱をつけている。
引き伸ばされる刺激と、激しく与えられる快楽に、僕はもうドロドロに溶けてしまっていた。

「ああぁ…うっ、ううっ…」
四つんばいで後ろから貫かれたまま、とうとう涙が出てきてしまう。人前で泣くのなんて何年ぶりだろう。でもこんなに苦しい涙は知らない。
母さんが死んだ時だって、こんなに苦しくはなかった。あの時は、ただただ悲しいばかりで。
「もう、やめ…あああっ!」
体を引き起こされ、向かい合わせでグリードさんの上に乗る格好になる。
自重で更に深く奥を侵された。ついでのようにグリードさんの指が真っ赤になった乳首を摘む。
「アルフォンス」
涙に濡れた目で呼ぶ声の方を見ると、強い光を宿した瞳がこっちを見ていた。
「お前が思い出さなきゃこのままずっと続けるぞ?」
その言葉に体が震えた。ひどいよ、僕はもうとっくに限界を超えてしまったのに。
「まだイッてねえだろ。これを知るとこの先もっと辛くなる」
彼の言うことは余り理解できなかった。いくってどこへ?
よく分からない、という顔をすると、にいと口の端が上がるのが見えた。
「もう二度と鎧の体に戻ろうなんて思わなくなる」
そう言って腰を掴まれたかと思うと、今までで一番の衝動が来た。
「ああああんっ!うぁっ、はっ…んぁっ!ひっ」
グリードさんの腰に大きく突き上げられ、僕のそこから大量の熱い液が溢れ出すのが分かった。
ぎりぎりまで抜かれ、そして思い切り打ち付けられる。その度、乳房が頼りなく揺れるのを妙にリアルに感じた。
「このままイケよ」
「ぁふっ、はっ、いやだ、何か、何か来るよう…!あぁ!」
視界が勢いを増しながら上下する。
こわい、こわい。信じられない、こんなに気持ちいいなんて。こんなものを知ってしまったら。こんなものに侵されてしまったら。

逃げられなくなってしまう。

「兄さん…!」
僕はグリードさんの肩口に額をうずめ、叫んでいた。
「無駄だ」
乳首を捏ねられ首筋に噛み付かれ、そうして最奥を貫かれた。
「あああああ―――っ!!」
下腹部に熱い飛沫を感じた。同時に、体中から力が抜ける。
そのままグリードさんの方に倒れこんだ。
彼は僕の体を受け止め、ぞろりと耳たぶを舐め上げる。
僕の体はびくびくと痙攣しながら、その粘膜の感触に再びあそこが熱くなっていくのを感じた。
「だめ、ん、だめ…」
とうに手遅れのような気がしていたけれど、口だけは拒絶の言葉を何とか吐き出す。
グリードさんはただ笑うばかりだった。

結局グリードさん自身が達したのは僕が三回イッてからだった。
体力の違い、というよりは感度の違いか。慣れればもう少しは我慢がきくようになるのかな。
ていうか、慣れるって何だよ僕は。

目を覚ますと、そこは薄暗いあの部屋ではなかった。
ちょっと汚れてはいるけれど、太陽の光が入る窓もあるし、何より僕が寝かされているのはシーツの貼られたベッドだ。
あれからどの位時間が経ったのかは分からない。
もう何もかもおぼろげにしか思い出せない。
あえて思い出したくない場面もたくさんあるんだけど。

「お、目覚ましたか」
開いた扉から覗いた顔にデジャヴを覚えつつ、ゆっくりと起き上がる。体中がだるかった。
グリードさんが僕の横に腰を下ろす。
「最初っから飛ばしたな。ま、素質があったんだから仕方ねえけど」
「素質?何の?」
「一言で言うと男狂いってとこかな」
「!」
信じられない、なんてこと言うんだこのおっさんは。
確かに生物の雌として雄を求める衝動があったのは認めるけれど、それはもっと純粋に生きていく上での本能と言うか、錬金術師としての生物学的な観点からの
話であって、絶対そんな俗っぽいものじゃ…。
「俺結構乱暴にしたぜ?あんまし弄ってもやらなかったし。それなのになあ」
何うんうん頷いてるんだよ。そんな所で変な納得しないでよ。
険しさを増す僕の表情なんてまるで気にも留めず、グリードさんは普通初めてで潮吹かねえよなとかあんな絡みつかねえよとかぶつぶつ言っている。
勝手にしてよもう、と溜息をひとつ付くと、ふいにグリードさんが視線を寄こした。
「そんで記憶は一向に戻らずか」
俄かに強さを増した眼光を、横目でちらりと見て僕は再び溜息を付いた。
「もう言ったと思うんですけど」
「やっぱりあの時言ってたことが本当だったのか」
この人にさんざん突っ込まれて泣かされて喘がされている途中、僕は嘘を付いていたことを白状してしまっていた。
もういい加減開放して欲しかったし、ずっとこんなことをされ続けるくらいならダンゴムシになったほうがましだと思ったからだ。
けれどグリードさんはそれを聞いて、止めるどころか更に激しく攻め立てた。罰のつもりだったんだろうか。

「まあいいか」
「…いいんですか」
「あれだけ気持ちよくしてやったのに、どうせお前は帰るつもりでいるんだろ」

鎧の体に戻って、兄貴のところへ。

その兄貴に洗いざらい聞くから構わねえよ、とグリードさんは片足を組んだ。
「………」
「あれ?違ったか?」
「…いいえ、その通りです」
彼に抱かれるのはこれ以上ない恐怖だった。
一瞬の途切れもない快楽は僕をこの体に縛り付けていくようだった。けれど。
「ちょっとの間でも生身の体に戻れて良かったろ?」
グリードさんはこっちも見ずにそんなことを言う。口の端だけはいつものように上がっていた。

そうだ。本当は分かってた。
確かにあれは僕の記憶を引き出すための行為だったけど、それだけでもなかったよねグリードさん。
触れた指は暖かかった。
僕はそれを思い出せた。
最初に目が覚めて、自分の手のひらの熱を感じたとき、あのときの気持ちは一生忘れないんだろうな。
さぁて、とグリードさんが大きく伸びをする。
「兄貴が来るまでまだまだ時間はあるし、あと3回はやれるか」
「え!?」
僕は唖然とグリードさんを見上げた。
「お前がイケるクチなのは分かったし、ヤり納めってことで」
「馬鹿言わないでください!!」
ひとがセンシティブになってるってときに。
「それに僕、そんな即物的感覚でセックスしませんから」
体に纏わりつくシーツを剥ごうとする手を押さえつけ、ずっと言っておきたかったことを告げた。
「じゃあ何考えてするんだよ」
「だからその…生物としての本能とか、相手に対する精神的渇望が肉欲っていう形で表に出るっていうか」
一瞬後、グリードさんは目をまん丸にした。

「…意外とそういうとこは年相応なんだな」
その声を最後に、僕の視界も唇も、グリードさんに優しく覆われてしまった。












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