狗と女王様
>405氏

「どけ、へたくそ」

ロイ子の脚に手をかけて持ち上げようとしたその瞬間、ロイ子の長い脚がハボックの胸を蹴り上げた。
「ここが良いかとか、どうして欲しいとかいちいち聞くな。うっとうしい」
無情にもハボックはベッドから突き飛ばされる。
「な、何するんですか?大佐」
ベッドの下から何がおこったか理解できないといった風情のハボックが泣きそうな顔でロイ子を見上げる。
「おまえのへたくそな愛撫に感じるフリをするのも、もう我慢の限界だ」
全裸のロイ子はその体を惜しげもなくハボックの視線にさらしたままベッドから降りると、床にちらばった軍服を拾い上げた。
「っち」
短く舌打するとロイ子はハボックを睨みつけた。

「おまえ、ちょっと行って新しい下着買ってこい」
「はあ?」
「一度つけたのをそのままつけるなんて嫌だ」
場所はハボックの宿舎。時間はもう深夜に近い。めずらしくその肌にふれても良いと許しを得たハボックは張り切ってロイ子の体を愛撫した。

丁寧に丁寧に。

「大佐、何が気にいらなかったんですか?俺、あんなにがんばったのに」
ハボックは今にも泣きそうな瞳でロイ子の脚に縋りつくとその青い瞳は仰ぐようにロイ子を見上げた。
そんなハボックをロイ子は蔑むように見下ろすと、肩を竦めて大仰にため息をつく。
縋りついたハボックを足蹴にすると、腕を組む。ぐっと寄せられた胸の谷間にハボックはごくりと咽を鳴らした。
その様子を面白そうに見つめながらロイ子はベッドのふちに腰をおろす。

脚はきちんと斜めにそろえ、両の手をベッドにつく。その様子を固唾を呑んで見守っていたハボックにちらりと流し目をくれると、そろえた脚をほどき思わせぶりに脚を組んだ。

「ふん、物欲しそうな視線だな。少尉」
意地悪く言うロイ子にハボックは朱に染まった頬を背けた。
「そんな所で畏まってないで、さっさと行ってこい。私はいつまで裸で待っていれば良いのかな?」
「だから明日の朝までに俺が洗って軍服にもプレスかけておきます。
だから、ね、大佐、ここはさっきの続きしましょう。お願いですから」
ベッドの下で正座したままのハボックが懇願するように、頭を垂れた。その様をロイ子はおもしろそうに眺める。ふいに悪戯心がロイ子にうかんだ。

「おまえ、何でもするか?」
「は?」
「何でもするかと聞いている。うん?」
「何でも?ですか……」
「そうだ、少尉。何でもだ」
ロイ子の指がハボックの顎にかかる。ぐっとその顎を上向かせるとにっと唇の両端を持ち上げるように嫣然とロイ子が微笑んだ。その笑みにハボックはくらくらと眩暈を感じる。
危険だと叫ぶ自分の本能にハボックは別れを告げた。

「イエス、マーム。仰せのままに……」

その答えに満足そうに頷くとロイ子は禍々しい笑顔のまま、上半身を折り曲げハボックの額に唇を押し付けた。豊かなロイ子の胸がハボックの眼前でゆれる。片腕は持ち上げるように胸の下に置かれ、ハボックの顔すれすれに見せ付ける格好となった。
あともう少し、ほんのちょっとハボックの顔が上向けば豊かな胸の谷間に届こうと言うほどの距離で、ロイ子は体を起こした。

「あっ……」
未練がましそうにハボックは手を伸ばす。ロイ子はその手を無情にも跳ね除けた。
「誰が触っても良いと言った?少尉」
組み替えた脚の膝に肘をつき手の甲にロイ子はその顔を乗せた。
ハボックの瞳には、きっと片手に巨大なフォークを持ち、背後には尖った尻尾が隠されたロイ子が映っているに違いない。

「少尉」
ロイ子がハボックの名を呼ぶ。
「イエス、マーム」
その返事はロイ子の意にかなったものだったのだろう。ついと足をハボックの前に差し出す。

「どうした?遠慮はいらんぞ。狗らしく主人に忠誠を示してみろ」
差し出された足をハボックは両手で受け止めると恭しく甲に唇をあてる。何が気にいらなかったのかロイ子はすっと足をひいた。
突然、目の前からエサを取り上げられた犬のようにハボックは唖然とロイ子を見つめた。

「少尉、狗のように。と言わなかったか?」
「うっ……」

言葉につまったハボックをしり目にロイ子はベッドのふちから立ち上がる。広くはないハボックの部屋に備え付けられているクローゼットへと向かった。たった数歩の距離だが裸体を見せ付けるような完璧なウォーキングにハボックは見とれた。ロイ子がクローゼットの扉をあける。
扉の内側には姿見用の鏡がはめ込まれていた。扉を開け放つと鏡はベッドの上を映す。
クローゼットの中身を探るようにかき回すとロイ子はベッドに戻った。その手には黒と白の布が握られていた。
「大佐……」
「そう、サッシュだ。おまえ、使った事あるか?」

ロイ子の手に握られていた布は礼装の時に肩から斜めにかけられる肩布でハボックはそれを身につけた事はなかった。
「ありません、マーム」
「そうか」
ロイ子はにっこり笑うと白い方の布をハボックの目の前に垂らした。

「私が使い方を教えてやろう、少尉」
床に座ったままのハボックの前にロイ子も跪く。ハボックの逞しい体を包みこみ、その胸に自分の胸を押し付けるようにして背に手をまわした。柔らかい双つの球体がハボックの体を刺激する。
ハボックの体がびくりと震えた。

「少尉、腕を後ろにまわしたまえ」
ハボックの耳元でロイ子はなめるようにささやいた。
「イエス、マーム」

「覚えが良いな。さすが私の部下だ。」
後ろにまわされたハボックの腕を慣れた手つきでロイ子はしばりあげた。
「犬に手は必要ない。そうだろう、少尉?」

イエスと言いかけた言葉をハボックは飲み込む。犬には言葉も必要ないだろう。
「ふん。覚えが良すぎてつまらない」
ロイ子はハボックの耳朶にきつく噛み付いた。一瞬、ハボックが顔をしかめる。

「さあ、続きをしようか。少尉」
ハボックを床に座らせたままロイ子はベッドのふちに腰掛けるとふたたび足をさしだした。
不自由そうに、にじり寄るとハボックは差し出された足に舌を這わせる。指を口に含み指と指のあいだを嘗める。ベッドについたロイ子の手がシーツを握り締めた。くっと奥歯を噛み締めて、その声をハボックに聞かせないようにロイ子はその感触をやりすごそうとする。
たっぷりと唾液を含んだ口内でロイ子の足の親指をしゃぶるようにすってやると耐え切れないと言う風にロイ子が咽をそらせる。その体の動きにあわせて、つんとロイ子の胸も上向いた。
ハボックには見えないが仰け反らせた体はクローゼットの鏡に映りこんでいる。感じる自分自身の体をロイ子はどんな思いで見つめているのだろうか?

そう思うとハボックにも加虐心が芽生える。ロイ子だけが気持ち良いようにと与えていた愛撫に物足りない思いを感じていたのは自分だけではなかったのだろう。

だったら、そう言えば良いのに。と、素直じゃない上司をそっと仰ぎ見た。

「あっ……。少尉、誰が…やめても、良いと言った?」
きっと目尻を朱に染めて、感じている体を悟られないように高圧的な物言いをするロイ子にたまらない愛おしさがこみ上げる。
唾液が滴るほど嘗め回した指を口から出す。ロイ子が組んだ足をほどき、誘うように肩幅ほど足を開いた。ロイ子の奥底を伺うように覗きみようとするハボックの視線に気づいたロイ子は黒い方の布に手を伸ばした。

「少尉、こちらに」
膝立ちでロイ子の足の間に体を進める。既に屹立したハボックの股間のものをじっとりと湿ったロイ子の足が褒美だと器用に撫でた。手にした黒い布を丁寧に折ると、ハボックの眼差しから自分の体を隠すようにその瞳にあてる。ハボックの瞳に黒い布が重なり視界が奪われた。

「私にも恥じらいと言うものがあるのだよ」
きゅっとハボックの後頭部で布を固く結んだ。そのままハボックの頭を自分の方に引き寄せる。
そこは先ほどから与えられていた愛撫のせいでじんわりと濡れていた。犬のようにくんくんと匂いをかぐような仕草をしてやると、ロイ子はあっと小さな声をあげた。ロイ子の脚がハボックを抱きこむように背にからみつく。その動きにいっそうハボックの体がロイ子に密着した。鏡に映ったその様をロイ子はじっとみつめているのだろう。ハボックは舌を突き出し、下からゆっくりと焦らすようにロイ子の敏感な部分を嘗めあげていく。
ハボックはわざと響くようにぴちゃぴちゃと淫猥な水音をたてて、その場所で舌を動かした。
ロイ子のクリトリスをつついてやると、それに応えてぷくりと膨らんでいく。甘噛みしてやるとロイ子の体が仰け反るのが気配でわかった。自分に押し付けるようにハボックの頭を拘束していたロイ子の手が外される。

ああ、そう言えばロイ子の体は感じてくるとうっすらと桜色に染まったなあとハボックは見えない目にその様子を思いうかべた。突っ込んでいる時に、乳首を弄ってやるときゅっと自分を締め付けてきたっけ?

「あっ、や……める、な。少尉……」
背に絡んだロイ子の脚が強請るようにハボックの体を締め付ける。見えないがロイ子の両の腕は自分の豊かな胸を苛めているのだろう。

ロイ子はハボックに胸を責められるといやいやと逃れるように身をよじった。が、それは感じすぎる自分の体への照れ隠しだったのかもしれない。
ハボックの想像通りロイ子の腕は己の乳房を弄んでいた。下から持ち上げるように揉みしだく。
つんと上向いた乳首を痛いほど摘みあげる。下半身に男の背を抱え込み、上半身は自分自身に愛撫されるその様子をロイ子は鏡越しに見つめていた。

いやらしい自分のその姿にロイ子はたまらく感じた。
「少…尉、知って…いっ、るか?」

とぎれとぎれにロイ子がささやく。別に答えが欲しい訳でもないのだろう。ロイ子は勝手に言葉を続けた。

「大、総…統っか…下は、もっ、と余…裕のあるセックスを、こ…の、まれ…た。
ヒュ…ーズは、あっつ……、そ…れは、それ、は情熱、的で、な」
閣下はこうした。ヒューズはこうだ。と。まったく、この上司は何て事を言い出すのかとさすがにハボックもいらついた。自分の事を犬と呼んで、今までよろしくやってきた男たちとの行為を告白する。

それとも、何か意味があるのか?見かけよりも、思慮深い犬は考えた。ロイ子があえぎ声に紛れ込ませた、その言葉にしてやられたと思った瞬間、ロイ子が絶頂を迎えた。おまえは繊細すぎて物足りない。と。
ハボックの舌技でイかされる直前に告白した。

力の抜けたロイ子の体がずるずるとベッドから滑り落ちる。その体を支えてやる事もできなかった。
落ちたロイ子の体が、膝立ちになったままのハボックの腰を引き寄せる。乱れたロイ子を想像するだけだったハボックの体も充分に熱くなっていた。

ハボック自身に口を寄せたロイ子はとまどうことなくそれを口に含んだ。
今までどんなに懇願しても、そんな事はぜったい嫌だと拒否され続けた行為にハボックの頭は真っ白になる。あっけなく達したハボックが放った体液をロイ子がごくりと飲み込んだ。

その様子を気配だけで察したハボックの隠された瞳からつっと涙が流れ落ちた。
ぐいと手の甲で自分の口を拭ったロイ子が、目隠しを外してくれた。ロイ子の顔は上気していたが、生意気そうないつもの瞳できっと睨みつける様子がたまらなく可愛らしかった。

「泣くほど良かったか?少尉」
「イエス、マーム」

その答えに満足気に頷くと、後ろ手に拘束した布を解いた。
「何でもすると、言ったな。少尉」

にっこりと二本の布を手にしたロイ子はそれをハボックに差し出した。
「さあ、今度は私を満足させてくれ。小道具は用意してやった。方法も教えてやっただろう」
照れ隠しに威厳たっぷりにロイ子はささやいた。














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