百合
>235氏

『母さんを、元に戻そう』
それは、大切なたいせつな弟との、ふたりだけのひみつ。

そしてこれは、……アルにもピナコばっちゃんにも誰にもひみつ。
ウィンリィとオレだけのひみつ。

「今夜のごはんはシチューだって!」
学校からの帰り道、小川の上にかかる橋の上でウィンリィが言ってた。
母さんのシチューはミルクが入ってたけど、甘くておいしかった。
ピナコばっちゃんが作ってくれるシチューも、とてもおいしい。
家に帰って、昨日読みかけのあの本をちょこっとだけ読んで、ウィンリィが迎えに来たら、アルと一緒にごはんを食べに行こう。

明るいランプの下で、みんな揃って夕飯を食べる。
学校であったことや、昨日読んだ本。笑いながら、みんなでごはんを食べる。
いつもと同じ夜。いつもと同じ食卓。
でもその日は突然、強い雨になった。
止む様子を見せない雨。傘なんか持ってきてない。
ゴロゴロ雷まで鳴りはじめて、この中を手ぶらで帰るのは、オレでもちょっと怖い。
「あんたたち、泊まっていきな」
そう言って、ピナコばっちゃんがお風呂の用意をしてくれた。
アルとウィンリィと3人で、交代に湯船と洗い場を使う。
アルは髪を洗うのがあんまりうまくなくて、すすぐのをいつまでもためらっているから湯船に浸かってたオレとウィンリィも、いい加減のぼせそうになってきた。
「ほら、オレがやってやるから!」
湯船から飛び出して、ぎゅっと両手で目を押さえたアルの頭に、お湯をかけてやる。
アルの髪はオレやウィンリィみたいに長くないから、簡単に洗い流せるのに。
そんで、ちょっと狭いけど、3人で一緒に肩まで浸かる。
100数えるのはちょっと長いから(ウィンリィがのぼせちまう)、今日は50。
タコみたいに真っ赤になって、急いでバスタオルで適当に体を拭いて上がる。
ばっちゃんが用意してくれてたパジャマに着替えて、リビングに走っていった。

オレたちが風呂に入ってる間に、ウィンリィの部屋にはベッドが増えていた。
いつもウィンリィが寝てるベッドがひとつ。
アルのためにピナコばっちゃんが入れてくれたベッドがひとつ。
オレはウィンリィのベッドに一緒にもぐりこんで、1つの枕を2人で使う。
ランプを消してもこそこそ喋って笑って、いつの間にか雨の音が小さくなっていたのも気づかなかった。
そのうちに、アルの声が聞こえなくなった。
「……アル、寝ちゃったかな?」
ぽそっとウィンリィが聞いてくるから、多分、ってうなずく。
耳をすますと、すうすう寝息の音が聞こえる。
「雨、晴れたね」
アルを起こさないように、ウィンリィが小さな小さな声で話しかけてきた。
レース編みの薄いカーテン越しに月の光がぼんやり見える。
さっきまであんなに激しく降っていたのに。
「ね、エド」
鼻まで布団にもぐったウィンリィが、同じようにもぐってるオレの手をにぎる。
「…………すんの?」
「……しよ」
最初は、ただのさわりっこだった。
ウィンリィは医学書を読んでて人体に興味を持ったらしいし、オレは人体錬成をするために自分以外の体を知りたかった。
初めてしたのは、屋根裏部屋。
アルはピナコばっちゃんの手伝いで畑に行ってて、その間に薄暗い屋根裏部屋にランプをこっそり持ち込んで、2人でそっと裸になった。
オレとは違って、乳首のまわりがぷくってふくらみかけてるウィンリィ。
「強くしたら痛いから、そうっとよ、そぅっと」
自分はまだ真っ平らでぺたんこなオレの胸を遠慮なくぷにぷにつついてくるくせに、オレにはそんなことを要求する。
でもスパナで殴られるのは嫌だから、言われるとおりに手のひらでそっと触った。

それから、何かにつけてお互いの体を触りあうようになってた。
ウィンリィの胸はちょっぴりずつふくらみはじめて、服を着ているときはわかんないけど(あいつはワンピースばっかり着ているから)
裸になると、ランプの影がちょっとだけ出来るようになっていった。
オレはといえば……………………聞くな。
なんとなく、これは隠れてすることなんだ……っていう意識はあって、こうして、アルにも、ばっちゃんにも秘密の時間が出来た。
体温で少しだけ温まったベッドの中。

ぷちぷち、ボタンがゆっくり外される。
手探りで、ウィンリィの手にパジャマの前をはだけられた。
ふたり、息を潜めて脱がしあう。
肌に触れる冬の夜気は予想以上に冷たくて、エド子はふるりと身を震わせた。
乾ききっていない髪が冷たい。
ウィンリィも肌寒いのか、肩を縮こまらせている。
きゅうっと抱き合うと、触れ合った場所からお互いの体温が伝わる。

欲情というにはまだ幼すぎる行為。
例えるなら、子供が母親のぬくもりを求めるような。

柔らかい肌に、指で手で、くちびるで。
ぷくりふくらんだウィンリィの胸元に手をやると、寒さのせいか、桜花の色をした小さな突起が少しだけ立ち上がっていた。
指先でつんとつつくと焦ったように息をこらすのが面白くて、エド子はその部分だけを軽く押しつぶすように力を入れた。
ひくん。噛みしめたウィンリィの唇に、力がこもる。
「……ウィンリィ、ここ、痛いのか?」
「……痛いわけじゃ……ない、けど」
「じゃなんで、びくってすんの」
「…………わかんない」
触られるとなんだかむずむずするの、そう言って幼馴染みは顔をそむけてしまう。
しんと静まった夜の空気の中、アルの穏やかな寝息と早くなる心臓の音が耳につく。
だんだん硬さを増してきた幼馴染みの乳首を指先で触っているうちに、エド子は何故だか、そこに吸い付きたい欲求にかられた。
それは目覚め始めた性への興味なのかもしれないし、また、失くしてしまった母親との思い出の名残かもしれない。
何故かはわからないけれど、そうしてみたかった。
身体を下にずらして、ちゅ、唇を押し当てる。
親愛のキスを交わすみたいに、優しく、やわらかく。
「……っ」
ひくん、また息をこらす彼女の胸元に唇を寄せて、立ち上がったそれを唇に挟む。
「…………エドっ」
ウィンリィが小さく上げる抗議の声を聞き流して、エド子はそのまま、軽く吸い上げてみた。
唇をいったん離し、伸ばした舌先でちろりと舐める。
そのまま幾度か舌で触れて、また唇に含む。
他は全部、身体中こんなにやわらかいのに、ここだけが硬い。

エド子を引き剥がそうと後頭部に回されていたはずの手が、いつの間にか押さえつける手に変わっていた。
「もう!」
月明かりの下でもそれとなくわかるほど頬を赤らめたウィンリィに、押し倒された。
ひとしきり唇での愛撫を受け入れた後、逆襲とばかりに身体の位置を入れ替えられたのだ。
「わ、わ、ちょ、待て!待てって!」
「待たない。同じことしてやるんだから」
そう言い放って唇をふさぎにかかるウィンリィに慌てて、エド子はあらわにされた胸元を覆い隠そうと抗う。
「そんなに騒がないでよ」
アルが起きちゃうよ、と囁かれて口ごもった瞬間、あっと思ったときにはもう唇が触れていた。
軽く食まれ、思わず背筋がしなる。
突起の周りをなぞる濡れた生暖かいものがウィンリィの舌だと認識すると同時に、赤子が乳を求めるみたいに強く吸われ、思わず声を上げてしまう。
「いたッ」
「あ、ゴメン」
乳房、と表現できるほどの起伏すらも見せない胸板に顔を寄せてぴちゃぴちゃ音を立てながら愛撫を施すウィンリィ。
赤く染まったままの頬で、瞳を閉じての口舌奉仕はどこか扇情的で。
(…………なんか、むずむず、する)
先ほどの彼女の台詞を、心の中で反芻する。
痛いわけじゃないけど、何故かわからないけど、どこかもどかしくて、でもやめられたくはない。
やめて欲しくはない。

「……きもち、いい?」
「わか……んっ…………ない」










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