鬼畜ロイ×エド子
>640氏

窓から差し込む日の光がきらきらとまぶしい。
なにげなく外に目をやると屋根の上に丸まっている猫の姿が見えた。
今日はいい天気だ。エドはベッドからおきあがるとうんと背伸びをした。
久しぶりにさわやかな気分の目覚めだった。
「おはようアル」
「おはよう兄さん」
それまで微動だにしなかった傍らの鎧に柔らかく笑いかけ朝の挨拶をする。
弟がいてくれるから、今日も一日がんばろう、という意欲がわいてくるのだ。
冷たい水で顔を洗ったり髪をみつ編みにまとめたり、てきぱきと外出の準備をしながらエドは自分の支度を待つアルに話しかけた。
「なぁ、今日も図書館行くだろ?」
イーストシティにやってきてここ数日、エルリック兄弟は軍東方司令部の図書館に入り浸っていた。
だからエドは今日も当たり前のようにそうしようと提案した。
気になっていたことをまだ調べ終わっていないし、軍の蔵書の量は半端ではない。
この調子ではもうしばらくイーストシティに滞在を余儀なくされるだろうことは容易に予測が出来た。
しかしアルから返ってきたのはどうも歯切れのよくない答えだった。
「あ、あの、ボク……ボクちょっと用事あるんだ。だからその、今日は別行動しようよ」
「なんだよ用事って?」
「え……と、その、人と約束してて」
「約束? 誰と」
アルの様子はしどろもどろで明らかにおかしい、とエドの目つきが鋭くなる。
自分に何か隠し事をしているのではないだろうか、だとしたらちょっと気に食わない。
「だ、誰とだっていいだろ!」
「なんだよそれ。まさかオレに言えないようなことしてるんじゃないだろうな?」
エドの追求に、アルは黙り込んだ。
黙秘するということは、つまりはそういうことなのだ。
エドはウィンリィに頭をスパナで殴られたときどころじゃない、
まるで巨大なハンマーの一撃をくらったかのような衝撃を受けている自分に気づいた。
エドとアルの間には絶対的な絆があると思っていた。
いつのまにかその関係に甘えていたのかもしれない。
自分と弟は違う別個の人間であるのに、一心同体であるかのような錯覚をしていた。
「そ……うか。そうだよな。お前はお前だもんな。何もかもオレに逐一話す義務はないし」
エドはゆらりと力なく椅子から立ち上がると、わかった、別行動でいいよと言い残して部屋から出て行った。
その赤いコートの後姿を見送ったアルは、下を向くとぽつりとつぶやいた。
「兄さんだって、ボクに隠し事してるくせに……」
せっかく朝はいい気分だったのに、エドの心は今の澄みきった空と正反対のどんよりとした曇り空だ。
アルだってもう14歳、姉に対して言いたくないことの一つや二つあってもおかしくない。
それは頭ではわかっているし、仕方のないことだとも思うのに、やはりショックだった。
先程から開いた本の文字もよく頭に入ってこない。
目で表面をなぞって追いかけているだけで、内容はさっぱり実ってくれない。
このままこうしていても時間の無駄であるような気がしてきた。とにかくとっても非効率だ。
改めて、自分の中のアルが占める比率の大きさを思い知る。
今日は潔く諦めて帰ろうかとエドが机の上に山と積んであった本を棚に戻していたとき、後ろから手が伸びてきて、それと同時に、聞き知った――そして聞きたくなかった声がした。
「重そうだね、鋼の」
「……大佐」
エドの心の中はいまやどしゃ降りの大荒れ模様へと変わっていた。
油断していた。
最近顔を見ないですんでいたから、そしてそのままとっとと情報だけ収集して
イーストシティからおさらばしてやるつもりでいたから。
ああもう今日は厄日だ、最悪だ。
「かしたまえ、戻すのを手伝ってやろう」
「別にいい」
そっけなくつっぱねても、そんなことでおとなしく引き下がる相手ではない。
ロイはかまわずにエドの手から何冊かの本を取り上げた。
「人の好意は素直に受けるものだよ」
エドの声はぴりぴりと警戒心もあらわだ。
「あんたの場合、なんか裏がありそうで嫌なんだ」
現に今のロイの体勢は、本棚と自分の身体の間にエドを挟んで追い込むようになっている。
自分の顔の横、本棚へとつかれた男の大きな手。相変わらずの、発火布でできた白い手袋。
ただでさえ落ち込んでいたところへ、追い討ちをかけるようなこの不運の連続にエドの気分はますます暗く澱んでいく。
「ほぉーぅ、そういう態度に出るんだね。それなら私も君のご期待に答えるとしよう」
「なっ、なんだよ期待って!」
「私の好意の裏に何かがあることを期待しているんだろう? それならお望みどおりにしてやろうじゃないか」
「ふ……ふざけんな! ここ図書か……んぐっ!」
「そう、ここは図書館だ。あまり騒ぐのはマナー違反……わかるな、鋼の」
男に口を塞がれながら、エドは観念したように小さく頷いた。
どのみちロイには逆らえないのだから、ここで抵抗して事が露見するのは得策ではない。
「いいこだ」
その一言で、たったそれだけで、ロイはたやすくエドの心臓を掴んでしまうのだ。
本を戻すフリをして移動し、一番端の大きな本棚の陰に隠れるように身体を寄せ合う。
並ぶ背表紙は小難しく、滅多に人が来ない棚だ。
大きな音さえ出さなければ誰にもきっと気づかれないだろう。
国家錬金術師でもなければ手に取ることもないような本がずらりと置いてあるその様は壮観ですらあるが、今のエドにとっては、真理の目の前で行為に及んでいるような、そんな背徳を意識させられる小道具だった。
自分の身体で小柄なエドを覆い、ロイは情事にもつれこもうとしている。
熱い息を小さく吐いて、エドもおとなしくその愛撫に身をゆだねた。
肉体は明け渡して、心を堅く閉ざせばいい。
これまでのロイとの関係によってエドはそう学習していた。
心まではお前のものではないとロイに見せ付けてやることが、エドに残された最後の、そして最大の砦だった。
ロイの手はエドのコートの前をはだけ、ベルトをゆるめている。
極力脱がせないようにやるつもりなのかと、エドはロイの意図を察した。
(そうだよな、バレたらまずいのはあんたも一緒だもんな)
その事実が、少しの安心感のようなものをエドの胸に芽吹かせる。
耳を丹念にねぶられると、背中がぞくりと震えると同時に、こいつはオレの身体を飴かなにかと勘違いしてるんじゃなかろうか、などというふざけた考えが浮かんだ。
小声なら大丈夫かも知れない。
「あんたさぁ、舐めるの好きだよな」
言外に、オレは嫌なんだけど、という響きを込める。
「ん? ああ、そうだな」
ロイはそれに気づいたのかそれとも気づかなかったのか、とりあえず言えることは、どちらにしろまったく気にはしていないということだけだ。
エドに何か言われたくらいで改めるような男じゃないことはわかっていたけれど。
「こんなコドモにまでがっつくなんて、そんなに性欲もてあましてるわけ……っ」
するりと男の手が忍び込んでくる。
エドの太ももより体温が低いその手のひらに『冷たい』と感じた。
「は……」
「君を好きだから――とは、思ってくれないのか?」
ロイの言葉をエドは鼻で笑い飛ばした。
「んっ……ぁ……思えるわけ、ないことは……あんたが一番、よく知って、るんじゃない……の?」
冷たいその指のどこに、エドの身体を燃やす火種が隠れているというのだろう。
「さあ……見当もつかないね」
太く筋張った成人男性の指が、エドの熟しきっていない性器を割れ目に沿ってなぞっている。
「とぼけた……っこと、言ってんじゃねぇよ……ゃあ、あっ」
慌ててエドは両手で口を押さえた。
ロイの指は会話の間にもくちくちと音を立てながら器用に動き回り、どんどんエドを熱くしていく。
こうやって敏感な部分を執拗に嬲られることにはいつまでたっても慣れなかった。
「……あ……あ、あ、あ……」
蜜を人差し指ですくい、弄くりまわし、擦りあげるロイの手。
息が上がってくる。
エドはぐにぐに内部で蠢く生き物の存在を感じた。
このまま指だけで達してしまいそうだ。
陰核を指の腹で軽く撫でると、エドの身体に一気に緊張が走った。
「っ――――――!」
だが、容易いと思われた絶頂への道は突然そこで断たれてしまった。
ロイの手は最後の宣告をしてはくれずに、代わりにエドのベルトを直しだしている。
快楽のためにうるんだ目を、不信そうに後ろのロイに向けると、ロイはまたいつもの笑いを浮かべていた。
嫌な予感がする。
中途半端に身体に残された炎はエドを焼いた。
指に絡まるエドの蜜をハンカチで拭き取ると、ロイはエドの腕を引き寄せた。
「場所を変えよう」
落ち着いてゆっくり話したいからね、と男は言った。









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