アル子バレンタイン
>128氏

2月14日、それは乙女の祭典バレンタインデー。
たくさんの女の子達がチョコレートを渡す今日、アルフォンス・エルリックも例にもれずチョコレートを手に持ち、人を待っていた。

何組もの幸せそうなカップルが通り過ぎ、ふわふわと小さな雪が降り始めた頃、ドアが開けられ一人の人物がやってきた。

「わっ、大佐!?あの、他の方でも良かったんですけど・・・いらっしゃって大丈夫だったんですか?」
「アルフォンス君の呼び出しとあってはじっとしてはいられなくてね。
 どうせ仕事にならないからと中尉が外出を許可してくれたよ。」
その情景がありありと目に浮かぶので、ついアルフォンスはクスクスと笑みをこぼした。
ついでに小さなくしゃみを一つ。それを見咎めたロイが顔をしかめた。
「中で待っていてくれて良かったのだがな。レディがこんな寒いところで・・・風邪を引くぞ」
ばさり、とアルの細い肩に黒いコートがかけられた。
コートは少し長くてアルには重かったが、先ほどまで着ていた人間の温かみがアルに伝わってきた。
その温度を感じながらアルはなんとなくドキドキして、顔を赤らめた。
「あ、ありがとうございます」
「これくらいは紳士として当然のことだ。それよりもしかしてチョコレートかと期待していたのだがどうやら当たりのようだね?」
「はいっ!鎧の時に軍部の方々には色々とお世話になったのでお礼に」
と、アルは大きな紙袋をロイに手渡した。
ロイが中を見ると、一人一人の名前が書いてある小さい袋が数個と、大きなケーキの箱らしきものが一つ入っていた。

「マスタング大佐、アームストロング中佐、ハボック少尉、・・・・・・おや、ホークアイ中尉の分まで入っているんだな」
「はい!中尉にはとてもお世話になりましたから!ええと、ボクから貰うのなんて嬉しくないかも知れませんけど・・・」
「いや、彼女は甘いものが好きだから凄く喜ぶと思うぞ。この大きいのは?」
「これは軍部の他の方々へのチョコレートケーキです。名前も人数もわからなかったのでこんな形になってしまって」
「ははは、アルフォンス君はマメだな。ありがとう」
「いえ、こちらこ 」
「だぁれが豆つぶドチビかっ!!」
アルが感謝の気持ちを言葉にしようとした矢先、路地裏から小さい人影が走り出てきた。
「なんだ、鋼のではないか。何だね、折角アルフォンス君といい雰囲気だったのに」
「こんの痴漢大佐!お前アルに何をした!!」
人影は紛れも無くエドワード・エルリックだった。
怒りをあらわにして、頭からは今にも蒸気が出そうなほどである。

「に、兄さん、大佐は何もしてないってば!ボクがチョコレートをあげただけで・・・」
「な、ちょ、ちょこれーとぉぉ!?俺まだ貰ってねーよ!」
「兄さんには帰ってからあげるって言ったじゃん!もう忘れたの?兄さんにはとびっきりのを作ってあるから、怒らないで、ね?」
「そんならいいけど・・・」
あっという間にエドはおとなしくなる。

アルフォンス君は鋼のの扱い方をよく心得ているな、と感じつつもその一方でやはりアルの「一番」はエドなのだというのを目の当たりにし、大佐は何となく不愉快になった。

「では私は仕事があるから失礼するよ。アルフォンス君、ありがとう」
「あっ、大佐、こちらこそ。これからも宜しくお願いします」
「へっ、どうせ仕事なんてしねーくせに」
「兄さんったら、もう!じゃあ大佐・・・んっ!?」

別れの言葉を言おうとしたアルの口が暖かいもので塞がれる。
しばらくして、ロイの顔がアルから離れ、呆然とした面持ちのアルににこりと笑いかける。

「これもバレンタインの贈り物としてもらう事にするよ。ではまた」



「あっ、あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!??」

颯爽と歩きドアを閉めるロイの背後で鋼の錬金術師の叫び声が響き渡ったのであった。












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