彼女の秘密
>846氏
「お天道様でてくれないかなぁ」
壊れそうな音を立てる洗濯機の前でハボ子は紫煙を吐き出した。
久々にもぎ取った休みでたまりにたまった洗濯物を片付けようとしたハボ子だが、あいにくと外は雨。
すでに箪笥の中の下着を入れている場所はカラになっており、現在履くものがないハボ子はノーパンノーブラのまま、洗濯機の番をしていた。
「さすがに仕事行くのにノーパンはなぁ…」
サイズがサイズなだけに同じ職場の女性――ホークアイ中尉に借りるわけにもいかずハボ子は天気がよくなることだけを望んでいた。
―ガコガコン、と壊れたような音をたてて洗濯機が止まり終了をつげる。
「そろそろ洗濯機も買わなきゃなぁ…まぁまだ動いてるからいいか」
カゴを片手に中の大量の下着をとりだし、ハボ子は鼻歌交じりに自分の部屋にロープを――先日の懸垂降下訓練で使用し、洗濯物干すのにいいかもなぁと思い立ちちょっと失敬してきたものを渡し、そこを物干し竿代わりにする。
調子よく洗濯物を無造作に干し終わったところで来客を告げるチャイムがなった。
「…ドア、しめときゃ見えないか。まぁ勧誘とかかな」
一人暮らしで安月給のハボ子の部屋はワンルームだが、部屋の中が玄関から丸見えにならないようにホークアイ中尉が気を利かせて鮮やかなオレンジのカーテンをもってきてくれたのだ。
それのおかげで部屋の中の洗濯物は見えないだろう、と踏みせわしく鳴るチャイムにちょっと待ってと言いながらハボ子は急いでドアを開けた。
「あれ、大佐…っていうかなんで雨の日に出歩いているんですか!?ちゃんと護衛…っていうか仕事っ」
「仕事は…まぁちょっと早い昼の休憩だ。今日は外回りでな、ちゃんと車だ。
護衛にはちゃんと一時間後に来る様に言ってある。それとも会いにきてはいけなかったのか?」
捲くし立てるハボ子に逐一丁寧に答えながらマスタングはすこし開いたドアの隙間をこじ開け体を滑り込ませる。
「あ、ちょ…駄目です。いまはだめですって!」
慌ててその体を外へと押し出すハボ子にマスタングは不機嫌な顔をした。
「…なんだ、浮気か?」
「そうじゃなくて…せ、洗濯物干してるんです…部屋の中」
「だがここで昼食をとるといってきたから、運転手も昼休みをとらせているしお前…この雨の中
私を歩か…せ…る………」
急に黙ってしまったマスタングにハボ子はここぞとばかりに外へ連れ出そうとする。
部屋にあげてしまえばあのぶら下がった下着の数々を見られることになる。
もとより洗濯物が溜まっていようと部屋が散らかっていようと頓着しないたちではあるがいくらなんでも付き合ってる男に大量の下着を干している自分の部屋は見られたくない。
「とりあえず外、外ていうかドアの外で話しましょう、ね?」
「外なんて駄目に決まってるだろ。この馬鹿!」
怒鳴られて、思わず力を緩めてしまった瞬間にマスタングがハボ子を抱えるように中へと入り、鍵までかける。
「大佐っ!いやその、部屋は駄目なんですって!!っていうかドコ触ってんですかっ!」
「下まで履いてないのか、お前…」
抱きしめられた格好で背中と尻をまさぐられハボ子はようやく自分が下着を着けていないことを思い出す。
「そうか、お前は休みは下着なしで過ごす人種だったんだな。この場合夜寝るときも下着はつけない主ぎぃ…ッ」
いらぬ誤解を与える前にハボ子はおもいっきり恋人の脇腹に拳をめり込ませた。
「ここ数日忙しくて、洗濯物…たまってんです。
変えの下着もなくて全部洗っちゃって…部屋はその…自分の下着干してて見られたくなくて」
「最初からそういいたまえ…しかし今さらだろう。ハボ子の下着なんて見慣れて…
いや少尉、その物騒なものをしまいたまえ。言い過ぎた。」
「でも、大佐とその…会うっていうかそういうときは下着…なるべく綺麗なのつけてたし…」
そういわれてマスタングは断わられる日があったことを思い出した。
「…まさか、その下着云々で私はお前に断わられてたのか?セックスを…」
心なしかショックをうけている様子のマスタングだが、余計なことを思い出す。
「…ああ、そういえばいつも似たり寄ったりな下着だったな。2枚しかもってないのか、お前」
「ちゃんとあります!洗濯できないときとかあるから、いっぱいもってますよ!
ただ…き、綺麗なのがその二枚だけで…」
必死に言い訳するハボ子の額に口付けるとマスタングは部屋に向って歩き出す。
「まぁいい、ここで昼食をとるといって無理やり時間を空けさせたんだ。一緒に食べよう」
――シャ…ッ
「…壮観だな」
オレンジのカーテンを開けた先には下着の…
「………ハボ子」
「はい…」
下着の軍勢を前にマスタングは頭を抱えたくなった。
女性というのは下着に対してここまで無頓着なのだろうか、と。
「毛玉のついている下着は捨てなさい。あとゴムが伸びているものも、だ。
それとなんだね、この…穴のあいた下着は…ブラジャーのゴムも伸び…これも破れているじゃないか!
しかもお前なんだこの地味な…地味な色の下着は…」
「やー…なんか面倒で。パンツとかも5枚セットとかのやつなんですよねぇ。
トイレいってあげる途中引っ張ったらやぶれちゃって…
ブラジャーも破れててもまだ使えますし。」
のほほんと答える恋人にマスタングはついに頭を抱えた。
「今度…一緒に買い物に行くぞ」
「え?別にいいですよ。一緒の休みになることも少ないですし」
「いい、私が許す。無理やり休みをもぎ取る。中尉もこの惨状をみれば絶対休みをくれるという
自信がある…それほどまでお前…いや、いい。とりあえず先にサイズでも測ろう。
どれ私が手で測っ…
以下暗転。
その後、大量に下着を買ってもらうハボ子。
ハボ子「つか白とか水色とか多いんですけど、結構清純派が好きなんですか?」