Happy New Year
>605氏

「鐘の音?」
 エドワードは首を傾げる。
 無防備な表情の少女に、ロイは微笑む。
「教会の鐘だ。新年を祝う音だよ」
「ふうん……」
 その場から離れ、エドワードが窓に近付くのを、ロイは見ていた。
 周囲は新年を祝うという名目で騒がしい。
 ロイ直属の部下が勢揃いで飲んでいるのだ。
 指令部内で何をと世間からは指を指されそうだけれど、ロイはこういった事に鷹揚だ。
 飲んでいる彼らが勤務時間でない事、それだけで一室を提供したのだ。
 部下にとっては、なかなか話のわかる上司のはずだった。
 エドワードは、熱心に窓の外を眺めている。教会を探しているのだ。
 ロイは彼女に歩み寄り、背中を半分覆うように斜め後ろに立った。
「鋼の」
 声に少女が振り返る。
「何」
 見上げる瞳に微笑んで、ロイはカーテンを引っ張って、それで彼女と自分を覆った。
「これなら、誰にも見えないから」
 騒がしい背後を布一枚で隔てて、ロイは身をかがめる。
「A Happy New Year」
 軽く押し当てた唇は、それでも溶けてしまいそうに気持ちがよかった。
 片手にカーテンを握ったまま、もう片手で彼女を抱き締める。
 うるさい周囲の中、穏やかな幸福がここにある。
「愛しているよ」
 今年も、君に幸あらん事を。






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