悪戯
>249氏
体を触られている感触で目が覚めた。
触れる皮手袋のそれは弟の手で、それだけなら問題はない。
問題は、その皮手袋が素肌をじかに撫で回している・・・ことだろうか。意識は覚めても、目を開けるのがなんとなし躊躇われる。
なぜ弟は寝ている自分の体にこんな風に触れているのか。触感を持たない弟の手がなにかを探るように自分の肌を撫で上げ、もみしだく。よく知っているはずの少し冷たい滑らかな皮手袋が、なぜだかいつもの弟の指とは思えない。
・・・触れているのは本当に弟か?
この部屋には自分と弟しかいないのに、こんなこと考えるなんてどうかしてる。
・・・何かおかしい。
ただ触れられているだけのはずなのに、くすぐったいっていうか、もぞもぞするっていうか、なんだかお腹の奥のほうまでおかしい。
寝たふりも限界、と思ったとき、アルの指が乳首に触れて、体がはねた拍子にぱっかりと目をあけてしまって、バッチリアルと目が合った。勝手に顔が熱くなる。
「いつから起きてた?」
「いっ、いっ、いっ、いつからって、おま、おまえこそ・・・」
いいかけてなぜか言葉が続かず、収まり悪く舌を縮こまらせた。
何やってたんだって、そういえばいいはずなのに、のどが固まったみたいに言葉がでない。アルを前にしていいたいことがいえないなんて、どうかしてる。
口ごもって俯いたオレの頭をアルの大きな手が優しく包んだ。
「姉さんが寝てるときにこんなことしてごめんね。怒ってる?」
そんなふうに遠慮がちに聞いてくるのは、いつものアルだった。目で見て確かめられないだけで、弟かどうかを疑ったオレの方がバカみたいな気持ちになってくる。
「・・・別に、怒っちゃいねえよ。ただ・・・」
それでも、さっき思ったことを口に出すこともできなかった。
「びっくりした、っていうか・・・」
「それなら、姉さんにお願いがあるんだけど」
いぶかしげに弟を見やった。実は弟の「お願い」にはめっぽう弱いのだ。街で弟が猫を拾ってくる度に、元のところに置いて来いというのは苦行にも等しい。やっとの思いで猫を置いてこさせた後に、弟が鎧の巨体を俯かせてしょげかえるのを見るのは、いたいけな仔猫を見るよりよほど苦しい。弟がそれでも猫拾いを繰り返すのは、オレの叱り方が甘いんじゃないかと思うほどだ。
この状況で、伝家の宝刀「弟のお願い」とは一体なんなのだ。
「ボクね、女の人の体が見てみたいんだ」
「ええっ!?」
「本で見てるだけだとよくわからないし。どうしても、実物で確かめたいなって」
鎧の体をもじもじさせて、恥じらいながら弟はいった。体というだけなら、今現在パンツ一枚しか穿いてないないわけだから、ほぼ見えてるに等しい。っていうか、風呂上りの裸のオレは見慣れているはずのアルが改めてわざわざ見たいっていうのは。
「だめ?」
でたー!!弟の秘儀、小首かしげ!!
「み、見るって、その、前にも見たことあるだろ」
「ええ?」
「あっただろ、見せあいっこしたとき」
言いながら思い出して、今更恥ずかしくなる。
あれは、まだアルの体があったときだから、11歳により前のことだ。
オレがアルのキンタマの裏側が見たいっていったら、一丁前に恥ずかしがりやがって、だったらおねえちゃんのも見せて、なんていいやがった。見せるのが恥ずかしくてやめた、なんてことになったら、言い出した手前格好がつかないし、恥ずかしさより好奇心が先にたってアルと向き合って見せあいっこなんてやらかしていたのだ。
そんなふうにして見せてもらったものの、なんだかしわしわしててわざわざ見るものでもないなー、なんて思ったんだった。なのに、思春期の弟は花も恥じらうお年頃の姉を捕まえてまた御開帳いたせというのか。
「だって、あれは子供の頃の話でしょう。ボクは大人の女の人の体がみたいの」
お と な の お ん な ・・・!
声変わりを迎えることのできない、幼いままの弟の声から発せられたその単語が衝撃だ。
おとなのおんな・・・おとなのおんな・・・
・・・てか、それってオレのこと?と思い至り、耳まで熱くなったのがわかった。
もう16の誕生日も近いというのに、胸も申し訳程度にしかふくらんでないし、下の毛が生えてきたのもつい最近なのだ。おかげで、生えているとはいっても、もやもやとした頼りなさ気な毛なのだ。とはいっても大人の女には違いない。いや、立派に大人の女といってもいいはずだ!小さい頃からいつでも一緒だった弟ではあまり羞恥心も生まれなくて、着替えをするにしてもなんにしても気にしたことがなかったからそれを弟が知っていても当然なのだが、改めてそう口にされると途端に恥ずかしい。
「いや?」
「い、いやっていうか・・・」
「なら、いい?」
いやだといいきれなかったオレの負けが決まった。渋々だが、うなづくと、笑顔は見れずとも弟が喜ぶのがわかって、引くわけには行かなくなった。
いいじゃないか、前にも一度見せてるんだし、へるもんじゃなし。
景気をつけるために自分を叱咤してみても、「弟に見せるために脱ぐ」んだと思うと、パンツにかかった腕もなんだか動きが悪い。どうしてかと自分へ問えば、なんだか、なんだかすごく・・・恥ずかしい、気がする。自覚してしまうと、ますます下ろす腕が動かなくなる。アルが不審に思うだろうと思っても、止まった腕は動かない。
「ボクが脱がしてもいい?」
返事をするよりも先に、肩を軽く押されてベッドに転がされて、ひょいと腰を浮かされてパンツを下ろされてしまった。あまりの早業にあっけにとられているうちに、足をアルにとられた。
「いいよね?」
そこには有無をいわせない強い響きがあって、観念して足から力を抜いた。そろそろと自分から足を開くと、丁度股の間からアルの顔が見えて、いたたまれない気持ちになった。すごく変なことしてる気がして。思わず目をそらしかけて、アルの手に力が入ったのに驚いて目線を戻した。
「な、なに・・・!?」
「だって、思いっきり広げてくれないとくっついてて、奥の方まで見えないから」
今更後悔しても遅い。容赦なく広げられてひざを立てられて、アルには望みのままよく
見えているんだろう。広げられた股の間がいやにスースーする気がして落ち着かない。でも、勘所をよくわかって押さえているアルに抵抗しても無駄なのはよくわかっているから、観念して大人しくしていた。いやだっていえなかったのはオレのほうだし。顔をそらしたまま目をつぶっていたから、アルがそんな行動に出るなんて思わなかった。そっと、本当にそっとだけれど、ソコにアルの指が触れて、勝手に体がはねた。
「ア、アル!?」
オレの驚いた声を無視して、アルの指はソコを撫で続ける。
「ちょっと、何するんだって・・・!」
「ボク、女の人のここが濡れるところが見てみたいんだ」
「!!お前、見たいってそういう意味・・・!」
「うん、本で見て、すごく知りたくなった」
「あっ・・・!」
おかしい、おかしい。軽く撫でられてるだけなのに、それだけで体がびくびくする。こんなヘンな動きしたくないのに、自分じゃまるで止められない。息がつまる。アルが、触れたところが、しびれたみたいになる。
「あ、や、やだ、アル、触るのは、あ、あ」
足を閉じようにも、アルの体が割り込んでて到底無理だ。まともにしゃべろうにも、声までおかしい。
「気持ちいい?」
「あ、やだって、アル、やめっ・・・!」
アルの指が撫で上げては撫で下ろす。どうってことのない動きにオレはまともな抵抗すらできない。
「すごい、姉さんのココ、腫れたみたいにふくれてきたよ」
「んあ、やあっ、アル、アル、いやだって・・・!」
オレの制止など構わずに、アルの指がふくれたらしいところを二本の指でもみしだいてくる。もう、股の間がそこら中熱くて、しびれておかしい。このままじゃ、このままじゃ・・・!
「アル、いやだって!」
どうにもならずに自由の利く左足でアルの鎧をけりつけた。
ガンガンと音はすれども、アルに堪えるはずもなく。
でも、もうだめだ、これ以上がまんできない!
「アル!おしっこもれそう!!」
オレの叫びに一瞬力が緩んだ腕をすり抜けて、トイレにかけこんだ。わらう膝をこらえて便座にしゃがみこんで、尿意を開放した。ただの小用だっていうのに、脳みそまでしびれるくらい気持ちよくて、どうにかなるかと思った。でも、おしっこをだしきってしまってからも、なんだかソコはじんじんしていて、ちょっと落ち着かない。おまけに、我に返ってみればあんなこと叫んでアルを振り払ってしまって、真っ裸でトイレにいて、どうにも格好つかない。今更弟相手に格好つけてもしょうがないんだが。
長居しても出にくくなるだけだと腹をくくって、股間をぬぐって、勢いよく立ち上がるも、なんだか腰に力が入らない。ちょっとまたぐらをいじくられただけだっていうのに。
ごまかせているかどうか、はなはだ自信はないが、とりあえずトイレをでた。
「ごめんね、姉さん、トイレ間に合った?」
「ああ、大丈夫」
「ボクの触り方が悪かったのかなあ。女の人は感じれば、アソコが濡れるようになるって書いてあったんだけど」
どうやら弟は気づいていなかったらしいのだが、トイレで股間をぬぐったときに、オレはそれを見ていた。ぬるっとした感触に驚いて拭きなおしてしまったから、もうそれは残っていないだろう。なんだかがっかりしている様子の弟にはいいにくいので黙っていよう。
寝直そうと思って、落ちたパンツを拾い上げて足を通した。
弟もこんなことに興味が湧くくらい色気づいてきたんだなあ。
そういえばアレか。彼女がほしいとかいいだしたのもそういうことなのか。
思い出してたら、なんだか胸がむかむかしてきた。どうも最近の弟は浮ついてるというか、色気づきすぎというか。春がきた猫みたいになってる弟に、あんな格好までさせられ、あげくトイレに駆け込むハメになる失態まで演じさせられたことが、恥ずかしさを通り越して怒りになってきた。
眉間にしわがよってきたのを自覚しながら、左足でアルに一発蹴りをいれておく。
「寝る」
「ね、姉さん?怒ったの?」
「寝るったら寝る」
これ以上言っても無駄だとふんだんだろう。弟は大人しくひきさがった。今日のところはそれで勘弁してやろう。
おわり