今そこにある危機
>795氏
【ロイ×ハボ子前提】
今日の軍部は夜だというのに賑やかだ。
何と言っても賑やかなのがヒューズ中佐。
とにかくよく喋る。
この人とはあんまり会った事なかったんだが、初対面でも絶対気後れしないタイプ…
つか、エリシアちゃんとグレイシアさんの写真見せられてめっちゃ自慢された。
既に何枚か持たされた。どうしようこの写真。
ついでにとっとと嫁に行けなんて…余計なお世話だ。
そしてその次に今、目の前で繰り広げられている騒ぎ。
「はっはっは!鋼の〜♪」
「うっぎゃ〜〜!!だから大佐やめろって!!」
「姉さん待ってよ!大佐もからかうの止めて下さい〜!」
因みに上からロ…いや、嬉しそうなマスタング大佐、嫌がるエド子の大将、健気にも姉を庇おうとする鎧の弟君だ。
はぁ、なんでこんな日に中尉がいないんだろう。
大将が女だとわかってからのマスタング大佐は…意地悪だ。
明らかにからかっている。
背後から抱きしめてみたり恥かしい台詞を臆面もなく言ってみたり、と、とにかく口説きまくってる。大将「で」遊びまくってる。
……俺にはあんまり言ってくれないのに。そりゃ俺は遊ばれたいわけではないんスけどね。
いつもは行きすぎると中尉が「セクハラです」とかって大将を庇ってくれるんだけど。
今日は俺がするしかないのかなぁ。
あー一応、解っては、いるんです。
ヤキモチだって事は。
でも一応あの人…マスタング大佐は俺と付き合ってるんですよ?
あん時には確かに俺に向かって「好きだ」って言いましたよね?
つか、俺あんなに口説かれた事ないっスよ?
それなのに目の前で他の女を口説くか、普通?
あ。なんか腹立ってきた。
「なぁ」
トントン、と肩を叩かれる。
ヒューズ中佐だ。
いかんいかん、滞在中の世話係も任命されたんだっけ。
「あの3人、どっか行っちゃったみたいだけど」
「え?」
見ると司令室はもぬけの殻。
仕事の山も、もちろんそのまま。
「…行っちゃいましたね」
だいぶ一人の世界に入っていたらしく、廊下にも既に
エルリック姉弟とマスタング大佐の気配すらみつからない。
うわー中尉に明日怒られるかも。
……どうせ怒られるなら今日の仕事はもう終りにしよう。
夕食は軍の食堂で済ませたし。
「残されたもの同士、飲みにでも行きますか?」
ヒューズ中佐は「う〜ん」とちょっと考える仕草をして。
直後、後ろに変な感触が来た。
「いや、どうせなら俺はこっちの方がいいなぁ」
これ、尻、撫でられてる…よな?
「…お前やっぱいいケツしてんなぁ」
軍服の後スリットの間からヒューズの手が忍びこむ。
なんか呆然としてる間にめっちゃ尻揉まれてるんスけど。
「初めて見た時からいいケツしてるなーって思っててさ」
マジで?いや喜ぶな!褒められてるけど褒められてない!
そういう場合じゃあ、ない。
こ、こういう時はどうするんだっけ?
でも、こんな事された事ないし。
…痴漢とか遭わないしな。
「なぁ、抵抗しないって事は合意でいい?」
うわちょっと待って!それ無し!ギブギブ!!
ビックリして顔赤くなってんじゃないか?俺。
取り敢えず、距離をとって笑ってごまかしてしまおう。
「いやはは。ビックリするじゃないですか。冗談はやめましょうよ」
無理矢理笑ったから口の端が引きつってるなぁ。
「あはははは。そうだよな。こんな所で言われても困るよな」
ばしばしと背中を叩かれ、しばらく二人で笑い合い、乾いた笑いが廊下に響いた。
冗談、だよな?うん。
「で、今夜はどこに泊まればいい?」
おおっと、そうだった滞在中の世話係っと。
「今夜はマスタング大佐が帰ってくるかわからないので…」
帰ってくるかわからない、か。
あ、なんか落ちこんできた。
そーいや大将と一緒に消えたんだっけ。
鎧の弟君が居るから変な事にはならないだろうけど…
って!変な事ってなんだ?
「もしもーし?」
ヒューズ中佐が目の前で手を振ってる。
「大丈夫か?」
心配そうに顔を覗きこんでくる。
ああ、いい人だな。一人自分の世界に入った俺の事まで心配してる。
家ではきっといいお父さんなんだろう。
気を取りなおして近くの宿泊施設を思い描こうとする俺に、
「ロイが帰って来ないんなら近場でいいや。仮眠室かどっか空いてる?」
なんか気が利くなぁ。ホントにいい人だなぁ。
「近くの軍施設の宿もお取りできますが」
「あー別にいいって…そんなに遠くに行ったらロイにわかんないしな」
「はい?」
いやなんか後半はあまり聞こえなかったけど、
「いーや?何でも」
にかっと笑われる。とそれ以上聞いてはダメな気がする。
…大佐と何か約束でもしてるんですかね??
「んじゃ、こっちの部屋を使ってください。中央からの荷物は運び込み済みです」
一応マスタング大佐の執務室に近い、ちょっと大きめの部屋にした。
中佐希望のデカイベッドにシャワールーム、洗面所、トイレ完備。
簡単なホテル並みの設備ぐらい軍にもあるのだ。
部屋の備品のストックもチェック。タオルも在るし。
「すげー風呂が白一色!」
「備品チェック、済みです。」
何か変なものとかないですね?前の人の忘れ物とかも、無し。
「チェック完了です。
じゃ、滞在中はヒューズ中佐の部屋として取って置きますから」
ではおやすみなさーいと出て行こうとした肩が後ろから掴まれる。
「少尉、さっきの続きはお願い出来ないかな?」
さっきの続き?
はい?
…って、もしかして?
「いやーはっはっは。またまたご冗談を」
ばしばしと肩を叩く。
「え?いや、本気だよ?」
あれ?マジで目が怖いかも?本気モード?
えええ―――?!危機再び?
ふと気付けばヒューズ中佐と向かい合って抱き合ってるような体勢にっ!
「こっちの方は大分ご無沙汰なんでな」
今の俺の危機的状況。
さっき風呂場のチェックしたときに上着脱いだ。後ろのヒラヒラも邪魔だったからとった。
今の俺は上はアンダーの黒Tシャツに、下は軍部ズボン。編み上げブーツ、か。
ズボンの上から尻を撫でまわされる。時に揉まれる。
「あーやっぱこの尻がいいわ。硬すぎず柔らかすぎず…」
腰をしっかりと捕まえられているので尻の刺激から身をかわそうとすると中佐の体に自分の結構な質量の胸が押し付けられる。
胸を当てないようにしようとすると尻が。
ていうか、コレはヤバイだろう?
実力行使で逃げる!!
抱きしめられたまま思いっきり
ごすっ!
頭突き。
いたたたた。
いや、痛かったけどヒューズ中佐の手は離れた。
接近戦はコレに限るな。
え?
ヒューズ中佐?
うっわ、モロ倒れてる!!倒れてる!?
ちょっと女としてはここで放置して出て行った方がいいのはいくらなんでも解る。
でも、ロイ…じゃなかった。マスタング大佐の友人で、階級が一回りは上の佐官。
放っておくのは軍人としてマズいでしょう。
「よいしょっと」
お姫様抱っこでベッドに運ぶ。
多少乱暴に放ったのは意地悪です。すみません。
「では、失礼します」
敬礼して、その場を去ろうとドアの方を向いた。
―――背後に気配を感じた時には遅すぎた。
腕を掴まれ、布団の中に引き摺り込まれる。
組み伏せられる。
「お前、肉弾戦強いってロイが言ってたの忘れてたよ」
布団の中でそういって笑うヒューズ中佐。
「デスクワーク専門、じゃなかったんですか?」
「いや、一応軍人だし。体くらい鍛えてるよ?
因みに投げナイフも得意。体感してみる?」
続く