エルリックさんちの家庭の事情6
>797氏
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こんにちは。アルフォンス・エルリックです。
ああ、なんて清清しいのでしょうか。
僕を長い間苦しめていた難問が、いともあっさりと解きほぐされたのですから。
この形容しがたい開放感。自由ってすばらしい。
どこからお話すればいいでしょうか。
あの記念すべき始まりの日。
そう、大佐がリゼンブールを訪れた日の事から説明しなければなりませんね。
僕が錬金術大系第7巻を798ページまで脳に練り込んだ頃、マスタング大佐は現れました。
「やあ、久しぶりだね鋼の」
………………………………………。
僕は別に大佐が嫌いなわけではありません。
むしろ元に戻れる手助けをしてくれた恩人のはずなんですけど…。
なんででしょう。
大佐の笑顔が腹の底からむかつくんですが。
中尉ではありませんが、見ていると顔面にマグナムを全弾ぶちこみたい気分になってきます。
寝不足で気が立っているのかもしれません。
でなければ、大佐が僕を見て意味ありげにニヤニヤ笑ってるようにみえるはずがないですから。
今日の大佐は私服でした。
私服の大佐を見るのは初めてなのでちょっとびっくりです。
姉さんも珍しいのか大佐の周りをちょろちょろしてます。
その仕種が…なんといいますか、小動物のようで非常に微笑ましかったです。
昔の、態度が百獣の王だった頃の姉さんからは考えられないんですが…。
そうですよね。今の現状に慣れてしまいましたが、姉さんは昔はこんなんじゃなかった。
際どいパンツが捲れたり、胸がでかすぎて上着のボタンが弾け飛んだり、大股開きで僕の顔の上に落ちてきたり、大佐から渡された花束を頬を染めて受け取ったりするような人じゃなかったのに……。
そう、昔の姉さんなら大佐のだらけきったにやけ切った笑顔に、ワンパンチぐらい決めていただろう。
大佐も案外露骨な人です。
姉さんが歩く災害・現代版りぼんの騎士と言われていた頃は見向きもしなかったのに、真理に持っていかれて中身から身体から萌えキャラ仕様にクラスチェンジしたあたりから急速にモーションをかけ始めたんですよ。
別に姉さんと大佐が付き合うのを反対しているわけではありません。
姉さんが望むなら、姉さんが幸せになれるなら、例え下半身先攻型の大佐でも僕は義兄さんと呼んでみせますとも。
……………心中は複雑ですが…………
でも今は大佐の一方通行みたいです。
何故なら姉さんは、大佐からもらった花束を「活けといて」と僕にそのまま渡したからです。
流石は天然系…。男のあしらい方も自然です。
大佐のしょぼくれた顔がおもしろかったので、僕はこの一件を忘れることにしました。
思えばそれがよくなかったのかも知れません。
大佐に対して警戒心を解いてしまった僕は、あろうことか姉さんと大佐を二人っきりで部屋に残すという
愚行を犯してしまったのです。
その時僕は寝不足のピークだったので、部屋まで特別精製したカフェインを取りに戻りました。
そうでないと、大佐の前で机に頭付きをかましそうだったので。
戻ってきてその光景を見た時……僕は心臓が止まるかと思いました。
大佐が…大佐が……姉さんのでかい胸を鷲掴みに…………!!!!!!
しかも姉さん嫌がってないよ!
なんでそんなことされて普通に会話してるのさ!絶対おかしいよ!
どういうことでしょう。大佐と姉さんは付き合っていたんでしょうか。
そうならそうと言ってくれれば僕だって……。
でも大佐の話をした時の姉さんは態度はいつもと同じだったし、妙に乙女化した今なら好きな男の話を振られたら顔くらいは赤くなりそうだけど。
あまりよくはないと思ったんですが、僕はそっと聞き耳を立てて、二人の会話を盗み聞きくことにしました。
「ほほぉ…鋼のの胸はずいぶん大きくなったな」
「うん、大佐が教えてくれたおかげだよ。俺、忘れずにちゃんと毎日試してるんだ」
…………どういうことでしょうか。
姉さんの胸は突然変異ではなく、大佐にお願いをした結果ということ……?
「それは偉い偉い。こうして毎日揉めば胸が大きくなるといった私の言葉は嘘ではなかったろう。
私が執務室で教えた通りにちゃんと揉んでいるかい?」
…………………こンのエロ親父が……………!
胸が大きくなるマッサージという言葉を餌に、姉さんの胸を揉みやがったな……!!!!
おツムが多少弱くなったからって、言葉巧みに姉さんを騙すなんて……なんて奴だ。
おい、そこ! 乳首つまんでんじゃねーよ!
しかしこれだけ揉まれて笑顔でいる姉さんって……実は不感症?
「自分で揉むよりも他人に揉んでもらった方が形も大きさも綺麗になるよ。
どうだろう。滞在している間、私が君の胸をもんであげようか?」
……………っっっっっっっっ!!!!!!!!!??????
「ダーメ! こういうのは自分でやらないと意味がないんだよ。
……本当は最初はうまくできなかったから、アルに手伝って貰おうかと思ったんだけどな。
でもびっくりさせたいから内緒にしておいた」
姉さん…………そんなこと手伝わさせられたら、僕は失血死してしまうよ………。
姉さんのもくろみ通り、その無駄にデカい胸には心底驚いたから安心して…。
「アルフォンス君か……。ふむ、彼の方はどうだね? あちらの方も実践しているのかな?」
なんでしょう……大佐のあの笑い方。嫌な予感がします。
「うん………。試したんだけど、アル、あんまり元気じゃないみたい…。
せっかく大佐がアルがリラックスできるようにって教えてくれたのに、俺、旨くできなかったみたいで…」
リラックスって…。姉さん、一体何を………。
「可愛い服を着て掃除をしても失敗しちゃうし、せっかく大きくなった胸を見せようと思って薄めの服を着てもアルはあんまり見てくれないし……。
一緒に下着を買いにいった時だって、買ったパンツとかアルに見てもらって一緒に喜んで欲しかったのにあんまり楽しそうじゃないし……。
あ、でも、一緒に寝るのはいいみたい。
大佐に教えてもらったみたいに、アルを抱き締めて寝ると気持いいし、ぐっすり眠れるよ!」
「そうかそうか。それはよかった」
「今度は裸エプロンってのを試してみるつもり。アル、喜んでくれるかなぁ…?」
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へーー……
大佐が、姉さんに、ねぇー…
へーーへーーほおぉぉぉぉおぉおおおおおおおおおおおおお
貴 様 が 犯 人 か
ブツンと僕の中で太くて丈夫な何かが千切れて飛びました。
それは、理性とか道徳感とか、そういうものだったのかもしれません。
全身が熱いのに頭は妙に冴えています。
部屋から出てきた大佐をにこやかに呼び止めて、言葉巧みに家から少し離れた小屋まで案内しました。
みっちり問いつめてやるつもりでしたが、僕の記憶はそこで途切れました。
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次に気が付いた時には、大佐を連れ込んだ小屋は血の海と化していました。
いつの間に練成したのでしょう。
僕の両手にはやたらと鋭利なトゲの付いた、血染めのナックルが……。
これは……僕がやったのでしょうか?
ヤっちまった割には妙にスッキリした気分です。爽快感こそあれ罪悪感などチリほども感じません。
大佐は血の海に沈んだまま、ピクリとも動きませんが。
あ、右手がダイイングメッセージを刻んでる。
『ある不ぉ……』
油断も隙もありません。
こんなの見られたら僕が犯人だとすぐにばれちゃうじゃないですか。
僕は大佐のメッセージを足できれいに消しました。
よし、これで完璧だ。
あとは、ここに転がっている邪魔な大佐を始末するだけです。
しばらく悩んだ後、練成した極太ロープでみの虫状に拘束して木箱につめました。
これを中尉宛に発送すれば大丈夫でしょう。
飛び散った血のりをきれいに消した後、大佐in木箱をリゼンブール駅から中央指令部御宛に発送。
姉さんには大佐が帰ったことを伝えました。
急に帰ったことを不振に思っていた様ですが、中尉から電話が来たと伝えたらあっさり納得してくれました。
なんだかすごくスッキリした気分です。
今までの苦行の日々は何だったのでしょうか。
夜になって姉さんが寝台に潜り込んできましたが、僕はもう動揺しませんでした。
姉さんに向き直って、その柔らかな身体をそっと抱き締めます。
姉さんは最初驚いた様でしたが、頬を染めた後に僕を抱き返してくれました。
幸せだ……。
すごくかわいいよ…天然系姉さん。萌え萌えな貴女が大好きです。
さよなら、昨日までの悩み多きアルフォンス・エルリック。
僕は今日、生まれ変わりました。
終わり