祈り
>748氏
わしゃわしゃと大きな手が動く度に泡が増える。
もこもこ、それはエド子の目元までに垂れてきて染みるので、目を瞑る。
「大将、痒い所ある?」
「ん〜、もうちょっと右。あ、そこそこ」
瞼を通して浴室の淡い光がぼんやりと分かる。
ハボックの声も自分の声も奇妙に響いて不思議な感じだ。
温かい、檸檬の匂いのするお湯にくるまれて心地良い刺激を与えられて。
先程の行為の疲れもあってか、エド子はとろとろと眠くなってきた。
とろとろと、溶けてしまいそうだ。お湯の中に。柔らかくなって。
元の躰に戻ったら、アルの頭を洗ってやろう。
とろとろになった頭でそんな事を考える。
一緒に風呂入ろう。アル。それで今までの分全部洗うんだ。なぁ、アル――。
そんな事を考えながらエド子は本当に眠ってしまった。
だからだろうか。
とても優しい、夢を視た。
自分の掌に預けられた小さな頭の重みがわずかに増した気がしてよく見ると、やっぱり寝ていた。
さっきから眠そうだったしな。思って微笑った。
第一コトに及んだのが既に相当遅い時間だったのだ。
それから結構激しいウンドウして。まぁそりゃ眠くもなる訳だ。
起きてる時じゃまず見れない穏やかなエド子の顔を見ながら、ハボックは大きな欠伸を連続でした。
早いとこ終らせて俺も寝よう。
つぶやいて、エド子の頭で揺れる大量の泡を流しにかかる。
でも彼が起きたりしないよう、ゆっくり、優しく。
あ。
バスタオルにくるんで拭いている時に気付いた。
――泣いてる。
表情は穏やかで、むしろ幸せそうなのに。泣いてる。
それは泣くというよりも、水が漏れてる様に見えた。
何処かが破れてしまったみたいに。
悪い夢でも視ているのだろうか。
少し考えて、ハボックは彼女を起こさない事に決めた。
きっと幸せな夢を視ているのだろう。
泣くしかないくらいに幸せな夢を。
だから起こす代わりに、水を流し続ける瞳に口付けた。
せめて夢の中では、幸せで在るようにと。