貴方に言えない
>909氏

「ロイ…あのさ、俺…今夜から別の部屋で寝るから。」
エド子は、なるべくロイと眼を合わせないようにしながらそう言った。
「なんだって? …もう一度ちゃんと聞こえるように言ってくれないか。」
軍務が終わって家に帰り、黒い革張りのソファーの定位置に収まって気に入りの酒をゆっくりと味わう。
一日の内で一番くつろぐ、そんな時間。
いつもならその至福の時間を傍らで共に過ごしてくれる筈の恋人…エド子からの予想外のセリフに、ロイは傾けかけたグラスと共に一瞬動きを止めた。
そして納得行かないといった表情で、ゆっくりと問いただすようにエド子を見据える。
エド子は戸惑った。
いつもなら何よりも安堵感を与えてくれる、ロイの漆黒の瞳が今は彼女が苦手な冷たい光をより多く含んでいるような気がする。
もう一度、エド子は勇気を振り絞って繰り返した。
「…だから、今夜から別々の部屋で寝ようって言ったんだよ……」
その声は後の方がだんだんと小さくなって、聞き取れないほどだ。
「どうしてだい?」
「どうしてって…そうしたいから…。」
(やっぱり言わなければ良かったかも…こんなに真剣に問いただされるなんて)
頭の中でシミュレーションしていた時にはスムーズに行っていた事が、いざ現実の相手に向かうと全然上手く行かない。
(でも、もう耐えられなかったんだ…)
きゅっと口を引き結ぶいつもの表情で、エド子の決意が固い事、そしてこれはかなり思い悩んだ末での言葉なのだということをロイは悟った。
「…それだけでは納得する事はできない。はっきりした理由が訊きたいものだな」
エド子と同棲し始めて早1年。
その事実は周囲の人間全てが知っていたし、己達が誰の目から見ても妬けるほどに似合いの恋人同士であることも、しっかりと自覚している。
そして、今日はめちゃくちゃに多忙を極めていた仕事のちょっとした谷間で、しばらく振りに二人でゆっくり過ごせる貴重な一時なのだ。
「なんでもいいんだよッ。とにかく、そうさせてくれ!」
そう言って客用寝室の方に走っていこうとしたエド子の手首を、ロイの手がパッと捕らえて引いた。
それだけでエド子の小さな身体は軽々と彼の腕の中に倒れ込んでしまう。
エド子がこんな事を言いだした理由には心当たりがあった。
だが、ロイはあえて彼女に問いたださず、本人の口から喋らせようと考えたのである。
ロイがいつも好きだと言っている淡いオレンジ色の柔らかなシルクの部屋着に包まれた細い腰を、力強い腕で抱え込んでしまえば。
捕らわれの子羊はもう狼の腕の中から逃れられない。
「やっ…! 何すんだよ!」
エド子は、気まずい会話の後に突然ゼロになってしまったロイとの距離に驚いて、いつになく頑なに抵抗をした。
しかし、機械鎧であった片腕と引き換え、既に生身のそれを取り戻している彼女がいくら腕を突っ張ったところで、本気を出した男の戒めが解けるはずもない。
「愛しい女に男が何をするのかなんて…もうとっくに知っているだろう?」
言いながらロイは真っ赤になったエド子の顔を左手で素早くすくうと、パッと身体を入れ替えてエド子をソファーに押しつけた。
「やだっ…」
エド子の両の手がのしかかるロイを引き剥がそうと空しく抵抗する。
だが、ロイはそんなことなどお構いなしにその花びらのような唇を強引に奪った。
「んっ!…む…ぅ…」
エド子の並びの良い歯列を強引に割りロイの熱い舌が入り込む。
そして怯えるもう一つの舌をたぐり寄せて吸い上げ、自分の舌と絡めて執拗に舐りだした。
顔を背けて逃げようとしてもすぐ追いつかれて唇を吸い上げられてしまう。
ロイは更にエド子の足の間を割って擦り上げる様にして自分の太腿を押しつけ、彼女の敏感な部分を刺激する。
エド子の喉の奥から小さな声が漏れた。
…しん、とした部屋にかすかな水音だけが響きつづける。
一度だけ、グラスの中の氷が溶けてその位置を変え、カランと湿った音を立てた。
そしてたっぷり10分は経った後。
思うさま、口腔を動きまわるロイの長く激しい口付けと、更に下半身への刺激にとろとろに蕩かされてしまったエド子には、もう抵抗する力はなくなっていた。
塞がれていた口をゆっくり離され、やっとの事で自分の息を吐き出す。
「…ロイは…。ずるい…っ。」
瞳を潤ませ、火照った顔をして息も絶え絶えにそういうエド子を、ロイは更に容赦なく責めたてていく。
彼女の数ある弱点の一つである耳の後ろから耳たぶを丹念に舌で愛撫し、どこか甘さを感じさせる汗の匂いが立ち昇る首筋から、なめらかな肩をたどって見かけの割に豊かな胸元へ…。
ゆっくりと、時々わざと音を立てながら唇を這わす。
そうしながらロイは、彼の手慣れた愛撫に敏感に反応して反り返るその背中をすかさず捕らえて、もう片方の手で背中のリボンを器用に解き、エド子の上半身を部屋の明かりの元に露出させてしまった。
「やっ…いやだっ! 戻せよっ…」
自分が着ている部屋着が、ブラを着けないタイプなのを知っていてわざとそんな事をするロイに、エド子は真っ赤な顔をして泣き出さんばかりに声を上げた。
「だめだ。」
いつもなら、エド子が本気で泣きそうになる前にこんな意地悪は止まるのに、今夜は違った。
「恥ずかしがらなくていい。 …とても、綺麗だよ。」
ロイが、まるで堕落を促す悪魔のように魅惑的な笑みを見せながら、脳髄から蕩かされてしまいそうな甘い低音で囁く。
そしてエド子の羞恥心を更に煽るように、仰向けにされても形の崩れない美しい稜線をひとしきり眺めてから、おもむろに先端の木の実を味わい楽しむように啄ばみ始めた。
「は……んっ…」
恥ずかしさと、その後にもたらされた言い様のない快感に耐えきれなくなって、とうとうエド子の口からずっと我慢していた切なげな吐息が漏れた。
ロイの舌や唇が通った後が外気に晒されてひやりとする度に、ここが明るい居間であることに気付かされ、恥ずかしさが増していく。
「い…や…、あ…っ…」
だが、手で胸元を隠そうと思っても、中途半端にずらされた部屋着の袖が突っ張って思うようにいかない。
もちろん、そこまでロイが計算ずくなのは明白だった。
「さあ、そろそろ喋って貰おうかな? なぜ、突然別の部屋で寝るなんて言ったんだ?」
「……」
エド子は困惑した。
さっきのキス。
あの情熱的なキスで、エド子のロイに対する懸念は、まるで太陽に照らされた淡雪のように跡形もなく消え去ってしまったのだ。
まだ軍上層部だけのトップシークレットだが、新たにアメストリス国行政の抜本的改革を始める事がつい一ヶ月程前に決議されたのだ。
二人とも、普段の軍務に3重ほど輪をかけても追いつかないほど忙しく、家に帰って来ても倒れて寝るだけのような生活が続いており、そのお陰でエド子はもう3週間近くもロイに抱かれていなかった。
ここ一年間というもの、ほとんど毎日朝晩問わずたっぷりとロイの手で「愛されて」きたエド子は、要するにこの突然の空白で、もしかしてロイがもう自分に…この身体に飽きてしまったのかと自信を無くし、拗ねてしまっていたのだ。
互いに多忙であるからということは解っているのに、でも「一緒のベッドに寝ているのに何もされない」という、日に日につのるもどかしさから、ただ逃れたかったのだ。
元々、エド子は長い間ロイに片恋していた。
国家錬金術師試験に合格して直ぐの頃などは、広い司令部や東部の街中でその背中を見つけただけで鼓動が高鳴って、思いがけず会話が弾んだときなどはその後しばらくの間は嬉しくて夜も眠れなかったものだ。
そうして幾年を経て。
積年の望みを叶え、穏やかな日常を取り戻した、とある日の昼下がり。
恋焦がれた男の口から紡ぎ出された信じられない言葉…。
彼が自分のことを愛してくれていることを知ったあの時、「もうこのまま死んでもいい」とさえ思った。
でも今はどうだろう。
ホークアイと並び、中将である彼の両腕として仕事をし、なおかつ一緒に暮らしてさえいるのに、「抱いてもらえない」などという贅沢な事で拗ねているのだ。
願いが叶うたびにどんどん欲張りになっていくこんな自分の浅ましい心を、エド子は大好きなロイにだけは知られたくなかった。
「…そうか。」
ロイは、エド子が答えそうにないのを見てとると、今度は部屋着の裾へと手を伸ばした。
「あ!」
ビクン、とエド子の身体が跳ねる。
汗が滲んで、エド子の身体がロイの愛撫に反応する度に革のソファが、キュッ、キュッと音を立てている。
「ふ…ぁん…っ…」
ロイの指が触るか触らないかの微妙なタッチで、エド子の太腿の内側を何度も何度もなで上げると、その度に彼女の背中が反り返って白い乳房が挑発的にロイの顔の前に突き出される。
それを、ロイの舌と唇が、時にきつく、時に触れるか触れないかの感覚で捕らえては離すので、エド子はもうおかしくなってしまいそうだった。
「すごいな…。いつもより一段と感じやすくなっている。 …ほら。もう、こんなに濡れてるぞ。」
「や…ぁ…っ!」
羞恥で真っ赤になったエド子のすらりと伸びた白い足の間は、ロイの言葉通り、下腹部を覆う色の薄い布ごしにもそれと解るほどに濡れそぼっている。
唇で胸に刺激を与えながら、ロイがそのしっとりと湿った布の上から敏感な部分をやさしく指でまさぐると、エド子の背中がまた反って足が快感に突っ張った。
「あっ! …あ…ん…」
「まだ…話す気にはならないか?」
そう囁きながらもロイは手を止めない。
「や、ぁ……ん…っ」
かすかに首を振るエド子の瞳は虚ろに潤みきっていて、とてもそれ以上答えられる様子ではない。
それほど自分の愛撫に溺れきっている彼女を見て、ロイはフッ、と満足の笑みを浮かべた。
「…かわいいよ、私のエドワード。」


続く





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