03話 転入生、獄寺隼人!
「ぇええ!私も見たかったー!」
「、委員会だったんだろ?仕方ないじゃん」
「そうなんだけどー!」
皆さん、こんにちは。
昨日の球技大会で、ツナが代役でバレーに出て大活躍したというのに、委員会の仕事で見逃してしまったです。
「あーぁ、残念」
「そんなに落ち込む事ないだろ」
「落ち込むよ!好きな人が球技大会に出て頑張ってたんだよ!見たいと思うのが普通でしょ?!」
私がツナを睨みつけて詰め寄ると、ツナは驚いたように少し体を後ろに反らす。
「お前、男にそんなこと軽々しくいうから勘違いされるんだぞ」
「別にいいよ…。ツナの鈍ちん」
「はぁ?!」
ふいっと私が拗ねたようにツナからそっぽを向く。
ツナにしか、こんなこと言ったことないのに…。相変わらず、ツナには私の思いが伝わっていないんだと思わされる。
正直私は、この前のあの騒動で相当気分も参っている。どうして、ここまで何もかもが嫌になりそうな出来事が起こるのだろうか…。
思わず私は、溜息をついた後で嫌味を言うようにぼそりと呟く。
「この前は、ツナは京子ちゃんに告白して大変だったし…」
「なんで今その話が出てくるんだよ!それに、あれはリボーンのせいだって知ってるだろ!」
「分かってるよ。それでもさー…」
やっぱり京子ちゃんなんだ。と思うとやっぱりショックなわけで…。
意識なんてしないのに、自然と頬に涙が垂れる。
「?!」
慌てたツナは、何も言わずに涙を流した私の顔を覗きこむようにして見る。
「大丈夫?!どこか痛いの?!」と慌てて私の肩を掴んで、心配そうな表情で私に声をかけるツナ。 ツナが私の頬を軽く手で拭う。
「お前、今日変だぞ。どこか悪いんじゃ…」
「…恋する乙女は情緒不安定なのー」
「なんだよそれ。こっちは本気で心配してるんだからな」
そんなツナの必死な表情を見て、思わずくすりと笑う。
やっぱり、好きだな。と思ってしまう。
「もう大丈夫だよ。心配してくれてありがとう、ツナ」
「え。本当に?体調悪いなら、学校休んだ方が…」
「大丈夫!そんなんじゃないから」
「…なら、いいけど」
「はっ!ツナ!やばいよ!早く行かなきゃ遅刻しちゃうよ!」
「え、ちょっ、ちょっと!?!ったく、何がどうなってるんだよ~」
「ほら、急ごう!急ごう!」
私はツナの手を取り、走りだす。
まだこの気持ちを諦めたくない。それにツナのおかげで前よりやる気も出た。
幸いにもどうやら、ツナのあの告白も京子ちゃんには、ギャグだと勘違いされてることだし。 私にも、まだ希望はあるはずだ…。そう、思いたいんだ。
なんとかチャイムの鳴る五分前に私とツナは教室に着く。
教室は、特にいつもと変わらない光景で、クラスメイトや京子ちゃんにも挨拶を交わす。
だけど、いつもの朝と少し違ったのは、転入生がやってきたということだった。
「イタリアに留学していた転入生の獄寺隼人君だ」
「いーなー、イタリア」
なんて、先生の言葉に対して私みたいにのん気に思っている女子は、どうやら少し少ないみたいだ。
「帰国子女よ!」
「ちょっと、かっこよくない?」
ざわつくクラスメイトの女子達の声は嫌でも耳に入ってきた。
私がクラスメイト達の反応を伺っていた時、隣の席の京子ちゃんに声を掛けられる。
「ねぇ、」
「なに?京子ちゃん」
「こんな時期に転入生なんて珍しいよね」
「ああ。そういえば、そうだね」
京子ちゃんの言うように、こんな半ばの時期に来るのも珍しいが、態々イタリアから並中のような平凡な学校に来るってのもあまり聞いたことがない。
でも、人の事情なんてそれぞれだし、そういうこともあるか。なんて私はその時の小さな違和感など気にも留めずに転入生から目を背けた。
ドガッ!
「でっ!」
突然、けたたましい音が後方のツナの席の方から聞こえてきた。
「ツナ?」
私は、疑問を持ちつつ状況が掴めずにちらりとツナの方を見て首をかしげた。
「なんだよ!あの転入生」
「大丈夫だったの?ツナ」
私は、休み時間に廊下でツナに朝起こった出来事を聞いた。
どうやら教室で響いたあのけたたましい音は、ツナが突然あの転入生に机を蹴られた音だったらしい。
なにもしていないのに、意味がわからないと嘆くツナに私も不安が襲ってくる。
ドン!
「わっ!」
転入生の話をしながら廊下を歩いていた私たちの前から、不良らしき人達3人の内の1人が、わざとツナにぶつかってきた。
様相からみると、どうやら私たちより上の3年生のようだ。
「おーいて、骨折しちまったかも」
「…」
その不良の言葉に私が無意識に軽く右こぶしを握り構え、片足を引いたのをツナが目にすると、ツナは勢いよく頭を下げる。
「!!ごめんなさい!本っ当すみません!!」
「きゃっ!」
ツナは私の手を掴むとそのままその場から凄まじい勢いで逃げ出した。
「あっぶねーっ!」
「ツナ、悪くないのに」
今はやっていないとはいえ、これでも私は空手有段者だ。あれくらいの相手なら、私でもなんとかなる自信があった。
息を切らしていたツナが、息を整えてから私を見る。
「が強いのは分かってるよ。だけど、は女の子なんだぞ!何かあってからじゃ遅いんだからな!」
「ツナ…」
ツナが、私を守ってくれたの?
ツナが、私を心配してくれたの?
どうしよう、すっごく嬉しい…!
「ツナ!大好き!愛してる!一生ついていく!」
「なっ!なんでそんな流れになるんだよ!」
私がツナに勢いよく抱きつくのをツナが拒もうとするも、勢いに押されたらしいツナがしぶしぶ私の抱擁を受け止めた。
「ツナ大好き!」
「分かったから、もう離れろって!」
「目に余るやわさだぜ」
突如、聞こえてきた背後からの声に、思わず私とツナの動きが同時に止まる。
声のした方向にゆっくりと顔を傾ける。
「!?き、君は転入生の…」
「えっと…確か獄寺隼人?」
「お前みたいなカスを10代目にしちまったらボンゴレファミリーも終わりだな」
「ボンゴレって…」
聞いたことのある“ボンゴレ”という単語に、リボーン君の顔を思い浮かべる。
私はちらりとツナの方を見た。
「な、なんで、ファミリーの事を?」
「俺はお前を認めねぇ!10代目にふさわしいのはこの俺だ!!」
「な!?なんなんだよ!急に?」
「球技大会から観察していたが…」
「えー!球技大会みてたんだ!いいなー!」
「ちょ!!」
「なんだ?てめぇ、さっきから」
「私、っていうの。同じクラスメイトだよ。宜しくね」
「んなこと聞いてねぇー!」
「うーんと、じゃあ、私もリボーン君に誘われたツナのファミリーです。とか言えばいいのかな?」
「んなー!!」
ツナが頭を抱えて叫び声をあげる。
正直、私だって訳が分からない。けれど、ツナを守るにはなるべくこの転入生の視線を私に預けたかった。
「…めんどくせぇ、どっちも目障りだ。ここで果てろ」
「ば、爆弾!?」
「ぇ。えええ!」
さすがにそれは予想していなかった…!
転入生が手に持っているたくさんのダイナマイトに火がつけられた時、私は咄嗟に目を閉じたが爆発が襲ってくることはなかった。
「ちゃおっス!」
「え…」
「リボーン君!」
どうやら、リボーン君が助けてくれたみたいだ。
いつもの銃を構え、余裕の表情で私たちの前に立っている。
「思ったより早かったな。獄寺隼人」
「え?知り合いなの?」
「ああ、俺がイタリアから呼んだマフィアの一員だ」
「へー、凄いんだね!」
「…受け入れるの早すぎだから」
「俺も会うのは初めてだがな」
「あんたが9代目が最も信頼するリボーンか」
「え…」
リボーン君のことなんて、全然知らなかっただけに私とツナは思わずリボーン君の顔を見る。
「沢田をやれば俺が10代目内定というのは本当だろうな」
「はぁ?!なに言って!」
「ああ、本当だぞ。んじゃ、殺し再開な」
「いやいやいや!!」
なにかなー?!その、宴会とかで途中で人が来て、さぁ再開!みたいなノリは?!
殺しってそんなに軽いノリなのかなー?!
「俺を裏切るのか?リボーン!!」
「ちがうぞ、戦えって言ってんだ」
そう言ってリボーン君は銃を構え、ツナに突き付けた。
「ま、まさか」
「じょ、冗談じゃないよ!」
「まちな!」
ツナが逃げ出そうとした瞬間、逃げ道を塞がれ、転入生の獄寺は大量のダイナマイトを装備した。
リボーン曰く獄寺隼人は、体のいたる所にダイナマイトを隠し持った人間爆撃機で、またの名前をスモーキン・ボム隼人と言うらしい。
「じゃあ、やっぱり凄いんだ!」
「まぁな」
「そ!そんなの冗談じゃないよ!!」
私とリボーン君が呑気に話している間も攻撃は続き、ツナが逃げまとう度にあちこちで爆発が起こっていた。
「ツナ!」
どうすればツナを助けられるのだろう…?
ダイナマイトの数が分からなければ、一度彼の手から奪っても無駄だ…。
私が、困ったように思考を巡らせている間に、ツナが壁に追いやられる。
「うわっ!行き止まり!!」
「ツナ!」
「終わりだ」
「心配無用だぞ、」
「え?」
爆発物に火がつき、私が走りだしたと同時に背後から聞こえてきたリボーン君が、いつのまにか私の肩に乗るとその場で銃を構えた。
「死ぬ気で戦え」
ズガッ!
リボーン君の放つ銃の弾の的先は勿論、ツナだ。
「復活!!!」
「ツナ!」
「死ぬ気で消火活動!!!」
そう叫ぶとツナは、獄寺隼人の出す大量のダイナマイトを全て素手で消火し始めた。
「消す!消す消す消す消す消す!!」
「3倍ボム!」
ツナの消火に対抗するようにダイナマイトを繰り出していたその時だった。
「あ!危ない!!」
「!」
獄寺隼人の手からポロリと持ちきれなくなったダイナマイトがこぼれ落ちる。
「消す!!」
「ツナ!」
ツナは、獄寺隼人の周りの火のついたダイナマイトも全て爆発させる事なく消火してみせた。 安堵の息が私たちの間に漏れた。
「は、はぁ~。なんとか助かったぁ」
「ツナ!」
私が心配そうにツナに近寄ると「大丈夫」とツナが私に笑顔を見せた。
その時、立ち尽くしていた獄寺が地面に両手をついて頭を下げた。
「え!」
「御見それしました!貴方こそボスにふさわしい!!」
「ぇええ?!」
「10代目!貴方について行きます!」
「はぁ!?」
ツナが困惑の表情を見せる中、リボーン君はにやりと口角を釣り上げる。
「負けた奴が勝った奴の下につくのがファミリーの掟だ」
「え…ぇええええ!」
なんともマフィアらしい。と思ったのは言うまでもない。
しかし獄寺が言うには、最初から自分にボスになろうだなんていう気は一切なく、ツナが自分と同じ年だと知って実力を試してみたかったとの事だった。
「でも貴方は俺の想像を超えていた!俺のために身を挺してくれた貴方に、俺の命を預けます!」
「そんなっ!困るって、命とか…。ふ、普通にクラスメイトでいいんじゃないかな?」
「ここで、クラスメイトっていうのがツナらしいよね」
クスクスと、私が横で笑っていたら、獄寺は強い瞳でツナを見る。
「そーはいきません!」
「(こ…怖くて言い返せない…)」
「獄寺が部下になったのはお前の力だぞ。よくやったなツナ」
「何言ってんだよ!」
「ううん!カッコよかったよ!ツナ!」
私は、今まで我慢していたのを取り払うかのようにツナに抱きついた。
「んな!!今はそれどころじゃないんだって!」
「てめぇ!気安く10代目に触るんじゃねぇ!」
「私はツナの婚約者よ!」
「だれが婚約者だよ!勝手なこと言うなよ!」
「いずれなるからいいじゃない!ね!リボーン君」
「好きにしろ」
「やったー!」
「何で、お前が勝手に決めるんだよ!」
「いいんですか?!リボーンさん!こんな得体の知れないような奴!」
「得体が知れないのは貴方じゃない!」
「ちょっ、、やめとけって…」
私たちが騒いでいるのが聞こえたらしく、先ほどツナにわざとぶつかった不良の3年生達が再び私たちの前に現れた。
「ありゃりゃサボッちゃってるよ」
「何本前歯折ってほしい?」
「ん~」
不良たちがにやにやとした表情で私達を見ているなか、ツナが私の手を引く。
「行っちゃだめだからな!!」
そう言ってツナが私の耳元で小声でささやく。
「うん?」
ツナの言葉に従うように立ち尽くす私の横を獄寺が通り過ぎる。
「俺に任せてください」
「ちょっ!」
「消してやら」
ダイナマイトを持ち不良たちに近づいていく獄寺にツナが慌てて声をあげる。
「まってよ!獄寺君!」
「そうだよ!せめて素手でやらなきゃ!」
「は絶対に駄目!」
「そんな優しいツナが好き!」
「ちょっ!あーもう!」
そんな横でも、リボーン君はただニヤリと笑っているだけだった。