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**HAPPY BIRTHDAY**





それはとてもすてきな日。





「くそっ…。」
相葉祐希はイライラと前髪を掻きあげた。
「どうすりゃいいってんだ…。」
彼はひどく悩んでいた。
なぜなら。
あと一週間で4月5日になるから。
4月5日。
相葉昴治の誕生日。
祐希の兄で、大切な恋人でもある昴治の誕生日。
恋人として初めて過ごす誕生日だから、昴治の喜んでくれる物をプレゼントしたい。
それなのに。
「俺、何にもいらないよ。祐希がお祝いしてくれるんだもん、それだけで充分だよ。」
せっかく勇気を出して訊いてみても、昴治は笑ってそう言うばかりで。
重ねて尋ねれば、宥めるように額に掠めるだけのキスをする。
優しい微笑みにはぐらかされて。
結局何が欲しいか解らない。
「バカ兄貴。」
不満げにつぶやく。
昴治の穏やかさはとても好きなのだけど、たまにはわがままを言って欲しいと思う。
そう思う祐希の方が、わがままなのだろうか。
それでも…
「ちっ…。」
祐希は軽く舌を鳴らすと、ポケットに財布をねじ込んで部屋を出た。

そして4月5日。
「昴治く〜ん。お誕生日おめでとー!」
朝、二人が連れ立って食堂へ行くと、彼らを見つけた尾瀬イクミがにこにこしながらかけよって来た。
「おはよう、イクミ。」
返す昴治に1枚の音楽チップを差し出す。
「これは?」
「俺からのプレゼント。」
包装もしていないチップをさりげなく手渡すのも、なんだかさまになっていて格好いい。
「昴治、この曲探してただろ?ネットしてたら見つけたからさ。」
フン、と不機嫌そうに鼻を鳴らした祐希の隣で、昴治は嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう、イクミ。大事にするよ。」
「ん。あ、じゃあな。」
「イクミ?一緒に食べないのか?」
渡したとたん、そそくさと立ち去ろうとするイクミに、昴治は不思議そうに問い掛ける。
「ちょっと、ね。じゃ。」
「うん、後で。」
二人と別れ広い廊下を歩きながら、イクミは食堂を振り返り肩をすくめた。
「まったく、祐希クンってばそんなに睨まなくてもねぇ…。」
誰も昴治クン取ったりしませんって。
祐希のあからさまな態度に、思わず笑ってしまうイクミだった。
一方、そうとは知らず。
「イクミも忙しいんだなー。」
昴治はそうつぶやきつつ、イクミの背中を見送った。
そして祐希に向き直ってはじめて、祐希がなんだか不機嫌そうなことに気がついた。
「祐希?どうしたんだ?」
「…なんでもねぇよ。」
低く答えて、足早に席へ向かう。
どうして尾瀬なんかが兄貴の欲しい物を知っているんだ。
祐希はとても不満だった。
昴治のことをいちばんよく知っているのは、自分じゃないとイヤだった。
子どもだと言われてもイヤなものはイヤなのだ。
「だって、俺の兄貴なのに…。」
「え?なに、祐希?なにか言った?」
近く響く声にぎくりとして顔を上げると、昴治がかるく首を傾げて祐希の顔を覗き込んでいる。
「なっ…!なんでもねえよ!」
思わず動揺してしまう祐希。
昴治が苦笑する。
「…。いいから座ってろ。メシ取ってくる。」
「ああ。」
それからしばらく、二人がのんびりと朝食を取っていると、
「あ、いたいた!」
聞き覚えのある声がして。
振り向くと、蓬仙あおいと和泉こずえが彼らに手を振っていた。
「あおい。和泉。おはよう。」
「おはよう昴治。」
あおいが言うと、少女達は顔を見合わせにこりと笑う。
首を傾げる昴治をちらりと見てから、せぇの、と小さく掛け声を掛け、
「お誕生日おめでとう!」
あおいが後ろ手に隠していた物をさっと昴治の前に差し出す。
それは大きな布が掛けられていたが、横からこずえによってすばやくはずされる。
「へぇ!すごいな!」
そこにあったのは、きれいなピンク色をしたイチゴのムースだった。
生クリームと熟したイチゴできれいに飾り付けられている。
「昨日、あおいちゃんと二人で作ったの。」
「昴治、ムースケーキ好きでしょ?」
そう言われて、昴治はにっこりと笑う。
「ああ。ありがとう。うれしいよ。」
「じゃ、私達これから講義あるから行くね。」
せっかくのムースを渡しただけで立ち去ろうとする二人を昴治は呼び止める。
「これ、食べないのか?」
「あ、いいの。それ昴治たちの分だから。」
"たち"が誰を指しているのが一目瞭然だったので。
昴治は素直に感謝した。
「そっか。ありがとう。」
「じゃ、ね。」
「ああ。」
大きく手を振って立ち去る二人を見送っていると、不意に横で立ち上がる気配がした。
「祐希?どうしたんだ?」
さっきより数段不機嫌そうな顔をした祐希が、昴治を睨んでいる。
「何でもねえよ。」
「何でもなくないだろ?」
さっさと歩き出す祐希に、昴治は食い下がった。
心配そうに見つめてくる瞳が痛い。
「なぁ、祐希…。」
「うるせえ!黙ってろ!」
「…。うん…。」
思わず怒鳴ってしまった祐希だったが、昴治が明らかにしゅんとしてしまったのを知って少しうろたえる。
それでも、自分の後を付いてくる昴治にほっとしながら、足早に広い廊下を歩いた。
部屋に入る。
その頃には昴治も、心配そうな表情から半ば怒り気味の表情になって祐希を睨んでいた。
それすら可愛いと思ってしまう祐希は自分が重症であると自覚している。
「祐希!なんなんだよ!なんとか言えよー!」
顔を真っ赤にして怒る昴治に、祐希はポケットから何かを取り出し昴治の方に投げた。
慌てて受け止めた昴治は、そのちいさな細長い箱に首を傾げる。
きれいに包装されたその箱は、どう見てもプレゼントで。
「祐希?」
どまどいつつ問い掛けると、
「やる。」
返って来たのはそれだけ。
「やる…って、俺に?」
「他にだれがいるってんだよ!」
怒鳴ったが、それは照れ隠し以外のなにものでもない。
昴治はにっこりと笑い返す。
「あ…、そうだな。ありがと。嬉しい。」
にこにこと、本当に嬉しそうにしている昴治を見て、祐希の機嫌も大分回復した。
「開けてみていい?」
「あ、あぁ…。」
「?」
聞いた昴治は、珍しく歯切れの悪い祐希の答えに首をひねりながら包みを解く。
そして出てきた物を見て、さらに首をひねった。
「祐希、これ…?」
「見てわかんねぇのかよ?」
「いや、それはわかるんだけど…。」
昴治は本当に困っている。
祐希のプレゼント。
それは薄いピンクの口紅だった。
よもや口紅をもらうなんて、思ってもみなかった昴治は明らかに戸惑っている。
「っ…!あんたが悪いんだからな!」
祐希は祐希で、昴治の困りように半ばヤケクソぎみだった。
「俺…?」
「あんたが、何もいらないなんて言うから、何やったらいいかわかんなかったんだ!なのに…。」
「なのに…、何?」
最後には消え入るように小さな声になっていたが、昴治はそれを耳聡く聞きつけて問い掛ける。
軽く首を傾げる仕草がかわいらしくて。
そんなの反則だと祐希は思う。
そんな風に聞かれたら、答えないわけにはいかないではないか。
だからうつむいて表情は見せない。精一杯の抵抗。
「なんで…、なんであいつらが兄貴の欲しいモン知ってんだよ!俺の方がずっと近くに一緒にいたのに!俺の兄貴なのに!なんでだよっ…!」
泣きそうな声。
昴治はそっと祐希のきつく握り締められた手を取った。
「祐希。」
優しい声に顔を上げると、昴治が微笑んでいた。
「兄貴…」
「俺たちさ、」
言いかけた祐希に昴治の言葉が重なる。
「俺たち、もっと話をしよう?」
「…。」
「どんなくだらない話でもいい。喧嘩してた3年分取り返すくらい、たくさん話そう。」
だって…。
『言葉ニシナイト、伝ワラナイコトモアルカラ。』
そう、きっと……―。
「ね…?」
宥めるように頭を撫でている昴治を、祐希はじっと見つめた。
髪を撫でる、優しい手の感触。
なんて、愛しい人。
「わ…!祐希、何…っ?」
昴治の慌てた声に我に返る。
祐希は自分でも気付かないうちに、昴治を抱きしめていた。
そのまま昴治が大人しいのをいいことに、抱きしめる腕に力を込める。
「祐希、苦しいって…。」
「うるせえ…。」
「祐希…。」
「…黙って抱かれてろ。」
「なんなんだよ、もう…。」
言いつつも、昴治は祐希に体をあずける。
たくさん話そうと言ったばかりなのに、黙っていろと祐希は言う。
あまりの祐希らしさに、思わず笑みがこぼれた。
痛いくらいに抱きしめて来る祐希はそんな昴治に気付かなくて。
それがまたおかしくて、昴治はくすくすと笑い出してしまう。
「何笑ってんだよ。」
背中越しに声がする。
「なんでもないって。」
腕を回して抱き返してやると、祐希はそれ以上聞いてはこなかった。
しばらくそうしていたが、やがて満足したのか、祐希は軽く首筋にキスを落としてから昴治を開放する。
開放された昴治は、早速机に口紅をしまおうとした。
もちろん、祐希はそんな事をさせるつもりなんてない。
「それ…、つけてみろよ。」
「え…。」
きっと似合う。
戸惑う昴治の耳元にそっとささやく。
顔を見れば、少し困ったように笑っていて。
そしてふと悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「じゃ、これ祐希が塗って。」
「兄貴?」
口紅を手渡し、昴治は艶っぽく微笑む。
「そしたら俺、キス、したくなっちゃうかも。」
心持ち顔を上に向けて、昴治は目を閉じた。
少し不意を突かれたけれど、祐希だって負けられない。
キャップをはずして、形の良い昴治の唇に口紅をあてがう。
「キスだけかよ?」
「それ以上は…そうだな、祐希の塗り方次第かな…?」
「だったら今夜は眠れない…だろ?」
「さあ、どうかな…?」
不敵に微笑む桜色の唇に深く口付けて。

そこから先は、二人だけの秘密……ね?


END


※この話は、4月8日のオンリーの時に置かせていただいたチラシに載せたものです。
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そのうちこの話の後日談アップします。→UPしました こちら から

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