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それは優しい翼をはためかせて私を脅かすもの。







そこはうっそうと茂る木々に覆われていた。
一度足を踏み入れれば二度と出ることの出来ないような、そんな深い森。
午後をまわり陽が傾きかけた今でも、地表に届く光の量はわずかで。
日陰を好むシダやコケたちがわずかに吹き込む風に揺れて、
かすかな囁きを森中に広げた。
草と木と虫と。
他に聞くものはない。
ないはずだった。

その少年がいなければ。

秀麗な顔に表情はなく、けれど立つだけでそこに一際の存在感。
死んだような森のなか、唯一積極的な生の享受を許されたもの。
ふと顔を上げる。




それは予感だったのかもしれない。




1
すくなくとも。
自分が外へ出たときには何もなかったはずだった。
特に、こんな森の奥深い所には人間などいるはずがない。
自分以外には。
けれど。
彼はもう一度それを見下ろした。
小さな木の小屋。
立派なものではないけれど、しっかりとした作りのその小屋の前。
ドアを塞ぐように倒れているのは、一人の少年だった。
多分、自分と同じか少し下だろう。
少年と知れたのは、纏うシャツのはだけた胸元が男のものだったから。
そうでなかったら少女であると思ったかもしれない。
華奢な体と、やや白味の強い肌。
乱れた薄い茶色の髪が、長い睫毛を隠すようにかかっている。
かすかに上下する胸の動きに彼はわけもなく安堵した。
生キテイル。
「おい。」
しゃがみ込み軽く身体を揺さぶる。
「おい。」
もう一度呼ぶが、目覚める気配はない。
ただ苦しげに浅い呼吸を繰り返している。
抱き上げて、小屋へ。
どうしてそうしたのかわからないけれど。
目測よりだいぶ軽い体は、少し暖かかった。


少年を一つしかないベッドに運び、彼は少年を改めて見た。
外にいるときには気づかなかったが、体のそこかしこに大小の擦り傷がある。
特に足は、長い距離を裸足で走ってきたように血にまみれていた。
何か事情があるらしい。
だが、もし何も怪我などなかったとしても、
人の寄り付かない森の奥にこんな軽装で倒れていたのだ。
それだけでも何か切迫した理由を感じるには充分だった。
ふと頭をよぎる。
人売りかもしれない。
都会では愛玩用に子どもを買う金持ちもいると聞く。
少年の容姿ならそれもありえなくはないと、彼は思った。
とはいえ結局、少年が目を覚ますまではどうと知ることも出来ない。
しかたなく、彼はタオルと水の入った桶と、
そして手当てに必要なものを持ちより少年の傍らに腰を降ろした。


手当てを終えても、少年は目を覚まさなかった。
落ち着かない。
けれど狭い小屋には部屋は一つしかなくて。
どこへ行くわけにもいかず、
彼は適当にイスに腰掛けて見るともなしに少年を眺めた。
どのくらいそうしていたのか。
微かな物音にふと顔を上げた。
見れば、少年が意識を取り戻したらしい。
少年を見つけたときにはまだ太陽が出ていた空も、
もうすっかり濃紺に染まり夜の闇に口を閉ざしていた。
何度も瞬きをして、ぼんやりと辺りを見回している。
「気が付いたか。」
声をかけると、ゆっくりと顔をこちらに向ける。
瞬間、彼は胸がうずくような感覚を覚えた。
今まで瞼に隠されていた、深い青色の瞳が自分を見ている。
それは外の闇が意思を持ったような強さで彼を捉えた。
引き寄せられるように近づいて、少年を見下ろす。
一瞬顔を掠めた何かを期待するような表情は、
しかしすぐに微かに伏せられた瞳と共に消えた。
「ここは…?」
か細い声が聞こえた。
思わず身を震わせる。
「俺の家だ。アンタは家の前で倒れてた。」
誰かと話すのはずいぶんと久しぶりだというのに、
彼は意外にすんなり言葉が出てくる自分に驚いていた。
「あ…ごめんなさい…。」
慌ててベッドから降りようとする少年を無言で制して横にさせる。
「まだ無理だ。ケガをしてる。」
包帯に包まれた両足はひどく皮がむけてしまっていて、
しばらくはマトモに歩けそうにない。
気付いてしまったら傷が痛むのか、少年は手でそっと足を撫で顔をしかめた。
「アンタ、名前は?」
「…こう、じ…昴治。」
「昴治だな。俺は祐希だ。」
「祐希…。」
瞬きをしながら、小さな唇で自分の名を紡ぐ。
その姿に、わずかに覚える妙な既知感。
「ありがとう。」
微かに微笑む少年に心がキシと痛んだ。
「何でこんなところにいた?」
「…わからない…。でも、約束をしたから…。」
「誰と?どんな約束だ?」
「……わからない…。」
「…どこから来たんだ?」
「…。」
うつむいて首を振る少年に、彼は知った。
記憶喪失。
少年には自分の名前と、何か約束をした記憶のほかには何もない。
「これからどうする。」
どうするあてもないのは彼にもわかっていた。
だから、途方にくれる少年に彼は言った。
「行くところがないなら、ここにいればいい。」
弾かれたように、少年が顔を上げる。
「嫌か?」
静かに問うと、少年は少しの逡巡のあと微かに首を横に振った。
「決まりだな。今からここがアンタの家だ。」
どうしてそんな事をしたのか、彼は自分でもよくわからなかった。
けれど、そうして少年は彼の同居人になった。






---------------------------------補足ぅ!
ということで、連載ものです。
本業(のつもり)のファンタジー風になったようで…
しかし、実は何も考えていないのでこのあとどう展開するか
自分でもわかりません。 気分次第でしょうか(サイテー)
とりあえず祐×昴で、イクミとかも出てくる予定。
でも痛いか、ハッピーエンドかは不明。(ダメダメ自分)
ところでこのタイトルは望月の好きなとある作曲家の曲のタイトルです
さてとある作曲家って誰でshow!(テンションあげてみたり)
吹奏楽をしたことのある方ならきっと一度はこの作曲家の曲を
演奏したことがあるハズ! 同士求む!(苦笑)

…っつーか、自分雰囲気ぶち壊しィ(^^;


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