リヴァイアス昔話
Sion.Mochizuki
むかーし、むかし。
あるところに、祐希という名の少年がおりました。
祐希は農家の次男坊として生まれましたが、父と母を早くになくし、 たった一人の肉親である一つ違いの兄昴治と二人で そりゃもう仲良く暮らしておりました。
仲が良すぎて恋人になんてなっちゃったりしたのですが、 それこそ祐希の望むところであったので、 常識人の昴治が悩まないよう上手く言いくるめて 幸せにらびゅらびゅバカップルしておりました。
今日も祐希はいつものように農作業に精を出します。
兄と二人で食べるための野菜作り。
精も魂も込めるってもんだせ、オラァ!って感じです。
鍬を休めふぅと顔を上げると、 しゃがみこんで雑草取りをしている昴治が目に入りました。
昴治は昔事故に遭い、右腕が肩から上に上がらなくなりました。
それ以来、体力もあまりなくなってしまったので、 祐希は本当は家にいさせてやりたいのですが、 なにぶんこの村には悪い虫が多すぎて心配なので、 こうして一緒に畑に来て目の届くところで作業しています。
今日は日差しも強く、体力のない昴治には少し辛いかもしれません。
「兄貴、少し休もうぜ。」
声をかけると、昴治は顔を上げて微笑みました。
「そうだな。今日は祐希の好きなきびだんご作ってきたから…。」
言いながら立ち上がった昴治は、急に動いたせいかふらりとよろめきます。
「兄貴!」
祐希は目にも止まらぬ速さで駆け寄り、兄の身体をしっかりと支えました。
具体的に言うと、がばっと抱きしめました。
「大丈夫か?」
「うん…ちょっとくらっと来ただけ…。」
「無理すんなよ、アンタ体力ないんだから。」
「…ごめん、俺…。」
「謝んなよ…。」
「でも…。」
「言うなよ…。」
見つめ合う二人。
頼むからもう少し周りを見てくれという気もしますが、 二人はらびゅらびゅバカップルなのでそんなことは気にしません。 全く気にしません。 至って気にしません。
「祐希…。」
「兄貴…。」
見つめ合う二人の唇が触れようとしたその時。
一際強い風が吹いて、祐希は咄嗟に目をつぶりました。
風がやんで目を開けると、 ほんの一瞬前まで自分の腕の中にいた昴治がいないではありませんか。
「兄貴っ!」
はっと顔を上げると、 そこにいたのはなんとイカ山の頂上のお城に住む 魔王ネーヤでした。(登場BGM:「魔王(シューベルト作)」)
昔話になんで魔王? とお思いでしょうが、そこはそれ、和洋折衷ということで…ねぇ。
「コウジ、ネーヤと来ル。」
魔王ネーヤの腕の中には 気を失ってぐったりしている昴治の姿があります。
「てめぇ!兄貴を返しやがれ!!」
「いや。」
ネーヤは祐希を冷たくあしらって、昴治を連れ去ってしまいました。
「兄貴―――!!!」
イカ山へ飛び去る魔王ネーヤを、祐希はなす術もなく見送りました。
「兄貴、ごめん!!俺、俺…っ!!」
必ず守ると約束したのは、つい昨日のことです。
というか、毎夜のことです。
『祐希…』
大きな瞳に涙をためて頷いた昴治の姿を思い出します。
『俺、信じてる。』
その瞬間、祐希は立ち上がりました。
諦めるつもりはありません。
最後の最後まで、抵抗しつづける。
全力で現状を打破する。
それが祐希の生き方なのです。
どこかで見た文…とか突っ込んではいけません。
間違っても、小説版リヴァイアス(1)のP179に載ってたとか言ってはいけません。
とにかく、祐希は必ず昴治を助けると心に誓いました。
そうとなれば、善は急げです。
祐希はそのままイカ山へ向かって歩き出しました。
もちろん、昴治の作ってくれたきびだんごを持っていくのは忘れません。
真っ先に『俺が食べさせてあげるvはい祐希、あ〜んしてvv』ってしてもらうのです。
にへらと笑う祐希でしたが、ふと我に返って不安な点があることに気付きました。
祐希は一人です。
さっきも、祐希は魔王ネーヤに全く歯が立ちませんでした。
今度は不意を突かれたりはしませんが、もしかしたら敵わないかもしれません。
自分と昴治のらびゅらびゅな生活のために、 魔王を倒す駒が必要だと祐希は考えました。
(普通、人はそれを仲間と呼びますが、祐希にそんな概念はありません。)
さて、どうしたものかと考えていると
「あっれ〜、祐希クンじゃん!なにしてんのぉ?」
背後から掛けられた声に祐希はいまいましそうに振り向きました。
「おっはーv」
片手を上げて近づいてくるのは、この辺りの地主の嫡男である尾瀬イクミです。
祐希はしめしめと思いました。
飛んで火にいる夏の虫とはまさにこのことです。
「なぁ、アンタ。」
話し上手な相手のペースに飲まれる前に、先手を打ちます。
「なにー?」
「俺は魔王を倒す。アンタ、手伝う気ねぇか?」
極力友好的に話し掛けました。
「…祐希クン、急にどうしちゃったワケ?熱でもあるんじゃない?」
「どうでもいいだろ!手伝うのか手伝わねぇのか、どっちなんだ!」
友好的態度は1分も持ちませんでした。
イクミはふむと考えるようにしたあと、ふと顔をあげました。
「手伝ってもいいけど、…これは?」
「あ?」
イクミはこれこれ、と親指と人差し指で輪を作ります。
「やだなぁ、世の中ギブアンドテイクでしょ? 君のためにボクちゃんがただ働きなんて理不尽だと思わない?」
祐希は地主の嫡男が農家の息子に金を要求する方が理不尽だと思いましたが、 黙っていました。
一刻も早く、昴治を助けに行かなければならないのです。
祐希は困りました。
お金なんて、持っているわけがありません。
いま、自分が持っているものといったら…
「これしかねぇ。」
祐希は昴治の作ってくれたきびだんごを渋々イクミに差し出しました。
イクミはそれをみてふふんと笑います。
「やだなぁ。いまどきそんなの、子どもでも効かないよ?」
「…っ!」
イクミのあんまりな言葉に祐希はぷっつんキレてしまいました。
これはただのきびだんごではないのです。
昴治が祐希のために作ってくれた、(そして真っ先に『俺が食べさせてあげるvはい祐希、あ〜んしてvv』ってしてもらう予定の)大切なきびだんごなのです。
もとより(昴治以外には)気の短い祐希のこと。
駒にしようと思っていたものすっかり忘れて怒ってしまいました。
「…もういい!アンタには頼まねえ!俺は俺だけの力で兄貴を助ける!」
イクミに背を向けて歩き出します。
その祐希をイクミが呼び止めました。
「ああー!ちょっと待った!!」
「…なんだ。」
用はなしと判断した祐希の声は非常に冷たいものでしたが、 イクミはまったく動じません。
「魔王を倒すって、つかまっちゃった昴治くんを助けに行くんだ?」
「…だったら何だって言うんだ。」
不審そうに祐希はイクミを見ます。
「尾瀬イクミ、喜んで協力させていただきまぁっスvv」
態度を豹変させたイクミに、祐希は驚きます。
「ただ働きはしねぇんじゃねえのかよ。」
「『君のためには』って言ったデショ?昴治くんのためなら話は別デ〜ス。」
ちちち、と人差し指を振って言うイクミ。
しまった、と祐希は思いましたがもう後の祭りのようです。
イクミが兄を狙っていることを、祐希は失念していました。
イクミの顔には『何があってもついてって、昴治くんは俺がゲッチューだぜv』とあります。
仕方がありません。
祐希はイクミを連れて行くことにしました。
なんなら後で、魔王を倒すドサクサに紛れて殺ってしまえばいいのです。
それこそ一石二鳥だぜ、と祐希は考えました。
「よし、行くぜ。」
「おっけい♪」
それぞれの思惑を胸に、二人は並んで歩き出しました。
しばらく行くと、道端の木陰に寝転んでいる人影をみつけました。
「あ、あれって大将じゃん!」
イクミが言います。
祐希は不機嫌そうに眉をよせました。
そこにいたのはこの辺りの不良たちを一人でまとめる実力者、 エアーズ・ブルーでした。
村では密かに「大将」と呼ばれて怖れられています。
しかし、なぜか時々祐希のいないときに昴治に会いに来るらしく、 大好きな兄は『悪い奴じゃないんだよ』なんて言って笑うのです。
祐希はエアーズ・ブルーが大嫌いでした。
だから無視して通りすぎようと思ったのに、 イクミはいつもの調子で声をかけてしまいます。
「おっはーv大将元気ィ?」
「…どこへ行く?」
「てめえには関係…」
「昴治くんを助けに、魔王を倒しに行くんで〜っス。」
ぺらぺら話すイクミに祐希は詰め寄りました。
「てめぇ!何のつもりだ!(←小声)」
「まあまあ落ち着いて!大将実力あるじゃん。力になってもらったら?(←小声)」
「なんであんな奴なんかに!(←小声)」
言い合う二人をよそに、ブルーはすっくと立ち上がりました。
「俺も行こう。」
怖れていた通り、ブルーは一緒に行くといいます。
「そうこなくっちゃ!よっ大将、男だね!」
「…。」
仕方なく、祐希は悪い虫を二匹とも連れて魔王の元へ向かいました。
その旅路は大変なものでした。
魔物が次々と襲ってきます。
彼等が来るのを知っていたかのようです。
イクミはお得意の弓矢で、ブルーはよおろっぱ直輸入のてつはう(鉄砲)で、 祐希は名刀「武羅昆」で立ち向かいます。
「…って、ちょ、ちょっと祐希クン?」
「なんだ。」
「や〜あのさ…普通農民の武器って言ったら鍬か鋤か竹槍でしょ? 何カタナなんて使ってるわけ?しかも名前まで。」
困惑気味のイクミに祐希はフンと鼻をならしました。
「てめぇ、いつの話してんだよ。」
…だからむか〜し、むかしの話ですってば!
とにかく、そんなこんなで3人は夕方には魔王のお城へ辿り着きました。
大変な旅路だったのでは?とお思いでしょうが、
自宅から近い山ですので何日もかかったりはしないのです。
決して作者の都合とかではありません。
「ここか…。」
祐希は大きな扉を勢いよくあけました。
「出てきやがれ、魔王!」
しかし、玄関のホールには誰もいません。
しーん…。
少し待っても誰も答えません。
「なにやってんの?」
イクミが尋ねると、祐希は当然といった様子で答えました。
「なにって…扉を開けたら階段の上から 『はっはっは、キミ達が来るのはわかっていたよ』とか言って、 マントをたなびかせながら降りてくるのがセオリーってもんだろうが。」
どうやら小説の読みすぎのようです。
イクミは色々ツッコミたい事もあったのですが、 こんな所で命を危機にさらすのもどうよ?と思い黙っていました。
替わりになんと答えるべきか考えていると、
「ピンポーン♪」
場違いなチャイムの音に二人は振り向きました。
二人を放っておいて辺りを探索していたブルーが、壁にあるボタンを押したのです。
その上には『御用の方は押して下さい。』とかかれていました。
「はっ!そんなもんで出てくるわけが…。」
「ハーイ。」
「!!」
真顔のブルーを笑いかけた祐希でしたが、 奥から聞こえた返事にぎくりと体を強張らせました。
振り向けば、ギギィと軋んだ音を立てて正面の扉が開くではありませんか。
「常識とは時に人の自由な発想を縛るものだ。」
得意げ(に祐希には聞こえました)なブルーの言葉に、 祐希はちょっとむっとしました。
「行くぞ!」
ブルーをきつく睨みつけてから、奥の扉へと向かいます。
すると、
「あれ、お客さん?」
今度は聞き覚えのある愛しい声が、のんきに響きました。
祐希ははっとして部屋に飛び込みます。
「兄貴!」
そこで見たものは信じられない光景でした。
明るく綺麗に飾られた部屋の中。
大きなテーブルに色々なお菓子が並んでいます。
そしてイスに行儀良くすわりお茶を飲んでいた兄がふり返りました。
「あれ、祐希?イクミとブルーも。どうしたんだ?」
のほほんと笑う昴治でしたが、 その後ろにいた魔王が凄い形相で舌を鳴らすのを、 祐希は見逃しませんでした。
「どうしたって…兄貴こそなにやってんだよ!」
叫んだ祐希に、昴治はきょとんとして言います。
「お茶してるんだよ。ね、ネーヤ。」
「ウン。コウジトオハナシ。」
昴治が振り返って微笑んだとたん、魔王はあどけない表情で微笑み返しました。
相当なやり手のようです。
「騙されてんじゃねぇよ!そいつは魔王なんだぞ! あんた、攫われたってわかってんのかよ!」
必死で叫ぶ祐希でしたが、 大切な兄はそんな祐希の気持ちをわかってくれません。
「なんてこと言うんだ!ネーヤがかわいそうだろ!」
急にぽろぽろと涙をこぼし始めた魔王を見て、昴治は怒ってしまいました。
しかし、祐希は昴治の背中越しに、 魔王がべーっと舌を出したのを見ました。
「祐希!」
昴治は真っ赤な顔で祐希に詰め寄ります。
昴治は普段は優しいのですが、その分怒ると大変なのです。
仕方がありません。
祐希は対昴治用の最終手段に出ました。
必殺『ちょっとシュンとして上目遣いでだってお兄ちゃん…』攻撃です。
「だって…兄貴が急にいなくなったから…俺……。」
「祐希…(きゅんv)。」
昴治はMP(胸キュンポイント)3000のダメージです。
「兄貴が傍にいないと、俺…俺…っ。」
「祐希…っ!」
祐希の泣きそうな声に、昴治は慌ててイスを降りました。
ですが大きなイスなので少し足が届きません。
えいと飛び降りた昴治でしたが、着地の際バランスを崩してしまいました。
「兄貴!」
慌てて駆け寄った祐希にふわりと抱きとめられます。
「バカか!危ないだろ!」
「あ…ゴメン。」
ばつの悪そうな昴治を、祐希は強く抱きしめました。
「心配…したんだからな。」
「うん…。」
「無事でよかった。」
昴治もそれに答えるように胸に顔をうずめました。
後ろで魔王が凄い迫力で睨んでいますが、 昴治が腕の中にいる今、怖いものは何もありません。
ブラコン祐希の愛の勝利です。
「帰ろうぜ。」
昴治を支えて立ち上がります。
「コウジ、帰ッチャイヤ!」
魔王ネーヤが食い下がりますが、昴治は少し困ったように微笑みました。
「ごめんね。もう帰らなくっちゃ。またお茶しようね。」
「コウジ。」
「今度は祐希やイクミ達も一緒に、ね?」
「…ウン。」
「じゃぁ、またね。」
「バイバイ、コウジ。」
またね、という言葉が気になりましたが、 祐希はとにかく昴治をこの手に取り戻し、無事に帰路につきました。
その後、二人はたびたび邪魔者が入ったりするものの、 ずっと幸せにらびゅらびゅバカップルしたということです。
もちろん、例のきびだんごも「あ〜んしてvおいしい?」ってしてもらったそうです。
めでたしめでたし。
あ、そうそう。
ひとつ忘れていました。
「ねー、大将。」
「なんだ。」
後半すっかり取り残されてしまったイクミは、 同じように取り残されたブルーに問い掛けました。
「俺たち何しに来たんだと思う?」
「バカップルのらびゅらびゅ度を増進させるため…だな。」
「あ〜あ、昴治くんは俺がげっちゅーしようと思ってたのにィ。」
「夏草や…ツハモノどもガ……ユメのアト……。」
魔王ネーヤのぼやきに見送られて、二人も帰路につきましたとさ。
めでたしめでたしv
「ふにゃー!今度はイクミ君がカッコよく昴治くんをげっちゅう! な次回予告をつくるですよー!」
おしまい。
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