それが僕等の日常トントントン… 心地良い音に、祐希は身体を起こした。 かちゃかちゃ、ザザー… 階下から響くその音。 誘われるようにして祐希は部屋を出た。 階段を降りて、真っ直ぐ向かった先は台所。 思ったとおり、そこに立って朝食の準備をしているのは、兄の昴治だった。 右手が思うように動かないものの、手際よく支度を進めている。 突っ立って見ていると、振り返った兄が祐希に気付いて微笑んだ。 「おはよう、祐希。」 こくりと頷いて傍による。 「お腹すいただろ?今準備してるから。」 笑う昴治に、背中から抱きついた。 きゅうと抱きしめて目を閉じると、石鹸の香りがほのかに鼻腔をくすぐった。 「料理してるんだから、くっつくなよ。」 迷惑そうなのを無視して、甘えるように体重をかける。 兄は無理に振りほどこうとはしない。 「はぁ、もう…仕方ないな。」 言いながら、カウンターにお皿を置いた。 ホカホカと湯気を立てているのはアスパラと鶏肉の炒め物。 あっさりで朝食にはよさそうだ。 しかし、よく見ればそのほかにも昴治は結構作っているようだった。 テーブルの上にはシーザサラダ。 コンソメスープの入った鍋はコトコトと音を立てている。 そして当の昴治は、フライパン片手にご飯を炒めていた。 それは祐希の好きな、レタスとベーコンの炒飯だったのだけど…。 「アンタ、朝からこんなに食う気かよ…。」 げんなりして言うと、昴治は呆れた顔で祐希を見た。 「なんだよ…。」 「おまえな…今何時だと思ってるんだ?」 言われて時計を見る。 「ハッホー♪」 同時に母の趣味らしいレトロな鳩時計が鳴いた。 「…。」 「もう1時だぞ。おまえ、寝すぎ。」 苦笑する昴治に、祐希はぷいと顔をそむけた。 いいじゃないか、せっかくの休みなんだから。 むしろ休みまで朝から起きだして、掃除をしたり洗濯をしたりと こまごま働く昴治の方が祐希には理解不能だ。 それでも、そんな昴治のおかげでこの家が綺麗に保たれていることを 知っていたので不満の言葉を飲み込んだ。 昴治は気付いているのかいないのか、再び炒飯をいためている。 ぼんやり見ていると急にお腹が空いてきた。 カウンターの上には食べてくださいと言わんばかりに料理が置いてある。 ひょいと手を伸ばして口に放り込んだ。 …うん、うまい。 そのままパクついていると、不意に昴治が振り返らずに手を差し出した。 「祐希、そこのお皿とって。」 祐希は少し考えてから、お皿をその手に乗せる。 サンキュ、なんて受け取ったこうじだったが… 「って、祐希っ!まだ食べちゃダメじゃないかぁ!!」 祐希が渡したのは今さっき料理を載せたはずのお皿で、 それが綺麗に空になっていた。 「どうせ食うんだ、いいじゃねぇか。」 「そういう問題じゃないっ!」 祐希は悪びれるでもなくしれっとして兄をみる。 怒る昴治は少し涙目になっていた。 それがかわいいなんて言ったら、もっと怒るだろう。 素直じゃないとぼやくくせに、素直になったらなったで文句を言うのだ。 理不尽ではないか。 「祐希!聞いてるのか!」 ふと意識を戻すと、昴治はまだ怒っている。 「一緒に食べようと思ってたのにっ。」 「…あ?」 「あ?じゃないっ!」 さらに言い募る昴治を、祐希はきょとんとして見た。 なんだ、そんなこと。 口の端を少し上げて、祐希は兄に一歩詰め寄った。 そのまま昴治が行動を起こす前に抱きしめて唇を重ねる。 「んんっ…!!」 コンロを手探りで止めて深くその吐息をむさぼる。 次第に力が抜けてくる昴治の身体を追うようにして、そのまま床の上に倒れこんだ。 「ふ…っん……」 夢中で深いキスを繰り返していると、ぽかぽかと頭をたたかれて。 祐希は渋々その唇を放した。 「お、まえ…いきなり……なにすん…ごほっ」 涙を目にいっぱい溜めて、激しくむせている。 潤んだ目元にキスを落として。 「一緒に食うんだろ?」 耳元で囁いた。 昴治が怒鳴る。 「俺が言ってるのは食事のことだろ!」 「どっちだって変わんねぇよ。」 「ちがうだろ!だってこっちはお前が一方的に…っあ!」 自分の口走った言葉の意味深さに気付いた昴治が真っ赤になる。 祐希はにやりと笑った。 「一方的なんだ…?ふぅん…。」 「あ、あのさ祐希…。ごはん冷めちゃうからさ…な……?」 話をそらすように昴治が言う。 が、祐希がそれを許すはずもなかった。 「そうだな…。」 言って、ほっとする昴治のシャツのボタンをはずしてゆく。 とたんに硬くなる体を押さえて、胸元に口付けた。 「ちょっ…祐希…あ、やだって!」 紅い痕をつけて顔をあげる。 震える昴治の顔を上から覗き込んで、祐希は嬉しそうに笑った。 「イタダキマス。」 「や…こんな昼間からやだぁ〜〜〜!!!」 ばたばたと暴れる昴治を祐希はそのままいただいてしまった……。 -------------- Just a moment, pleasevv -------------- 枕に顔をうずめて、昴治は小さく悪態をついた。 全身がだるい。 特に下半身の鈍い痛み。 今日は天気がいいから、洗濯したり掃除したり いろんな事をしてしまおうと思っていたのに。 「できなくなっちゃったじゃないか…。」 料理だって、とっくに冷めてしまっているだろう。 唇を尖らせて全ての元凶に目をやる。 自分にすがりつくようにして、眠っている弟。 自分と違う少々固めの髪が素肌に触れてくすぐったい。 「ばぁか。」 解けた後ろ髪を軽く引っ張る。 ううん…とうめいて、祐希はさらに強くしがみ付いてきた。 「うぅ…もう苦しいって…。」 苦笑して、それでもその腕を振りほどくことはしない。 傍にいると決めたから。 強すぎる想いに呑まれそうになったけれど、流されたわけではなく。 受け止めると決めたから。 だから今、こうしてここにいる。 「不安がってばっかりいないでさ、少しは俺の言うこともきけよな…」 髪を梳きながら、眠っている耳元に囁く。 「ずっと一緒にいよう。大好きだよ、祐希。」 そのとたん、祐希が勢いよく起き上がって、昴治ははっと身を硬くした。 「ゆ、祐希!あの今のは…ぅん……っ」 激しく口付け、強く抱きしめられる。 起こしたかと焦る昴治。 今でさえこんなにだるいのに、これ以上なんて本当に起き上がれなくなってしまう。 必死で弟を引き剥がそうともがいていると、ふと祐希の動き止まった。 「…祐希?」 いぶかしむように声をかける。 しかし、祐希はそのまま何もなかったかのように またすやすやと気持ちよさそうな寝息を立て始めた。 「なんだよ…寝ぼけてたのか…?まったくっ…ふふ…あははっ…」 なんだか無性に可笑しくて笑いが押さえられなかった。 堪える気にもならなくて、ひとしきり笑って、それでも眠っている祐希にまた笑う。 「普通眠ってまでそんなことするか…?」 でも、それを嬉しいと思う。 これも一つの愛のかたち。 だから今日は、特別にもう一度言うよ。 「大好き。」 2000hit thanksv
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またしても遅くなりました、望月です。
キリ番2000はすぶたさまの
リクエストで書かせていただきました。
・祐希×昴治でらびゅらびゅv
・昴治が料理をしている所に、祐希がつまみ食いに。
・料理だけじゃなく昴治もつまみ食い
というリクエストだったのですが…
つまみ食いというより、完全にいただいちゃってます。
そしてまた激甘です(泣)
望月の書く祐希って結構幸せだよなぁ、と思ったり。
逆に尾瀬、ゴメンって感じです。
ところで、実はこの話いつもの話の
3分の2しか長さがないのです!
しかもいちばんはじめに書いたとき(wordですが)
2ページで綺麗にまとまってしまって…
心苦しさのあまり背景とか作ってみました(爆)
すぶたさまキリリクありがとうございました。
よろしければ背景ごと お納めくださいませ。
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