人はそれぞれ別の生き物だから、全てを分かり合うことは出来ない。
だけど、わかりたいと努力は出来る。
それは自然に生まれてきて、自分で育てるもの。
誰かを思い遣る事、それを愛と呼ぶのかもしれない。
自分をどう思っているか
『ボロクソに思ってんだろうが』
はぁ と祐希は溜息をついた。
想像は妄想を生む。
ミラーハウスのように角度を変え形を変え廻る推測
=昴治が自分の事をどう思ってるかとか、自分がこう言えばこんな反応をするんじゃないかとか=
は、しかし所詮自分の返答域から出ることは無く、
実際に口にしてみれば予想外の反応が返ってきたりする。


〃One day〃
「あ、兄貴は・・俺の事どう思う?」
返る沈黙に、認めたくは無いが内心怖くてぎゅっと瞑っていた目を開けてみれば、
昴治は顎に手を当て真剣に考えている。
「・・・っ」
期待と不安の嵐に内心翻弄されながら、祐希にとっては長い時間を経て昴治は口を開いた。
「随分大人になったと思う。実力は前から大人顔負けだったけど、最近はケンカもあまりしなくなったし・・って、祐希?」
目の前で項垂れる祐希に昴治は焦る。
昴治にしてみればやっと祐希も好きな娘(昴治はカレンじゃないかと予想はしている)の反応が気になりだしたんじゃないかと思ったのだ。
『やっぱ、気に障ったかな。殴られる・・かも・・・でも、それでも言いたい』
「兄貴風吹かせてるって祐希は思うだろうけど、これだけは言わせてくれ」
昴治は一息ついてから微笑むと、祐希の胸に軽く拳をあてた。
「お前さ、いいおとこになれよ。素質あるし、折角男前なんだしさ」
照れたように笑うと昴治は足早に立ち去った。
そして、祐希は
「どう取りゃいいんだよ」
頭を抱えてしゃがみ込んだ。


〃Other day〃
「兄貴は、俺をどう思ってる?」
前とは微妙に違うニュアンスを込めて祐希は再戦する。
しかし、殴りかからんばかりの勢いで問われても、昴治には返答のしようが無い。
思わず半歩、昴治は後退っていた。
かつてならもっとハッキリ距離を広げただろう。
これは祐希の努力の成果(と昴治の成長)だが、当の祐希にしてみれば、未だ逃げられるのは気に入らない。
途端、以前の不機嫌な表情が戻り、昴治は顔を引きつらせた。
困ったように視線を泳がせた後、昴治は張り付いた笑顔でおずおずと口を開いた。
「ゆ・祐希は、髪の毛・・伸ばしてるのかなぁって、はは」
『わざとかよ!?』
この兄がそんな器用に誤魔化す訳無いとわかっていても頭をかいて力なく笑う昴治に、祐希は目を眇める。
「あおいがっ、兄貴に髪伸ばせって言われたって・・。髪、長い方が兄貴の好みじゃねぇのかよ!?」
半ばヤケで、でもわかってくれと期待を込めて言った祐希に、昴治は別の個所で目を見張った。
『ああ、そういえば地球に帰還する時言ったっけ。あれ?でも!?』
思い出してる昴治に祐希は舌打ちする。
『これだけ言ってもまだわからないのかよ』
言葉が足りないのは祐希にも判っている。
だが、伝えるには勇気がいる。
好きな人を前にしては祐希もただの人間なのだ。
恥かしさと、不安と、期待と、それぐらい悟って欲しいという甘えと、恋は勇者や英雄もひとりの人間に戻してしまう。
かくも恋心は繊細で、静かに葛藤している祐希を、昴治が不思議そうに見上げてきた。
「じゃ、あおいに言われる前は?前から長かっただろう!?」
「あれは嫌がらせだ」
言ってから祐希ははっとしたが、もう遅い。
瞬間、昴治の動きが止まる。
「嫌がらせか・・。で、あおいに言われて止めたんだな」
どうしてそうなる!?
祐希は内心うろたえるが、今までの意地が邪魔をしてソレを表せない。
「祐希が俺を嫌ってる事はわかったよ。」
ちっがーう!
心の叫びは口から出ない。
昴治の誤解に身動きすら取れない。
重く暗く祐希の頭上に暗雲が垂れ込めていく。
祐希の沈黙をどう取ったのか昴治はゆっくり目を伏せた。
「でも、俺はお前に感謝してるけどな。
お前が、いてくれて良かったよ」
優しい笑顔で本当にそう思っていることが解る口調で、昴治の口から零れた言葉に祐希は眼を見開いた。
ソレはゆっくり祐希に染みて、見栄や焦燥を溶かしていく。
昴治の姿が見えなくなると祐希はひっそり目を伏せて、己が拳で頭を叩いた。


〃3度目の正直〃
「いいところも、悪いところもひっくるめて、俺はっ、アンタが・・好きなんだ!兄貴であるアンタも、昴治であるアンタも全部欲しい」
廊下を歩いていたら無言で引っ張られ、連れて来られた人通りの少ないエリア。
歩いている間閉ざされていた口がやっと開いたと思えばのセリフに、昴治は脱力する。
「俺は物じゃないぞ」
「だからっ!欲しいってのは、傍に居て欲しいって事だろうが」
乱暴な言葉と裏腹に祐希は泣きそうな顔をしていて、昴治は大きく溜息をついた。
「本気、なんだな!?」
これを冗談でかわすほど昴治は大人じゃないし、弟の真剣<まじ>に気付かないほど冷たくも無かった。
覚悟を決めたように頷く祐希。
「わかった」
「!。それって・・兄貴」
「だけど、兄弟なんだから。お前が縁切りしない限り、どこにいても繋がってるぞ」
真剣には気付いても、想いには気付けないところが昴治のらしさ鈍感。
額面通り受け取った昴治の〃らしさ〃に祐希はまた、しゃがみ込んだ。


〃さらなる あした〃
祐希の手のひら、カレンが押し付けた音楽チップから古い歌が流れ出す。
本当は悲しいほど誰でも知ってるけど
人は一人きりで 生まれて来る事を 人は一人きりで 帰ってゆく事を
だから淋しくなる だから逢いたくなる とても愛しくなる とても大事になる
「へぇ。随分と、古い歌だな」
振り返った先に祐希の涙を見て、昴治は動きを止めた。
切なくて愛しくて痛くてでも失いたくなくて、祐希は昴治を抱きしめる。
祐希の動きをスローモーションのように昴治は思う。
『キレイだな』
映画を見ているようだ。
抱きしめられるのを人事のように昴治は感じた。
だが、首に回された腕も、肩口に埋められた顔も自分を包み込む体も温かくて。
昴治は祐希の背に手を回した。
『鼻がつぅんとする』
昴治は瞳を閉じた。
歌が終わっても、二人は抱き合ったまま佇んでいた。



††御礼††
祐希またまた頑張ってますねぇv
でも、昴治が…(笑
最後のシーン凄く良かったデス!
もう祐希ーー!昴治ーー!
って叫んでしまうくらい!
いけっ!祐希!ソコで押し倒すんだよ!!
と思ったのはワシだけですか?

FROM 八甲田吹雪
祐希が勇気を出して(洒落ではない…)
伝えようとしているのに
全く気付かない激ニブ昴治がツボですわっvv
最後には言葉ではなく心がほんのり伝わったようで
良かったにゃ〜とほっとしました(笑
嬉しさのあまり、変なロゴを勝手に作ってしまいましたが
よろしければ心ばかりのお礼とさせてください(^^;
七月さま、本当にありがとうございました!
FROM 望月シオン
 



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