甘いケーキの物語。



シーン1―そもそもの始まり。

「サフィ〜さぁ〜〜ん!」
能天気な声が自分を呼んだ。顔を上げると、プラムが肉球をきゅっきゅと言わせながら駆け寄ってくる。
「プラムさん、こんにちは。」
少し腰をかがめ目線を合わせると、プラムがにっこりと笑って言った。
「サフィさんはいまいそがしいですか?」
「私、ですか…。特に忙しいという訳ではありませんけど、それが何か?」
急にそんな問いかけをするプラムに首を傾げる。プラムは何かを企んでいるらしく、
誤魔化すようにえへへと笑った。
「でしたら、お願いがあるのです。」
「なんでしょう?」
私にできることでしたら、と遠慮気味に返すと、プラムはこくりと頷いて言った。
「またケーキの作り方を教えてほしいのです。」


シーン2―そして戦場へ。

「で、どんなケーキを作りましょうね?」
厨房に移動し、エプロンを身に付けたサフィルスがプラムに問う。
プラムもサフィルスの割烹着を借り、腕まくりをして気合は充分。
「はい!あま〜くて、おいし〜いケーキがいいのです!」
「…そうですね、ケーキは大体甘くておいしいものですけど…。苺のショートケーキにしましょうか。」
「はいです!」
無難なところで、サフィルスは答えた。
それに新しいケーキを教えるよりも、一度作ったことのあるものの方がうまくいく率は高い。
…以前のものがショートケーキと言えるとすればの話だが。
「じゃあ、今度は砂糖を入れすぎないように気をつけてくださいね。」
牽制するつもりで言ったのだが、え?と顔を上げたプラムはすでにボウルに大量の砂糖を流し込んでいた。
「うう…。違いますプラムさん…。砂糖の前に卵です…。」
どこから注意すればいいものやら。
やっぱり雲行きが怪しくて、サフィルスはちょっと泣きたくなった。


シーン3―危機の到来。

横から激しく口を出し少々うっとおしがられながらも、どうにかこうにかスポンジをオーブンに入れるところまで進んだ。
ほっと息をついて小窓から中を覗き込む。
温度もいいし、こちらは多分大丈夫だろう。 しかしここからが勝負だった。
どうやって、あの生クリームが砂糖漬けになるのを阻止するか。
オーブンから目を移せば、プラムはすでにその作業に入っている。
そして、ああ、砂糖が今まさに…!
「プラムさんっ…!」
思わず声を上げて呼び止め、動きの止まったプラムから砂糖の袋を取り上げる。
その瞬間、かなりいい加減なでまかせが口をついて出た。
「プラムさん、提案があるのですが!」
「ほえ?なんです?」
ちょっと不満げに見上げるプラムに、ここだけは負けてはいけないと自分に言い聞かせて、サフィルスは彼に「提案」する。
「ここは一つ大人の味で勝負するのはどうでしょうか!」
「おとなのあじ…ですかぁ?」
わからないという表情のプラム。サフィルスはここぞとばかりに語気を強めた。
「そうです。よく考えてもみてください。我々からすれば、プラムさんはずっと年長ものです。つまり我々より大人なんです。大人というものは得てして落ち着いた味を好むものですから、この際思い切ってケーキを甘さ控え目にするんです。そうするとですね、皆さん『ああ、やっぱりプラムさんは長く生きているだけあって大人の味を知ってらっしゃる』となってですね、意外な一面が明らかになり、プラムさんの株が急上昇と言うわけですよ!」
一息に語ってどうだと言わんばかりに微笑む。支離滅裂意味不明まったくでまかせもいいところだが、あまりに彼が激しく語るのでプラムはそれに呑まれたらしかった。
「そうです!そうするです!」
大きく頷いたプラムは、砂糖をひとさじボウルに入れると「おとなのあじ。おとなのあじ。」と唱えながら、泡立て器で生クリームをかき混ぜていった。
…こうしてどうにか最大の危険は回避されたのである。


シーン4―意外な顛末。

「かんせいです〜!」
「どうにか形になりましたね〜。」
出来上がったケーキを前に、サフィルスは安堵の息をついた。
デコレーションは少々アレだが、多分味の方は(多少甘いが)申し分ないはずだ。
前より上手にできたですと喜ぶプラムに、サフィルスはにこりと微笑んでやった。
と、ふととあることに気が付いて。
「そういえば、これって何のために作っていたんですか?」
食べる人には苦めのコーヒーでも入れてやろうと思いながら、サフィルスは彼に聞いた。
聞かれたプラムは、得意げに顔を上げ人差し指(?)を立てる。
「秘密なのです、びっくりさせるのです。でも教えてもらったから特別に教えてあげます。」
それはどうもと苦笑して、続く言葉を待つ。
「このケーキは、サ〜〜……。」
「さ…?」
もったいぶって言いかけたプラムだったが、そこで何かに気付いたらしい。
「あ」の形に口を開いたまま、ぴたりと動きを止めた。そのまま見ていると、冷や汗が一筋たらりと頬を伝う。
「プ、プラムさん…?」
なんだか様子のおかしなプラムに、何かまずいことを聞いたのかと内心慌てていると、プラムはいきなりがっくりと肩を落として床に崩おれた。
「はうぅ…ボクとしたことが…大失敗なのです…。」
「プラムさん…??」
訳が分からない。サフィルスはとりあえず自分もしゃがみこんで彼の顔を覗き込んだ。
その顔を見返して、プラムはため息をつく。
「…秘密でしたのにぃ……。」
「…?」
後悔しきりの表情で見つめるプラムに、サフィルスはただ戸惑うばかり。
と、プラムは諦めたのかふうと息をついて言った。
「仕方ないのです。教えるです。このケーキは〜、サフィさんとアレクのお祝いのケーキなのです!」
「アレク様と…私の…?」
思い切り意外な答えに、また違う意味でサフィルスは戸惑った。
「そうです。今日は1周年きねんの日だってアレクが言っていたのです。だからボクもおいわいするのです。」
「…。」
言われて、サフィルスは考え込んでしまった。
今日…一年前の今日?…何かあっただろうか?アレクに初めて会ったのはもう軽く2,3年は前の話だし、セレスを倒した日は雪が降る季節な上、自分二人との祝いというわけではない(大体アレクがそんな事を祝おうとするとは思えないが)。
一体なんだったろうと思い悩んでいると、気付いたプラムがジト目で見上げてきた。
「サフィさん…もしかして、覚えてないですかぁ〜?」
「うぅ…っ。」
明らかに非難する言い方に、慌てて記憶をめぐらせる。
しかしそのせいでかえって全く思い当たることがでできずにいるサフィルスに、プラムは得意げに胸を張った。
「仕方ないですねえ。じゃあ、ボクが教えてあげるのです!」
「はい、お願いします…。」
深々と頭を下げると、プラムが「よろしい」と咳払いをした。
「今日は〜、アレクとサフィさんがはじめて会った日なのです〜!!おめでたいのです〜!」
違う。それは絶対に違う。
でも、アレクがそう言ったと言うのは嘘ではないだろう。また考えて、ふとサフィルスはそれに気付いた。
そうだ。確かにもっと前に会ってはいたけれど、アレクが覚醒したのはそれからずっと後になってからだった。
初めて会話をして、名前を名乗って、…怒られて。それは確かこのくらいの季節ではなかっただろうか。
つまりあの時覚醒したアレクが「自分と初めて会った日」と記憶していても間違いではない。多分日記を読み返せばちゃんと記してあるのだろうけど、その後のゴタゴタがいろんな意味で印象深過ぎたせいで…そしてその頃は天に帰ることしか考えていなかったせいもあって、サフィルスはそれを覚えていなかったのだ。
「思い出したですか?」
尋ねるプラムに、サフィルスはこくこくと頷く。
「思い出しましたよ、プラムさん。確かにアレク様と初めてお話をしたのは、一年前の今日です。」
合点がいった様子のサフィルスに、プラムが笑う。
「よかった〜です。アレクにはこのことは内緒にしてあげるですよ。」
「そうですね…怒られちゃいますもんね。」
ありがとうございますと頭を下げて、サフィルスはとても楽しそうなプラムにふと尋ねた。
「でも、プラムさん…。どうしてわざわざケーキに時間を割いてまで、お祝いしてくださるのですか?」
「むむ〜〜。お祝いしちゃいけないですかぁ〜?」
「いや、そういうことではないのですが…。」
とたんむうと頬を膨らませるプラムに、サフィルスは慌てて両手を振る。
「アレク様はともかく私なんて…。」
裏切ったし。傷つけたし。
嫌われるようなことしかした覚えがないのに。
しかしプラムは屈託なく笑って答えた。
「サフィさんはいいひとなのです。ほわほわ〜っとしてお母さんみたいなのです。おいしいご飯もたくさん作ってくれたのです。ですのでボクはサフィさんが好きなのですよ。」
あとアレクと〜、ルビイさんと〜、ベリルさんと、ロードさんと…。
指を折り名前を挙げていくプラムの横で、サフィルスはそっと両手で顔を覆った。微かに鼻の奥、つんとくすぐるような刺激が心地良いと思う。
「あれれ?サフィさん、泣いちゃったですか…?」
それに気付いたプラムがわたわたと顔を覗き込んでくる。
「サフィさん…。」
「……ばあっ!」
「はわ〜〜!!」
だが、急に手を離して声を出し驚かせると、見事に引っかかったプラムが耳とシッポをピンと立てて飛退いた。
「あはは!引っかかりましたね、プラムさん!」
「うう〜〜…。ひどいのです…。」
肩を落とし不満げに呟くプラムを、サフィルスはとてもいとおしい気持ちで見つめた。
「さて、じゃあそろそろおやつの時間ですから、皆さんでお茶にしましょうか。おいしいケーキもあることですしね。」
「はいです!お茶にするです。」
サフィルスの言葉に、気を取り直したプラムが大きく頷く。
銀色のワゴンにケーキと食器を乗せて。
「じゃあ、ボクがケーキを持っていくのです〜♪」
「ああ、走ってぶつかったりしないように気をつけてくださいね!」
「まかせるですよ〜!サフィさんは心配性ですねぇ〜。」
食器をカチャカチャ言わせながら遠ざかって行く声に、サフィルスはくすくすと肩を震わせた。
さあ、今日はとびっきり美味しいお茶を煎れましょう。
皆さんの笑みがこぼれ出すような。


シーン5―サフィルス日記。

「おーい、坊ちゃん。いないんですか?」
何度呼んでも返事がなくて、ジェイドは部屋主の返事を待たずドアを開けた。
時間は夜を大分回った頃。仕事はとっくに終えたはずなのにと思いつつ部屋を見渡すと、目的の人物はやはりそこにいた。
「なんだ。おまえ、いるならいるで返事くらい……。」
小言を言いつつ、机に向かい何か書いている風の彼に近づく。そしてふとそれに気づいた。
静かな部屋に響く穏やかな息遣い。
手から離れ、机の上に転がったペン。
「…そんなに眠いなら、日記くらい明日まとめて書いてもいいだろうが。」
あきれた口調で、ジェイドは息をついた。
そんなことを言っても、たぶん日記はその日のうちに書くものなのだとか言って怒らせてしまうのが関の山かもしれない。日記などつけない自分には、その気持ちはよくわからないけれど。
それでも、彼が眠るのを我慢してでも書きたかった内容には興味があって。
「えーと、なになに?」
ほんの少し背伸びをして、眠る彼の背後から日記帳を覗き込む。

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今日はとても素敵な日でした。
プラムさんがアレク様と私のためにケーキを焼いてくださったのです。
アレク様と私が、初めて言葉を交わしたこの日を祝うために。
ケーキは、私がお茶を煎れておやつの時間に皆さんと一緒に食べました。
(もちろん今日はとっておきのお茶葉です。)
事情を知ったルビイさんやロードさんも、それは大切な日だといって喜んでくださいました。
私は今本当に幸せだと心から思います。
つらいこともたくさんありましたが、私は奈落に落ちてよかったのだと思います。
だから、私は


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書きかけのままそこで終わっている日記をざっと見て、ジェイドはぴくりと眉を動かした。
昼間所用で外に出ていたジェイドはその場にいなかった。
だからケーキも食べていないし、おめでとうだとかそんな言葉も言っていない。
…プラムのケーキに興味はないし、その場にいても何も言わないとは思うけど。
でも、その日記に自分の記載がまったくないのがちょっと癪に障った。
それで。
ジェイドは転がったペンを手に取ると、赤いインクをつけて日記の空欄に何かを書き付けた。
一度さらっと見直して満足したように笑い、無造作にペンを放る。
「じゃあな。明日も仕事だから風邪なんて引くなよ。」
立ち去りがけ、ハンガーに掛けられた黒いマントを彼の上に放り投げて、ジェイドは部屋を後にした。

日記に足されたのは、こんな一言。

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私との記念日には何をしてくれるんでしょうね、坊ちゃん?

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幸せそうに眠る彼は、まだ気づかない。


--------------------------------------------言ひ訳---
…ノーコメント!!
にしたいくらいなのですが、やっぱり言い訳します(苦笑)
これを書いていた時期、なんだかスランプというのもおこがましいのですが
書く物に少しも納得いかない状態で、半端なまま放っておいたのですが
せっかくなので少しばかり直して、書き足してUPしてみました。
それでもなんだかうまくはまとめられていませんが…。
プラムとサヒの組み合わせで書いてみたかったんです。それだけ(笑)
最後は心持ち参参で。目を覚ますのが楽しみです。以上!とう!(逃)

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