信濃町から新宿までは6分で、
私達はいつも直貴の到着時間に合わせて、
南口のルミネの外の広場で待ち合わせをするのだ。
結局6時を過ぎても直貴からのメールは来なくて、
私は本屋とCDショップを見て、雑貨屋も見た。
突然、ポケットで携帯が震え始める。
メールだと思ったら違った。
珍しいことに、直貴からの着信だった。
「もしもし?」
『有梨? 今病院出たよ。遅くなってゴメン』
聞き慣れた直貴の柔らかい声が、
電話越しに聞こえてくると言うのは意外と新鮮なものであることに気付いた。
「いいよ、別に。慣れてるもの」
『悪い。ところで、雨が降ってるけど大丈夫?』
「大丈夫よ。濡れたりしてないから」
そう答えると、直貴は電話越しにもわかるくらいに安堵していた。
『雨降ってるなんて知らなかったよ。今日はどこで待ち合わせようか? 有梨今どこ?』
「ミロードの6階にいるわ。直貴は? 今どこにいるの?」
『今、駅。27分の電車に乗るよ。
じゃあ、ミロードの6階の、上りエスカレーターの前で待ち合わせにしようか』
「了解。じゃあ、また後でね」
電話を終えて、私は時計を見た。
18時25分。
直貴は27分の電車に乗ると言っていたから、
10分後の35分には待ち合わせ場所に到着するだろう。
35分きっかりに上りエスカレーターの前に行くと、
ちょうど直貴がエスカレーターで上がって来たところだった。
「お待たせしました」
「ナイスタイミングだわ」
私はそう呟いて、直貴の横に並んだ。
「お腹空いたな。何を食べようか」
そう言う直貴の横に立ったら、あることに気付いた。
「直貴、コート濡れてる・・・」
「え?」
「髪の毛も! 私の心配するより自分の心配してよ、もう」
バッグからタオルハンカチを出して、直貴に手渡す。
直貴はコートをポンポンとはたいて水滴を飛ばした。
「ははっ、傘がなかったから病院から駅まで走ったんだけどね。やっぱ濡れたか」
「まだ雨降ってる?」
「うん、でも俄雨と言った感じだから、俺達が帰る頃にはちょうど止むんじゃないかな」
そうだといいけど、と言って私達は洋食屋に入った。
雨宿りが長くなりませんように、と祈りながら。
2005.3.23