「名前が一体なんだろう? 私達が薔薇と呼んでいるあの花の、名前が何と変わろうとも、香りに違いはないはずよ。
ルイージ様だって同じこと、名前はルイージ様でなくなっても、あの恋しい神の御姿は、名前とは別に、ちゃんと残るに決まっているのですもの」
そうはいうものの、我々が愛してやまないルイージのキャラには、他ならぬ「ルイージ」という名前によって規定されている部分が多分にあることでしょう。もし、マリオの弟が「ルイージ」でなかったら、果たして今のようになっていたかどうか。
『ファミ通.com「独占スクープ! 宮本茂最新雑談・その4」』より(http://www.famitsu.com/game/extra/special/2000/zelda/zelda04.html)「しもうた、盲点じゃった!」 そのことを知った時の心の叫び。
永田 あと、ルイージは類似なんですか?
宮本 いや、あれはアメリカのチームがつけたんです。マリオに対して。
で、「あ、これ類似やからぴったりやね」って思いはしましたけど。
ところで、”Luigi ”とは実在するイタリア語の人名ですが、それではその語源は一体何なのでしょう? まさか「類似」ではありますまいが。
フランク王国創建者・メロヴィング朝のクローヴィス Clovis の名は、世界史の授業で出てきたことと思います。ルイージというのは、この王の名前に繋がる名前なのです。
この名前の語源は、ゲルマン祖語 hluda- (音が高い、よく耳にする) と wiga (戦い) とからなる古高地ドイツ語 Hluodowig で、意味は「戦において名高い者」「高名な戦士」といったものです。Hluodo- とは雷神トールの「轟く雷鳴」とか、オーディンの敵を威圧して恐怖に陥れるときの音と関係付けられた言葉でもあると考えられるそうです。
古高地ドイツ語 Hluodowig から中世ラテン語 Hludovicus 、古フランス語 Loeis を経て、フランス語の Louis になったのですが、イタリア語の Luigi も恐らく同じような経緯、フランス語経由でできた形でしょう(資料なし)。ドイツ語の Ludwig にも似ていますが……。
(”Luigi ”と”Ludwig ”については他にも気になることがありますが、それについてはまた後程)
なお、ラテン語から直接イタリア語化した形は Ludovico 乃至 Lodovico のように思います。
ルイージというのは由緒ある立派な名前だということが判りましたが、ついでだからマリオについても調べてみました。
Mario とは、古代ローマの氏族名 Marius に由来する名前です。世界史で「マリウスとスッラの抗争」とか習いましたが、あれです。で、語源ですが、……判りませんでした。資料がないのです。大体、形のバリエーションも Mario と Marius 以外見たことないし…イタリア語以外ではあまり使われない名前なのかも。ルイージの別形は色々あるんですがね。……皆様、少しは溜飲が下がりましたか?
追記:MarioとはMariaから派生した名であると思っている人も少なからずいるようですが、Marioがラテン語起源の名であるのに対し、Mariaはヘブライ語から来ている名前なので、正しくないと思います。カトリックでは男性にもMariaの名を付けることがありますが、その場合も特に男性形というのはないようです。
↓ 以下、2004年12月に書き足し。↓
「なぜアメリカのスタッフはマリオの弟にルイージという名前をつけたのか」については、こういう説があることが判りました。曰く、「ニンテンドー・オブ・アメリカ本部近くのピザ屋『Mario & Luigi's』にちなんでの命名」と。詳しくはこちらの記事を参照して下さい。
それから、Marioという名前の語源についても調べてみたところ、ローマ神話の軍神マルスMarsに由来するという説明がいくつか見られました。古代ローマの氏族名だし、やはりその辺でしょうか。Luigiに比べて資料が少ないんでいまいちよく判りませんが。Marsといえば火星で赤いから、マリオに合っている気がしますね。
↓ 以下、2005年2月に書き足し。↓
ルイージという名前はアメリカで付けられたものだということは、実は1986年にはすでに日本に紹介されていたことが判りました(あんずパイさん、ありがとうございます)。
『ヤング・セレクション スーパーマリオブラザーズ大百科』(STUDIO HARD企画・編集/実業之日本社/1986)160頁に、「マリオという名前は、なんとアメリカでつけられたんだ。(中略)ルイージも、イタリア系のマリオにあわせてアメリカで考えられたんだよ」と書かれていました。ひょっとしたらこの本の他にもこの件について触れているメディアがあったのかも知れませんが、しかしマリオの由来のようには広まらなかったようです。やっぱり「類似」に引きずられてしまったんでしょうか?