籠の鳥



「…10代目」

今はもう、何の意味も成さなくなったその名前で呼ばれると、余計に屈辱を感じた。
かつてツナの家の使用人として片時も離れずにツナに仕えていた男は、今、家の没落によって
売られることとなったツナの、主人になっている。
それなのに、獄寺隼人はツナをかつての名前で呼び、しかしツナをこうして毎日好きなように抱くのだ。
それこそ、金で買った女郎にふさわしいようなえげつなさで。

「その名前はやめて下さい…旦那様」

皮肉を込めて言った言葉だった。
ツナを10代目として敬うのならなぜこうもツナの自尊心が挫けるまで好きなように抱き、
金で買った女と思うのなら、どうしてかつての名前で呼び、恭しく話すのだろう。
その矛盾をツナは獄寺の意地の悪さだと思った。否、彼の復讐なのかも知れない。

かつてツナは10代目であった時、獄寺の想いに気付かぬ振りをしていた。
彼がどんなにツナに尽くしても、ツナはひたすらそれを気付かぬ振りで通してきた。
立場が変わった今、獄寺はそのことへの復讐をしているのかも知れなかった。

「10代目こそ。旦那様などと俺を呼ばないで下さい。昔のように『獄寺君』と」

「…いいえ。今は私は旦那様にお金で買われた売女です。10代目じゃあありません。
旦那様の知る『10代目』は、旦那様が私をお金で買った時、この世から消えてなくなりました。
…今は綱吉と呼んで下さい」

「10代目!」

獄寺が吠えた。

「俺は…確かにあなたを金で買いました。けれどそれは売られていくあなたが俺以外の男に買われて、
俺以外の男に抱かれるのが嫌だったからです。しかしあなたは俺にとっては未だ『10代目』でしかありえません。
かつての一門は今はなく、俺もあなたの正式な使用人ではありませんが、俺はいつだってあなたの身分ではなく、
あなたそのものに仕えていたいのです。」

ツナは悔しくなった。
それならば。

「それなら!それならどうしてオレをこんな目に合わせるんだよ!こんな…目に…!」

緋色の襦袢を胸元と下半身で大きく乱し、そこから見える肌のそこかしこに精液を付着させたツナは、
涙目で獄寺を睨んだ。すべて獄寺の仕業だ。ツナは獄寺に買われてから10日、ずっとこの暗い座敷牢に軟禁されて、
獄寺によってセックス漬けにされていた。

寝食以外には獄寺隼人にひたすらに抱かれ続けた10日間。毎日手を変え品を変えて獄寺はツナを次々と性的に調教してきた。
昨日など鯛やマグロを裸体の上に盛られて、ついでとばかりに箸でクリトリスや乳首を摘まれるという仕打ちまで受けたのだ。
ツナは気が狂いそうになっていた。

「…あなたの全てを独占したいから」

間髪入れず獄寺が答えた。

「俺はあなたを金で買いました。それで確かに名義上は俺はあなたを手に入れたのです。しかしその心はどうか。
あなたはいつも俺の気持ちに気付かぬ振りを通してきました。それは今も変わらない。
だから俺はせめて、あなたの心以外の全てを手に入れたい。金で買えない隠された部分も含めて。
あなたも知らないあなたを、全て、俺のものにしたいのです」


狂っているのは己か、彼か。
獄寺隼人の瞳に宿った狂気は確かにツナへの歪んだ愛情だった。

「そんなの知らない…もうやだ、もうやだよ…」

ツナは突っ伏して泣いた。
「十代目…」

「触らないでよ!」

肩に置かれた獄寺の手を払い除ける。すぐに後悔したが遅かった。
獄寺の顔色は変わっていた。

「やっぱり俺の気持ちは解って戴けないんですね…なら、仕方ありません」

懐から取り出した小さな紙包みには見覚えがあった。南蛮渡来の媚薬だというそれを此処に連れてこられた最初の日に、
無理矢理飲まされ、ツナの体は熱く疼いて獄寺の愛撫にすぐ反応し、処女でありながら獄寺のものをすぐに受け入れてしまった。
破瓜の痛みは少なかったが、自分の体の浅ましさにツナは却って苦しんだ。

「いや…!」

抵抗は意味をなさず、顎を手にとられ、口移しに無理矢理薬を飲まされた。


「んっ…ふう、はあ」

「効いてきましたか?」

「あっ……!」                    
布団の上でうずくまって震えるツナの耳元に唇を寄せて獄寺が囁く。
熱い息がかかって、その刺激だけでツナはびくびくと跳ねた。

「ああ…」

「苦しいですか?」

獄寺が静かに尋ねる。
ツナは素直にうなづいた。もう何度も抱かれている。好きにすればいい。

「でも、俺に触れられるのは、お嫌、なんですよね」

ツナは驚いて獄寺を見る。
「ご自分で、なさってください」

「そ…」

「見せてください、あなたが一人で乱れる姿を」


しかし。

「どうしました」

薬が効き始めて数分がたち、辛そうに震えながらツナは動こうとはしなかった。
頬は紅潮し肩で息をして、もう我慢も限界であろうに。
はっと獄寺は気付いた。

「10代目、ご自分で慰められた事は」

ツナは涙をにじませながらふるふると首を振る。
考えてみれば、ツナは初潮からもまだ日が浅い生娘の身で売られ、すぐに獄寺の元に来て、
めちゃくちゃに抱かれ続けたのだ。

自分一人で、どうしていいのか、よく解らないのだ。
10代目…!」

獄寺の声には歓喜がにじんでいた。
誰も知らない、十代目自身も知らない、俺だけが知っている十代目。
あなたは俺のものだ。

獄寺はツナを後ろから抱き起こすと、脚を大きくひろげた。

「教えてさしあげます、10代目」

「あ…」

ツナの手を取り、自分の手と重ねたまま、濡れた場所に導く。
「10代目はここをいじられるのがお好きなんですよ」

「あああっ…!!」

ツナの細い指をクリトリスに押し当てた。そのままゆっくりと動かす。

「あっ!あっ!いやぁ…あっあ!くぅんっ…!」

「気持ちいいでしょう?気持ちいいとここからいやらしい汁が溢れてくるんですよ。
分かりますよね?ほら、めちゃくちゃ溢れてきてる…」

「やああっ」

獄寺の言う通りだった。獄寺の薬指がツナの入り口付近をまさぐると、ぷちゅくちゅ、という音までする。
自分でもそこが熱く潤っている自覚があり、ツナは余計に羞恥を覚えた。

「お気を楽にして、どうか快楽に従順になって下さい。
抵抗は俺を、ではなくあなたのその純真な心を苦しめるだけですから。」

「あ、は…いやあああああっ!」

表面を優しく撫でていた獄寺がつるりとクリトリスの表皮を剥いた。
全身に走った電気のような快感に、ツナは仰け反りかくんかくんと震えてしまう。
仰け反った瞬間露わになっていた乳房が柔らかく震えて、獄寺の目を楽しませた。

「ここも可愛がってあげましょうね」

そう言って、獄寺は懐から筆を一本取り出した。
金持ちの若旦那が持つに相応しい、高価な馬の鬣を使った毛筆である。
獄寺はその毛筆で、ツナの乳首をくすぐり始めた。

「あっ!いやっ!あっ!やめっ!やめええええ!」

媚薬によって肌そのものは性感帯並みに、性感帯は男のペニス程に感度を高められたツナは、
乳首を毛筆で、クリトリスを獄寺の指で擦られて直ぐに真っ白になってしまった。

「あう、あっ、きゃうううう!」

口の端からはダラダラと涎を零し、食いしばった口元からはしかし、発情した雌犬のような喘ぎ声しか上がらない。

何度も何度も細かく絶頂を迎えるツナに、獄寺は自らも硬くなったペニスをツナの背に擦りつけて快楽を享受した。


続


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