「あの、肝だめししないすか?」
夏合宿のある日。いきなり、桃が僕の部屋を訪れてそう言った。
その場には、英二もいた。
「肝だめし?いいね。夏って感じがするね。」
「そうっすよね?この近くに墓地があるんすよ。そこでしないっすか?」
「へぇ〜墓地か。本格的だな。」
「みんなも誘おうか。」
「よぉ〜し、俺大石とタカさんたちを誘ってくる!」
「じゃ、僕は手塚を。」
「なんだ?」
「て、手塚副部長…」
桃がびくびくした様子で、僕の後ろを見る。
そこには手塚が立っていた。
「やぁ、手塚。なんだい?僕の部屋にくるなんて珍しいね。」
「まぁな。それで、桃城。何をするって?」
「肝だめしっす。この近くに墓地があるからそこで…」
「ほぉ。明日も練習があるだろう。それのことを考えてか?」
「さっき、竜崎先生と会って明日は練習なしって。」
なんていうのかな。桃が手塚にすっごく押されてた感じ。
「練習が休みだったらいいじゃない。今晩ぐらい、羽を伸ばしたっていいじゃないかな?手塚。」
僕がにっこりと笑ってあげる。
こう笑えば、手塚が落ちるってことを知ってるんだ。
「いいだろう。だが、ちゃんと部長にも許可を取るんだぞ。」
手塚さえ通れば、部長なんてあっさり通る。
弱すぎる部長と、強すぎる副部長。普通は逆だと思うけど。
3年はゆっくり休みたいと言うことで、僕、保護者の手塚、英二、大石、タカさん、乾、桃、海堂ですることになった。
ルールは、一番奥にある大きな岩のところに、持っているテニスボールを置いてくると言ういたって簡単なルール。
だけど、懐中電灯などを持つのは禁止。
「じゃ、ペアはくじで決めるよぉ。」
いちにのさん!で取ったくじは、大石と英二、乾と海堂、タカさんと桃。そして、僕と手塚だった。
ラッキー千石並みにラッキーなんじゃないの。僕って。
「やったぁ、大石、一緒だね。」
「薫ちゃんノートも増えるな。」
「桃、守ってくれよ。」
「………」
肝だめしの始まり始まり〜。
「じゃ、はじめは俺らから行くにゃ〜」
はじめは、英二と大石。次に乾と海堂。その次は僕と手塚。最後に桃とタカさんだ。
「気をつけていって来いよ。」
「大丈夫だよ。大石もいるもんね。」
「くれぐれも怪我しないで下さいよ。」
「分かってるって。じゃ、いってきまぁす。」
英二と大石は暗い墓地の中に消えていった。
ぞくっとした、今。
僕は反射的に、手塚の腕を掴んだ。
「どうした?」
「うぅん、何でもない。」
「じゃ、次は手塚と不二だよ。」
英二に押されるように墓地の中に歩を進める。
墓地はやっぱり真っ暗だった。
泣きそう。
「どうした?不二。」
「ううん。ごめん、手塚。先行って。」
あまりに怖いから手を繋いで奥に行く。
手塚は怖くないのか、ゆっくりと前に歩を進める。
やっと半ばまで来たと思ったら、いきなり僕の肩に手を置かれる。
で、出たぁ!!
「いやああぁぁぁぁぁ!!!!!」
「お、おい、不二。」
僕は驚いて、手塚に抱きつく。
僕は手塚の中で震えているだけ。
「そんなに驚かないで下さいよ。不二先輩。」
この声は、桃?
「あれほど言ったのに、桃は。」
「いいじゃないっすか、タカさん。」
恐る恐る後ろを見る。
そこにはタカさんと桃が立っていた。
「悪ふざけもいい加減にしろよ。桃城。」
「すみません。不二先輩がここまで驚くと思わなかったから。」
「だから言ったじゃんか。桃。」
「タカさんだってあまり止めなかったじゃないですかぁ。」
タカさんと桃が言い争ってるのを僕は、ぼーっと見ていた。
「そんなことより、お前たち、来るのが早くないか?」
「いいえ。ちゃんと時間通りに来ましたよ。」
「手塚と不二が遅いんだよ。」
そうか。手塚は僕の歩調で歩いていたから、遅いんだ。
「そうか。俺らは先に行くから。いくぞ、不二。」
「え、ちょっと。手塚。」
「不二先輩と手塚副部長。仲いいっすね。あんなに手繋いじゃって。」
「おいおい、桃。やめろよ。俺が手塚に怒られるんだから。」
タカさん、それどうかと思うよ。
「全く、桃城はいつも。」
「あれは僕の所為なんだよ。桃はただ…」
「だが、お前を驚かせたことに間違いはないだろう。」
呆れ顔の手塚。
「ごめんね。僕の歩調に合わせてくれたんだね。」
「怖がりのお前を放っといていけるか。」
ぶっきらぼうな言い方。
ま、手塚の照れ隠しって分かってるけどね。
「これだな。」
「これだね。」
周りにある岩より倍はありそうな、大きな岩。
そこに、何個かのテニスボールが転がっている。
「ねぇ、ここに来たのは乾と海堂、英二と大石だけだよね?」
「そうだが。それがどうした?」
「ボール2個のはずなのに、3個あるよ。」
「どちらかが、2つ持ってきたんだろ。ほら、さっさと戻るぞ。」
「うん。」
僕は、置いてあるところにボールを1個置く。
2つなんか持ってくるわけないんだけどなぁ。
「お帰り、不二、手塚。」
「もう、聞いてよ、英二。桃ったら酷いんだよ。」
「え、桃が?」
「そうそう。いきなり僕を驚かすんだよ。」
僕は、英二にさっきあったことを全て話していく。
「そうだ、大石、乾。お前らどちらか、ボール2つ持っていかなかったか?」
「いや。どちらも1個ずつ持っていったけど。」
「え?」
「あ、お帰りタカさん。」
そのとき、タカさんと桃が戻ってきた。
僕の隣にいる手塚は呆然としてる。
そんなって顔。
「河村、岩の前に、ボール4つなかったか?」
「いや、3つだったけど。大石たちと乾たちと手塚たちの3つ。」
また、手塚が変な顔した。
まさかね。
「どうしたんだ?手塚。そんなこと聞いて。」
「いや。俺らが行ったときボールが3つ置いてあったんだ。
乾たちか大石たちのどちらかが2つ持ってきたんだろうって気にしていなかったんだが。じゃ、あれは…」
「そんなはずないよね…?」
「…ここ、出るって噂なんすよ。」
僕らは、一斉に宿舎に戻った。
「だけど、幽霊がテニスボールなんてもってるはず…」
僕と英二の部屋に集まってそんな話をする。
大石と手塚は信じられないと言う顔。
タカさんと、海堂はもう怖がって話に参加しない。
「そんな、いくら出るって言ってもこんな時に…」
「知ってます?手塚副部長。幽霊って、肝試しとかそういうことしているときに集まりやすいらしいっすよ。」
「…俺、寝れないにゃ。大石、今日大石と一緒に寝ていい?」
「手塚、今日ここで寝て。お願いだから。僕から、部長に言うから。」
僕と英二は、お互いの恋人に懇願する。
だって、一人でなんて寝れないよ。
「だが、まだ決まったわけじゃないだろ。」
「そうだよそうだよ、それに決まってるよ!だって、みんなボール1個ずつ持っていったんだから。」
「そうそう。ボールが勝手に増えるなんてありえないよ!それに、見たのは手塚と不二だけなんだよ。」
「どちらかが霊感強いんだろうな。」
「じゃ、手塚だよ。手塚、たまに見るって言ってたじゃん。」
「言ったが、これは見たわけじゃないだろ。」
「幽霊は、霊感の強い奴にくっついていったりするからな。」
「あーー!!やっぱりダメ。僕も大石と寝る!手塚と寝たら霊が憑いちゃうよ!」
「ちょっと待て…」
「ダメです!手塚先輩、来ないで下さい!」
怖いよぉ。泣くよぉ。
「一応、俺も霊感が強いぞ。」
乾も参戦。
もー僕、ダメだよぉ。
「…ちょっと待て。静かにしろ。」
「ふぇ?」
「桃城の後ろ、何かいる。な、乾。」
「ああ。何か白いものが憑いてる…」
手塚と乾が桃の後ろを指差して言う。
自然と部屋内が静寂に包まれる。
みんなが桃に視線を集中させる。
「うわああああああぁぁぁ!!!!!!!」
桃は叫んだ。
そして、部屋の隅にびくびくと震えている。
「冗談だ。お前らがそういうこと言うからだ。」
「だけど、何かがいたことは事実だよ。」
「ああ。先刻から嫌な寒気がずっとするからな。」
「ホントに、こういう話をすると集まりやすいんだな。」
「全くだ。」
乾、手塚。君たちの話についていけないよ。
オカルト過ぎて。
「追っ払ってよ。おちおち眠れないよ。」
「無理だろ。俺らは霊媒師じゃない。」
「じゃぁ、移動しようよ。」
ヤバイ、こんな話してたからトイレ行きたくなっちゃった。
手塚に頼もうかな。英二にでも。
「ねぇ、僕トイレに行きたいんだけど…」
「えぇ、不二。1人で行ける?」
「行けるわけないじゃん!僕、テニス部一の怖がりなんだよ。無理だよ!」
「手塚、ついてやりなよ。」
「ああ。行くぞ、不二。」
「手塚についていったら幽霊も憑いて行かない?」
「そんなわけないだろ。」
「ついていってもらったら?それとも部長呼ぼうか?」
「こんなことだけで、寝ている部長を起こすな。」
心配そうな英二に一言。
部長起こしちゃ悪いしね。
よし、手塚で我慢する。
「まだ、怖い話は知っているんだが。」
「乾。もういいよ…」
「ねぇ、ホントに先刻いたの?」
「ああ。間違いなくな。誰かに憑かれていないだけ良かった。」
「やっぱり、キミは人間離れしてるよ。」
「乾もな。」
はぁっと溜息をつく。
怖いよ。
「こんな話してると来るぞ。」
「そんなこと言わないでよ。」
「し始めたのはお前だろう?」
「そうだけど…」
手塚の手を握る。
正直、ホントマジ怖いんだ。
「ねぇ、大丈夫だよね?」
「大丈夫だろ。早く済ませろよ。」
「うん。」
僕はトイレの中に入る。
「やっぱ、手塚も入ってよ。怖いんだ。」
「はぁ?子供じゃないんだから。」
「お願い。」
はぁっと手塚は溜息つきながら、トイレに入る。
さすがにいくら恋人でも、用を足している姿は見られたくない。
ちょっと離れたところにいてもらう。
「手塚ぁ。」
「何だ?」
「英二たち、無事かな。」
「さぁな、乾の餌食になっているんじゃないか。海堂あたり泡でも吹いているんじゃないのか。」
「そんな…」
「早くしろ。俺だって早く部屋に戻りたいんだ。」
「はぁーい。」
手塚だって怖いんだろうな。
怖いものなしって感じがするけど。
「ほら行くぞ。」
足早で部屋に戻る。
怖い。怖い。
「あ、不二。やっと帰ってきた…」
「どうしたのさ?」
「乾が、怖いことばっか言うんだよ!泣きそうだよぉ。海堂なんて泡吹いてるしぃ!」
手塚、キミの予想通りだよ。
乾、キミは…。
「そこら辺にしとけ。お前らももう寝ろ。」
「でも、手塚。寝れないでしょ、こんな話してたら。」
「…確かにな。」
「じゃ、ここで一緒に寝るか?」
「そうするか。夏だし、大丈夫だろ。」
「そもそも、言い出しっぺは誰だ?」
「俺っす。でも、こんなことになると思わなかったから。」
「ほら、早く寝る用意しろ。」
男八人で狭い部屋で寝る。
僕は手塚の隣で寝ている。
でも、やっぱり怖くて服を握ってる。
波乱の肝試しは終わった。
次の日、僕ら8人は夜中に騒いだと言うことで先輩、そして竜崎先生にこっぴどく絞られました。
FIN
塚不二というか、オールキャラギャグ?
ふと思い立ったのが、怪談話。
作者、カナリの怖がりなため、後ろを振り向きながら書いた記憶が。
乾さんと部長、霊感強そうだったから。
不二先輩の悲鳴を書いてて楽しかったです。
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