巡る世界の住人として、今がいつの何処か、それはきちんと把握している。
それが一番重要で必要。

カノンか、それともサガだったか、あるいは二人に揃って言われたのか、
分岐する世界は分岐するだけの訳があり、決定されて変えられない運命もまたある。
パラドックスを回避するための世界の自然治癒。
乱された世界を調和へと直す機構。
そういったものがあるのだと。
だから、これはループではないのだと聞かされた。

可能性を探す旅。アイオロスはそう思っていた。
けれど違う。
可能性は無限に既に提示されている。
上手くそれを選び取り目的の世界を手繰り寄せる力を得る旅。
そのためならば、幾度となく絶望に胸を押し潰されようと、悲しみで前が見えなくなっても構わない。
確実にある、果ての未来を目指して今の世界を理想に近づける。
破滅の歯車を止める術は己の中にある。

今がいつか解るのならば、阻止することも容易かろう。
言うだけならば楽。行うのはとても困難で成功率は低く心も折れそうになる。

『きっと、お前ならロスなら出来ると思う』

この言葉と自分にした誓いだけでまだまだ、頑張っていける。




緩く雨雲が押し寄せる。

雲が厚い。
雨の気配がする。
闇が濃い。
世界が暗く沈んでいく感じ。

空を見上げるアイオロスを不思議そうにアイオリアは見た。
声を掛けられるまで、自分が意識を飛ばしていたことに気がつかなかった。
疲れているわけでもないのに。
アイオリアがまた「兄さん?」と呼び掛ける。
修行中は兄と呼ぶなと怒るところだが咄嗟にそんな反応も出来ない。

「……なんでもない。雨が降ったら引き上げるか」
「うん」

アイオリアが自信たっぷりに自分の技の説明を再開する。
それを聞きながらどこか心の引っ掛かりを取れないでいた。
デジャヴュ、消えない違和感。

今にも雨が降り出しそうな空。
灰色が迫って来る。

「あ」

脳裏に甦る光景。
恐怖に近い吐き気に襲われる。

あの日もこんな天気だった。
そうだ。気持ちが悪くて。嫌な予感が強くて。
不安に心がかき乱された。
そして、間に合わなかったのだ。
雨だからきっとカノンに会えると双児宮に行き、絶望に出会った。

思った時には既に身体は動き出していた。
遥か後方からアイオリアの批難の言葉が聞こえたが、おざなりな返答しか出来なかった。
言葉はアイオリアに届いてもいないかもしれない。

もうすぐ、雨が降る。
雨が降ったら間に合わない。
手遅れで全てが済んでしまっている。
絶望がそこにあるだけで、カノンの嘆きがあるだけだ。

この既視感が勘違いならばそれでいい。
思い過ごしなら、杞憂なら、これほど幸せなことはない。
迫り来る圧迫感。
気付いているのだ。自分以外の自分か。自分以上の自分か。
この世界はあの世界であり。
同じことがまた繰り返されようとしているのだと。

逸る心。
引き摺られ身体も上手くは動かない。
苛立ちよりも泣きたくなる程の恐怖がある。

挨拶もせずに双児宮へ入る。
何処で何が行われているのかなんて分かっている。
早くしなければならない。
止めないといけない。
雨の気配がする。
それは悲しみを連れて来る。

早く開けなければ。
扉を――。

その先の光景を見たくはないけれど、瞳に焼き付けなければならない。
これが自分にだけ出来ること。






楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] ECナビでポインと Yahoo 楽天 LINEがデータ消費ゼロで月額500円〜!


無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 解約手数料0円【あしたでんき】 海外旅行保険が無料! 海外ホテル