あまりにも悲しくて、痛みは心を壊すのだろうか。
歌われる詩は知っているもの。
けれど、響きは違うのだ。求めたものではない。
ズレを感じる自分こそが不要だとアイオロスは知っているので、消えてしまいたくなる。
辛い。捧げられる鎮魂歌が痛すぎる。
優しく海に沈められている。
いざなわれている。
言葉もなく静かに。
罵倒もなく穏やかに。
血なまぐささすらない。
「さよなら」
そう呟かれた言葉はどこにも届かない。
カノンは聞いていただろうが、サガは見えてはいないだろう。
アイオロスは空しさを握り潰しながら死んで行く。
かすむ空は追憶に揺れる。
今までの人生が走馬灯のように流れてアイオロスを苛む。
「安らかに」と微笑むのはカノンかサガか。
水面の向こう側の人間は分からない。
紡がれる詩。
静かに静かに。痛みだけを孕んだ詩。
繋がりは弱く。悲しみは長い。
すぐにでも忘れるのだとしても晴れない悲しみ。
聞いたものを死にいたらしめるなんて呪いじみたものではない、ただの歌。
何処で、いつ聞くかで、こんなにも違う。
泡に溶けて行く己にアイオロスは思う。
人魚姫もこんな心境なのだろうか、と。
愛するものを刺して助かることよりも、泡へとなることを選んだ乙女。
自分勝手な愛情で自分をただただ傷つけた少女。
魚は泣かない。
アイオロスは泣けない。
心は未だに痛くとも。アイオロスは泣かずに息を引き取る。
絶望も悔恨もない。
ただ心が壊れるほどに悲しい。
巡る動機と痛みのわけ繰り返し反復して切なさは倍増するだけ。
望みと願いと勝手な言い分はこの世界の誰にも届かぬままだった。
苛立ちは覚える暇もなく四散する。
悲しみは嘆く暇もなく蓄積する。
鎮魂歌は降り注ぐ。
アイオロスは拒絶もできずに甘受する。