※注意
大したことはないですが、女王様と下僕なので、
そういうのが大丈夫な方だけ読んで下さい。
ちょっと裏要素有。




「悩める臣下達のある一日」


 女王と夫役について煮詰めていた時のことである。
「何もしてない」
「は?」
「景麒には何もしてない。いじめてないよ。本当だよ」
 真剣な顔の陽子と冷静な表情を崩さない浩瀚は、しばし無言で見つめあった。
「……先日の奏上の件なのですが」
「何だ、紛らわしい。そうならそうと最初からいってくれよ」
 紛らわしい……? しかしこの手のことに深入りは禁物なので、浩瀚はさっさと本題に入ることにした。

 疲労を覚えながら回廊を静かに歩いていると、今度は決死の形相の景麒に捕まった。麒麟の大真面目な相談を無視するわけにもいかないので手近な房室を見繕って話を聞いてみると、やはり女王のことであった。先ほどの『何もしてない』という唐突で怪しすぎるちぐはぐな言い訳がちらりと頭をよぎる。また、主上が何かなさったのか。

 主上に邪険に扱われていると嘆き悲しむ麒麟に、浩瀚は『仲睦まじいほど浮き沈みがあるものです』と無難な助言をして反応を窺ってみることにした。
「台輔、落ち着いて下さい。主上が台輔を厭うはずはありません」
 今まで築き上げた絆や幸福な時を思い出すようやんわりした口調でいうと、景麒ははっと顔を上げる。

「幸せな時……以前主上に『お前の数少ない取り得の一つはその顔だな』との勿体ないお言葉を頂きました……」
 うっとりしている景麒に、浩瀚はこう答えるしかなかった。
「それは……ようございましたね」
 そこは喜ぶところではございませんと進言すべきか迷ったが、あまりに麒麟が哀れなので止めておくことにする。それに辛うじて褒め言葉の部類に、無理をすれば入らないこともない。不器用な女王なりの愛情表現なのだろう。

「それにご寵愛を賜っている時もたびたび『本当に役立たずだな』と吐き捨てるように主上は仰います……やはり考えれば考えるほど、自分の浅はかさにうんざり致します。私は主上にこれほどまでに愛されていたというのに、唯一無二の主の愛を疑うなど麒麟としてあるまじきことでした……」

 そこはさすがに喜ぶところではないだろうと思うが、根本的な価値観――というより嗜好が違う相手に対してどこをどう指摘してやればいいのか分からない。
 まさか女王の閨まで出向いて麒麟を一々指導してやるわけにもいくまい。
麒麟がそれを愛情表現として受け止めているのなら、何も問題はない。はずである。と自己欺瞞を試みたが、やはり無理があったので仕方なく景麒にそれはどうでしょうと進言すると、麒麟は自信たっぷりといった様子で答えた。

「どうでもよい相手には、あれこれ苦言を呈したり世話を焼いたりしないものです。主上が私にこうしたお言葉をかけて下さるのも、ひとえに私を思ってのこと。私なら主上のご期待に添えると信じて下さっているのです、だからあえて侮蔑の言葉をかけて下さっているに違いありません」
 いくら冢宰といえど主上を悪し様にいうことは許しません。麒麟とは思えないほど凄みをきかせている景麒に、なぜ自分ばかりがこのような目にあうのだろうと浩瀚はげんなりする。
「そう……かもしれませんね。台輔がそう仰るのならきっとそうなのでしょう」
 ならなぜこのような疲れる相談をしに来たのだという言葉を、浩瀚はどうにか心の内に収めることに成功した。

「思い起こせば主上は本当にお優しい御方です。今日のような蒸し暑い日には必ず、扇子であおぐよう私に御命じになるのですから」
 思わず胡乱な目で麒麟を見遣ると、すかさずまた得意げに語り出す。
「暑い中、女官にあおがせるのは可哀想だと主上は仰るのです。下々の者にまで慈悲と気配りの心をお持ちになっている主上は、本当にお優しい」
「……本当に、そうですね」
 こう相槌を打つより他に、どんな選択肢があるというのか。

 陽子との幸せな一時を思い出しているのか、軽い足取りで景麒は去っていった。その幸せな思い出とやらの詳細は、できることならもうあまり聞きたくないものだとの思いを胸に、浩瀚は椅子に身体をどさりと投げ出す。そしてふと思う。
 もしや自分は、単に麒麟の惚気を聞かされていただけなのではないだろうかと。ちらりと主従の性癖も垣間見えてどっと疲れてしまったが、決して口外はすまいと心に誓う。国のためというより、冢宰としての自分の存在理由のために。

 その後、運良く――いや、運悪くかもしれないが、女王とこの話題について話すという機会に浩瀚は恵まれてしまうが、
「景麒? ああ、あいつのことは可愛いと思ってるよ。お前にそんな相談を? こんなに可愛がってるというのに麒麟とは不可解な生き物だな」
 やはり避けるべき話題だったのかもしれないと後悔することになる。後でお仕置きをしないと、という陽子の呟きが聞こえたような気がしたが、私は何も見ていないし聞いてもいないと自己暗示をかける浩瀚であった。


戻る  05/08/03

移転などの問題があったので、一時消えていてごめんなさい。

このサイト的に基本中の基本になりつつある女王様と下僕です。
一体景麒に何をしたのか、その辺は考えない方が幸せだと思ってそうな浩瀚です。今回も浩瀚視点になってしまいました。
でも景麒は大変幸せそうなので何も問題なし! な気がするんですが、それはそれで何かが間違っている気がしないでもないです。
主従愛って複雑です……

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