至高の場所


………連れて行かれるかと思った。
銀の鬼神に。
いや…あいつは己から行こうとしていたのだろう。

至高の場所へ。

行かせるものか、と強く思った。
お前だけ、その場所を手に入れるなんて。
そんなこと…許されるわけがないだろう。

それは強い思いとなって、溢れ出す。


お前だけが………手に入れるなんて。



そんなのはユルサナイ。



「っ……軟弱眼鏡…手癖が悪いな」
がりりとギギナの耳を噛み切り、赤い血を流させる。
白い肌を彩る、自分の髪色と同じ赤い色。
「そうやって仕込んだのはどこのどいつだよ…!」
「私だと言って欲しいのか?軟弱眼鏡」
楽しげにギギナが笑い、首筋を伝う血を無造作に拭い取る。
血に塗れた指先すらも神が作った美の化身を穢す事は出来ないようだ。
赤い指先を見ながら、言葉を吐き出す。
「気持ちわりぃこというな、クソドラッケン」
「そんな潤んだ目で言った所で迫力はないな」
馬鹿にしたように口元で笑い、血の付いた指先を突然口の中に突っ込んできやがった。
「ぐっ…」
口の中に血特有の鉄くさい味が広がる。
ギギナの、味。
「もう少し可愛げのある声でも出してみたらどうだ?ガユスよ」
くくっ…と喉の奥で笑うギギナは、屈辱で歪む俺の顔を見るのが何よりも好きなのだ。
楽しそうに瞳も歪ませ、口の中にある指先で強く舌を押される。
自然と唾液が口元から溢れ、喉を伝っていった。
気持ちの悪い感触。
苦しくて歪む瞳。
その全てが楽しくてしょうがない…とでもいうように奴は瞳を細めて笑っていやがる。

そう。
それでいい。

あの銀の鬼神になぞ奪われてたまるものか。


ぐっと銀の髪に髪を絡ませ引っ張りあげる。
数本の髪が指先に絡みついたが、どうせギギナは些細な痛みなど気にも留めないだろう。
「御託なんか並べてないで、さっさとやったら?ギギナ」
小馬鹿にしたように言えば、ギギナが嫌そうに顔をしかめた。
同じように髪を掴まれる。
食い込む指先。
痛みに眉を寄せれば、そっと口付けられた。


いつもこの瞬間だけは気持ちが悪いほど優しい。


まるで毒に犯されたように、自らもギギナの背に腕を回す。
馬鹿らしい。
愛し合ってるもの同士でもないくせに。

慣らしもしなかった箇所から血の匂いが立ち込める。
その香りにギギナが顔を上げた。
心底楽しそうに微笑む。

闘争の中でしか生きがいを得られない種族だ。
この血の匂いの中でだけ、喜びも悲しみも快楽さえもあるのだろう。


認識はしていても理解など出来ないが。

そっとギギナの耳元に指先を滑らす。
固まった赤い血。
その傷口に爪を立てる。

「…………」
「………っぁ!」

途端深くなる繋がりに、背中をそらせば、その間に腕を抱きこまれ…余計深くなるつながり。
深く。
深く“ギギナ”を受け入れ、その熱を高める。

離すものか。
逃がすものか。
お前だけが シアワセ になるなんて。


お前は俺と同じ場所で足掻いて居ればいいのだ。
一生シアワセなんて見つけられずに。



足掻いて、この罪とともに地獄の果てまで行くがいい。




お前だけ至高の場所までいかせるものか。




「ギギナ…っ!」
「………っ」


体の奥深くに熱い本流を受け止める。




こうやってお前は俺を貶めて。
そして離れなくなればいい。
一生お前にとって至高と思われるその場所を、目指すことなどなくなるように。
俺は自分の身を差し出し続けよう。





銀の鬼神になぞ、奪われてたまるものか。




至高の場所にと行き着いた、狂気の鬼神になぞ。



2005.9/11 如月修羅


一応、この二人は愛し合ってないの前提です。
利用しあってるギギガユです!お互い、生きていくために…時に体も重ねあってるだけです。

ちなみに、至高の意味は

「このうえなく高く、すぐれていること。また、そのさま。最高」(ヤフーの辞書検索で調べました)

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