月ガ落チる音 ねっとりとした空気が周りを包んでいる。 そんな異様な空気に目が覚めた。 「春華…」 にっこりと勘太郎が微笑み、自分の上に乗っかっていた。 妖艶な笑み。 普段から色が白い肌は、病的なまでに白く、異様な雰囲気を醸し出している。 違和感。 「勘太郎…?」 疑問に思い名を呼べば、嬉しそうに勘太郎が笑った。 「もっと呼んで…ボクの名前」 甘えるようにそう言って、勘太郎が首筋に顔を埋めてくる。 首筋に感じる勘太郎の舌先。 水音。 ………おかしい。 月明かりの下、勘太郎が不自然なまでに微笑みを浮かべ此方を見ている。 「春華…」 自分からオレのものに身を沈め、勘太郎が一瞬苦しそうに眉を寄せた。 暖かな、感触。包み込まれる。 「つっ…勘太郎!」 「抜かないでっ…!!」 ぐっと自らの体重で深く突き込むと、勘太郎が息を吐き出した。 「…………どうした?」 ゆるゆると動き始め、絞るような内部の動きに快感を煽られながらも勘太郎にと聞けば、自らの快感をおうように瞳を閉じていた勘太郎が此方を見る。 赤い綺麗な瞳は、涙に濡れ潤んでいる。 まるで…己を誘うかのような色香を醸し出しているその瞳に煽られ、勘太郎の腰をきつく引き寄せる。 「…っはるかぁ…」 甘い声をあげ、勘太郎が首筋にと白い細い指先を伸ばしてきた。 その指を捕らえ口に含んでやれば、いっそう甘く鳴く。 「気持ちいい…?」 「………あぁ」 「ねぇ…春華。ボクの側にいて…」 「………いるだろう?」 こんなに近くにいるのに。 勘太郎はまだ満足できないのか、さらに深く身を沈めようとする。 「勘太郎」 「名前を呼んで。もっと側に来て…!」 モットボクヲミタシテ。 そう声にならない声と共に、きつく内部を締め付けられ…。 「つぁ…!!」 「ふっ…んんっ」 満足げに勘太郎が笑う。 内部に吐き出した蜜が勘太郎の中を満たすのを感じる。 「勘太郎…」 どうした? と指先を頬に伸ばせば、勘太郎が微笑んだ。 「足りないんだ」 「………?」 「全然。どんなに春華を注いで貰っても。どんなに抱き締められても。どんなに言葉を貰っても。何もかも足りなくなる」 「なにを」 言ってるんだ? と言おうとした言葉を飲み込む。 それを手に、勘太郎が本当に幸せそうに笑っていたから。 「名前を呼んで、春華」 「勘太郎…」 瞳を閉じる。 これ以上、妖艶なまでに壊れた笑みを浮かべる勘太郎を見つめることが出来なかったから。 「もう一度」 「勘太郎」 「もう一度…」 「勘太郎……」 鈍い痛み。 逃れようと思えば逃れられる。 どんなに法力が強いと言えども、勘太郎は人間だ。 本気のオレに勝てるとは思えない。 でも。 「勘太郎…」 この名の男に支配されてから。 きっと最後はどちらかが狂うだろうと思っていたから。 「お前が幸せなら、オレは死んでも構わない」 微笑み、口付ければ…勘太郎が微笑む。 「先に逝ってて。ボクもすぐに逝くから」 離れたくないんだ。 ずっと側にいたいんだ。 そう言って悲しそうに笑った勘太郎を思い出す。 「お前は生きろ、勘太郎」 「………ぇ」 「人間の命はどうせ短い」 待っててやるから。 だから…。 「どうして、春華っ!!」 どうしてっ…と悲しそうに叫び、勘太郎が小刀を突き刺してくる。 「春華…どうして一緒に死んでくれないの」 そうじゃない。 そうじゃないんだ、勘太郎。 ただ…オレは。 「ボクに生きろだなんて言うの」 …………勘太郎。 「ボクを一人にするの…」 ぽろぽろと涙が頬を濡らす。 「肉体だけでいい…ボクをいらないなんていう春華なんてボクもいらない…」 違う。 勘太郎! そうじゃない…。 ただ。 「肉体だけ、ボクの側に置く」 「………勘太郎」 「はやく春華の自我なんて消えちゃってよ」 微笑む。 赤い瞳。 月の明かり。 白い肌。 落ちる、音。 「勘ちゃ〜ん!」 「おはよう、ヨーコちゃん」 「おはよ〜。春華ちゃんの調子はどう?」 「ん〜…まだ、本調子じゃないみたいだよ」 そう言ってヨーコにと微笑み、パタンと本を閉じる。 「それにしても…春華ちゃん…はやく記憶が戻ると良いね」 寂しそうに言うヨーコの頭を抱き寄せ、勘太郎が呟く。 「ごめんね、ヨーコちゃんにも心配掛けちゃって」 「いいのよ、二人が悪い訳じゃないわ!」 事故だったのよ…と自分に言い聞かせるように呟き、ヨーコが立ち上がる。 「ご飯用意できてるから、早く来てね!」 「うん、分かった」 ぱたぱたと走り去っていくヨーコが見えなくなってから、勘太郎の表情が一変する。 壊れた笑み。 幸せそうな笑みを浮かべ、春華が居る部屋の襖を開ける。 「春華…」 自分を見ず、自分の名を呼ばないただの肉塊に抱きつき、勘太郎が瞳を閉じる。 死体にと力を与え腐らないようにし…自分の側に置く。 それは今まで以上にない幸せをもたらしてくれる。 誰も見ず、誰とも喋らず、誰のことも考えない。 ずっと自分だけの物。 「春華」 指先にと口付けながら名前を呼べば、なぜか頬を冷たい水が伝っていったがそれがどうしてなのか分からず。 でも…徐々に幸せな気分になってきて。 笑っていた。 春華が好きだと言っていた微笑みを浮かべ。 落ちる音がきこえた。 何もかもが壊れ、落ちる、音 戻 2005.5/26 如月修羅 |