あなたには笑っていてほしいから。

「‥‥ヤード?」
「えっ‥‥」
「どうしたの?」
するりと後ろから首に腕を回され、驚き顔を上げる。
そこには不思議そうな顔をしたレックスがいた。
「‥‥‥何がです?」
「ここ、しわよってる」
ここ、と軽く眉間をたたかれ眉をしかめる。
「‥よってましたか?」
「うん。すっごいしかめっつら」
「‥‥‥」
そんなすごい顔をしていただろうか?
「ほら、また」
「‥‥」
「どうしたの?ヤード」
「ただ‥」
「ただ?」
きょとんと首を傾げるレックスに微笑む。
「月が綺麗だな‥‥と思いまして」
「うん?」
そうなの?とレックスが空を見上げる。
痛みも苦しみもなにもかもあなたは一人で受け止める。
そして微笑みという仮面で隠してしまうから‥‥‥。
「あなたには、笑っていて欲しいんですけどね?」
「えっ?」
「月が綺麗だと、言ったんですよ‥‥」
あなたには笑っていて欲しい。
でもそれは何かを隠すために笑みじゃなく。
ただ、心から‥‥微笑んで欲しくて。笑って欲しくて。
でも。
それは剣を持ち続ける限り、無理かもしれない。
戦いが続く限り、永遠に‥‥有り得ないかもしれない。
「ヤードはさ‥‥」
「はい?」
「深く考えすぎなんだよ」
「‥‥‥レックスさん?」
「俺はね、そんなに弱くない」
「‥‥‥‥‥‥」
微笑んで。
微笑んでそう言う。
「俺はね、強くはないけど‥‥弱くもない」
「‥‥‥‥」
「間違えないでね?ヤード」
「‥‥‥‥‥‥えぇ。そうでしたね」
自分の言葉にレックスが頷く。
「でも心配なんです。私が‥‥私たちは‥‥あなたを苦しめてないだろうかと」
「だからね、それが考え過ぎなんだって」
困ったように笑い、レックスが隣にと腰を下ろす。
「ヤードもみんなも、誰も俺を苦しめてなんかないよ」
「‥‥‥‥」
「だから、そんな顔しなくていいんだよ?」
「‥‥‥‥‥‥」
「ヤード、確かめてみる?」
「えっ‥‥?」
「俺がそんなに弱くないってこと」
誰かを護るときに見せる、意志の強い瞳。その瞳が自分を射抜く。
「レックスさん‥‥」
「見ててよ。誰よりも俺の近くで」
「‥‥えぇ」
そうですね。と微笑んでレックスを見る。
「見てて」
そう言って笑うから。そっと抱き締めて口付ける。
この腕の中の存在には、いつでも本当の笑顔を浮かべていて欲しいから。
だから。
そう‥‥‥‥。
「ずっと近くで見させていただきますよ」
あなたが必要以上に傷つかないでいいように。
あなたと共に、どんなときでも戦っていけるように。
ずっと側で見守っていこう‥‥‥。

  完。
2014.10/11 如月修羅 再録


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