「い〜ち、にぃ〜い、さ〜ん…」
「早くしろ、マグナ」

うん。

とは頷くものの、マグナはまだ一人何かの数を数えている。

人の部屋に来て、一体何を始めるかと思えば、なにやら僕にと背を向けて数を数え始めた。
さっきから10までの数を永遠数え続けている。

「10!」
「いいかげんいいな?僕は図書館に行って来るぞ?」

だから、とりあえず君もでてくれないか…。と、机に本を置き、立ち上がれば。

「はいっ!」

にこっと笑みを浮かべたマグナが両手を差しだしてきた。

「………?」

さっきから何を数えているのかと思えば。

飴?

「美味しいよ?さっきせんぱいにもらったんだ」

先輩という言葉をちょっと言いにくそうにしながら、マグナが笑う。
多分、ミモザ先輩からもらったのだろう。

「………ありがとう」
「うん♪」

掌に寄越された飴。
色とりどりの飴たち。
少し暖かいそれに、笑みがこぼれる。
ずっとマグナが触っていたからだろう。

「半分個しようと思って」
「だからさっきから数えていたのか」
「そう」

残っていた飴をビンにと戻しながら、マグナが頷く。

「食べないのか?」
「………え?」
「雨よりも、飴の方が好きなんだろう?」

と笑って問えば、マグナが驚いたようにこちらを見る。

「確かに、そうだけど…」

いつもご飯前に食べると怒るじゃないか…。
とぼそりというマグナに、苦笑を漏らす。


確かに、そうだけど。


でも。



たまには。


掌に転がした飴を一つ手に取る。

多分、苺味の…それ。

「マグナ、おいで?」
「うん?」

なんの疑いもなくやってくるマグナ。

「なぁに?」
「せっかくだから、食べようか」
「えv」

にっこりと微笑んでいえば、うれしそうに瞳を輝かせる。

「……んっ?!」

ぐいっとマグナを引き寄せ、そのまま口付ける。

「……………あまい」
「苺味だな」

口移しに渡されたそれに、マグナが真っ赤な顔でそう言う。
さらりとマグナの頬を撫でながら微笑む。

「美味しいか?マグナ」
「………う…ん」

こくんと頷き、何か言いたげにマグナが袖を引っ張った。
その意味を汲み取り、苦笑を漏らす。

「親愛の印、だろう?」
「……………う〜ん?」

そうなの?

と疑問顔でそう言うマグナを抱き込み、耳元で囁く。

「好きなら、当たり前のことだぞ?」
「こういうのって、好きならあたりまえ?」
「そうだ。でも…」
「でも?」
「確かに、人前ではあまりしないな」
「うん?」
「だから、二人だけの秘密だ」

二人だけの秘密。

小さい子なら、誰でも引っかかる簡単な罠。
秘密という響きに誘われ、マグナがうれしそうに微笑んで頷いた。

「分かった!!ネスと二人だけの秘密だね」
「そうだ」

秘密だ〜。
と、うれしそうに言うマグナを見つめ、さて次はどんな手を使おうか。

なんて。

考えていたりして。


早く、早く…。
この共犯者が同じ思いに捕らわれてくれたらいいのだけれども。
とりあえず今は。
もう一度マグナを引き寄せ、苺味のキスをした。



2014.6/24 再録 如月修羅

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