蒼月

ぽつりと。
呟かれた声に、顔を上げる。
読んでいた本を膝の上に置き、隣にいたハヤトを見つめた。

「…どうしたんだい?ハヤト」
「…ううん。なんでもないよ」

思い詰めた顔をしていたくせに。
ハヤトは声を掛けると、いつものよう笑いながら首を振った。


―………。


「ハヤト」
「何、キール」

ぐっと手首を掴み、引き寄せる。
驚いたように身体を引くハヤトを許さず、噛みつくように口付けた。

「いたっ…痛いってば!」

ぐっと肩を押され、今度は押されがままに身体を離す。
でも…ハヤトの身体は拘束したまま。


細く、しなやかな身体。

「何なんだよ?!キール!!」
「それはね、僕が聞きたいよ!!」
「……えっ……」
「君はいつもそうだ。一人で抱え込んで、無理に笑おうとする」


僕の言葉に、ハヤトがはじかれたように瞳を見開いた。
そして、ゆっくりと微笑む。
ぎこちない、今にも壊れそうな微笑み。

「ねぇ…キール」
「なんだい?」

「俺ね、キールが好きだよ」

そう言って、今度は慈愛に満ちた微笑みを浮かべて。

「ハヤト…?」

「本当に」


今にも壊れそうなハヤトの身体を抱き締める。
この腕の中にハヤトがいるはずなのに、それは今にも消え入りそうで。
まるで、掌から零れ出す砂みたいだ。
そっとハヤトの髪に触れ、頬に触れる。
瞳を閉じ、ハヤトはされるがままだ。

「ハヤト」

促すようにそう囁けば、ハヤトが口を開いた。

「キール…好き、なんだ」
「……ハヤト」

あくまでも言いたがらないハヤトに溜息をもらす。
そんなに僕は頼りないのだろうか?

「すごく、すごく好きで…怖い」
「え?」
「好きすぎて、怖い」

ぽつりと。
そう呟き、顔を埋める。

「失うのが怖い」
「ハヤト」
「傷つけるのが怖い」
「……ハヤト」
「嫌われるが…ものすごく怖い」

小さな。
小さな声。
震える指先。
愛おしくて。
ハヤトという存在が愛おしくて。

笑みがこぼれる。


「僕もね、君が好きすぎて怖いよ」
「…うん」
「君を僕の思いで壊しそうで」
「そんなこと…っ!」

声を上げたハヤトの唇に指をそっと置く。

「この不安はね、愛し合ってるからこそ出てくる不安だよ?」
「…………うん」
「だからね、安心して?」
「不安なのに安心って…変なの…」

そう言って笑うハヤトに微笑む。
そう。
君はそうやって微笑んでいる方が似合う。
愛おしい。
愛おしい存在。

「好きだよ、キール」
「……僕もだよ。愛してる」


そう耳元で囁いた。
慈愛に満ちた微笑みを浮かべる、君のために。




2014.6/24 再録 如月修羅

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