君が笑うから
どんな酷い怪我をしたって。
君は笑うから。
「またやっちゃったよ〜」
あは。
と、どこか僕の表情を窺うようにして笑いながら、マグナが前線から戻ってくる。
僕は、フォルテ達のように前線で戦うことは出来ない。
ちゃんと後方の必要さも。
自分の役割も。
全て理解しているのに。
……しているのに。
こんな風にマグナが怪我をして戻ってくるのを見ると、歯がゆい。
自分が前線で戦えないことが。
召喚師だということが。
こんなにも歯がゆいなんて。
「アメル、ごめんな」
「いいんですよ、マグナ」
聖母プラーマを召喚し、マグナの治療をしてやっているアメルを見つめる。
怪我をして戻ってきたマグナを治療するのはアメルで。
彼女の癒しの力は僕の力よりも強い。
だから必然的に治療するのは彼女の役目で。
時々。
そう、こんな時に…思う。
ボクハモウ必要ナインジャナイカ?
「ネス?」
さっきまで力を合わせて戦っていたのが嘘のように、思い思いに散らばり、歩き出した面々の一番後ろについて歩いていると、マグナがおそるおそると言った声音で呼び止める。
「どうか…したのか?」
「別に」
こんな弱気なことを口に出せるわけもなく。
しらずきつい口調で言葉を返す。
「別になんでもない」
「…………っ」
ぎゅっと唇を噛み締め、それでもマグナが無理に微笑もうとする。
「ごめんな、ネス。俺、うるさかった?」
「………」
「ごめん」
違うのに。
悪くないのに。
なんで僕は。
「……………」
「…………ネス」
「君が笑うから…」
「えっ…?」
絞り出すように出た言葉は。
不自然に低く響いて。
「なんで笑うんだ、君は」
「………」
「なんですべて一人で背負い込もうとするんだ」
「……そ、んなこと…」
「…………………」
「……………」
言いたいことはこんなことじゃなくて。
「そんなこと、ない、よ…」
「……………」
考えるようにそう言って。
やっぱり笑って。
「背負い込もうとなんてしてない」
「………」
「いつだって俺はネスに助けてもらってるし。他のメンバーにだって」
「………っ」
「俺は一人でなんて戦ってないよ。みんなに助けてもらってる」
「……………」
「特にネスにはいつも迷惑かけてるし。ネスの…ゼルゼノンとかないと、やっぱり大変だし…それに」
「……それに?」
僕の言葉に、はっと口を閉ざすマグナ。
「……っ」
「続きは?マグナ」
「えっと………そのっ」
真っ赤になったマグナを不思議に思い、伏せてしまった顔を持ち上げる。
「………っ、怒らない……?」
犬がご主人を見上げるような、うるうるした瞳に心を奪われながら、頷く。
「………俺はネスのために戦ってるから!」
早口に言われた言葉に絶句する。
「ネスが俺を守ってくれるように、俺もネスを守りたいんだ」
「………僕は」
「え?」
「君に必要とされているのか?」
「当たり前だろ?」
何を言ってるのか?
と首を傾げるマグナを抱き締める。
「ネス?」
「…………」
いつだってこの弟弟子は。
意識しないで、一番相手が喜ぶことをいとも簡単にしてのける。
自分を必要だと何の迷いもなしに言ってくれた、マグナを。
「僕だって君が必要だよ……」
すさんだ心も。
何もかも包み込んでくれる君の優しさが。
僕には何よりも必要で。
「……ネス」
にっこりと笑うマグナを見つめ、微笑んだ。
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2014.6/24 再録 如月修羅
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