帝人とセルティさんはとっても仲良し!(友達的な意味で)を前提でお願いします。


馴れ初め

『結局、どうして付き合うことになったんだ?』
あ、いやならいいんだが。
とセルティさんが体で表現してくれたが、その1文を見て思い出したくもない、けれど忘れることも出来ないあの日のことを思い出す。
「………ある暖かい日でした………」
どこか遠い目をして語りだした僕に、セルティさんが『無理をするな!戻って来い帝人!!』と打ち込んでいたが、ふーと溜息を零すに留まる。
いや、なんか知ってて欲しいし。
つうか、強烈すぎて未だに忘れられないんですよね…。

そう。
あれは暖かな春の日だった。
ぼんやりと池袋を歩いていた所で、がしっと首筋を捕まれた。
気配を感じなかったし、何より突然のことすぎてなにも出来なかった僕に、「それ」は穏やかに話し掛けてきた。
(正直僕の心情は穏やか所のはなしじゃなかったけれど!)
「なにやってるの?」
「………歩いて、ました?」
疑問系になりながら、絡みつく指先を解こうとする。
それをまるで子猫がじゃれてきているかのようにあしらいながら、「それ」…もとい臨也さんが首を傾げた。
「見ればわかるよーそれは。ちがくて、何をしにここまできたのってこと」
この人、絶対にわかってる。
今日はセルティさんと新羅さんの三人で夕食の約束をしていたのだ。
何か買ってから行こうとふらふら歩いていたのだが、一番見つかりたくない相手に見つかってしまった。
こんな真昼間から臨也さんがうろうろしてるとは正直思ってなかった。
なんとなく、夕方から行動を開始してるイメージがあったし。
あっただけだけど。
「…………」
ここでセルティさんたちの名前をだして、さらに夕食を一緒にするなんてしれたら、今まで一度も臨也さんの誘いに乗った事がないのを攻められるだろうということは、分かりきっていた。
(だって、この人の誘いにのったら最後。どうなるかわからない)
「みーかーどくん、知ってるよぉ?セルティたちとご飯でしょ?」
くすくすと笑う臨也さんはやっぱり知っていたらしい。
脱力してそうですよ、だからなんですかと開き直れば、ぐっと首に掛かる負担が増えた。
「酷いじゃない?俺からの誘いは全部断るくせに〜」
(そりゃだって何されるか、わからない誘いになんか乗るものか)
(それすらわかってるんだろ、この人は)
じとりと睨みつければ、くすくすと再び笑った。
どうしよう、いつもと違ってかなり上機嫌だ。
頭に何かわいてしまったんだろうか?春だし。
かなり失礼なことを考えながら、どうにか解放されて大きく息を吸い込んだ。
さて、どうしよう?
僕はこのまま回れ右をしてそのまま逃走してもいいのだと思うのだけれど。
「さて、帝人君」
「…?」
じりじりと臨也さんから離れながら、くるりと回って。
丁度向かい合うような形になった所で名前を呼ばれる。
幽霊とかじゃないけど、この人視界に入ってないとなにをしでかすかわかんなくて背後見せれない。
(幽霊よりたちが悪いけどね)
「俺さ、色々と考えたんだよ。俺が帝人君を愛してるのに、帝人君が俺を愛さないなんて可笑しいことだなって」
「可笑しくないですよ、正常な判断です」
「言葉でどれだけ愛を囁いても駄目なら、こうするしかないよね!」
いや、だから…と言おうとした瞬間、臨也さんの腕が伸ばされて、道歩くなよっちいサラリーマンの首筋に掛かった。
「は…?」
「え…?」
僕の腑抜けた声と、サラリーマンのかなりびびったような声。
(そりゃ誰だってびびる状態だと思う)
「帝人君が俺と付き合ってくれないと、彼の生皮剥がすけど、いーい?あ、大丈夫だよ!ちょっと生皮剥いだぐらいじゃ人間なんて死なないから。ほら、だって戦争の時にやってたぐらいだもん平気平気。
でも優しい優しい帝人君なら、無関係の人が巻き込まれる黙ってみてられないよね?」
どっから出したのか、すでにナイフは握られていて。
呆然とする相手と呆然とする僕。
すみません、誰かこの状況の説明………
「ね?帝人君。付き合ってくれるよね?」
なんだこの人何だこの人なんだ、この人?
たかだが子供一人のためにこんな馬鹿なことしてるの?
っていうか、今まで言ってきたのって告白だったの?
「…………っ」
「帝人君?」
とりあえず、ここでサラリーマンの人の生皮剥がされたら一生後悔しそうだ。
ならば。
きっと。
多分。
「わ、かり…ましたから、まずは手を離して下さい」
「分かっただけじゃ、駄目。付き合ってくれるの?」
「付き合いますよ、付き合います!だから離して上げて下さい!」
その声に弾かれたように両手を離して。
ひぃと悲鳴をあげながら去って行くサラリーマンを見送って。
ぶっちゃけ僕もそっち側に行きたかったのだけれど。
にこやかに笑って近寄ってくる臨也さんに抱き寄せられて。
「これで君は俺のものだよ」

誰にもあげないから。


狂った人は、他人を巻き込むのに躊躇しないんですよねぇ…

『あの日、だったのか…』
結局食べに行く事は不可能になって。
臨也さんの恋人になるってどういうことか、頭と体に教え込まれた。
「そうですよーあの日です。あの日、僕がサラリーマンを見捨てておけばこんな…」
『だ、だけれども!その…なんだ…』
あわあわとするセルティさんはとても可愛かったけれど、別に彼女が悪いわけでもない。
悪いのはあの男だ。
「平気です。世の中には便利な言葉もあることですし」
『なんだ?』
「セルティさんも使うといいですよ」


先に惚れた方が負け。
よって、今日も勝ち戦。

がんがんなるメールを無視して、セルティさんとご飯を食べるぐらいには、強くなりました。

(こんな強さは必要ない気もするけれどね!)



2009.3/5 如月修羅

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