闇夜に咲く花



帝人には臨也、九瑠璃、舞流という弟と妹がいる。
そんなきょうだいたちに内緒の仕事をしている帝人は、今日も笑顔できょうだいたちを送りだすのだ。
「いってらっしゃい」
「いってくるねー帝人にぃ!」
「…行(いってきます)」
「………」
元気一杯の妹達と対照的に、一瞥もくれないままさって行く弟に苦笑を零す。
昔から弟は自分に懐いてくれない。
ひょっとしたら敏感な部分で自分の裏の部分に気がついてしまっているのかもしれない。
それか、表の顔のどんくさい自分に嫌気がさしているのか。
…昔から、仮面を使い分けるのは得意だった。
少しどんくさくても、先生や親の言うことをよく聞く良い子の仮面。
もう一つは、危険なことを自らやる悪い子の仮面。
いつからだろう。
その二つの顔があることに気がついたのは。
「さて…仕事するか…」
表向きはフリーのwebデザイナーということになっている。
部屋の中に置いてある数台のパソコンたちは常に起動しながら、仕事を待っている状態で。
携帯を取り出し、内容を確認しながら連動させてたパソコンを動かす。
どうやら新しい仕事が入ったようだった。
「さて。楽しくなりそうだね」
にっこりと微笑んだ其の笑みは、まるで闇夜に咲く花のように。


「へぇ?それで?」
「ひぃぃ…!」
「それじゃ、分からないですよ?」
ことりと首を傾げて足元で土下座せんばかりの男に問いかける。
「で、どこにやったんですか?」
「し、しらな…」
「知らないわけないですよね?僕、嘘が嫌いですし」
手を踏みつけ、にっこりと微笑む。
痛みで顔を歪めた男を見つめていれば、少し路地が騒がしくなった
「絶対こっちが近道だから!」
「……否……」
この声は…。
ちっと舌打ちしたところで、見知った顔が。
勿論、知らなくちゃ嘘になる。
大切な妹たちだ。
「……え?」
「……何……」
此方が恐喝されてるようには…明らかに見えないだろう。
とっさに足はどけたけれど、すでに男の顔は腫れ上がり、血と涙で汚れている。
九瑠璃と舞流がひきつった笑みを浮かべている。
当たり前だろう。
彼女たちは自分は無害な優しい兄だと思っていたのだろうから。
「九瑠璃、舞流お帰り、こっちは行き止まりだよ」
「帝人、にぃ……」
「帝人兄……」
「さ、もう帰った方がいい。今日は確かカレーだって!」
にこにこにこ。
足元でこれ幸いと逃げようとした男を蹴り飛ばし、気絶させてさらに微笑む。
「ほら、もうお帰り?」
2人は踵を返すと去って行った。
「嫌われちゃったかな?」
まぁ、しょうがない。
年頃の少女たちというのは、男親や男兄弟に厳しいものだから。


次の日。
いつも通りいってらっしゃいと送りだせば。
「………」
「………」
「…?」
2人は何も言わず去って行った。
明らかに距離を置かれている。
しょうがないよね、と苦笑をこぼせば臨也が此方をみた。
突然態度が変わったのに不審を覚えたのであろう。
「なにしてんの、あんた」
「なにって?」
「妹たち、傷つけたの?」
「傷つけてないよ」
「…ふーん…」
久しぶりに会話したなぁ…なんて感動していると、ふいっと視線を逸らされた。
「どうでもいいけど」
「ん?」
「あんた、邪魔」
あ、ごめんと場所をよけてやれば、さっさと去って行った。
臨也は気がつくだろうか。
気がつかないだろうか。


気がついたときは、どうするだろうか?


ちっともなついてくれない弟に苦笑をこぼし、まだこのままでいいかと思いをはせた。



2010.0808 如月修羅


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