秘密の恋をする
僕は折原臨也という人物に恋してる。
勿論、言うつもりはないし、これが叶わない願いってこともよく分かってる。
でも。
でも…こうやって。
ダラーズ関係とはいえ、こうやって二人きりで向かい合いながら話ができるこの瞬間を、心密かに楽しみに…そして幸せに思うぐらいなら許されるだろう。
臨也さんは本当、僕に会う時はダラーズの話しかしない。
そりゃ勿論話の導入部分に今日の学校はどうだったとか、簡単な世間話は入るけど、最後にはダラーズにいきついてしまう。
ダラーズのメンバーが街の片隅であぁしてた、こうしてた。
名前が出された悪事があった、なかった。
幸せは、幸せ。だって大好きな人と同じ空間でしかも二人っきりなんだから。
臨也さんが人の悪そうな笑みを浮かべて、今日もまた教えてくれる。
「ダラーズの評判がこれ以上悪くなっても問題だからさ、今日のは纏めてお灸据えちゃったけど、いいよね?」
「…まぁ、いいですけど」
空になったカップをどうしようかと思案しながら、口を開けば臨也さんが首を傾げた。
「なに、欲しいの?」
「あ、いえ…大丈夫です」
「欲しいなら欲しいっていいなよ。ここは俺の家なんだからさーお茶ぐらい出すし」
「いえ、おきになさらず…!」
慌てて首を振ったが、カップを持っていかれてしまった。
「そう、ここは俺の家なんだよ?帝人君」
「…え、あぁそうですね」
突然何を言い出すんだろう、この人。
不思議に思ってじっくりと見つめれば、臨也さんがまた人の悪い笑みを浮かべた。
「毎回毎回不思議に思ってたんだけど、君無用心すぎない?」
「はい?」
「いいの?俺になんかついてきちゃって」
ついてくるもなにも、ぶっちゃけていうと一番最初は結構無理矢理でしたよね。
とはいわない。
言ってもこの人には叶わないし。
…それに、今は。
逆に嬉しくてしょうがないのだから始末に悪い。
「はぁ…まぁ僕にどうこうしようっていうのはないだろうなぁって分かってますんで」
こんな平凡な僕に何かしようとしたのなら、臨也さんならとっくの昔にしていただろう。
ということは、本当に僕自身になにかあるわけじゃなく、純粋にダラーズのことだけが必要なのだろう。
それぐらいのことはわかっているので、期待はしない。
それにしても今日はなんというか…いつもとちょっと変っている。
なんだろう、神様が気まぐれを起してくれたのだろうか?
ダラーズ以外の話をしたいと願っていたら、まぁ方向性がまったくもって不思議ではあるものの、ダラーズ以外の内容で。
「ほんっと帝人君ってさぁ…望まないよね」
「…はい?」
「飲物が欲しければ欲しいっていえばいいし、俺とダラーズ以外の話をしたいならしたいって言えばいい」
「は?」
ちょっとまって、なんでそんな方向に話が飛ぶの?!
「君と俺との関係は確かにダラーズという組織に居るってことだけど、ここは俺の家だ。ねぇ、帝人君、ちょっと考えても見てよ?確かにダラーズの話をするだけなら、別に俺の部屋につれてこなくたってできるんだよ?それこそ喫茶店で話すぐらいで十分な会話だよね。聞かれてもなんら不便はない会話ばかりだ。それなのに、わざわざ俺のテリトリーに入れて会話する意味がわかる?」
「ちょ、ちょっと待ってください」
な、なんだろう意味が、ついていけない。
確かにここは臨也さんの家だ。
喫茶店じゃない。
そして確かにダラーズの創立者であることはばれたくないけれど、普段している会話は聞かれてそう困ることではない。
ダラーズに組みしていることは分かっても、誰も創立者だとは気がつかない、そんな会話だ。
それを臨也さんの部屋でする意味?
まったくもって分からない。
「なんで、ですか?」
「君は頭が悪くないって思ってたんだけどね」
「…はぁ」
「俺は何時だって帝人君に『誰にも聞かれたくない』ことを話してもいいっておもってるよ?」
それは。
一体、どういうことだ。
考えろ考えろ、考えろ。
…期待しちゃだめだ、この人はこうやって人をからかうのだから。
ぎゅって握った拳に瞳を落とし、何度か深呼吸する。
「ダラーズのことでしたら、きっと僕より臨也さんの方が…」
「違うよね、帝人君。君が言いたいことは」
「………っ」
「……まぁ大人な俺の方が譲歩してあげよう、じゃぁ言おうか?帝人君は俺に恋をしているね」
「!!」
真っ赤になって、次の瞬間真っ青になったのが分かった。
知られていた。
きっと気持ち悪いと思われて…。
「俺は嬉しかったからこうやって部屋にまで招きいれたのに、帝人君は行動を起そうとしないし」
「………ぇ」
「ねぇ、帝人君、君がしたいことってなにかな?」
それは、その…。
いっても、いいのだろうか。
「ダラーズ以外の、話も…したいです」
「それから?」
「もし、よければ…その…ずっと、一緒にいたい、です」
「うん、叶えてあげる」
するりと伸ばされた指先が、僕の頬にと掛かる。
近づいてくる綺麗な瞳に、見つめつづけることは出来なくて。
ぎゅっと瞳を閉じれば触れる温もり。
それは瞳から頬へ、そして最後に唇に触れて、少し離れたあと今度は深く触れ合った。
「ん…っ」
「可愛い、帝人君。ねぇ、他には何をして欲しい?」
「…その…臨也さん、僕のこと、好き、ですか…」
「帝人君は?」
何時の間にか近寄ってきた臨也さんに抱きしめられ、体に触れられながら聞けば、逆に問い返された。
腰をなでられ、びくりと体が震える。
「大好き、です…」
「そう」
嬉しそうに笑って、臨也さんが首筋にと顔を落とし、きつく吸われた。
「俺のものっていう証」
「……っ」
もう一度唇に口付けを落とされながら、ぎゅっと臨也さんの首筋に腕を回した。
臨也さんの 愛している。
の言葉がきけたのは、深く深く一つになったその瞬間だった。
これからは、もっと沢山お話しようねと笑う臨也さんに笑って頷く。
僕たちは秘密の恋をする。
御本人以外の持ち帰りは禁止です
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2010.6/24 如月修羅
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