非日常へ戻される日




結局あれから半年たった。
もっとこう…振られた?人と同じように悲惨になるかと思ったけれど、普通に毎日が過ぎていた。
臨也さんが居ても居なくても僕はちゃんと生活できるんだなぁ…とどこか遠くで思った。
僕は臨也さんを愛しすぎて依存しているのかと思ったのだけれど、どうやら違かったようだ。
それはそれで自分が普通じゃないような気がして怖いけれど、まぁ今はそれが救いのようにも思える。
「結局僕は愛してなかったのかなぁ…」
ぼんやりと家に帰ろうと校門を過ぎた所で、ぽつりと毀れてしまった独り言。
咄嗟に辺りを見渡したけれど、幸い、周りには人がまばらでさらに皆此方を見ていなかった。
よかった、と前とは違う方向に歩きだしながら今日の夕飯はどうしようかと思考をめぐらせる。
昨日はバイトで疲れきっててお握りだけだったから、今日はちょっと豪勢に行きたい。
「…鍋?」
どうも独り言が口についていけない。
ぱっと口を覆った所で、ぽんっと肩を叩かれた。
「?!」
クラスの人にでもきかれたのだろうか。
どうしよう、なんか恥ずかしい。
どう誤魔化そうかとゆっくり後ろを向いたら、そこには笑みを浮かべた臨也さんがいた。
「…は?」
「え、なにその反応」
「いえ、どうしたんですか?」
「どうしたのはこっちだよー電話しても繋がんないしさー家は変ってるし」
なんだこの状況。
もっと取り乱すかと思った自分がいたけど、人は吃驚しすぎると逆に冷静になるという定説は間違えていないらしい。
楽しそうににやにや笑ってる臨也さんを不審者をみるような瞳で見つめるぐらいには、僕は冷静だったようだ。
「はぁ…まぁいうこともないかと思いまして」
「あれ、俺たちってお付き合いしてたよね?」
「……あれをお付き合いというのなら、してたのかもしれませんね」
とはいえ、こんな会話を学校近くでするのもあれだ。
しょうがないのでどこかお店でも行きますかと提案すれば、腕を捕まれた。
「んーまぁ店でもいいんだけどさ、ちょっと行きたい所あるから付き合ってよ」
「はぁまぁいいですけど」
「……そ」
臨也さんが不機嫌そうにうなづいた。
いや、行きたい所あるって言ったの貴方ですよね?


公園へ向かう ドライED

家に向かう  ハッピーED






















































公園へ向かう

連れてこられたのは公園だった。
「つまんない」
「なにがですか」
「もっとこう罵るとか色々あると思ってたのに」
「それは残念でしたね」
「うん、残念だった」
爽やかな笑顔でそういう臨也さんにイラっとしたけど、そんな人でも好きだった人だ。
こういう人だとちゃんと理解している。
イラっとするだけ無駄だろう。
「でさ、相談なんだけど」
「ダラーズですか?」
「話はっやーい。流石お付き合いしてただけあるよね」
分かってる。イライラしてもしょうがない。
この人に本気になるだけ無駄なのだから。
分かってる、大丈夫。
「そうですね。で、ダラーズをどう使いたいんですか」
「それは内緒。で、使わせてくれるの?」
にこにこと笑ってそういう臨也さん。
小さく小さくため息ついて、頷いた。
「お好きなように。ただ…」
「分かってるって!犯罪とかにはつかわなーい♪」
「なら、いいです」
話はそれだけですか?といえば、臨也さんがにっこりと微笑んだ。
「ついでだから、また体の付き合いもしない?」
「お断りします。ダラーズだけで満足してくださいよ」
「えーいいじゃない」
「僕だけの負担が増えるんで却下です」
「じゃぁ情報もあげる」
「…なんのですか」
「帝人君の其の時其の時欲しい情報を、かな」
「………」
ダラーズは規模が大きすぎて、正直一人ではきつい所もある。
魅力的な誘いではあったけれど、もう一度同じ轍を踏んでしまいそうだ。
だって、僕はまだ臨也さんを愛してる。
こんな薄情で最低な人間だというのに。
なんて愚かなのだろう。
「……いいでしょう」
「じゃ、決まりね」
「…臨也さん、一つだけお願いが」
「なぁに?」
「ダラーズが必要なくなったら、すぐに教えてください」
「んー?」
「約束、ですよ」
せめてもの、境界性。
期待しないように、壊れないように、自ら境界線を引く。
「了解、とりあえず体のお付き合いから始めようか」
久しぶりだよね。
なんて笑う最低な臨也さんに、とりあえずにっこりと微笑んでボールペンを振り上げた。






































家に向かう

連れてこられたのは、何度か連れてこられた臨也さんの数ある「家」の一つだった。
確かここは臨也さんのお気に入りの部類に入る「家」の一つらしい。
よくここに帰ってくるのだと笑っていたのを思い出す。
…のはいいのだが、なぜかあれから無言で。
確かに何も言わずにいなくなったのは悪いかなというきがしないでもないので、一応謝罪はいれたものの、臨也さんは無言だ。
でも誰だって臨也さんみたいな態度をとられたら、似たようなことをするんじゃないだろうか。
あ、でも其の前に「話し合い」ぐらいは間に入れるべきだったきがしないでもないけど。
「俺さー」
「はい」
「嫉妬してくれると思ったんだよね」
「はぁ」
「いや、はぁじゃなくて、分かってる?帝人君が、相手に嫉妬してくれるかと思ったんだよね、俺」
「………は?」
「うん、分かってないね。複雑な男心もうちょっと分かって欲しいんだけど帝人君」
「臨也さんはもう少し分かりやすく言っていただけると嬉しいんですけど」
「いやだから、これ以上もなく分かりやすいでしょ?嫉妬して欲しかったわけ」
「飽きたんじゃないんですか?僕に。だって半年も放っておいたわけですし」
「………飽きた?いや、俺そんなこと一度もいってないよね?俺は君が欲しいって言ったよね?」
「えぇいわれましたけど、愛してるとはいわれてないですし、大体あんな態度とられたら嫉妬する前に飽きたんだなって思います」
「これでもさ、半年反省したわけだよ。嫌われること何かしたのかなーって」
「臨也さんが反省?!」
あまりのことに吃驚して大声を出したら、俺だって反省するよとあきれたようにかえってきた。
「…なんとなく理解した。帝人君、君…いっちゃなんだけど普通じゃないよね」
「臨也さんほどじゃないですよ」
「うん、俺ほどじゃないけど、人間として欠如してる。コミュニケーション不足」
「…?」
「あれだね。社会の弊害だよねネットに依存しすぎてる。そうだな、しいてゆうならチャットやメールだと話せるのに、会話は出来ないとかそういうタイプだ」
それは…多少なりとも自覚があるので、なにも言わずに先を促す。
「というわけで、俺は嫉妬してもらう前に帝人君とコミュニケーションをもっと取っておかないと駄目だったんだ」
「はぁ」
「分からないみたいだからもういいや、いや良くないんだけどとりあえずこれだけ確認させて」
臨也さんがとても真面目な顔で此方を見た。
「ねぇ、俺は帝人君を愛してるよ、だから付き合ってたいし、もしよければまた付き合って欲しいんだけど」
「………またというか、つきあうのも、別れた?のも言葉がなかったのに変な感じですね」
「じゃぁ言葉を変えよう。愛してるから、本気で付き合って下さい」
「………僕は」
「うん」
「また可笑しい行動とるかもしれませんよ?」
「うん」
「言葉できちんと言ってくれないと、察したりできないコミュニケーション不足人間ですけど」
「そうだね」
「それでいいっていう臨也さんは可笑しいとおもいます」
「で。答えは?」
そんなの言われなくたって分かっているだろうに。
やっぱり僕は臨也さん依存症だったわけだ。
こんなにも嬉しい、なんて。
言葉が、でないぐらい嬉しくて泣きそうだなんて。
でも、言葉が足りないのは僕もなんだし、ここはきちんと言わないと。
「好きです、付き合ってください」
「うん、これからも、よろしくね?」
漸く戻ってきた非日常。
そしてここからがスタートライン


2010.5/24 如月修羅

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