竈猫 2
出会い編
ちみっこみかどなので、ご注意を!

それはまさに運命の出会い。
人間にしか興味がなくて、其の日も人間観察に出ていた。
未知数の可能性を秘めた人間は本当に愛しい。
少し弄ってやるだけで、人間はどんどん形を変えていく。
なんて面白いのだろう、なんて愛しいのだろう。
「人間」が愛しくて愛しくて笑い出しそうだった。
「……?」
ちらりと視線をやった先に、黒い耳がぴょこんと出ていた。
あぁ、そういえば新しくペットショップができたんだっけ。
とどうでもいい情報だったから忘れていたことを思い出し、すぐに必要もないかと削除しようとした所で、気が変った。
そういえば、今やっているブログの「女の子」は可愛いもの好きという設定だったっけ。
可愛いもの=小さい動物もいいかもしれない。
そろそろ「獲物」が食いついてきそうだし、強度を計るためにも丁度いいだろう。
…それに。
やけに黒い耳が気になった。
「いらっしゃいませー!」
明るい店内。
沢山の動物たちがそれぞれ自分の好き勝手やっている。
楽しそうに喋っていたり、眠っていたり。
これを「人」は可愛いというのだろう。
「…すみません、さっき入る時に黒い耳が見えたんですが」
近くを歩いていた店員に言えば、きょとんとした顔がすぐに真っ赤になってそして凄い勢いで頷かれた。
多分それなりに可愛い女性の店員は、少し声を震わせながら此方の子でしょうか、と俺をショーウインドウまで導いた。
「………この子」
「お店では「みかど」くんと呼んでます」
脈ありだと見たのか、店員が何も言う前に、眠そうにうとうとしている子猫の元に近寄った。
「可愛い子なんですよ、目がくりってしてて、この黒い髪の毛も……」
何か喋っているが、そんなのはどうでもよくて。
“欲しい”と思った。
興味とかそういうのを吹っ飛ばして、ただただ“欲しい”と。
「この子、飼いたいんですが」
店員が触れることすら嫌で、そっと抱き寄せる。
黒い尻尾がするりと腕に絡みつき、不思議そうに此方を見上げてきた。
寝ようとした所を邪魔されているのに、怒りもしない。
どうやらかなりぼんやりさんのようだ。
「……ふわふわ?」
「…?」
「みかど、ふわふわ、すき」
どうやらコートのファーが気になったようで、白い指先を伸ばしてくる。
さっきまでの眠そうなとろとろした表情はどこへやら。
らんらんと光輝いている。
どうやらこの猫はファーがたいそうおきに召したらしい。
今にも飛び掛りそうな「みかど」君をいなしながら、手続きを済ませる。
ちょっとでも目を離すと、あっちへふらふらこっちへふらふらしているから心配だ。
そうだ、家の中から一歩もださないようにしよう。
そこまで思ってふと疑問に思う。
人間以外どうでもよかったはずなのに。
なぜこんなにもこの一匹の猫に心奪われるのかと。
(まぁ…いいか)
それもあとでじっくり考えよう。まずはこの子を自分の物にしてしまわなくては。
「あぁみかど君!」
「いたい、です…」
こてんと棚に居たはずのみかど君が、落下してしまって。
「みゃぁ…」
痛そうに泣き始めたみかど君が可愛くて可愛くて。
「大丈夫だよ、痛いのどこかに飛んでいくよ」
頭を撫でて、抱き上げて。
そしてそっとぶつけた所を撫でてやるなんてなれないことをやってみたりして。
当面必要なものだけを買うと、さっさとお店を後にした。

(可愛いもの、みぃつけた!)


2010.0502 如月修羅

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