この両手は、なんのためにある?
……音楽を作るため。

答えなんて、知っている。

カイトのために、俺は曲を創り続ける。



この両手は


「マスター?」
その言葉に意識が浮上する。
ふと隣を見れば、カイトが少し眠そうに此方を見ていた。
「起こした?」
「いえ…なんだか、少し、………寝ずらそう、で」
言葉を探し探しそういうカイトが可愛らしくて、額に口付ける。
向かい合わせに寝ている状態だから、出来ること。
ちゅっちゅっと口付けを額からまぶたへ、そして頬へ…最後に唇にふれ、そっと頭をなで上げる。
綺麗な青い髪。
俺が愛する海の色。空の色。
カイトの色。
「いや…大丈夫だよ」
「本当ですか?」
どうやらだんだんと意識がしっかりしてきたらしい。
カイトがまっすぐ俺を見る。
あぁなんて綺麗な青い瞳。
カイトは白と青で構成されている。
この両手は、そんなカイトのために曲を創る為にある。
カイトを世界で一番綺麗に歌わせるために。
俺だけのために歌うように。
綺麗な綺麗な、声で歌わせるために………。
「マスター?」
そっと伸ばされてきた指先が、俺の唇を辿る。
どこでこんな仕草を覚えてきたのやらとやりたいようにさせながら思う。
本当、可愛らしいカイト。
お前のマスターはお前のことを一番に考えてやるふりをしながら、自分のことしか考えてないというのに。
「大丈夫だよ、カイト。それよりごめんな?起こして」
「俺は平気です」
にっこりと笑ったカイトがより一層愛らしくて、腕を伸ばす。
少し不思議そうにしているカイトを引き寄せ、腕の中に抱き込んだ。
「………マ、マスター……」
「なぁに?カイト」
耳元で囁いてやれば、どことなく顔を赤くしたカイトが此方を見上げた。
上目遣いか、これも、いいね。
にっこりと微笑んで続きを促す。
「あの…マスターの」
そこまで言って、一端唇を閉じて。
少し考えるように瞳を伏せたカイトが、もう一度見上げてきて。
「腕の、中は…安心、します……」
「……………カイト」
「だから、もっとぎゅってして下さい」
あぁ、なんて愛らしいボーカロイドなのだろう!!

かなり強く抱きしめても、悲鳴を上げることなくカイトは受け止めてくれる。


………この両手は、音楽を創るだけじゃなく。
カイトを抱きしめるためにもあるのだと。
そう実感したある日の出来事。



2009.11/29 如月修羅

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