◆天才道士ヨウゼン◆
宝貝人間との一件を過ごし、太公望は四不象と散歩方々あたりの散策に出ていた。
元々太公望は自分から積極的に相手に攻め入るタイプではない。
ようやく治りかけた肋骨の傷を押さえながら日の光の下、
四不象とのんびり歩く。
「スープー、振り向かずに聞け」
「どうかしたっすか、御主人」
「誰かがわしらをつけておる」
太公望は手にした赤い華をくるくるとまわす。声も表情も何一つ変えずに。
口元には穏やかな笑み。
「この匂いに覚えは無いか、スープー」
それは漂う芳香。甘く甘く、臓腑の奥まで侵食していく。
「ま…まさか…」
「振り返るなと言っておろうが」
「だ…妲己!!??」
「そのようじゃのう」
太公望は手にした花をそのままにゆっくりと振り返る。
立ち込める芳香。漂う色香。それは同じ女が見ても魅惑的な光景だった。
「皇后妲己、何用だ」
「御主人!何でそんなに落ち着いてるっすか!」
その花弁を一枚、唇で落とし、太公望は薄く微笑む。
「本物の皇后妲己がここに来る訳が無いからのう」
淡々と響く声。
「わしはお主が誰なのかも知っているぞ…確か。。。揚任…いや…」
はらはらと華は落ち、足元に赤く沈み積もる。
「ヨウゼン」
仙人界で唯一変化の「術」を使う天才道士。
落ちた花弁が打神鞭の起こした風が運び、妲己の姿を解いていく。
「まいったな…名前が知れてることが仇となったらしい」
外套を纏った優美な道士。
すらりと伸びた手足に青灰白の髪。
「よくぞ、見破りました、太公望師叔」
「そしてその天才が一体何の用なのだ?揚?」
「原始天尊様の命により、あなたの下に付くようにと」
宝貝、三尖刀を構えなおし、太公望のほうに向ける。
「あなたの実力の程を見せていただきたく思います。僕は…あなたの本当の力を知りませんから」
踵を返して太公望は歩みだす。
「スープー、先を急ぐぞ」
「そうは行きませんよ、師叔」
ヨウゼンの掌から光があふれ、形を成していく。
それは長毛の犬のような生き物になり、四不象の首根っこを咥えて宙を翔る。
「スープー」
「人質をとりました。邪魔もいません。さあ、師叔、僕と勝負を」
「これ!スープー!噛まれたら噛み返さぬか!!」
ヨウゼンは太公望の態度に頭を抱える。
本当にこの道士が自分の上に立つ者なのか?
何故に仙人界の幹部はこの者を最重要計画の適任者に命じたのか?
「とぼけるのもそこまでですよ、師叔!!」
三尖刀が生み出す空気の刃。
十重二十重になって太公望に襲い掛かる。
その圧力は大地を抉り出すほど。
「!」
太公望は身動ぎもせずにその刃を受け止める。
まるで何事も無かったかのように。
道衣も、頭布もただの切れ端に。
辛うじて体にしがみついている着衣。留まりきれなっかた血液は血溜りを作った。
「御主人!!どうして避けないっすか!!」
流れる血さえ、太公望を彩る華になる。
「のう、ヨウゼン。この勝負、どっちか勝ったとしても無意味であろう?」
「……あなたは自分が傷を負う事を躊躇わない人なのですね」
「いや、わしはお主には勝てぬよ。天才でもなんでもない、ただの道士じゃ」
「師叔…」
太公望に歩み寄り、揚?は目を見張った。
「師叔…あなた…女性なのですか…!?」
「だったらどうしたというのだ?」
「女の顔に傷をつけるなんて…」
「わしは一人の道士じゃよ。それではいかんのか?ヨウゼンよ」
太公望の少し困ったような顔がヨウゼンの心をくすぐる。
「しかし…」
「気に病むでない、ヨウゼン」
頬を押さえ、血を拭う。
「なら、わしの頼みをきいてくれくれぬか?」
「師叔……」
「このなりではどうにもならぬ。着替えと薬を取ってきてはくれぬか?」
それは太公望なりに気をきかせたつもりだった。
この男は何を言っても「女」である自分に傷を負わせてことを責めるだろう。
少し甘えたような素振りをすれば、自尊心も満たされるだろうと思ったのだ。
「哮天犬、街までいって師叔にあうものを見繕って来てくれないか?」
「適当なものでよいぞ」
「四不象、君も一緒に行ってくれないか?哮天犬は君のように話すことが出来ないからね」
四不象を銜えたまま、哮天犬は街を目指す。
「なにもスープーを降ろしてやっても…」
「あの方が運びやすいからでしょう」
ヨウゼは自分の外套を裂いて、一枚布にする。
それを先ほど抉って作った太公望の傷口に包帯の代わりに巻きつけていく。
「師叔、すいません…避けるだろうと思って加減をしませんでした」
「かまわんよ、わしもお主の力を見ることが出来た」
「しばらくは僕の道衣を着ていてください」
上着を脱いで太公望に手渡す。
「ならばありがたく借りておくかのう」
細い素足と足首がちょこんと顔を出す。
青草の上、その白さは目を奪った。そう、理性をも溶かすように。
「師叔」
足首を取って揚?は口付ける。
「…なっ!何をするかヨウゼン!!」
「今ここにいるのは僕とあなただけですから」
傷口に唇を這わせて、一つ一つ舐めとっていく。
「ヨウゼン!!」
太公望は大教主原始天尊の一番弟子。ヨウゼンの師の崑崙師表十二仙と同格である。
ゆえにヨウゼンも「師叔」と呼ぶのだ。
道衣の止め具を外す。
三尖刀は肉を抉るように切りつける。少女の白い肌を無残に腫らして。
「師叔……」
さらしを解くと、柔らかい胸が露になる。掌にすっぽりと収まるような大きさ。
重量は物足りないものかもしれないが、形は良く、つんと上を向いている。
「ヨウゼン!止めぬか!」
「お願いです、僕に理由を下さい…あなたの傍にいるための理由を」
「…んぅ…」
太公望の細い体は傷だらけ。
一人で戦い、生きて来た者の体。
胸を揉みしだかれ、なだらかな腹部を舌が這う。
「ひぁ…っ!…」
肉壁を舌が蛭のように這い、流れる汁を吸い上げる。
舌先で責めながら、指を内壁に絡まると、太公望の体が大きく跳ねた。
「ああっ!!」
弓なりになる身体。
尚もヨウゼンは執拗に責めあげる。
指先には溢れた蜜がねっとりと絡みつき、それが更に揚?の男を刺激した。
「…師叔……」
太公望の手を取り、己の股間に導く。
「…わかりますか?あなたに触れるだけこんな風に…」
太公望を抱き上げて唇を合わせる。
絡んだ舌はまるで意思を持ったように互いの口中を蹂躙しあう。
胡坐をかいて太公望を引き寄せて、正面から抱きしめる。
腕の中に納まりきる小さな身体。
「いいですか…?師叔…」
「ここで引けといっても…わしもお主も無理であろう?ヨウゼン…」
太公望が困ったような照れ笑いを浮かべた。
揚?の頭を抱え込み、その額に唇を当てる。
そのまま片手を揚?の胸に当て、空いた手で陽根を掴み、
濡れそぼった己の秘所に当てがう。
「!!!」
内側が満たされる感覚と、圧迫される苦痛。
二つの意識が混濁して太公望を昇らせていく。
細腰を抱かれ、引き寄せられる度に繋がった部分からぬらぬらと零れる体液。
胎の奥まで突かれ、太公望は甘く鳴く。
「よ…ヨウ…ゼンっ!!…」
道士二人で戯れに絡めた身体。
己の血を残すことが出来ぬから、仙人は徒弟制度をとっている。
それでも、繋がった身体は熱く火照る。まるで熱に犯されたように。
「…師叔…太公望師叔…」
互いの名をうわ言のように囁き合う。
加速する動きの中、ひときわ高く突き上げられ、太公望の身体が崩れ落ちる。
「あああああっ!!!…ヨウ…ゼンっ……!!!!」
同じように崩れる身体。
疲労が心地よく支配していく。
「…痛い…」
「師叔?」
「腕が…痛いのじゃ…」
当てた布からは血が滲んで滴っていた。
「すいません…加減が…」
「できれば…どこかで水浴びをさせてくれるとありがたいのじゃが…」
汗と体液と血液が付着した身体。
膝の下に腕を回し、抱き上げる。
「そこまでせずともよいぞ、ヨウゼンよ」
「いいえ、僕の責任ですから」
「このようなこと原始天尊様に知れたら…」
「古い体制の方にはこの際引退でも考えてもらいますか」
揚?の唐突な答えに思わす吹き出す。
「よくそのような事を思いつくよのう、ヨウゼン」
肌に感じる水はほんの少し冷たく、身体に染みる。
残滓が流れていく感覚が少しずつ内側から熱を奪い取っていくのが分かった。
「そうしていると道士には見えませんね」
「ヨウゼン」
凛とした眼がヨウゼンのそれと重なる。
「わしの力になってはくれぬか?わしにはまだまだ味方が少ないのじゃ」
その手を取り、ヨウゼンは目を閉じて口付けた。
「はい…あなたがそう望むのなら、師叔」
「お主が居てくれれば心強い、ヨウゼン…」
名前を呼ばれるだけで、心が疼く。
この人に必要とされるためなら、自分は何だって出来るだろう。
望むのなら、仙人界を敵に回しても。
(師叔、あなたは信じますか?僕があなたに一目惚れしたなんて…)
濡れた黒髪が日に透けて、輝く。
「どうかしたのかヨウゼン?」
「いえ…師叔、無粋な服など着てないほうが綺麗ですよ」
「お主はよくも歯の浮くようなことを次から次へと言えるよのう」
少し赤くなった頬を隠すためにとぷんと太公望は水底に消える。
道はまだまだ遠くーーーーーーーーーー。
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