◆月と甘い涙◆






「なぁ、お前って初体験何時よ」
シャンクスは隣で呑気に煙草を吸う男にそんな事を問う。
「たしか、十四だったかな」
「あ、アタクシの勝ちだわ」
ケラケラと笑って胸の上に載る。
ふにゅりとした二つの胸が触れて、ベックマンはそのまま彼女を抱き寄せた。
「じゃあアンタは幾つなんだ?」
「十二。ほら、俺の勝ち〜〜〜〜」
「あ、アンタ幾つから船に乗ったんだ?」
「十三。だからちょい前ってこと」
懐かしむようにシャンクスは目を閉じる。
それは近くて遠い日の出来事だった。






今は伝説といわれる名を持つ海賊たちがまだ世界中を飛び回っていた頃。
小さな港町に着いたガレオン船にも例外なく髑髏の旗。
「うわ〜〜〜、やっぱ凄いや」
船を見上げる一人の少女。
真っ赤な髪を風に靡かせて彼女はその旗を見つめていた。
名前はシャンクス。
海賊に憧れ、今日も港に入る船を見に来たのだ。
「俺の船になんか用か?お譲ちゃん」
「カッコいいな〜って。あたしも海賊になるんだ!!」
低い声にシャンクスは振り向く。
端正な顔立ちの青年が一人、中腰で自分に目線を合わせてにこにこと笑っていた。
「おじさんこの船のキャプテン?」
「まぁな。おじさんか……せめてお兄さんって呼んで欲しいんだけどな」
「あたしはシャンクス。おじ……お兄さんは?」
青年は被っていた帽子を外すと膝を付いた。
軽く一礼してシャンクスの手を取りその掌にキスをすると小さく囁く。
「俺はロジャー。よろしく、シャンクス」
おどけた笑顔。傷のある頬。
その笑顔に同じようにシャンクスも笑った。







ロジャーの船は暫くこの港町を基点としてあちこちに出向していくこととなる。
教会の党に昇って双眼鏡で海を見るのがシャンクスの日課になっていた。
船影を見つければ誰よりも早く港へと走る。
七部のパンツに引っ掛けたサンダル。
真っ赤な髪は遠くからでも彼女の存在を知らしめるトレードマークだった。
「ロジャー!」
船から降りてきた青年は少女を抱き上げる。
「お帰り!今回はどこ行ってきたの?」
「イーストブルーの手前まで。お前また少しでかくなったな」
「うん。もっと大きくなったらロジャーの船に乗せてくれる?」
「あはははは。考えておくよ。俺の船は楽しいぞ」
がやがやと降りてくる船員たちもこの小さな来訪者を甚く気に入っているらしく次々に声をかけてくる。
頭を撫でるものや、戦利品をくれるもの。
中には置いてきた家族や娘を彼女に重ねるものも少なくはなかった。
「お頭!俺たちゃ先に行ってますぜ!!」
「おーう!先にやっててくれ」
「土産あるぞ。見に来るか?」
「うん!!」
船のタラップを昇る軽快なサンダルの音。
にストロベリーブロンドの髪。
きらきらと大きな瞳がロジャーを追いかける。
それが当たり前だと信じていた。
この海と、彼がいればそれでよかったのだから。






「ロジャー!」
「シャンクス。またちょっとでかくなったな」
何度目かの航海から帰り彼は同じようにシャンクスの頭をなでた。
今日の土産は彼女の髪によく似たガーネットのペンダント。
まわりをぐるりと囲むダイヤ。
少女が持つには些かゴージャス過ぎる一品だ。
「似合うよ」
「ありがとう。あたしも、早く船に乗れるようになりたいな」
ペンダントトップにキスをして、彼女はロジャーを見つめる。
幾度となく乗船許可を求めたが、彼は首を立てには振らない。
「俺らがここによるのも、今日が最後だ。そろそろ場所を変えなきゃならない」
「え……」
「おわかれだ。シャンクス」
少女の大き目の瞳が涙で歪む。
「やだ!!アタシも一緒に行く!!」
「女は海賊にさせたくない。一生追われる身分だ」
できれば普通の女として、シャンクスにはこの町で一生を過ごして欲しい。
それは彼なりの優しさだった。
一度海に出れば、隣にあるのは死。
海の女神と死神に愛される種族―――――それが海賊なのだから。
「お前のことは忘れないから。忘れろったってこんな御転婆な娘忘れられねぇ」
「やだ!!やだっ!!あたしも海賊になる!!」
「ここで暮らすほうが幸せなんだ」
憧れは、憧れのままだから美しい。
「それに、まだ子供だ」
「子供なんかじゃない!!十二になったもん!!剣だってもてるし、ピストルだって撃てる!!」
「そんな物騒なもん、女が持つことはないんだ」
「子供じゃない!!!」
ぐい、とロジャーの襟首を掴んでシャンクスは噛み付くようにキスをする。
初めての接吻は、ロマンティックなものとはかけ離れて地の味がした。
夢に見たようなキスではなく、涙交じりの切ないキス。
「キスだってできる」
「……俺は、お前をこの船に乗せるなんて出来ない」
両手で、シャンクスの手首を一つ髪にして捻り上げる。
「痛っ……」
「たったこれだけで押さえつけられんだ。海の上なんかじゃすぐに死ぬ」
「ロジャーの隣で死ねるんなら、構わない。だってアタシ……」
ぼろり。こぼれる大粒の涙。
「……ロジャーが好きだもん……」
出来ることなら、連れて行きたかった。
この海の先にあるという伝説の海に。
それにはまだ彼は大人になりきれず、彼女は幼すぎたから。
「海賊になって、ロジャーと一緒に居る……もっと大人になったらロジャーの子供を産んで、海賊の家を作るの……」
「……シャンクス……」
それは彼が彼女に触れた只一度だけ夜。
最初で最後の夜だった。





「恐くないか?」
少女の服を一枚ずつ落として、彼はその小さな手にキスをする。
擽ったそうに身体を捻って、シャンクスは同じようにロジャーのシャツに手を掛けた。
窓の四角の枠に囚われた月。
「……ぁ……」
手の中に収まってしまうほどの大きさの乳房に唇が触れる。
ぴちゃ…と舐め上げてくる舌先。
傷だらけで筋肉質の男の身体がゆっくりと覆い被さって来る。
少し固めだが、形のいい乳房。
その先端を吸い上げて、きゅっと摘む。
「あ、あんっ!!」
きゅっと目を瞑って、上がる声を抑えようとする姿。
左右交互に舐め上げられ、強弱を付けてやんわりと揉み抱かれる。
触れてくる無骨な指先。そろそろと下がって、薄い茂みの中に。
「やあ、ああっッ!!」
くりゅ、と剥かれて舌先が掠めるように舐め嬲る。
そのまま唇で吸い上げて口中と舌で甘く攻め上げていく。
「や、やだ……そんなとこッ……」
真っ赤な顔で男を押しのけようとしても、力の抜け切った腕では叶わないこと。
「あ、あ…んぅ!!」
ちゅる…吸われる度にびくびくと揺れる幼い腰。
抱き寄せて、逃げられないように押さえ込まれて一際強く吸われる。
「きゃ……ああああッッ!!」
指先で唇を拭って、唇を重ねて。
舌先を絡ませて、ぎこちなく吸い合う。
小さな顎を押さえられて、何度も、何度も。
「……っふ……」
「……シャンクス……」
名前を呼ばれて、閉じていた目を開く。
「恐くないか……?俺のことが」
こくん。小さく頷く。
大きな手が頬を包み込んで、その額に優しいキスを。
男を受け入れるには、少しばかり未発達な身体。
それでも、両手を伸ばして男を抱きしめてく少女の気持ちが、彼の心の中にあった最後の枷を外した。
震える膝を開かせて、身体を入り込ませる。
位置を確かめて、慣らすようにそれをゆっくりと沈めていく。
「…ッ…や、やだぁ……ッ…!」
ぎりぎりと悲鳴を上げる腰骨と、幼い子宮。
小さな身体を押さえつけて、そのまま根元まで沈める。
「…!!!った……ィ…ッ!!!」
彼女の痛みがそのまま伝わるかのような、狭さときつさに彼は眉を寄せた。
「……シャンクス、力抜け……」
細い腰をさすって、そっと抱きしめる。
「……ロジャー……助けて……っ…」
じりじりとした痛みと、腿を伝う体液の感触。
赤と白濁の混ざったそれは少女が女の身体に変わったことの証明だった。
そして、彼女の運命を変える小さなきっかけに。
「…あ、あ……っは…!…」
舐めるようなキスは、やがて噛み付くようなものに変わって。
隙間無く埋め込まれて、貫く感覚が早くなっていく。
話に聞いていたものはずっとかけ離れて、伴う痛み。
少女達が興味本位で開く本に載っているようなものは違う、初めての体験。
それでも、その痛みですら今この瞬間が嘘ではないと証明するものの一つだった。
「……ひ…ぅ……ッ!……」
打ち付けられる度に、ずきんと腰を打つ鈍い痛み。
ぐい、と腰を抱かれて幼い子宮が男を飲み込もうと収縮する。
「……っは…あ!…ああ…ぅ…!!」
一際強く貫かれ、自分の中で何かが弾ける感触。
「や、あ!!ああああッッ!!」
こぼれた二人分の体液がやけに生暖かく、その心地良さと悪さを抱きながらシャンクスの意識は途絶えていった。






翌朝、彼女は船を静かに見送った。
いつものように教会の塔の上で。
胸に輝くのはガーネットのペンダントヘッド。
ぽろり。こぼれた甘い涙。
ごしごしと瞼を擦って、船影が見えなくなるまでじっと見つめていた。
(船に女は乗れない……だったら……男になるよ……ロジャー)
いずれ世界中を大騒動に巻き込む女海賊の誕生の瞬間だった。
(ロジャー、あなたが海に出たのは十三だったんだよね。なら……あたし……俺も十三で海に出るよ)
麦藁帽子を目深く被って、流れる涙を隠す。
それは海賊王と呼ばれるようになる男と、史上最強の女海賊になる少女の淡い恋だった。




海に出て数年。それなりの経験と困難を潜り抜けて少女は念願の自分の船を手に入れる。
騒がしい仲間に囲まれて船は歴史を刻み始めるのだ。
「お頭。これみましたか?」
「ん?はんらって!?」
歯ブラシを加えたままシャンクスは手渡された記事を読んでその目を見開いた。
(……ロジャー……最後まであなた海賊だったんだね……)
あの日のことは色あせずに彼女の胸に大事にしまってある。
でも、それを離せる相手はもうこの世には居ないことを紙切れが告げたのだ。
(……俺、海賊王ってもんになるよ。いや、女王かな?)
鏡に映る顔には派手な三本傷。
彼があれほど嫌った傷は誇らしげに彼女を彩るのだ。
「………………」
ちゃら…胸を飾るそれを外して彼女はフィギュアヘッドの上に立つ。
小さなキスをして、力一杯水平線を目掛けてそれを投げつけた。
放物線を描いて、きらきらと光りながらガーネットは海のそこへと沈んでいく。
「……バイバイ、ロジャー……」
それから数年後、彼女は海軍の手配書の中でも群を抜いた賞金をかけられることとなる。
かつてのジョリー・ロジャーが辿ったように。
(ごめんね、やっぱしさ……傷いっぱい出来ちゃったよ)
頬を撫で行く風。
(いつかさ、地獄であったらいっぱい叱って。あたしも、あなたも天国なんて場所には逝けないでしょ?)
剣もピストルも、命を守るための大事なもの。
今ここにあるのは仲間の命と、誰かの命の上に成り立っているのだから。
(でも……いいよね。生温いところよりも、ずっとあたしたちらしいじゃない)
海原を見つめてシャンクスは小さな笑みを浮かべた。
(だって……あたしたち海賊だからさ……)
ゆらゆらと揺れる波間。
少女を捨て去ったしなやかな女の姿がそこに映っていた。



                  BACK








Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!