◆エレベーター◆




「先生、いるかぁ?」
アイゴーグルをたくし上げて、笑うのは一人の男。
この世界を守る七人の防人の一人、アル。
短く切られた黒髪と、少しだけ日に焼けた肌。
笑う声はどこかまだ子供の様でもある。
「久しぶりだな、アル。この村に来るなんて珍しい」
「呼ばれたからなっ」
少しだけ伸びた黒髪を、指に絡めてアルは笑った。
「こら、放せ」
「うははははは」
機械から人間を守ることが出来る唯一の者、それが『防人』で。
アルはこの世界のあちらこちらを飛んでは機械と対峙してきた。
人間は機械に迫害されながらも地下都市で生活をし、時折地表に出る。
この世界は、どこか歪んでそれなりに美しかった。






「痛ェ、もうちょっと優しくしてくれ。先生」
血が滲み、黒くなった包帯を換える指の白さ。
「防人が情けないことを言うな、アル」
「先生も医者ならもっと患者をいたわってくれぇ」
自分たちを守るために、防人はその身体で機械に立ち向かう。
そして待つのは残酷な最後なのだ。
包帯の端を結んでヨキはため息をついた。
どれだけつらいことがあっても、この男はいつも笑ってるのだ。
「先生、今日は多分あと機械は出ないよ。外に行こう」
「アル!」
ヨキの手を引いて、指を絡めてアルは外へと連れ出してしまう。
乾いた砂はさららと足に纏わりついて。
少しだけ赤い月に照らされて伸びた影。
「先生、ほら。星が綺麗だ」
「……………………」
地下で暮らす日々は、星も月も見上げることが少なく季節というものを忘れさせる。
四番目の防人は、星を見て綺麗だと言うのだ。
「先生、俺……子供を持つことにした」
「!?」
「次の防人になるのは、俺の血を引く子供だと思う」
突然切り出された言葉に、返すことも出来ずに。
手を繋いだまま、砂の上に座ってただ月を見上げた。
「先生、俺、先生のこと好きだよ」
指先から伝わる暖かさ。この広い世界に二人ぼっち。
ふわり、と護神像は影を作って二人のとなりに。
「……何故、それを私に……」
「いつ死ぬかわからないからさぁ、先生」
互いの気持ちは何処かでわかっていた。
それでも言い出せなかったこの気持ちを、先に言われてしまうことの苦しさ。
「だから、先生に……俺の子供産んでくれなんて言えない」
身篭っても、次の日には男はもう居ないかもしれない。
「アールマティー。ちょっとだけあっち行っててくれぇ」
きらきら。月明かりは見せたくない涙まで見せてしまう。
砂の世界は、悲しいほどに綺麗だから。
「へへへ」
「何を……にやけている」
「先生が、綺麗だから。俺、生まれてきてよかったなぁって」
砂の上を滑るように駆け下りて、見つけたのは不安定な箱。
「何だこれ?」
「機械の一種だな。たしか、エレベーターとか」
「えれべぇたぁ?」
無機質な箱にもたれてどこまでも続く砂の海を二人で見つめる。
「上から下に。またのその逆にも動くらしい」
「俺も、先生を地下(した)から地上(うえ)に連れ出したいよ」
赤い血の神様は、与えるだけではなく奪うことをも人に植え付けた。
そして、呪われた黒い血は太陽を求める。
その日の光のように、赤く染まりたくて。
「目、瞑ってくれや。先生」
「何を」
「キスしたいから。ヨキ」
傷だらけでかさついたてが頬に触れる。
それでも、嫌な気はしなかった。
この手は、この世界を、自分を、何度なくすくってくれた手なのだ。
だからこそ―――――自分だけのものになど、出来ない。
「………………」
少し乾いた唇は、不思議な感触だった。
他人の体温を部分的に受けて、目を閉じる。
「……もう一回、いいか?」
「聞くな」
今度はさっきよりも少しだけ深く。
入り込んでくる舌を受けながら、同じように絡める。
細い背中を抱いてくる腕。
うっとりと目を閉じて何度も何度も繰り返した。
「……っは……ぁ……」
「先生とこういうことすんのも、久しぶりだ」
指はそのまま上着の紐を外して、肌を外気に晒していく。
人間が地上に出るなどまず無いこの世界。
「待て!!こんな場所でなんかっ!!」
言葉を無視して、アルはヨキの上に覆いかぶさってくる。
抵抗しても無駄ならば、いっそ流されてしまえば良い。
「!!」
首筋に触れる唇。ちゅ…と吸い上げてゆっくりと下がっていく。
ぷるん、と揺れる張りのある乳房。
「あ……ッ!!」
両手で円を描くよう揉みながら、その先端を舐めあげる。
押し上げるように、柔らかく揉み抱いて左右を交互に吸い上げて。
手の中でやんわりと形を変える女の身体の一部が、酷く愛しい。
「…あ…ん!……」
舐め上げられた部分は、光を浴びて濡れた色合となって男を誘う。
触りたいなら、ここまでおいでと。
「……ヨキ、目……開けててくれや……」
額に、鼻先に、唇に。降りしきる優しいキス。
指先がわき腹をすり抜けて、その下の入り口へと触れる。
やんわしと濡れ始めたそこに、ぐぐ…と入り込む指先。
「……アル……指…ッ……」
「……あ……?」
くちゅくちゅと音を上げるそこに、咥えさせた二本の指。
空いた手を取って、ヨキはそれに接吻した。
「……傷が……んぅ!」
押し上げるように指を折る。
「あぁ…っ!!…ア……ル…!」
動かすたびにびくびくと揺れる細い肩。
ずる…と指が引き抜かれる感触にさえ身体が震えてしまう。
「!!!」
親指が赤く熟れた突起を擦り上げる。
ぬるぬると光る体液を絡めて、追い込むように焦らすように。
きゅん、と摘み上げるたびに上がるのは甘えるような嬌声。
「……センセ、可愛いなぁ……最初にこうしたときのこと、思い出しちゃうな」
膝に手を掛けて、そのまま開かせる。
とろとろとこぼれる体液を、じゅる…と唇を使って零さぬように吸い上げて。
舌先を上下させて、なぞるように動かす。
「……ふ…ぁ!!ああんッ!!…!」
唇を拭って、濡れた唇に重ねた。
傷だらけでかさつく手が、愛しくて何度も何度もキスを繰り返した。
「!」
ちゅ…と先端が触れる感触に目を閉じる。
ず、と入りこんでくるそれの熱さと質量に息が上がった。
「あぁ……!!あッ!!」
最奥まで埋め込まれて、ぐ…と腰を抱かれる。
「ふ…ぁ!!…アル…っ!!」
「動かしても……オケイ?」
悪戯気に片目を閉じて、真似るのは彼女の口癖。
「……バカ……あんッ!!」
細い腰を抱き寄せて、絡めるようにして腰を進めて行く。
ぬめりながら絞めつけてくる肉壁の熱さと柔らかさにアルは眉を寄せた。
(……ヨキの中って……気持ち良いな……)
顎先から落ちる汗にさえも、敏感に反応して身体は「もっと」と求めてしまう。
手を伸ばして男の背を抱いて、そのまま細い爪を走らせた。
「あ……ぅ…!……ッ…」
「……ヨキん中……凄ぇ気持ちいい……」
答える代わりに噛み付くようなキスをして、その舌を吸った。
「んんっ!!アル…!!ふ…ぁあ!…」
柔らかい乳房と胸板がぴったりと重なるくらいに、きつく抱きしめあう。
突き上げてくる腰の動きが次第に早くなり、応える様に女の締め付けもきつくなっていく。
「あ!!!ああ…っ!!アル……ッ!!!!」
「――――っ!!ヨキ……!」
きりり、と走った爪の感触。
抱きしめあって砂の香りを確かめ合った。






「此処に来るのも久しぶりだなぁ」
子供の手を引いて、アルは砂丘に立つ。
「とーちゃん、誰かいるす?」
「ここには、とーちゃんの友達のヨキ先生ってのがいるんだぞ、シオ」
護神像を従えて、アルは地下への扉を開いた。
防人の出現に人々は色めき立ち、シオを囲んではあれこれと聞き出す。
「あ!先生!!」
息子の手を引き、アルはヨキの側へと駆け寄った。
「これ、俺の子供。シオって言うんだ」
「ヨロポコ」
シオの頭を撫でる手。白く柔らかい魔法の手。
「後で行くから、先生」
人並みの中、二人の姿はあっという間に飲み込まれてしまう。
防人は外の世界に繋がるたった一つの希望なのだ。




「先生、もうちっと優しくしてもらえないもんか?」
「何年同じ事を言うんだ、お前は」
包帯の端を結んでヨキはため息をついた。
肝心のことは聞けずに、アルの冒険録を聞きながら。
「……アル、奥さんは……」
「ヨキ」
「……………………」
不意に抱きしめられて動きが止まる。
「俺、防人なんかならなきゃ良かった……なぁ、どうして俺だったんだ?」
世界が、彼を選んだ。赤き血の神がその手を伸ばして。
「痛ぇよ……先生。治してくれよ……」
出来ることは、ただその背かを抱きしめることと。
行き場の無い彼の感情を受け止めることだけだった。
「苦しいんだ……助けてくれ……」
誰にも愚痴を零すことの無い防人は、ヨキの前でだけその弱音をぶちまける。
「アル…………」
「……俺、それでもあんたじゃなくて良かったって思ったんだ……あんたまで居なくなったら
 俺……何を見つめていけばいいんだ……?」
閉じられた空間で、二人だけ。
傷を舐めあうだけの関係でも良かった。
この手が、胸が重なっている間だけでも、
互いの体温を分け合って居られるだけで幸福だと錯覚できたのだから。





それはもしかしたら予想できていたことなのかもしれない。
目の前で男が散るさまをヨキは視線を外さずに見つめていた。
こぼれそうになる涙を隠して。
最後に動いた唇が紡いだ言葉。
『ありがとう』と。
彼の息子が、彼の意思をついで世界を救う。
せめてその血を絶やさないようにと、ヨキはシオの手を握った。
(……アル……)
二人で幸せになることは、世界に阻まれても。
重ねた時間は誰にも奪うことは出来ないのだから。





笑いあって抱きしめあったあの日々を。
この、光無き砂の世界で一生離さないと誓った。





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0:32 2004/09/03

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