◆BGM◆
混ぜ合わせたのは、特製の秘薬。
それを鉄の中に封じて矢の先に。
「ヨーキー」
後ろから伸びてくる腕を跳ね除けて、ヨキは弾薬を作り続けた。
「何やってんだ?」
「弾薬を矢に結べば、破壊力が増すだろう?」
「爪割れるぞ。それに、その弓支柱が曲がってる」
ヨキの手から弓を取り、アルは光にかざすようにしてそれを見つめた。
武器の扱いは専門外の医師の卵は、不服そうに首を傾げる。
長い睫が、ぱちり。と笑う。
「な、今度向こうの街まで行こうぜー。機械とか出ても俺がいるから大丈夫」
頬をすり寄せて、アルはヨキの耳元にキスをした。
「!!!!」
「あは。耳も弱いなぁ、ヨキは」
あれから何だかんだと理由をつけては誘ってくるアルを上手くあしらうのにヨキは
さまざまな工夫を凝らしてきた。
施錠、仕掛け罠、薬。
数えればきりが無いが、男は全てクリアして彼女の部屋の扉を開ける。
一人寝が寂しいから、夜風が寒いから。
本当の気持ちは、離れて居たくないからで。
「晩飯なーに?俺ね、好き嫌いないって昔から褒められるんだけど……」
「なぜ私がお前の晩飯まで作らねばならんのだ」
むっとした表情の女の額に、ちゅ…と唇を当てる。
「ヨキが作ったのが食いたい。毎日一人で食うのも飽きた」
「それで私に作れと?」
「うん」
にこにこと笑う男の手を取って、色取り取りの錠剤をざらざらと流し込む。
エキセントリックな青。合成着色料の鮮やかな緑。怪しさ満開の赤。
それに溶け込むことを拒否した白。
「これ、何だ?」
「ビタミン、ミネラル、亜鉛、それとカルシウムだ。必要な栄養素は十分だろう」
首をかしげながら、アルは己の手を見つめた。
「そうじゃなくて、俺はヨキの作ったものが食いたいんだ」
「その薬は私の手製だが?」
「……温かいもの、食いたい。ここは寒いからさ」
砂の街の夜は、見も心も凍えさせてしまうから。
誰かの暖かさを抱きしめて、離したくないと思ってしまう。
「医者は、大変?」
「まだ正式な医師ではないから……でも、薬を作れるようになってからは大分違うかな。
それに……お前の傷を治すことが出来るようになった」
男は機械に向かって銃を撃ち、この小さな街を守ろうとする。
機会を打ち倒すことが出来る防人は、この世界に七人しかいないのだ。
この広大な世界(ワークワーク)の辺境の地に防人が来ることなど滅多に無い。
武器を手に、戦えるものは街を守るのが当然のことで。
「ヨキを守って出来る傷くらい、俺は別に平気だぞ」
「……………………」
「俺は、ヨキを守りたいからなっ」
どれだけ傷を負っても、彼は自分とこの街を守るために武器を手にする。
皮肉なことに、医師である自分を守るために傷を負うのだ。
そして、それを治すのもまた自分。
「機械が来たって、大丈夫だ」
「怪我は……ああ、お前に何を言っても仕方が無いが……」
頬にちゅ…と触れる唇。
「傷ならヨキが治してくれる。だからまた戦える」
そっと手を伸ばして、アルの頭を抱きしめる。
そのまま舐めるように唇を重ねて、吸いあうように舌を絡ませた。
体液の交換は、医学書をどれだけ読み漁っても解決できない気持ちの高揚を生み出して。
自分が人間であることを自覚させた。
「……夕飯は、暖かいものが良いのか?」
「ヨキが作ってくれるなら、何でもいいんだ。俺」
幸せなキスをするのが、何時までも君でありますようにと男は笑う。
それにつられて彼女も同じように。
手を繋げるようになって、二人で並んで月を見上げることが出来るようになった。
恋は、それだけで日々の暮らしを甘くしてしまう。
「晩飯♪晩飯♪ヨキの手料理〜〜〜〜っ♪」
頭の後ろに手を組んで、うろうろとする姿さえも。
愛しく思えてしまうこの心の行方を。
「さっきの薬も私の手製には変わらんが?」
「キモチの問題。こう……愛が感じられるのがいいんだ」
「ビタミンにも、愛はこもるぞ?」
「もっと、一杯。あったかいものが欲しい」
光の無い地下の街、見つけた光は近すぎて見えなかったのかもしれない。
その光の暖かは、この寒すぎる空間を暖かく変えてしまうのだから。
厚みのある医学書を、並べるのは一苦労。
梯子をかけても中々思うようには行かない。
「どれ」
すい、と奪い取って最上段に並べていく大きな手。
「ありがとう」
「どーいたしまして」
目的の場所に並べ終えて、アルはこきこきと首を鳴らした。
「痛むか?」
「んー……ちょっと」
夕食の後、アルはヨキの弓をずっと改良していた。
筋力の弱い彼女でも、命中率を高められるように。
獲物に対する勘は、男よりも女のほうが鋭いというならば。
一転集中型のヨキは、正しく狩人であるといえよう。
「ここか?」
頚椎にそって、押しながら指の位置を上げていく。
時折少し力を込めて、的確に痛む場所に。
「あー……キモチイイかもしんない……」
だんだんと前屈みになっていくアルを見て、ヨキはくすくすと笑う。
「んー……そこ……」
「ここか?」
「……あー……痛ってぇけど……キモチイイ……」
うとうとと半分夢の中。
細い指は疲れを取っていく魔法を持つ。
「サンキュ。すげぇ気持ちよかった」
腕を伸ばして、そのまま指先から疲れなど消えてしまうようで。
「ヨキの手は薬とかいろんな魔法を使える手なんだな」
白く細い手を、包み込む少し日に焼けた大きな手。
「魔法か……医学には必要の無いものなのかもしれないが……」
その手を引き寄せて、ヨキは自分の左胸に当てた。
「人間(ここ)には、きっと魔法も必要なんだ。アル」
「……うん……ヨキは、魔法使いだ……」
そのまま手を伸ばして、その身体を抱きしめた。
布地越しに伝わってくる暖かさ。
「ヨキ」
汗と混ざった男の匂いも。
不思議と嫌悪感を感じることは無かった。
どこか安心感さえ覚えてしまう。
それが『恋』というものなのだから。
「あったけー……」
「アル、お前も暖かいよ」
そのままベッドに倒されてしまうのも、決して嫌ではないから。
白衣の袷を解いて、ふるんと揺れる乳房に小さく噛み付く。
脱がしながら繰り返すキスは、唇の熱さも手伝って眩暈がしそう。
「……ふ…ぁ……」
唇の端から零れた涎を、男の唇に奪われて。
同じようにアルの上着の金具を引き下ろす。
筋肉質の身体は、日に焼けてどこか精悍ささえも漂わせる。
「ん!!」
両手で乳房を掴まれて、その先を舌先が舐めあげる。
時折甘く歯を立てられて、円を描く様に舌が這う。
指先が食い込むほど強く揉まれても、それ以上に甘い痺れが全身をじんわりと支配するから。
指先で乳首をきゅん、と捻りあげて焦らしながらゆっくりと舌を下げていく。
「……あぁ……ん!……ッ…」
窪んだ臍にちゅ、と唇が触れてそのまま腰骨を噛まれる。
「ぅあ!……」
「ヨキも意外なとこ……弱いんだな……」
そのまま膝を割って開かせて、摩るように秘所に指を添えた。
指先に感じる僅かなぬめりと熱さ。
間接一つ分だけ内側に咥え込ませて、親指で薄い茂みの中の突起をちゅく…と剥き上げて。
「!!!!」
ぬる…と唇がそこを攻め上げる度に、細腰がびくびくと揺れる。
赤く熟れたそこは、彼女の理性を奪うのに一役買ってくれるから。
指先で突いて、ふ…と息を吹く。
「ふぁ…っん!!あ……」
女の秘部に顔を埋めて、溝を舌でなぞる。花弁を口中に含んで、音を立てて溢れて出す体液を吸う。
「やめ……んんんッッ!!」
柔らかい肉にぴったりと顔を埋めて、舌をその中へと捻じ込んでいく。
「ひあ…ア…!!……っ…」
そのまま少し上にずらして、今度は濡れて光るちいさなスイッチを。
「あ!!アル……!!や……アァ…ん!」
「そんなに気持ちいい?」
「ちが……!!」
言葉をさえぎるように、そこをかり…と歯先が攻めた。
「あああァァんっ!!!」
普段の彼女からは想像できないような、甘く甲高い声。
「嘘つくと、御仕置されんだろ?俺もよくとーちゃんにぶっ飛ばされた」
手首を取って、力の抜けきった身体を抱き起こす。
胡坐を掻いた身体を跨がせて、腰を落とすように促がす。
「や、嫌だっ!!」
「えー、何で?」
「そんなこと……」
下から掬い上げるように乳房を揉み抱く。
「ふぁ…ん……」
「俺が我慢できない……ヨキ……」
抱き寄せて、痺れるようなキスを繰り返した。
本能に火をつけて、脊髄に響くように。舐めあって、かみ合って、吸いあって。
零れた体液がぬらぬらと腿を濡らして、男の腹に落ちる。
「!!」
ぐ…と入り込んでくる中指の感触に、びくびくと肩が震えた。
ぐちゅ、ぢゅく…かき回されるたびに内側で生まれる曇った音。
「ほら、指だけよりも良いって、なぁ?」
根元まで沈めて、ゆっくりと蠢かせる。
その度に、きゅんと絡んでくるのが互いに分かってしまう。
耳まで真っ赤に染め上げて、ヨキはきつく目を閉じた。
(こんな……私は……)
否定しようとしても、身体は熱くてどうにもならない。
「怖い?」
こくん、と頷く姿は普段の彼女とは違ってあまりにもしおらし過ぎた。
「手伝うから。大丈夫だって」
「お前の大丈夫は当てにならない!!」
鼻先をきゅっと摘む指先。
「痛ぇッ!!」
ふるん、と揺れる乳房は丁度男の目の前に。
「ひ…ァ…っ…!!」
尖りきった乳首を、舌先で転がしてちゅぷ…と子供がするように吸って。
「ここで止めとく?」
「……ッ!!……」
半開きの唇から零れる涎。
「でもさ、俺が止められないんだ……」
腰を抱いて、ゆっかりと下げるように促がす手。
「俺の、触って」
「嫌だ!!」
「だって、上手く挿入んないだろ?協調性が無いってお前言われてるって。絶対」
熱く反り勃ったそれは、内腿にぴと、と触れて。
細い手首を掴んで、自分のそれを握らせる。
「!!」
手で感じる熱さとどくどくという脈。
生命を生み出し、命の根源となる行為。
それでも、頭で思い描くものと実際では随分と違っていて。
実際にはもっと生臭く、血の匂いに満ちたものだった。
生殖器として得ていた知識は、現実を知って随分と変わった。
「……もうちょっと、優しく触って……」
力加減が思うように行かないのもあって、アルは困ったように笑う。
恐る恐る手を添えて、それを自分の濡れた場所に当てる。
(ここまで来ても、まだ……怖いと思うのはどうして……)
つぷ…と先端が入り込む。
「息吐きながら……してけばいーから……」
「…ぅ……ぁ……」
内肉を擦り上げられて、ただ喘ぐことしか出来ない。
奥へと進むたびにちゅぷ、ぢゅる…と体液が滲み出てくる。
「あああぁぁッッ!!!!」
ずく!と最奥まで繋がって、子宮を押し上げられるような錯覚がヨキを襲う。
子供をなさない生殖行為は、医学上意味を持たないと思っていた。
いや、思い込んでいた。
「ふ…ぁ……!…アル…っ…ん!!」
腰骨を掴むように抱いて、強く突き上げられる。
「あー……もう、たまんねぇ……」
「……?……」
濡れて潤んだ瞳と、視線が重なって。
「ヨキぃ!!」
向かい合わせで抱き締めあって、鼓動が重なる幸せに溺れることを選んだ。
アルの腰に、脚を絡ませてより密着しながら腰を上下させる。
「すっげぇ、可愛いとか言ったら怒るか?」
細い背中を抱いて、仰け反る喉元に何度もキスを降らせた。
隙間無く咥え込まされて、言葉を刻むことすら容易ではない。
「……あ……んんっ!!……」
ぢゅぐ、にゅぐ…動くたびに生まれる淫音が、鼓膜の奥まで犯してくれる。
「なんか……死にそう……」
「……馬鹿なことを…んっ!!」
濡れた指先が、小さな突起をノックする。
「ひぁ……!!!あ!!!」
開いた唇に、指を咥えさせて。
絡んでくる舌先の甘さに、満足気にアルは目を細めた。
ぬるりと引き抜いて、腰を抱き直す。
「く…ぅん……ッ…!!」
小さく横に振られる首が、『止めないで』と懇願するように見えてしまうから。
「気持ちいい……?」
こくん、と頷く姿。
「俺も……気持ちいい……」
熱いのは、心が付随するからだと教えてくれたのはこの男。
キスの甘さも、医学知識を取り払ったセックスも。
自分を抱くこの男が全部持っていた光の欠片だった。
「あ……ぅん!!!あっっ!!!」
限界が近いのはお互い同じで、もっと深く混ざりたくて呼吸と腰の動きが重なっていく。
内側で膨張していくアルの熱源を感じながら、その背中をきつく抱きしめた。
「!!!!!!」
声は唇で塞がれて、内側でどろりと零れたアルの欠片を。
ぴったりとくっついて零れないようにもう一度抱きしめた。
少しくたびれた愛用のリュックは、皮ひもで封鎖された不可思議な形。
その中から機械の欠片を取り出してヨキと自分の間に転がす。
「機械の一部を拾って、付け足して、改造してみた」
雑音交じりの優しい歌が、室内をゆっくりと支配していく。
昔聞いたようなその音は、眠りを誘う。
「……優しい歌だな、アル……」
腕の中でうっとりと目を閉じるヨキの頬に、そっと触れてみる。
その柔らかさと命を守れるのなら、この世界を敵に回しても構わないと思えた。
「……ヨキ……」
長い睫と、聞こえてくる寝息。
(寝ちゃったよ……ちょっと、飛ばし過ぎたかな……反省だ)
汗ばんで火照った肌も、少しだけ冷えて。
BGMは隣で眠る恋人と言い切りたい。
小さな箱は、子供のころに誰かが歌ったものを紡いでくれる。
(俺と、お前って恋人だよな?いや……俺が一方的に思ってるとか言われそうだ……)
ため息も吐息も、夜の優しさに溶けてしまうから。
この気持ちが嘘ではない事も、互いに思っていることもわかっていても。
言葉に出して、伝えて欲しいから。
(俺も寝よ……少なくともヨキは俺のこと嫌いじゃないしなっ)
二人重ねた夢の奥。
優しい歌が流れていた。
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0:25 2004/09/17