◆スウィートセブンティーン◆





「モクタク?どうしたの?」
顔を覗きこんでくる普賢の視線に、目を逸らす。
「具合でも悪い?」
「いえ、大丈夫っすよ」
こつん、とあたる小さな額。
「んー……ちょっと熱あるかなぁ……」
目に映る小さな唇に、鼓動が早くなる。
長い睫に、ざわつく神経。気付かれないように唇を噛んだ。
「今日の修行はもういいから、寝たほうがいいよ。あした、また頑張ろう?」
愛弟子の頭を撫でて、少女は静かに扉を閉める。
穿つ雨と心のざわめきを押し殺して、布団を被って。
聞こえてくる足音に、耳を塞いだ。




「濡れてるよ。御風呂どうぞ。あったかくしてあるから」
「一緒に入らないのか?」
雨で冷え切っているのは身体だけではなく。
逢えない日々という名の雨粒は、心まで冷たく凍らせてしまう。
「やだぁ……」
「なんで?一緒にあったまったほうがいいだろ?」
例え、二十四時間一緒に居たとしても欲求は満たされることなど無い。
離れていれば、それは肥大化して心の中で渦巻いて。
「一緒じゃなきゃ、ダメ?」
「駄目。風呂入らなくてもいいなら、俺はそれでも構わないし」
細帯を解いて、そのまま上着の中に手を滑らせる。
「……冷た……っ……」
首筋に触れる唇だけが、ほんのりと熱い。
雨霧の匂いが、二人の時間を埋めてくれる甘い魔法。
「……一緒に入るよ。そのかわり、悪戯しないでね」
「それも無理。ちょっと触りたいって思うのが男だぞ」
膝抱きにして、寝室を抜け出して。
猫足、忍び足。愛弟子には足音も聞かせたくないと。
「お前も、少し冷たくなってるな」
「道徳の方が冷えてるよ。風邪ひかな……」
言い終える前に、唇が言葉を遮る。
言葉よりも、接吻で確かめられることもあるから。
「口の中も、冷たいな」
「……馬鹿……」





夏の暑さはまだ遠くても、太陽のそれは夏の匂いを連れて来る。
首の後ろに回された紐が、零れ落ちそうな乳房を留めて。
右耳で小さく笑うのは藍玉の耳飾。
「なんでそんな格好してんですか」
「え?だって、今日、暑いじゃない」
小さな肩口と、伸びやかな腕。日に焼ける事は好まないが、太陽の恵みは欲しいところ。
真夏に相応しい格好は、その手前の季節でしかお目見えできない。
(不意に、あーゆー格好されっとなぁ……意外と良い身体してっから……)
襟足で跳ねる灰白の髪が、『おいで』と誘うけれど。
難関困難相まって、未だに覚悟は持てないまま。
「モクタク?」
覗きこむ大きな瞳。
それよりも、視線はその下の二つの柔らかな乳房に。
「……師匠……」
「なあに?」
「……乳、見えますよ……」
気まずいと、視線をあさってに逸らす。
予想する答えは、太極符印の発動と大爆発と言った所だった。
「見たい?」
「しししししし師匠っっっ!!!???」
モクタクの手を取って、そのままぐい…と胸元に導く。
指先で、掌で感じる柔らかさと肉感に息が詰まる。
「柔らかい?硬い?」
「や、やーらか……」
「おいで」
蠱惑的な光が宿る瞳。誘惑は甘くて、誰も断れない。
だからこそ、火が点いたら止まらないのだ。




首の後ろで踊る紐を外せば、たわわな乳房が露になる。
逸る気持ちを飲み込んで、そっと手を伸ばした。
「うふふ……震えてる……大丈夫?」
「う、うるせ……」
ぺちゅ…重なってくる唇の質感と柔らかさ。
挟みこむようにしてちゅっちゅっ、と吸い付く。
少年を寝台に腰掛けさせて、少女はその前で膝立ちになる。
躊躇いがちに手が腰に掛かって、静かに抱き寄せた。
「ちゃんと、出来る?」
「馬鹿にすんなっ!!」
「だって、心配だもん。モクタクに彼女が出来て、こーいうことするときに失敗したら
 どうしようとか思うもの。遊びすぎもダメだけど、あんまり生真面目すぎるのもダメ
 だと思うし……」
ため息をついて、普賢はモクタクの頭を掻き抱いた。
「心配なんだからー。なれって大事だし……」
ぎゅっと抱かれて、胸の谷間に顔が埋まる。
「!!!!!!!」
口から心臓でも飛び出しそうな勢いと、体中に走る緊張。
彼女の言うように、慣れとは大事な物なのだ。
「練習しとこ?モクタク」
少しずつ体重を移動させながら、そっと少年の身体を寝台に沈める。
細い指先は、的確に道衣を剥ぎ取って行く。
まだ薄い胸板に唇が触れて、何度も何度も舐めるような接吻を降らせた。
「……ぅ…あ……」
舌先はまるで氷菓子(アイス)でも舐めるように、ゆっくりと下がっていく。
下着に手が掛かって、取り去られる。
「!!」
はちきれんばかりに反り勃ったそれに、指が触れた。
「あ、ちゃんと勃ってる。モクタクも健康な男の子だね。良かった」
「あ、あんた何言って……ッ!!」
舌先がその先端を、ぺろ…と舐めあげる。
薄い唇が亀頭を飲み込んで、ちゅるんと離れた。
「……ん…っ……」
幹元を唇で挟んで、そのまま上下させていく。
(……あのおっさん……こんな事されてんのかよ……っ……)
少女の傍らには、いつも男が佇む。
近付く男は全て蹴散らして、にらみを利かせてくる。
「!!??」
肉棒が柔らか物に包まれる感触に、思わず肩が竦む。
寄せられた乳房から亀頭が覗いて、それに触れる唇の艶やかさ。
「…も……いいかな……」
少年に覆い被さって、その瞳をじっと覗きこんだ。
「触ってみる?」
かすかに震える指先を、そっと秘所へと誘う。
薄い茂みをたどたどしくなぞって、ぬるつく裂け目に指を当てた。
「……ッ……」
温かさと奇妙な感触に、恐る恐る指を奥へと進めて行く。
指先に絡まってくる愛液のぬめりと、女の肌の甘さ。
根元まで埋め込んで、掻き回すように動かした。
「……ッ…もうちょっと……優しく触って……そのほうが、気持ちいいから……」
不安を察するかのように、額に触れる唇。
閉じた瞳と、睫の長さ。
言われるままに指先を蠢かせれば、その度に耳元に零れる吐息。
手首を濡らす愛液と、頬を染めて喘ぐ少女の顔をまじまじと見つめた。
「相手が初めてだったら……うんと大事にしてあげてね……」
「あんたも、そうだったのかよ……?」
「……うん……すっごく…ッ……大事にしてくれた。今も、ねっ…」
切なげに閉じる瞳と、薄っすらと開く濡れた唇。
(こいつ……こーいう顔するんだ……)
舌先を絡ませた甘い甘い接吻を繰り返して、指を引き抜く。
「ボクが、上になろうか?」
「……俺だって男だって、忘れてんだろ、あんた……」
しなやかな身体を組み敷いて、改めてその姿態を凝視する。
白肌に点在する無数の細かな傷跡。
それは、彼女が普賢真人たる由縁のものばかり。
その一つ一つが、今の普賢を作り上げたのだ。
「…………………」
すい、と手が伸びて頬に触れる。
「大丈夫。怖くないよ、モクタク」
ここまできて、引く事は出来ない。
意を決して、先端を当ててそのまま一気に貫いた。
「あああぁんっ!!」
ぬちゅ、ぢゅぷ…繰り返される注入と締め付けてくる肉癖。
初めての房事のくれる快楽に、飲み込まれないように唇を噛んだ。
汗と吐息。混ざりあう体液。
ぎゅっと乳房を掴んで、その先端を夢中で吸い嬲った。
「あ、ああんっ!!やぁ……んん!!」
腿に指が食い込むほどに、強く掴む。
我を忘れて、ただ腰を動かし続けた。
「……ク……いいよ……おい…でっ…!」
頭を押さえ込んで、唇を噛み合う。
その度にちゅ、ちゅっ…と甘い水音に耳が犯された。
「泣きそうな、顔してる……」
このまま、少女の中に吐きだしていいのかどうか。
考えあぐねた所に、答えをくれた声。
「モクタク……」
脚を、細腰に絡ませてその脈動を促す。
自分の中で弾ける感触に、少女はゆっくりと目を閉じた。






「!!!!!!」
がば!と身体を起こして、額の汗を拭う。
(なんつー夢を…………)
寝巻きは汗で身体に張り付いて、その夢の内容をくっきりと浮かばせてくれた。
何よりも下着の中で起こった出来事にこぼれるため息。
(俺、今年でいくつだよ……それに、あいつはあの男とあーいうことをやってんだから。
 ここに来て何年目だよ、良い加減慣れろ、俺……)
べたつく身体と着替えを引きずって、浴室へと向かう。
汗を洗い流して、清潔な道衣の感触に目を閉じる。
朝の日差しに誘われて、ふらふらと庭へと足を向けた。
「あ、モクタクおはよー」
「久しいな、モクタク」
卓を囲むのは少女二人。
日差しに誘われたのか、部屋着ですっかりと寛いでいる。
首の後ろで踊る組紐と覗く白い肌。
夢で見たあの格好。
「どうしたの?顔、真っ赤だよ?」
「熱でもあるのか?モクタク」
「な、なんでそんな格好してるんですかっっ!!」
困った顔をしたのは少女二人。そして、困った事態なのは少年の下半身。
「だって、暑いから」
「夏にこんな格好もできぬしな。それに、西周でこんな格好してみろ。裸で紂王の前に
 でるよりも危険じゃ」
卓上には小さな器。その中で輝く小さな氷山。
頂には甘い匂いの赤い蜜。
「かき氷って、作るのも楽しいねー」
「そうじゃのう。モクタク、おぬしも食うがよい」
おいで、と手招かれても前進すれば丸わかりになるこの身体の危険事態。
後退りしながら、なんとか表情を取り繕う。
「モクタク、食べよ?美味しいよ」
「苺が嫌ならば、他の味もあるぞ?あれなら練乳と小豆も……」
いつもよりもずっとはっきりとわかる胸の形と、身体の線。
夢で見たあの光景が、脳内で再構築されていく。
「モクタク?」
「俺、もう一回風呂入ってくるっっっ!!!!」
脱兎の如く走り去っていくモクタクの後姿を見送って、二人は首を傾げた。
「どうしよう……道徳とか天化の変なものでも伝染ったのかな……」
「馬鹿は、伝染するからのう……」






夏の暑さはまだまだ遠く。
心も身体も、休まることを知らない。





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1:26 2005/05/14

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