◆The garden of sinners◆






「俺だって、なんでお前がこんな風になったのかはものすごく気になるんだけどな」
「……っはぁ…ん!!そ…なの……っ……」
少女の身体を弄る手。
いつもよりも幼い身体を貫いて、ぐ…と腰を沈めた。
「あ!!あんッ!!」
「実験班は、何の研究してるんだ?」
後ろから抱きしめて、乳房をぎゅっと掴む。
いつもよりも幼い身体を抱きながら、いつもと同じように愛撫を。
「しらな……きゃう!!あ!!」
十七で止まったはずの身体は、どうみても十前後。
まだ発育途中の柔らかい乳房。
指で軽く押せば、ぷにゅん…と弾く。
限界まで開かせた花弁が、男の陽根を咥え込んではひくつく。
ぬらぬらと光りながら絡みつく体液は女のそのもの。
それでも、その身体は未成熟なまま。
「やー……ぁ……っ!!」
根元まで咥えて、喘ぐ姿。
手が滑る度に、白い喉元が仰け反る。
「ははは。何か、いつもよりも濡れてるな、普賢」
それでも、奥のほうから生まれる疼きを抑えられるのも、この男だけ。
何度も突き上げられて、その度にしがみ付く。
「あ……抜いちゃ…や…!…」
「抜かないよ。ちょっと、体位変えたいだけ」
一度引き抜いて、抱き上げる。
「ふぁ……ん!」
とろり…滴り落ちる半透明のぬるつく体液。
亀頭の先端と繋がる光る淫糸。
指をねじ込んで、そのまま内側を掻き回すように動かす。
指先がふやけそうな程、溢れた愛液が絡まってくるのに唇が笑ってしまう。
くちゅ、ぐちゅ…室内に響くのは淫水の音と荒い息だけ。
「あ…やぁん…!!ダメ……」
「なんで?しっかり濡れてるのに?」
「指じゃ……ダメ…ぇ…!…っ…」
震える肩先に神跡を残して、そのまま背中の線を舌がなぞっていく。
指先が触れるだけで、びくんと腰が揺れて誘う。
(まぁ……至極極楽とはこういうことを言うんだろうけど……)
小さな身体を寝台に倒して、脚を大きく開かせる。
ぴちゃぴちゃと唇が花弁を愛撫する音と絡まる喘ぎ声。
媚肉を割って入り込む舌。
(俺……自制できっかなぁ……ちっこい普賢も可愛いんだよ……)
大きくのけぞる身体を押さえつけて、再度絡まるために先端を押し当てる。
ぬめりと圧迫感に目を閉じて、『もっと』とねだる恋人を抱きしめた。






良く晴れた空の下、腕を伸ばして大きく息を吸い込む。
(やっぱ、汗掻くのって良いよなー……昼の部は終了っと。あとは普賢と二人で夜の部
 で汗を掻いて、ってのが一番だよな。かれこれ十日も逢ってないし)
庭に咲く紫陽花を一枝、あの細い腕に抱かせたいと選定を試みる。
けれども、彼にあるのは花心ではなく恋心。
花を手に微笑む姿は容易に想像できるのに、その花を選べないまま。
(嫁に来いって言っても……まだダメ!だもんなー。今一つ、男心が……)
「……道徳……っ……」
「ぅあ!!!どうしたんだ!!お前っ!?」
太極符印を抱える小さな影。
ずるずると道衣を引きずりながら、苦しげに呼吸を繰り返す。
「大丈夫か?って、何で、こんなちっちゃく……!?」
不意に触れる唇。
挟み込むように重ねて、舌先が入り込んでくる。
人目など気にする余裕もないのか、ぴちゃぴちゃと吸い合って。
離れたくない、と小さな手が上着をぎゅっと掴んだ。
「助け……て……カラダが……変な……の…っ……」
「いや、その……」
唇で上着の金具を咥えて、そのまま引き下ろす。
「普賢っ!?」
「……て……お願い……」
露出した肌に、触れる唇。
ちゅ、ちゅっ…と啄ばむように、薄いそれが舐めるように口付けてくる。
唇を割って、指を咥えさせれば従順に舌は絡み付いて。
ちゅぷるん…と音を立てて、離れる。
「…は……ぅ…ふ……」
手首を取って、人差し指を咥える姿。
上気した頬はほんのりとした薔薇色。
(この誘い、乗らせていただきます……もちろん、お前にもね)





「…は!……ひゃ…ぁんっ!!」
逃げられないように、両手を掴んで腰を振るように促す。
自分の体重の反動で、より奥まで咥え込んで普賢はぎゅっと目を閉じた。
めりめりと開かされた花弁が、ぬるりと陽根を飲み込む。
ほんのりと膨らんだ乳房と裏腹に、絡まってくる内襞の淫靡さ。
「ココ、こんなに真っ赤にして硬くさせて……そんなにイイ?普賢……」
柔らかな恥丘には、そこを覆い隠すべき茂みは欠片も無い。
「んんっ…!!ぅん…!…ッ……」
小さな突起を指でつまんで、くりくりと焦らしながら攻め上げる。
ぬるつく指先がそこに触れるだけで、ひくついて内壁が男をキュン、と締め上げていく。
「あ…ッ!!」
「しかしなぁ……誘淫効果発動する実験って……まぁ、俺は良いんだけど……」
唇の端から零れ落ちる涎と、目尻にたまった大粒の涙。
手を伸ばして、少しまだ物足りない乳房を揉み抱く。
「っは……痛…ッ……」
「あ、ごめ……」
「……んー……!!続け……てぇ…っ…!」
道徳の腰に手を掛けて、ゆっくりと小さな腰を振る。
その度にじんじんと疼く身体を心の中で叱咤するのに。
「さすがの俺でも、ちょっと……良心が咎めてくるよ」
どれだけ抱かれたかなど、もう覚えてもいない。
「……でも…ッ……治まらないの……助けて……」
砂漠に落ちる水のように。
この渇きが癒える事などないようにさえ思えた。




「少し、落ち着いたか?」
「……ん……」
いつもよりも頼りない身体を抱いて、額に唇を当てる。
互いの体液が混ざり合って、どうともつかない状況だ。
細い腿はぬらぬらと濡れて、敷布に体液を移す。
腹から下の感覚が無いほど、ずっと絡まって交わったままで居た。
「封神台の機能誤作動(システムエラー)ってもなぁ……」
「魂を直接保管するから……自分じゃ、どうにも出来なくなったの……」
灰白の髪をさわさわと撫でて、男は苦笑する。
(まぁ……役得だけども、一日七回はさすがに堪える……腰、大丈夫かな……)
小さな乳房が胸板に触れる感触。
見上げて来る瞳は小さくとも、その光は同じ。
「ごめんね。迷惑掛けて」
「気にするな。それに……こんな事、他の誰かとされたらたまったもんじゃない」
「うん……道徳が助けてくれるから大丈夫って思ってた……」
告白は、いつも彼女の言葉。
致命的な一撃を、笑顔で決めるのだ。
「でも、太乙と大丈夫だったのかな……」
(考えるだけでも怖いぞ……今頃、道行に檻の中にぶち込まれてるだろうな……)
ぎゅっと抱きしめて、不安要素は消してしまおう。
「寝ようぜ。明日になったらどうにかなるかもしれない」
「……うん……ありがと……」






一番短い上着の裾を縛っても、膝のあたりの丈になってしまう。
「ね、これって伝染するのかな」
「どうなんだろうな……俺まで若返っちまった」
少女を抱き上げるのは十八の少年。
しなやかな肢体と、どこかあどけなさの残る黒い瞳。
「降ろして」
「やーですよーー。せっかくちっこい普賢が俺のとこに来たのに」
抱きかかえて、庭を歩く姿。
緑豊かなこの土地は、四季折々の木々が囁く。
「鞦韆(ブランコ)でも作ってやろうか?」
「え…………」
「嫌いか?そういうの」
「……好き……」
板と弦を器用に括りあわせて、手際よく道徳はそれを作り上げていく。
手を伸ばしてそれを枝に掛けて、少しだけ引いて強度を確かめる。
「大丈夫っぽいな。おいで」
「?」
「ここ」
自分の膝を指して、にこにこと笑う。
おずおずと従って、上着の襟元をぎゅっと握った。
「んじゃ、行くぞーーーー」
風を受けて、前後するそれは。
昔の懐かしい何かを呼び起こしてくれる。
それは、互いに見知らぬときの甘い記憶。
重なるのは、ただ、草葉の匂いだけ。
「気持いー……ね……」
「懐かしいよなー。よく、親父や兄貴に作ってもらった」
前髪を攫うのは、悪戯な緑の風。
兄と妹。まるでそんな様にも見えた。
「きゃあ!!」
「うははは。ちゃんとつかまってないと、落ちるぞ」
「うん」
出逢ってしまった幸福と、出逢わないほうが得られた幸福。
同じ言葉ならなば、君の居ないこの先の日々は要らない。
「しっかりと掴ってろよ」
「うん」
例え、夜が過去を連れ去っても、君がどこで眠っていても。
君の幸せを祈らない日など、ありはしないから。




「楽しかったねー」
夕暮れに伸びた影二つ。手を繋いで、ゆっくりと歩く。
「久々に遊んだって感じだな」
「兄様みたい。何だか」
「俺も、妹欲しかったんだよな……野郎ばっか五人兄弟」
叶わない夢などありはしない。
それは、見るものでも、語るものでもなく、この手にするためのものなのだから。
「やん!!」
「はははは。妹できたらこうやって抱っこしたかったんだよなー。だから、娘を頼むぞ、
 普賢。女の子だったら箱入りにするからさ」
いつも、いつまでも、どこまでも、一緒。
ずっと、ずっと、離れないように努力をしよう。
「男の子だったらどうするの?」
「放任主義」
「じゃあ、その分ボクが大事にしてあげなきゃね」
「燃燈や、ナタクみたいな息子はごめんだ」
春には新芽を、夏には緑葉を、秋には紅葉を、冬には風花を。
「さて、じゃあ……娘を作るための準備に入りますか」
「もう……十分だよぉ……」
耳の後ろをさわさわ指でなであげて。
それでも拒絶の言葉が無いのは合意の証。
「寒くなる前に、帰ろうな」
肌に感じるこの寒さ。
君の暖かさが消してくれるこの幸せ。






「逃げるな、普賢っ!!」
「やだ!!下心しか見えないもんっっ!!」
浴巾をまいたまま、少女は浴室の中を逃げ惑う。
「だから、昨日みたいになったら大変だから事前治療してやるって言ってるだけだろ!!」
洗面器を勢いよく投げつければ、男はそれを片手ではたき落とす。
「もう大丈夫だよ!!」
「いや、こういうのは潜伏期間があんだよ。それが侮れないんだ」
もっともらしい理屈をつけて、道徳は普賢の手首を掴みあげる。
「離して!!」
「おとなしくしたらな」
ぽろぽろとこぼれる涙。
「……痛いよぉ……離して……」
掌でぐしぐしと涙をぬぐう姿。
(うわ……反則技……ッ……)
「でッ!!」
小さな踵が男を蹴り上げては、身を翻す。
(こんの悪童(ワルガキ)が……お仕置き覚悟してんだろうな?)
騙し合いで勝つには、こちらから仕掛ける必要がある。
罠は三重でもまだ足りない。
「待て!!」
「やだっ」
脇腹を狙ってくる蹴りを、わざと受ける。
多少大げさなくらいが丁度いいと、後ろに倒れこんだ。
「ーーーーってぇ……」
「道徳!?ごめん、大丈夫!?」
こうすれば、彼女は必ず自分の心配をする。
それを知っているから、この勝負に出た。
「頭打ったの?痛くない?」
「………………」
「道徳……?」
「捕まえた」
両手で逃げられないように抱きしめて、その瞳を覗きこむ。
「…………騙したね?君……」
「今回は、俺の勝ちだな。普賢」
急ぐ事などないも無い。自分達に時間だけはたっぷりとあるのだから。
「悪い子にはお仕置きも基本だろ?」




小さな舌先が、上下するのは多少の罪悪感を呼び覚ます。
それでも、その表情が、掛かる吐息がそれを封じ込めてしまう。
「……っふ……やぁ!!……」
「ちゃんと口、使って」
両手の自由は、拘束具で封じて。
革帯で止めた淫具が少女の体内で蠢く。
男性器と同じ形のそれには醜い疣がびっしりと浮かんでいる。
前後に咥えさせて、その操作器を手に、男は小さく笑った。
「…も…や……っだ…ァ!!」
薄皮を隔てて、ごりごりと動くそれに身体は嫌でも反応してしまう。
「だから、悪い子にはお仕置きだって言ったろ?」
後ろに挿入されたそれの先には、獣の尻尾のようなものが飾られて。
それが甘く腿を打つだけで、じゅく…と愛液がこぼれおちてくる。
「記念に一枚撮っておくか」
「や!!止めてっ!!」
「浮気防止に」
「そんなことしな……きゃアんっ!!」
曇った音が激しくなり、身体を丸めるように蹲る。
自分ではどうする事も出来ない姿。
「は…あ……ッ!!や!!…あ!」
「こっち向いて」
嫌だ、と首を振って抵抗しても顎を取られて。
「もうちょっと、脚……開かせたほうが絵になるよな」
「やだ!!あ!!あぁんっっっ!!」
力の抜けきった四肢を自由にされて、うつろな瞳で恋人を見上げる。
「仕上げに掛かるかな……」
「!!!!!!」
ぶぃん、と動きが激しくなりびくびくと身体が痙攣していく。
「ひゃんっ!!あ!!あ…ぅ…!!」
喘ぎとも呻きとも判別しがたい声。
「じゃ、いい表情(かお)頼むぞ、普賢」
指先を舐めて、たっぷりと唾液を絡める。
そして、赤く腫れてひくつく突起を捻り上げた。
「やぁあああ!!!!あァんっっっ!!!」
絶頂を迎えたその瞬間。
転写紙が一枚、ぱらり…と落ちた。
「…ひ…ぁ……ん…」
びくびくと震える身体から、一本引き抜く。
とろり…愛液を絡ませて、それは敷布に転がった。
「アあんっ!!」
さっきまで自分の中で蠢いていたものよりも、熱いものがぐ…と入り込んでくる。
誰も来る事のないように、厳重に印の施された室内。
熱くなった身体を絡ませて、肌を発情させるには十分だ。
「んぅ!!あ!!…や…っは…」
「どっちが気持イイ?普賢……」
「あぅ……ああんっ!」
対面座位からの挿入は、より強く突き上げてられてしまう。
「解い……てぇ…ッ!!」
両手で腰を掴んで、隙間も無いように繋ぎ止める。
ぬちゅ…ぢゅく…あふれ出た体液は、肌を濡らしてしまうほど。
「ちゃんと答えられたら、解くよ。どっちがイイ?」
「…っふ……あ!!」
額に、小鼻に、頬に。答えを催促するように降る接吻。
「どっち?」
「…道……徳…ッ……!!」
押し広げられた膣内が、しっかりと男根を咥え込んで離すまいと絡み付く。
「どっちも……挿入ってると気持良いだろ……?」
「やー……ぅ!!あ!!」
拘束具が落ちて、震える手が背中を抱いてくる。
染まった肌と、幼い身体。
「もうちょっと、撮っくか」
「!?」
抵抗しようとしても、そうするだけの力はもう残ってもいない。
一枚、また一枚と、痴態を写した紙が重なっていく。
灰白の髪の少女など、そう滅多にはお目に掛かれない。
誰が見ても、被写体が普賢真人であることは明白だ。
「よっし……これくらいでいいか」
「…ふ…ぇ……ん…」
「よしよし、あと、撮らないから」
内側で、脈打つそれの熱さが鼓動を早くする。
ちゅ、と目尻に口付けて宥めてくる手。
(うーわ……可愛いな……こんな娘が生まれてきたら、俺……外出さねぇぞ)
膝の下に手を入れて、繋ぎなおす。
(今度は……俺も出させて……)
のけぞる肢体と、ふるふると揺れる小さな乳房。
本能を直に刺激する接吻をして、腰の動きを早めていく。
ぬめりと暖かさ。どこか、安心できる何かがあるから身体を重ねる。
「あ!!あああぁんッッ!!!」
「……っは……普賢……ッ…!」
抱きしめ合って、再度唇を重ねて。
今度は優しい夜を迎えるために。






「道徳、雲中子のとこ行ったほうがいいよ。すごい顔になってるよ」
受けたのは往復ビンタと太極符印の小規模核融合。
転写器は木端微塵、普賢は怒り心頭で白鶴洞にこもって顔さえ見せてくれない有様だ。
「ちょっとした悪戯しただけなんだけどな」
「君、その怪我でちょっとした悪戯ってのは無理があるよ」
腫れた頬には鮮やかな手形。
三日たっても、まだ消えることが無い。
「雲中子の所行ったら、死ぬだろ」
「多分ね。今から普賢が来るんだけど……君、隠れてた方が良くないか?」
顔はおろか、声さえもろくに聞かせてもらえない状況。
これを打破するには、それ相応の努力が必要だ。
「太乙、お邪魔するね」
「あー…………」
男の姿に、普賢は眉を顰めた。
「その……普賢……さん……」
ぷい、と背けられる顔。
どうやら、ご機嫌斜めは解除されてはいないらしい。
「太乙、ここに置いていくね。また、改めて来るから」
ぱたぱたと走り去る姿。
思わず追いかけて、太乙は普賢の手首を掴んだ。
「反省してるみたいだよ。許してあげたら?」
「知らないよ。あんな人……人体実験にでも使って」
「本当に、いいんだね?」
「愛想もつきちゃったよ。あんな人だなんて思ってもなかった……」
それでも、そこの言葉を本人に直接言わないのはまだ彼の事を思っているから。
分かってしまうから、どうにかしないではいられない。
「また、来るよ。たまには白鶴洞(うち)にも遊びに来て。道行と一緒に」
後姿を見送って、ため息が充満した室内へと戻っていく。
「何て……言ってた?」
「愛想尽きたって。人体実験に使っていいって言われたよ」
「普賢〜〜〜〜〜〜〜っっ」
がつん、と派手に卓に頭を打ち付ける音。
「まぁ……ちょっとは僕にも責任があるみたいだから、何とかしてもいいけど」
「本当か!?」
「責任って言っても、これくらいだけどね」
「指と指、ぴったりくっついてんじゃねーか」
「まぁまぁ。交換条件として……玉屋洞行ってきて欲しいんだ。そして、ここに道行を 
 連れてきてくれれば、僕が何とかするよ」
言い終わる前に扉を蹴って、飛び出していく。
(だから見てて飽きないんだよね。君達二人は)





「普賢!!普賢は居るか!?」
「こんにちは、道行。何かあったの?」
「道徳の奴が、倒れた。太乙の馬鹿が……まず、一緒に来るが良い」
急ぎ足で乾元山に向かえば、青い顔をして寝込む恋人の姿。
「阿保が実験薬を飲ませたら、こうなったらしい」
「太乙は?」
「玉屋洞に封じてきた。灸を据えるゆえ、道徳の方は頼んだぞ」
冷たくなっている手を取って、頬に当てる。
「連れて帰ったほうが……良いのかな……ここよりも白鶴洞(うち)のほうが暖かいし……」
「出来るなら、そうしてやれ。機嫌はもう良くなったのか?」
こくん、と小さくうなずく顔。
「意地悪でも、ちょっと乱暴でも……この人が良いって思うんだ。悪趣味だよね」
「この男の相手ができるのも、おぬしくらいじゃ」
「どうして、いっつもボク達は喧嘩しちゃうんだろう」
暖かさが戻ってくるようにと、何度も何度も手を擦る。
「こんなに好きなのにね……」
「儂らは、人間じゃからのう。仙となっても、全てを捨てることなどできぬよ」






「君も、機嫌は良くなったの?」
「土下座までされれば、怒る気力も失せる」
ふわふわと漂う女は、欠伸を噛み殺して男の方を見つめた。
「一時的に仮死状態にしたんだ。起きてからは自力で何とかしろって言っておいた」
「おぬしも反省したか?」
「したよ。だから、道徳と取引したんだ」
茶器を取り出して、温かな桂花茶を。
道行の持参した菓子を口にしながら、あれこれと話を続けた。
「道行、もしも僕が同じように倒れたら、看病してくれる?」
光を映す片目が、小さく笑った。
「してやろうぞ。とことんな」




「食べられる?大丈夫?」
薬膳粥と小さく切られた果物を載せた盆。
匙を握らせて、じっと見つめてくる瞳には心配の色が濃い。
「ん……頭痛いくらいで、大丈夫だよ」
「本当?」
一口一口、咀嚼して行くの姿に普賢は胸を撫で下ろした。
「あのな……その……」
「?」
「こないだは……俺が悪かった。ごめん。調子に乗りすぎた」
寝台に浅く腰掛けて、普賢は困ったように笑みを浮かべる。
「もう、あんな事しないでね……好きでいる自信がなくなっちゃう……」
こつん、と触れる額同士。
何度も離れては触れ合うのは、恋人たちの法則。
「まだ……ずきずきする……」
「無理しないで。ちゃんと、治そう」




喧嘩も出来ないような関係よりも。
きっとこの形が自分たちの理想。




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23:12 2005/02/18

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