◆運命の人―願い事―◆
扉に鍵を掛けて、静かに入り込む。
「背中洗ってあげる」
脱がしあいながら何度も唇を重ねあう。
「んじゃ、俺は全身くまなく洗ってやるよ」
不埒な心を飲み込んで、焦る気持ちを宥め賺して。
邪魔なものは全部捨てて抱きしめあう。
「あったかーい。一日すっごく楽しかったね」
肩先が触れてちら…と、見上げてくる瞳にどきんとしてしまう。
「そうだな。俺も楽しかった」
ふにゅんと柔らかな乳房が腕に触れれば嫌でも拍動は早くなる。
湯煙の中で笑う唇はどことなく濡れて、ほんのりと淫猥に誘って見えるから。
「背中洗ってあげるね」
「あ、うん」
柔らかな糸瓜に石鹸を絡ませて、静かに背中を滑らせる。
首筋、肩、肩甲骨。一つ一つ確かめるように。
「!?」
柔らかな何かが背に触れて、細い腕が抱きしめてくる。
「ふ、普賢っ!?」
「……一日ありがと……大好き……」
唇が耳に触れて、頬に。肌が触れるだけで身体が熱くなってしまう。
誰も来ない安心感から少しだけ何時もよりも自分から彼に迫れると言うこの心。
「と、とりあえずあったまって……風邪引くし……」
「……ぅん……」
逃げるように浴槽に入る恋人を追いかけて、今度は隣ではなく前にちょこんと座る。
膝を立てて青年の手を取ってそっと胸に当てた。
(な……何の罠なんだ……普賢……)
左手をじっと見つめて、中指を口に含む。
爪を吸って舌先が絡まる感触に、ぞくんと背筋に走る何か。
根元からぴちゃぴちゃと舐めげて、男根に奉仕するように唇が上下した。
間接を挟み込んで軽く当たる歯。
「…ん……ぅ……」
「指じゃないほうが嬉しいなー……とか……」
「後でねぇ……」
一本だけ違う色の爪は、何時もよりも心をきつく刺激する。
指を這い回る舌先に応えるように、青年の手が腰からゆっくりと下がった。
「ぁん…!……」
柔らかな恥丘を裂け目に沿って上下する指先と、耳朶に触れる唇。
軽く息を掛けて舌先を捻じ込めば、ぴくんと震える肩口。
「やー……ん……」
ぬるり…口腔から指を引き抜いてぎゅっと乳房を掴む。
「ァ…!やだぁ……」
「ここ、固くなってんのに?」
乳首を甘く捻りあげればこぼれてくる嬌声。両手で口を押さえようとするのを
制して、首筋を軽く噛む。
「ここじゃ……やだ……」
何時もよりも恥ずかしそうな視線と、赤く染まった耳先。
唇に触れる指先を舐め上げて、視線を向ける。
「んじゃ……続きはもうちっと我慢しよっかな……」
向きなおして抱きついてくる体に同じように返す。
反応するのはどちらも差は無く、柔らかな腹に当たるのは反り勃ったそれ。
「…………そのー……俺も男なもんで……」
指先が撫でるように下がって、そこに触れた。
軽く指を掛けてゆっくりと扱く。
「……出た方が……良いよな……」
小さく頷かれて彼女に従う。肌が火照るのは湯浴みのせいだけではなくて。
吐息が混ざり合うだけで失神しそうなのはこの空間のせいだけではなくて。
吸い込むだけで肺が熱くなるような空気。
「こういうことする子は、嫌い?」
「大好き。やらしくて可愛い子を嫌いな男なんていません」
淫靡な空気よりも、二人でじゃれあえるほうが好きだと囁く。
擽るように耳の裏を撫でる指先に、少女は瞳を閉じた。
「やぁん……くすぐったいよ……」
「焦んないで、部屋でじーーーっくりと」
浴槽に浮かべた甘い泡。
ふわり、ふわふわ。夢のように輝いた。
寝台の上で向かい合えば、どうしたらいいか分からないと普賢は目を逸らした。
だから、手を伸ばして彼女をそっと抱き寄せる。
「さっきの大胆さはどこへ行った?」
「知らないよ……どっかに出かけちゃったんだもん」
押し当てるように重なってくる唇と、そっと押し倒してくる身体。
細帯に手をかけてぱらり…と解く。
下から仰ぎ見る表情は何時もよりもほんのりと幼い。
「かーわいいなぁ……邪魔者は絶対来ないし、たまにはこうやって二人で来るのもいいな」
「にやにやしてる。変なの」
「この状況でにやつかない男はいないと思うぞ」
それもそうだ、と思う間に恋人は静かに目を閉じた。
「閉じなくていいなら……」
最後まで言い終わる前に塞がれる唇。
「開けちゃ駄目。閉じたままでいて」
少しだけ震える声で、見えなくとも今彼女がどんな顔をしているかがわかってしまう。
指先が頬に触れて、何度も愛しげに撫で摩る。
喉仏にちゅ…と唇が触れて首筋を甘く噛んだ。
「くすぐって……っ……」
舌先が鎖骨をなぞって、かりりと歯先が当たる。
「うっは……やめ…ッ……くすぐってぇって……」
「やー……いっつも同じことされてるもの」
胸の突起に唇が触れてちゅく…吸い上げては甘噛を繰り返す。
時折こぼれてくる声に耳を欹てて、ゆっくりと唇を下げていった。
割れた腹筋を辿って、そちらこちらに痕跡を残す。
『逃げられないように、他の誰も抱けないように』と呪文を掛けるかの如く。
(ボク……こんな風に道徳にするのはじめてかも……)
舌先が肉棒に触れて、ぱくり…口腔に包まれる。
唇全体を使って飲み込むようにしてそのまま上下に。
(……あ……硬く……おっきくなってきた……)
ちゅるん、唇が離れてちろちろと舌先が浮き出た筋を小突く。
挟み込むように肉茎を咥えて根元までゆっくりと唇が下がる。
根元と袋の境目を攻めあげる口唇と舌先。
聞こえてくる息遣いだけで体が痺れてしまう。
亀頭を咥えて鈴口に舌を捻じ込む。
とろり…こぼれてくる柔らかな粘液を舐め取る。
「……も、良いよ……」
「どうして?」
「これ以上だと……我慢できなさそうだから」
乳房を寄せて肉棒を包み込んで、その先をぴちゃぴちゃと舐めあげる舌先の温かさ。
生まれてしまった悪戯心を抑えるのは至難の業。
(我慢できないって……どんな感じなんだろ……)
唇と陽根を繋ぐぬらりと光る糸。
そっと両手で包んで雁首周りを丹念に舐めあげる。
ぴくんぴくんと感じ脈拍は、抱かれているときとは違うもの。
「……ッ…普賢……っ!…待てって……」
「やだ」
「……わぁった……んじゃ、俺の方に足向けてうつ伏せんなれよ……」
ゆっくりと上体を起こして、男は少女の腕を掴んで身体を反転させる。
「やぁ……こんな格好やだぁ……」
「俺だけされっぱなしじゃ駄目だろ」
自分の顔を跨がせるようにさせて、ぐい、と腰を抱き寄せた。
「あ!!」
舌先が陰唇に触れて、その周辺を舐め嬲る。
ほんの少し肉芽を吸い上げればこぼれだす夥しい愛液。
(んー……俺にしながらでも感じんだもんな……そういう素質だもんなぁ……)
指先で花弁を開いて、桃色の媚肉に舌を這わせる。
「ひゃ…ぁん…ッ!!……」
びくんと肩が震えて指先が肉棒をぎゅっと握った。
「普賢……あんま強く握られっと気持ち良い通り越して痛ぇ……」
「だって……道徳が……ッ…」
じゅる、じゅぷ…こぼれてくる愛液を吸い上げる音が否が応でも鼓膜に染み込んでしまう。
がくがくと震える小さな膝と崩れ落ちそうな細腰。
「ふぁ…!!ああんっ…!!……」
薄く開いた唇が亀頭をかぷん、と包み込む。
(こんな格好……恥ずかしいよぉ……)
身体は愛欲に忠実で触れられればとろとろと体液をこぼして。
そのたびにぴちゃ…くちゅ…とそれを舐め取る音が室内に響いた。
上ずる声と悶える腰つき。
(んじゃ、一回イカせてやっかな……)
指先で肉芽をむき出しにして、そこを少しだけきつく吸い上げる。
「きゃ…ぁあああっっ!!」
「!!」
不意に訪れた強烈な快感に口唇が亀頭を飲み込むように強く動いた。
それまでの口淫も重なって、びゅるん!と勢い良く飛び散る白濁。
予期せぬ出来事に飲み込むこともできずに、それは頬や唇を淫靡に濡らした。
「ふ……ぇ…ッ……」
上気した頬に散る体液は、いつもよりも普賢をずっと淫惑的に見せて。
「だから言ったろ……我慢利かねぇって……」
指先で唇を拭って、普賢はその先端を咥えこんだ。
「あんまり美味しいものでもないね……何となく予想はしてたけど……」
「こら。俺の前でそういうこと言うか、お前」
力の抜けた身体を組み敷いて唇を重ねる。
入り込んだ舌はまるで意思でも持っているかのように蠢く。
「……やっぱ、そう美味いもんでもねぇな……」
「馬鹿……」
ぎゅっとしがみ付いて瞳を閉じる。
「んでも俺は気持ちよかったけどな。あんま普賢に嫌な思いはさせたくないけども」
その声にじっと上目で見上げれば、どこか嬉しげにそして照れ笑いの混ざった視線。
きっと、彼は誰かが与えてくれた運命の人。
その誰かを表す最も的確なことばが『神』なのだろう。
「ほら」
くい、と手を取ってそのままわき腹から下に滑らせた。
「可愛い顔してっから、もう元気になりましたよーっと」
「やぁん……」
膝下に手を入れて片足を肩に掛けるようにしてぐ…と折る。
半身を捻るようにさせてそのまま濡れきった膣口に先端を埋めて一気に貫く。
「あ…あァんっっ!!」
根元まで沈めたと思えばぎりぎりまで引き抜く注入が繰り返される。
奥を突き上げられるたびに生まれるじんじんとした疼き。
敷布を握り締める指先と唇からだらしなく零れる涎。
「ふ…ぁ……んんっ!…ぅん……ッ!!…」
ぬちゅぬちゅと互いの体液が混ざり合って敷布をべたべたに濡らしていく。
薄い茂みが愛液で陰唇に張り付いて、淫惑な銀の光に変わった。
「……一回くらい、外出してみっか……?」
顎先から落ちる汗が乳房を打つ。
尖りきった乳首が敷布に擦れるだけできゅん、と締め付けがきつくなる。
絡まるような肉襞に夢中になって腰を突き動かしていく。
「ひ…ァ……ああんっっ!!…道徳……んっ!!」
ぷるぷると揺れるたわわな乳房とうわ言のように繰り返される名前。
呪文のように自分を縛り付ける甘い甘い声。
ぬぢゅ…ぢゅぷ…肉の絡まる音と交わりあう吐息が重なる。
聞こえてくる彼の息遣いは、この世で最も愛しいと思える音色。
自分を抱くこの腕だけが、永遠を与えられるのだから。
「やー……あ、ぁン!!く…ぅ…ん……!!…」
火照った肌と持て余す感情。
肉欲に溺れるのは仙としてはあってはならないことなのに。
それでも心が、体が、互いを求めてしまう。
陰唇と肉根がくちゅくちゅと擦りあって隙間無く膣内を埋める。
何度も何度も唇を噛みあって呼吸を分け合った。
今が何時なのか何時なのかさえも忘れてただ本能のままに。
眩暈の甘さはきっと、幸福だからこそ感じるのだろう。
「あ……ふぁ……ん…」
荒い息と重なる腰の動き。
ただぐちゅぐちゅと曇った音だけが確かな暖かさ。
「あ…ああああぁんっっ!!!」
一際きつい締め付けに唇を噛んで肉棒を引き抜く。
崩れた身体に注がれた体液の白さが夢と現の境に線を引いた。
「べたべたする……」
まだ収まらない疼きと荒い呼吸はそのままに、普賢はのろのろと身体を起こした。
「いつもよりもやらしくて綺麗だけどな」
意味深な笑いに、少女の指先が男の鼻をきゅっと摘んだ。
「痛ぇ……」
「なんでそんなに幸せそうに笑ってるの?」
ごつごつして優しい指が、そっと髪を撫でる。
「ふぁ……幸せだろ?本当に誰も来ないで二人っきりなんだからさ……うおっ!?」
抱き付いてくる身体を受け止めきれずに後ろに倒れこんで。
半分泣きそうな銀色の瞳に心を奪われた。
「お願い……もっと……もっと、抱いて。誰も来ないなら、いっぱい抱いて。離さないで!!」
彼女がこの先こんな風な感情を表すことはあるだろうか?
形振り構わずにすがる様に強く抱きしめてくるこの細い腕を。
この先ずっと守って、受け止めていくのだから。
「ん……そうだな……誰も来ないんだしな……」
君を運命の人に定めた誰かは、この人生に数多の苦難を与えた。
それでも恨むことすらできなくなったのはきっと君に出逢えたからだろう。
幾重にも絡まった命数糸。
たった一つだけを自分たちは互いに引き合った。
何度目か分からない絶頂は、どちらも同じで。
この体が忌々しいまでに人間だということを思い知らされる。
この閉じられた空間でこうして絡まりあっていることだけが総てで。
それ以外は何も無かった。
朝が来ても気が付こうともせずにただ何度も唇を吸いあった。
遅すぎる頃に扉を開けば、手押し車の上に置かれた二人分の朝食。
恥ずかしそうに耳まで赤く染める恋人を抱きしめて、おはようと甘い接吻を交わした。
指先を絡ませて向かい風の中を二人で歩く。
きっとこの先もこうして二人で運命を蹴り上げながら進んでいくのだろう。
帰りがけに立ち寄った李家では、やっぱり予想通りに賑やかな殷氏が待っていて。
暖かな花茶と手土産に菓子を準備してくれていた。
「また、遊びに来てくださいねっ!!モクタクもおにいちゃんも自分のことは話さない子だから」
「じゃあ、今度は文殊と太乙をよこしますよ。奥方」
「そうね!!そのときはまた、道徳さんも普賢さんも一緒に来てくれるんでしょう?」
その姿に、ぼんやりと重なる母親の姿。
あの時、母の本心は『いつでも帰っておいで』ということだったのだろう。
まだ子供だった自分は老いた両親の姿がひどく痛々しく思えて。
臆病過ぎて会いに来ることはできなかった。
「はい!!みんなと一緒に来ます。ね?」
絡まる指先と見上げてくる瞳に、小さく頷く。
「そうですね。また、二人一緒に来ますよ」
壁に掛けられた桃色の服と白い羽巻き。
崑崙で着ることは無くとも、彼女は手入れを怠らない。
今日も手を振りながら走ってくる彼の姿を思いながら。
朝一の空気と光を取り入れるために窓を開ける。
きっとただ一人の運命の人。
ずっとずっと一緒に居よう――――――――――。
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23:39 2006/02/17