◆エステはいかが?◆








「なぁ、最近肌がかさつくって言ってたよな?」
浴室に向かおうとする普賢を呼び止めて、道徳はそんなことを呟いた。
「うん。季節の変わり目なのかもしれないけど、少し乾燥してるみたい」
齢百近いと言っても、中身はまだまだ少女。
口にしないが、街娘たちと同じように化粧や肌のことには興味があるのだ。
「でさ、この間ちょっと天化のところに用事があって行った時にいいもの貰ったんだ」
そう言って道徳は両手で持てるほどの大きさのガラス瓶を普賢の前に出した。
中には何か薄桜色の粉のようなものが入っている。
「なぁに?これ」
「太公望にさ、普賢が肌がかさつくってぼやいてたって言ったんだ。そしたらこれを使えって。なんでも
 宮中の美肌術(エステ)に使う奴だって」
「エステ?望ちゃん肌綺麗だよね。色々やってるのかな……」
軍師として忙しく動く親友は、合間を縫って自分磨きをする。
緩やかな時間の中に居る自分とは違い、艶やかな華のよう。
「ありがと。使ってみるね」
瓶を受け取って再び浴室へと足を向ける。
その後ろを同じようについてくる姿。
「何でついてくるのかな?」
「使い方とか」
「塗るんでしょう?」
「あー……うん。でも、背中とか自分じゃ無理だろ?だから……」
御託をあれこれ並べても、結局は一緒に居たいが為の言い訳。
「手伝おうかと思って」
「下心が見えてる」
「…………はい。察しの通りです……いいだろ?たまには〜〜。それに背中に塗れないのは事実だ」
協力的なのはありがたいが、見えすぎる下心は困りもの。
仕方がないと、彼女は小さなため息をついた。





さらさらとしたその粉は、肌に塗るために加工された特殊な塩だった。
掌にとって、少し湯を加える。
それを肌に塗って時間を置くという簡単な工程。
「結構、ぬるつくんだな」
細い背中にそれを塗りながら、道徳は己の掌をまじまじと見詰めた。
さっきまで粉末だったものは、ゼリー状になって形を変えていく。
「そうみたいだね。でも、いいかもしれない」
うなじの甘さに引き寄せられそうになるのをぐっと堪えて、丹念に塗りつけていく。
(これって違うことにも使えるよな……あの計画、実行しちゃおっかな……)
掌いっぱいにそれを作って、滑った振りをしてぎゅっと乳房を掴む。
「やっ!!道徳ッ!!」
「ちょっと手が滑った。だってこんなにぬるぬるしてたら滑るだろ?」
そう言いながら、包み込むように指先を動かして親指で小さな乳首をきゅん、と押し上げる。
「あ!やだっ……」
悪戯気に手を動かして、人差し指と中指で先端を挟む。
形を変えた塩は、潤滑剤になって指の動きを円滑にしてしまう。
御丁寧に、背中以外の部分には普賢は自分でそれを塗りつけていた。
ほんの少し手をずらすだけで、指先は障害に阻まれることなく自由自在に肌の上を走るのだ。
くにゅ、と摘むと、ぴくんと肩が揺れる。
「……ちゃんと、塗れてるか調べてやろうか?」
「大丈夫だから……手、離して……」
「遠慮しなくていいから」
後ろから抱かれて、耳朶を噛まれる。
「やん……ぁ……」
いつもの癖で太極府印を探してしまう。
あったとしてもこの距離では自分にも被害が及ぶのは確実だ。
そうこうしているうちに、男の手は妖しげに体を弄っていく。
「きゃ……っふ……」
「こっち向いて、普賢」
体を反転させて、自分の腰を跨がせる。
ふるんと揺れる乳房を掴んで、ぬるぬるとした塩をやんわりと擦りこむ。
指先がかすめるたびに、きゅっと寄せられる眉。
半開きの唇からは吐息がこぼれて。
掌を使って、撫でるように腹部を滑らせればぴくんと肩が震える。
「ね……こんなのダメだよ……」
「ん?何が?」
「だって、一緒にお風呂入るといっつも……ッ……」
きゅん、と乳首を押し上げれば肩に掛けられた指に力が入るのが伝わるから。
もっとの顔を見たくて指を這わせてしまう。
何処を攻めれば艶声で鳴くかなんて、目を閉じていても分かるほど体を重ねた。
それでも、飽きることなく求めてしまうこの浅ましさ。
「……ぁ…!!……」
声を殺そうとして、普賢は指を噛む。
かし…と爪と歯が擦れる音。
「誰も来ないのに、声なんか殺してどうするんだ?」
その手を外させて、じっと瞳を覗き込む。
潤んで甘えるような視線。
ぬるつく手をそのまま滑らせて、しなやかな腰を撫で上げていく。
(や……ぞくってした……)
「あ!!やだ、やだぁ……」
向かい合わせで抱き合うようにして、普賢の膝を折る。
恥ずかしげに顔を逸らす仕草に、ついつい口元が綻んでしまう。
「……!!ちょっと待って!!やだっ!!」
いつもとは違う場所への愛撫。少しこぼれ始めた体液を絡めて、固い蕾の周辺に擦り付けていく。
「道徳ッ!!」
擦るように触れて、指を一本だけその先端を沈める。
「ッ!!」
異物感にびくんと揺れる肢体。
慎重に進めても苦しげに眉が寄せられる。
「……こんな…の……やだ…ぁ……」
ぎゅっとしがみ付く腕と、耳に掛かる荒い息。
耳までほんのりと染め上げて、小さく首を横に振る。
「……嫌?」
「……うん……そっち……やだ……」
ぽふぽふと空いた手で子供あやすように髪を撫でれば、潤んだ目が見上げて。
そうすれば、理性なんてものは一瞬で消し飛んでしまう。
(そんな顔されると……止まんなくなるだろ……止めないけど……)
ちゅるん、と関節二つ分くわえ込ませると、がくんと膝が崩れる。
「……痛っ………や…ぅ……」
肩に掛かる指先に、爪に、力が篭って。
ぬるぬると変化した塩だった物を塗りつけながら、指は奥へ。
「…ぁ……っは……」
腰を抱きながら、開かせた身体。
(まだ、力入ってるよなぁ……)
舐めるような接吻を重ねて、普賢の緊張を解くようにそっと抱きしめた。
胸板に触れる柔らかい乳房の感触。
ふにゅふにゅと押し当てられるその柔らかさに、心拍数が上がっていく。
喘ぐ姿、苦悶と悦楽の狭間の表情。
(もうちょっと……)
「!!や!!やんッ……!!」
指一本咥え込ませて、掻き回す様に蠢かせる。
ひくつく身体を抱きしめて、そっと指を増やして。
「ちょっとだけ……腰、浮かせて……」
半泣きの顔で小さく頷く。
しがみ付くように背中に回された手。
「……そう、いい子だから……」
腰を抱えて、身体を反転させる。
少し解れた入口に、先端が触れてきゅっと目を閉じる仕草。
「……自分で腰、下ろしてみて。そのほうが多分楽だと思うから」
「や……無理……だよぉ……」
小さく首を振って、嫌だと呟く。
「手伝うから、な?」
駄目押しとばかりに、耳に、頬に、首筋に、うなじに。
甘く蕩けそうな接吻を何度も繰り返す。
「……ん……ぅ……」
腰を抱く手に、小さな手を添えて静かに言われるまま腰を沈める。
沈み込んでくる感触がありありと分かって、普賢は耳の先まで真っ赤に染まった。
(……苦し……恐いよ……)
本来受け入れるべき場所ではないところ。
いくら潤滑剤を使っても、今の彼女にはその行為そのものに恐怖感があった。
(……やっと、半分……これ以上は、やっぱ俺がやんなきゃ無理かな……?)
ぐっと、腰を抱いて加速を促す。
その度に切なげな視線を投げかけて、普賢は腰を沈めて行った。
「……ほら、全部入ったろ……?」
優しく髪を撫でて、汗の浮いた額に触れる唇。
ぐったりと四肢を投げ出して、普賢は道徳を見上げた。
「……ね……もう……いいでしょ……」
「まぁだ。折角だから、普賢にもいい思いさせたいしさ」
腰を引き寄せるたびに、苦しげに寄せられる眉。
(慣れも大事だろうし……まぁ、それは追々じっくりと開発させていただきますか……)
濡れた指先で、薄い茂みを割って隠れた突起の顔を出させる。
親指と中指を使って摘むように擦り上げれば、甘えるような嬌声が上がった。
「あぁン!!……ふ……ぁ!!」
半開きの唇からこぼれる涎。
指先がそこを攻めるたびに、濡れた秘所からはとろとろと光る体液がこぼれていく。
淫猥に糸を引いて絡んだ指先を見せ付けて、その指を咥えさせる。
「……ぅ……んん……」
男の手に指をかけて、まるで奉仕でもするかのように舌先が指の根元から丹念に舐め上げていく。
ちゅるん、と唇が離れてはまた触れる。
違う生き物のように、絡みつく小さな舌先。
その色の艶気と、とろりとした視線に崩壊しそうな理性。
口中から指を引き抜いて腰を抱き、ぐっと強く抱き寄せる。
「!!!!」
膝の裏に片手を入れて、ぐっと開かせて。
そのまま濡れそぼった秘所に指を咥えさせる。
絡む体液と、内肉の熱さ。奥に進めるほどに、じゅく…じゅぷ…と曇った音が鼓膜を浸蝕すていく。
「……ゃ…あ…ッ!!……」
前後を同時に攻められて、言い様のない快感に飲み込まれそうなのを唇を噛んで押さえ込む。
一度知ってしまえば、取り返しが付かなくなることの恐怖。
「…ふ……あァ……!…っ…」
がくがくと震える膝。指の付け根を伝ってこぼれる愛液。
「……気持ち、良い?普賢……」
耳朶を噛まれて吹き込まれる息に身震いする。
「……そ…な……事……ッ…!…」
「素直じゃない子には、お仕置きしなきゃいけないよな」
「……?……」
じりじりと体は熱く、心は暴走寸前。
「あ、んんッ……!」
ずる…引き抜かれる指。本能が身体を動かして、無意識に追ってしまう。
どくん、どくん、と心音さえも神経を犯す様。
「こっち……こんなになってるのに?」
ぬるぬると薄く光るそれを絡ませた指が、つ…と乳首を撫で上げる。
「んぅ…!……」
「なぁ、知ってるか?前でいける子って、後ろでも結構感じられるって」
少し伸びた襟足。そっと接吻してうなじに舌を這わせる。
「……っは……ぁ……ッ…」
両手が腰骨に触れて、ずん!と突き上げられる。
「…ひ……あ!!…ゃ……やぁ……!!」
上がる声を殺そうとして、両手で口を覆う。
「駄目。聞かせて」
男の指先が円を描いて、彼女の手首に触れた。
「!!」
しゅるん、と光の糸が生まれてそれは普賢の手から自由を奪う。
残ったのは僅かな自制心で留まらせた理性の欠片だけ。
「ちゃんと、どうして欲しいか言わないと……ずっとこのままだけど?」
「……意地悪……ッ……」
掌が肌に触れるだけで、ぞくぞくと背筋に何かが走る。
肩口に唇が触れて、きゅ…と噛む感触。
『もっと違うところに触れて欲しい』そう、心が呟いた。
それでも、どうしても最後の一線で理性を手離せないのが彼女の不幸。
それを楽しめるのが、彼にとっての一種の幸福。
腿の内側を這うように指がなぞり上げていく。
「…あ!……道徳……っ…」
ぼろぼろとこぼれる涙にちくりと胸が痛む。
それでも、それ以上に心を支配するのが恋人の内面の素性を暴きたいという気持ち。
知性的な彼女は、内に被虐嗜好を秘めているのだ。
ぎゅっと乳房を掴まれて、顎を伝って汗がぽたりと落ちる。
(……やだ……ボク……絶対にヘンだよ……っ……)
脈打つ男の感触に、止め処なく愛液はこぼれていく。
違う。と意識して振り払おうとしても、現状を知らしめる結果となってしまうのだ。
(なんで……そっち……嫌なはずなのに……)
手の自由を奪われて、打破する方法は一つだけ。
「……て……」
「ん?もっと聞こえるように言って……」
乳房をふにゅんと揉みながら擦り合わせるようにしてその先端をきゅん、と摘む。
「…!!……もっと、触って……っ……」
「触ってるけど?ここじゃないところ?」
耳元で低く囁く声。ただそれだけで濡れてしまう身体。
「……違うとこ……触って……」
途切れ途切れに発せられる言葉。
満足気に小さく笑って、無骨な指先が濡れきったそこにぐ…と挿入される。
「あ!!あ、あんッ!!」
二本だった指が三本に増やされて、押し上げるように、抉るように内側で蠢く。
その度に指先に感じる圧縮感。
「……他には?もっと、して欲しいことある……?」
「…動いて……虐めて……っ……」
空いた手がず…と腰を強く抱く。
「あぁんっ!!……あ!!……っは…ぁ…!!」
ふるふると揺れる乳房。汗ばんだ肌。蕩けた瞳。
「……お願い…っ…解い…て…ぇ……」
戒めを解くと、細く白い指が男の手に掛かる。
「も……と……奥……!!…まで……っ…」
要求のままに指を動かせば、切なげに振られる細い腰。
前後を貫かれるのに近い感覚は、残っていた僅かな理性を消し去った。
ここにあるのは発情しきった男と女。
本能だけに縋った雄と雌だけ。
「……気持ち良い?普賢……」
その問いに男の頭を引き寄せて、脊髄まで痺れそうな接吻で返す。
舌先を吸い合って、唇を噛みあって、肌の重なる感触に喘いで。
「……うん…っ……あ!!……きゃ…!!や、やぁん…!!」
ずく、ずい…突き上げられるたびに抉るような快楽が走り抜ける。
「……道徳…っ…あ!…道徳…ぅ……!!」
「……普賢……」
互いの名前が呪文のように心を縛る。まるで媚薬のように。
痛みよりも、得てしまった快楽が全てを飲み込んでしまう。
「あ!あああァ!!!ああんっ!!」
甲高く甘い声。
加速する腰の動きと、重なる呼吸。
きゅん…と肉芽を摘み上げればぎゅっと締め付けがきつくなる。
飛びそうになる意識をぎり、と唇を噛んでつなぎ止めて尚も彼女の体を攻めたてた。
ぢゅっ…じゅぷ…前後から漏れる淫音が室内に響く。
(やば……俺も限界かも……)
ずく!と強く突き上げて、その勢いで一際強く突起を摘み上げる。
「ああああ!!!や!!ああああっっん!!!」
「―――――――っ!」
失速するからだが二つ。
一つになりたくて、抱きしめあった。






「壮大な往復ビンタの痕付いてるよ、道徳」
乾元山では呆れ顔で太乙真人が湿布をぺしんと投げつける。
「悪いな。貰っとく」
「貼るんじゃないのかい?」
「俺じゃなくて、寝込んでいる普賢に持っていこうかと……」
やれやれと太乙は頭を振った。
毎度毎回傍迷惑な恋人多に振り回されるのには慣れた筈でも、どうにもならないこともあるらしい。
体が付いて来れなかったのか、結局普賢は発熱して紫陽洞で寝込んでいる。
逆上せた普賢を浴室から運び出して、なんとか浴衣を着せて寝台に横たえた。
(初めてなのに……まぁ、ちょっと虐め過ぎたかな……)
体力がないわけではないが、道徳真君に比べれば普賢真人は圧倒的に体力値が少ない。
本人も気にしているのか時折「鍛えようかな」と呟くのだが、彼がそれをさせないのだ。
「……道徳……?…ボク……」
「喋んなくていいから。ゆっくり寝てなさい」
額に触れる手に、安堵の笑み。
そっと体を起こして、恋人の目をじっと見上げる仕草。
(……うっ……可愛い……落ち着け俺!!さっきしたばっかだろうが!!)
「あー……そうだ。あの塩、結構効き目あるかもな。肌とか凄い良い感じになってるぞ」
「え……?」
「俺までしっとり肌になったけど。まぁ、普賢の場合は普段から新陳代謝は促されてるくらい頑張って……」
「馬鹿っ!!!」
ばちん!と派手な殴打音が二回。
その結果こうして彼は乾元山に居るのだ。
「普賢も不幸だよな。君のような男に好かれて」
香茶を入れながら太乙真人は笑ってそれを親友に出す。
「そっか?玉鼎みたいにむっつりに隠してるよりも俺のほうがずっと良いだろ?心も体も相性完璧だしさ」
頬と背中の爪痕は勲章だからと高笑いする。
「ま、君らは仙界一のバカップルだからいいんだけどね」
「おうよ。何とでも言え。俺は今、幸せなんだから」
まだ夜までには時間が余る。
それまでには少し熱が下がりますようにと、彼は小さく祈った。







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1:40 2004/03/27

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