◆桃の産毛と硝子の林檎◆





「何……にやついてるの、気持ち悪い」
怪訝そうな顔で普賢は俺を見る。
別に何て言われても構わない。
お前の本音はしっかりときっかりとこの脳髄に埋め込ませてもらったから。
「変なの。早めに寝たら?どっか悪いのかもしれないよ?」
「どっかって?」
「頭とか」
うわ、またきついことを言ってくれるというか。
はいはい、俺の頭の中は八割方お前のことで埋まってますよ。
でも、お前だって三割くらいは俺のことで埋まってるだろ?
「普賢」
「やだ、離してよ」
抱き寄せて、三日分の口付けをして。
「…っ……ふ……」
最初は押し返そうとするけれど、最後には諦めて俺の意のままになる。
ずいぶんと気持ちよさそうな顔するようになってきたな……。
「……やだ……」
お前の『嫌だ』は大概『嫌じゃない』よな。
このまま押し倒したら、いけるかも。
核融合覚悟で行きますか。
「……今日はダメ」
背中に当たる床が痛いのか普賢はちょっと睨んできた。
じゃあ、どこにする?いっそ風呂場とかでも俺はいいんだけども。
嫌がる顔も結構そそるって自覚あるか?
「や……」
押し返そうとする手を押さえつける。
柔らかくて、下手すれば折れそうな首に吸い付いて。
「あんっ!」
弱点は全部余すことなく知ってます。さて、どうしようか。
「だからなんでニヤニヤしてるの?変だよ。太乙からおかしな薬でも飲まされたの?」
今回ばかりは自分で志願したよ。おかげでいいもの見させてもらいました。
ああ、駄目だ。どうやったってにやけるのは押さえられない。
「ちょ、ちょっと待って。本当に今日はダメ!!」
「なんで?」
お互いに仙人同士なんだから危険日だからダメ。とかは通じないぞ。
まぁ、それならそれで狙って行動に移させてもらうけど。
覆い被さって道衣の紐を解いて。
そのまま指を滑らせて下穿きを脱がせて。
ちょっとその気になるような舌絡ませた接吻を交わした。
「……や…っ……」
前よりも少し膨らみの増した胸とか、相変わらず細い腰とか。
触りながら普賢が好きな感じで唇を重ねて。
さぁ、三日分の思いを受け取っていただきましょうか。





「だからのう、そういうことは普賢に聞いたほうがいいのだ。わしは専門外じゃ」
「普賢さんって物知りって感じする」
打神鞭をくるくると回しながら歩く太公望。
その横には同じく宝剣を肩にかけながら天化が並ぶ。
「あれは博学じゃからのう。道徳にはある意味いい相手かもしれんぞ」
「コーチのどこに惚れたのかねぇ、普賢さん」
「それはあやつしかわからんだろうよ。わしとて何故に桃が好きだといわれても答が無いからのう」
「師叔、それってちょっと違うさ」
煙草に火をつけてると、横からそれを奪う指。
「貰うぞ」
「それ最後の一本さ」
奪い合いながら進んでいく。よく晴れた空、日差しは温暖。
「普賢に聞いてみたらどうだ?」
「そうさね。コーチからかうネタになるさね」





「……やだぁ……やめてっ……」
止めろって言われて止めれる男ってそう居ないんじゃないか?
必死になって俺を押し返そうとしてるけど、力じゃ勝てないってしってるだろ。
ちょっと潤んだ目とか……やば、止まんない。
「あっ……んんっ!!」
ちゅっ…と音立てて軽く乳首を噛むと、やけに甘い声で嫌がる。
なぁ、それって嫌がってるように思えないんだけど。
柔らかくて、しっとりとしてるから、ずっと触ってたい。
指先に触れる感触が懐かしい気さえする。
たった三日なのに。
なぁ、もしこれが半年とかだったらどうなるんだろう。
俺、正気で居られるのかな?
お前が俺の名前を呼んでくれないって日がずっと続いたらどうすればいいんだろう。
「お願い……夜まで待って……」
やばい、ちょっと泣きそうだ。
でも、この気持ちはどうすればいい?普賢。
「望ちゃんが……来るから……」
「太公望が?」
そういうことは早めに言ってくれ。一応、分別ある大人のつもりではいるから。
まぁ、お前に言われる通りに多少は子供のままのところもあるだろうけど。
「だから……」
うん、俺もちょっと焦ってた。ごめん。
でもさ、俺のこの思いはどこにもっていきゃあいいんだよ。
お前にとっての優先順位の一番に居たいって言うのは俺の我儘だ。
分かってるけれども。
太公望と過ごした時間が大事で、今も掛け替えのない相手だってことも良く知ってる。
それでも。
「待つよ。その代わり、今夜は寝かせない」
離れ際、ちょっとだけキツ目の接吻をして約束を取り付ける。
このお姫様ははぐらかしのうまさは天下一品。
俺はいつも良い様に踊らされてるのかもしれない。




窓の枠の四角に掴まった月は、今夜は十六夜。
普賢は満月よりも好きだって言うけれども俺にはそのあたりがよく分からない。
完全じゃないところが好きだってことなんだろうか。
「十六夜の月って、綺麗だよね」
俺の腕の中で、普賢は眼を閉じてそんなことを言う。
本当のことを言えば月なんてどれも同じだろうって思ってた。
仙界入りしてからそれくらいに時間に対する感覚や四季に対する感性を失っていたらしい。
「霞の掛かった月とかか?」
「あはは。それも綺麗。自然のものには自然のそれが。人工物には人の手のそれが。どっちも綺麗」
俺は、お前見たいに流れる風にも意味を見出すようなことは出来ないけれども。
お前が見たものに意味を見出す努力はしてるつもりだ。
「あ……ダメ……」
両手で柔らかい胸をちょっと揉んでみる。
そのまま舐めて、啄ばむとぴくっと身体が動く。
足首を掴んでぐっと折って、そのまま踝を噛むと甘い声で鳴いて手が伸びてくる。
「や……」
でも、こういうときの普賢の『嫌』は『嫌じゃない』だから、俺が多少意地の悪いことをしても問題は無い。
指先、爪、甲。
どこ攻めたって、感じるらしい。
「んっ!道……徳…っ……」
身体全体の造りが細くて、ちょっと力入れても折れそう。
最初に抱いた時もそう思ったけども、扱いはかなり難しい。
まぁ、それも愛の成せる業ってことにしてるけども。
「あ!あァんっ!!」
普段が結構……冷静な感じだからかもしれないけども。
こんな時のやけに甘えて、いつもよりも高い声ってのはそそる。
「足……弱いよな……」
「……や……言わないで……」
そのまま脚を開かせて、余韻たっぷりでまだ濡れたままのそこに指を這わせて。
焦らしながら、ねだらせるのも俺の好きなパターン。
撫でながら、ほんの少しだけ指先を入れる。
それだけでも女の身体は吸い付いて指を離そうとしない。
ぬるぬるとして、熱い内壁を擦ってそのまま奥までゆっくりと入れていく。
焦っちゃいけないし、傷つけるのは論外だ。
造りが全然違うんだから、普段の感覚で力なんか入れちゃいけない。
そんなことも分からない奴が多すぎるから困りモンだ。
「あ!あんッ!!」
「ほら、もう少し力抜いて……」
少しだけ指を抜いて、くいっと上を押し上げる。
「あっ!!や、やんっ!!」
ここが普賢の弱点の一つ。
一番奥よりも、指で攻めるならその少し手前。
「…っは…んん!!」
見つけたときはそりゃあもう嬉しくて。
いや、嬉しいっていったら他にも色々あるけどさ。
まぁ、中に挿入てて、イッてくれたときとか。
「きゃ…ッ…や!!ダメっ!!」
逃げようとして悶えるのもやばいくらいに可愛いし、そうすると付随して胸とかも揺れるから二倍にクル。
「ダメ?こっちはもっとって言ってるけど?」
「ぁ……そ…な……こと…ッ……」
ちゅる…と指を抜いて、今度は俺も楽しませて。
「!!」
「続きは?」
隙間無く全部埋め込んで、まだ動いたりはしない。
楽しみたいなら、焦りは禁物。これは毎回自分に言い聞かせる言葉だけど。
「……あ、んぅ!」
太腿っていうけども、太くないんだよな。
がりがりなわけじゃないけども、もうちょっと肉付けたって悪くないと思う。
でも、それをいうと怒るんだよな。
女心って分からんことが多い。まぁ、付きすぎても困るけども細すぎても心配なんだよ。
四六時中一緒に居るわけじゃないから、ちゃんと食ってるのか気になるんだ。
「あ、ふ……ぅ…!……」
軽く腰を使うとうねる様に絡んでくる。
びくびくと痙攣する細い身体。
その度に俺に対する締め付けがきつくなる。
まぁ、ここが我慢の為所ですが。
だってさ、好きな子にはいい思いさせたいってのが男だろ?
「あ!!……くぅ……んっ!」
半開きの唇。
何もかもが誘ってくる。
「そんなにイイ……?」
恥ずかしそうにぎゅっとしがみ付いてくる手。
耳まで真っ赤にして、頭を振って否定してるけども……本当は違うだろ?
だからさ、それを口に出して聞きたいわけ。
「あ!ああああぁッ!!!」
仰け反って一際強く抱きつかれる。
「…ぅ……あ……」
とろっとした眼が俺を見上げて、頭を抱かれてちゅ…と唇が重なって。
気分とかよりも、本能を刺激する接吻のほうがいい。
特に、こんな時は。
「あ!!!ああっ!!」
イッたばっかりの身体を再度突き上げる。
ギリギリまで引き抜いて、奥まで。
その度に普賢は俺の背中にぎゅっと抱きついてくる。
「あ……っは……道…徳…ぅ…!…」
一回一回根元まで突き上げると、その度にぎゅっと締め上げてくるからある意味天国と地獄。
きゅっと目を瞑って、必死なのとか見てると……やっぱり可愛いと思う。
最初の頃よりもずっと感じやすい身体。
俺の名前を呼ぶところなんか誰にも見せたくない。
本当は、閉じ込めて誰にも触れさせたくないんだ。
望めばそうしてくれるか?
「んんッ!!!や!うんッ!!!」
絡みついてくる脚。
灰白の髪を振り乱して、半泣きの顔。
全部、閉じ込めて俺だけのものにしてしまいたい。
好きだとか、愛してるなんて言葉じゃ表せなくて。
でも、俺はそれしか言葉を知らないから。
「あ!!ァン!!」
目の前でぷるると揺れる乳房に吸い付いて、軽く噛む。
柔らかくて、俺の手の中にすっぽりと入る普賢の一部。
皮膚一枚、粘膜一枚の隔たりがもどかしい。
「……普賢……」
細い腰を掴んで、もっと奥まで繋がりたい。
どれだけ深く侵入っても、混ざり合えないのが悔しくて。
「あ!!道徳…っ…!…道…徳…ぅ……!!」
唇をかみ合って、眩暈がするほど抱き合って。
「ああああァァッッ!!!!」
びくびくした痙攣。
背中を走る爪の痛み。
「……ッ……!…普賢っ……」
離れないように、隙間無く突き上げる。
きつい締め付けに誘われて、俺は普賢の中に俺を吐き出した。




男の身体は割りと単純な構造で出しちまえばすぐに覚めてしまうところがある。
女は結構、余韻の中に浸かってる感じだ。
でも、こいつの場合は余韻云々じゃなくて疲労感?とか思えてくるんだよな。
(別に、俺は誰とでもやりたいわけじゃないんだぞ……その辺ちゃんと分かってるか?)
腕枕で眠る姿を見るとやっぱり愛しさがこみ上げてくる。
お前が俺のことを相当に愛してくれてることはよく分かったよ。
素直じゃないところも含めて、俺はお前が好きだから。
お前のことを愛してるから。
学がないからそんな陳腐な言葉でしかお前に愛の言葉を伝えられない。
いつか、俺たちの間に子供を授かることがあるなら。
二人でその子にありったけの思いを注ごう。
(俺、お前に惚れてます。連戦連敗完敗中です……)
いつの間にか片腕を伸ばして眠る癖が出来た。
お前が紫陽洞(ここ)にこない時もその癖は取れない。
きっと、これからもずっとその癖は取れないんだ。
「……ん……道徳……?」
ぼんやりとした視線。
やば……またキタっていうか……
何気ない仕草が全部誘ってるように見えるのはどうしたらいいんだ?
「なぁに……?」
「可愛いなと思って」
「……馬鹿……」
幸せそうに閉じる瞳。長い睫。小さな唇。
「眠くないの?」
「もう少し、お前を見ていたいから」
「……物好き」
す…と手が伸びてきて頬に触れる。
「おやすみ……」
ちょっとだけくすぐるように触れた唇がやけに熱くて。
俺はまた眠れない夜を過ごすことになる。
(参ったな……負けっぱなしは性に合わないはずなんだが……)
でも、お前には勝てない。
それでいいよ、普賢。




まるで硝子の林檎みたいに儚いと思ってた。
意外と強かで、気の強いところを知った。
触るとつんとするのは桃の産毛。
俺は、お前を愛してる。




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